Gamesirのゼンゼロ仕様コントローラー買っちゃったし来月は家政のフィギュアとか届く予定だから買えないよ〜
「店長! なんでさっさと帰っちゃったの!?」
とは翌日お店にきた南宮さんのセリフである。
「ファンとの交流を邪魔するのも良くないでしょう?」
「だからって、せめて……はぁ、まぁいいですよ。で、そのあとダイアリンさんとは」
「フツーに解散しましたけど」
「何してるんですか?」
いや、一応車の中で感想は言い合ったよ。
軽く食べるものでも摘みながらな。
つっても普段より遅くはならなかった。
ぶっちゃけ普段が遅すぎるだけのような気もする。
「店長的にはどうでした? ボクたちのライブ」
「良かったですよ」
これは本当。
普段から聴いている感覚でいえば、南宮さんの実力は相当に高い。
歌で言えば、そんな南宮さんと同じくらい上手い子がいるのには驚いた。
ダンスに関しては俺はあまりよくわからないので、言及しないが、少なくとも生歌のクオリティという点で言えばかなりレベルが高かったのは感じられる。
もう一人の子も、節回しはまだ改善点こそあれど、あの声質はアイドルグループでは優位だろう。
やり方次第では一番伸びるような気もするが。
つっても、俺はそういう世界から逃げた身ではあるからな。
何を偉そうにと言われると、黙るしかなくなる。
「南宮さん、だいぶ上手くなりましたね。あんだけ動きながら声音をあそこまで制御できるなんて」
「店長のおかげですよ。あれだけ繊細に自分の声のレスポンスが返ってくるんですから、直せばいいところが一目瞭然だったし」
そう言いながら、照れたように笑う南宮さんは、普段大人びた彼女にしては珍しい表情だ。
「ただまぁ、ライブになるとやっぱり繊細な表現は潰れがちですから。あんだけ小手先で入れたとしても、やっぱり意味はないのかなって……」
「課題があるとすれば声量ですね。ダイナミクスの振れ幅があると聴感上では声が小さく聴こえてしまいますから」
「……なるべく声量差が小さくなるように歌えたほうがいい、と?」
「そういうこと。今の最大音量はそのままでいいので、小さいほうの声を持ち上げられたらより良く聴こえるようになるかなと」
そのためには声を支える腹筋がどうしても必要であり。
俺は何の気なしに、南宮さんのお腹へと視線を向け、逸らす。
なんであの子臍丸出しの衣装なんだよ。
「なるほど……小さいほうを持ち上げる、か」
「マイクを通すときだけですけどね。何もないなら声量差が大きくても問題はありません」
つっても、その場合は全体的な声量が重要になるのだが。
舞台は箱鳴りしやすいように形成しているから音を響かせやすいとはいえ、やはり生の歌を聴かせるというのであればなるべく大きくある必要がある。
そういう僅かな改善点があるといえ、南宮さんの歌声はもう充分なほどに成熟している。
歌っていうのはよっぽど隔絶していない限り、ある程度の段階からは好みの領域になってくるからな。
南宮さんは最早その位置に足を突っ込みつつある。
よくもまぁ一節にあれだけのテクニックを入れ込めるものだ。
理論的に身体を動かせる人間というのはそれだけで強い。
「ち、な、み、に。曲のほうの感想とかは?」
「良かったと思いますよ。とはいえ、音楽については素人ですから具体的には言語化できませんが」
オーディオやってるからって音楽自体に詳しいわけじゃない。
ぶっちゃけ音楽ってのはセンスと学習の世界だ。
どちらもない俺が、軽々しく話せることなどそうはない。
「楽曲クオリティ自体は売れてるアーティストと遜色ないと思います。優秀なコンポーザーがいるようで」
「そうでしょ?」
自慢げな顔は、それだけ自分たちの楽曲に対して思い入れがあるからか。
彼女たちが掲げる夢や希望は、きっと俺が──俺達がいつかなくしてしまったものだ。
それを誇らしげに掲げる彼女は、どこまでも眩しく見えるようで。
その夢の一助になれているのなら、自分の価値を認められそうな気がした。
南宮羽は気づいている。
タブレットに向かってネーム作業を進める青年が、その心の中に何を隠しているのか。
あの暗い舞台の上。
カラーグラス越しの視線。
最後列に立っていた青年の目なんて、本来見えるはずのないものを、南宮羽は見抜いていた。
その、淀んだ目。
その中にある真意を、正面から見据えていた羽は理解した。
羽だからこそ理解できた。
音だ。
スピーカーから流れるその音が、不愉快で──我慢ならなかったのだ。
それはきっと、オーディオに傾倒する人間がいずれ到る場所。
公共の場において、流れてくる音の悪さに辟易するような。
そんな、『理解してしまう』からこその病巣。
にしても、青年のそれは度を越している。
ライブハウス「404」の音響は決して悪いものではない。
それは青年も認めるところだ。
あそこより悪いライブハウスなんか、いくらでもあって。
それでも尚足りないというのであれば、きっと求める基準が高すぎる。
青年は音を聴いていた。
音楽そのものではなく、音を聴いていた。
(──うそつき)
曲が良かった、なんて。
仮にそう思っていたとしても、それは社交辞令のようなものであって、きっと彼の心には響いていない。
その事実が、却って羽をその気にさせる。
(ボクたちの妄想で、絶対あなたを夢中にさせてやるんだから──!)
そう意気込む羽の心など、きっと青年は知りもしない。
そもそも彼は、自分自身の心さえまともに理解できやしないのだから。
だから、これは羽がただ一人でそう決意したというだけの話であって。
けれど羽自身も、それで良いと思う。
(だから、店長)
羽はただ純粋に、彼と出会う理由として、僅かに思う。
(それまでは、ボクをバイトでいさせてほしいな)
このつながりがなくなれば、きっと彼との縁はぷつりと切れてしまう。
そんな確信が、羽の中にはあったから。