今回はちょい短め まぁ元々文字数少なめな作品ですが
酒屋を追い出された。
端的に言うとそうなった。
グラスを秒で空け続けていたらそうなった。
無駄に耐性がある以上、さっさと酔うにはそうする以外ないってのにな。
仕方ねぇから適当にショップで瓶を買って空けながら歩く。
そろそろ涼しくもなってきて、薄着では夜も肌寒い。
最近は、人生も多少好転してきたような気がしていて。
多少は真っ当に生きられそうなつもりになっていた。
だというのに、結局のところ俺はどこまでいっても模造品だ。
偽物でしかない何かだった。
「──何者にもなれねぇんだ、笑えよ」
突然吐き捨てた俺を怪訝そうに、通りすがった人が見る。
酔っ払いの戯言だと分かれば、何事もなかったかのように去っていった。
口の中に酒を流し込む。
苦みも風味も特段感じない。
慣れたというよりは、麻痺したというのが正しいような様相で。
自分の身体がバカになってしまっているのが、それでわかり始める。
酔えれば何でもいいから、安い酒で十分だった。
だがこういう酒ばっか飲んでると、気のほうがイカれてきやがる。
そうやって、自分の頭をおかしくしていかなければ、請負人なんてものまともにはできねぇんだ。
請負人なんて、まともじゃないものの象徴であるような気はするが。
気づけば、路地裏でひっくり返っていた。
野良猫が、絨毯とでも思ったのだろうか、何匹か上に座ってまどろんでいる。
「邪魔だ」
手を伸ばせば、そのまま抵抗なく頭に触れることができた。
まるで地響きのような振動が、胸へと伝わってくる。
「はぁ……」
まぁ、いいか。
俺もこいつらと同じく、どこにもいけないんだから。
そのままの視線のまま、瓶に残っていた酒を垂らすように口に入れる。
もう残り僅かだったようで、それはすぐに切れ目を作り、僅かな水滴だけが落ちこぼれた。
「……キミ、何してるの?」
「あぁ?」
昔聞いたきりで、今日聞いたばかりの声が、聞こえてくる。
顔を上げれば、そこには母と同じ顔の女が俺を覗き込んでいた。
俺の上に乗っていた野良猫どもは、落ちた影に一目散に逃げ出してしまった。
ようやく自由になったから、上体を起こして呟いた。
「……オマエのそれ、正装なのか? バカみてえな服。痴女かよ」
「ぶっ飛ばすよ?」
感情を隠すのが意外と下手だ。
そういうところは、母とはまったく似ていない。
だけど別人だ、と割り切るにはその出生はどうしてもノイズだった。
「はぁ……反抗期なのかな」
「母親面すんじゃねぇ」
「でもさ、私のクローンの子どもなんでしょ? だったらそれって、ある意味で私の子どもって言っても変な話じゃないと思うんだけど」
「変な話だろ、どう考えても。つーかアンタ、他人の空似っていう線は考えねぇんだな」
「残念だけどね。初代虚狩りっていうものを再現しようとするところなんて、いくらでも想像つくから。それでいうなら、その子もキミも、被害者のようなものでしょ」
「別にそんな気負わんでいい。お互い今日あったばっかの他人同士だろ」
「気負ってないよ? むしろなんだか緩んだくらい」
そう言って、彼女は俺の隣に座った。
「名前は何ていうの?」
「……シド。
「……そっか。当然だけど子どもって一人じゃ作れないし……ジョイアスくんなのかな……えぇ……」
「仲悪かったのか?」
「いーや? ただ私たち、別に
そりゃあ忘れたいことが多いんだろう。
当時の人間について、俺は特段知らない。
どんな時代を生きてきたのかさえも理解の外だ。
彼らが、研究員さえ固執するような偉業をなしたこと以外、俺はまともに知りもしない。
ただまぁ、今と同じ──いや、それよりずっとろくでもない時代だったのだろうから。
「でも、そっか。顔は私のほうに似てるね。髪の色はジョイアスくんに寄ってるけど」
「男でピンク髪はヤバいだろ」
「うーん……ちょっと否定しづらいこと言うね。似合うと思うけどなぁ……」
彼女は笑う。
その笑顔だけは、母親と同じ顔をしていて。
──だから、懐かしいような気持ちになるのだろう。
タグにレミエールをつけていない理由は出生のネタバレになりうるからです