更に続いて申し訳ないですが、明日の投稿も危うい……
「店舗って開かないんですか?」
と、南宮さんが言った。
随分といきなりな話だな。
彼女の注いでくれたお茶へと口をつけながら、俺は彼女へと返す。
「ぶっちゃけここ家として扱ってますからね」
「ボクの知り合いのビデオ屋さんは店舗とお家繫がってます!」
「いや、そういう店があるのは知ってますが……そもそも、随分と急ですね」
「オーディオショップなのに視聴できる場所がない! っていうのは結構致命的だと思ったんです。機会損失だなって」
「今どきよっぽどの理由がなければイヤホンかヘッドホンで充分ですし、多少大きな量販店でも程々の品揃えはありますよ。そっちに任せれば良いかと」
「でも量販店にあるイヤホンってある程度名の知れたメーカーのものくらいです。こういう本格的なスピーカーなんかは専門店じゃないと試せません」
まぁ、そうなんだけどな。
どうすっかな。
一応彼女の言ってることもわかる。
視聴もなしに即決で買える金額でもないしな。
ただ、仮に店舗を開くとなると手続きも厄介だ。
ショップを立ち上げたときに通販のみにしたのは実店舗を持つよりややこしくないからで。
そこを変えるのは、少し腰が重い。
「……やっぱり無理ですよね。ごめんなさい」
「いえ、一応できるといえばできますよ」
用意してないレジキャッシャーとかは、別に作れば良いだけだ。
別に重労働というほどでもない。
ややこしいことがあるとすれば、それらしいレイアウトを作り上げることだけ。
つまり今、この雑多な部屋の中を片付ける必要があるわけで。
ま、しょうがねぇ。
彼女の言ってることも正しいしな。
それに、ちゃんと店構えを作ってあったほうが彼女もバイト先として話しやすいだろう。
「差し当たっては関係ないものを二階に片すとこから始めましょうか」
「……え、それって」
「開きましょう、店舗」
「……いいんですか?」
まぁ、面倒だとは思うが。
面倒なことをやるにはちょうど良いタイミングでもあるだろ。
片付け及び品出し終わり。
治安局に申請も終了。
一応公式HPにも店舗開店の旨を記載。
外装も多少弄り、看板の設置と入口の扉に営業時間などを記載。
以上。
「よし、これで終わり」
「お疲れ様です」
脚立から降りる俺に、南宮さんが飲み物を手渡してくる。
面倒事でもいざやり始めるとそこまで苦にはならないもので、あっという間に終わった作業を前にようやく一息をつく。
あとは在庫の加算だな。
これに関しては追々でいいだろ。
そもそもあんま売れねぇ分野だしな。
ということで、開店準備が完了した。
「業務内容に店番増えるけど大丈夫です?」
「もちろん! 任せてください!」
「一応過去に作った説明書を手に取れるようにしてますんで、特徴なんかはそれで把握してもらうようにお願いします」
「はい! あ、ボクのほうも店長の説明を参考に予算別ガイドを作ったんです。確認をお願いしてもいいですか?」
というので、彼女から差し出された資料を確認する。
たった一枚の紙だが、端的に要点とアピールポイントが描き出されており一目で内容が理解できる。
簡潔に書かれているのだが、必要な情報は欠けることなく乗っているあたり、情報の取捨選択が上手い。
「良いですね。内容に間違いもありませんし、ラミネートして目立つところに掲示しましょう」
「本当ですか! よかったぁ……」
そう言って、彼女は安心したように笑った。
「そうだ! ボクのバイト先として『妄想エンジェル』のほうで告知しても大丈夫ですか? なんだったら告知動画とか!」
「俺は大丈夫ですけど、南宮さんのほうが大丈夫ですか? 仕事仲間の関係とはいえアイドルに男の影があるのは問題でしょう」
「え? ……あっ」
失念していた、というかのように南宮さんは間の抜けた声をこぼした。
僅かに赤い頬の彼女が、手をひらひらとさせて言う。
「店長なら大丈夫とはいえ……見てるみんなの中には、そう思わない子もいるかも……」
「信頼は嬉しいですけど、俺みたいな変な男に騙されないでくださいよ本当に」
「店長さんにはダイアリンさんがいるし、それにすっごいお人好しじゃないですか。密室で二人っきりでも世間の目がどうこうって言うくらいだし、そんなことしないでしょ?」
「…………」
何を言えばいいのやら。
ダイアリンとはそういう関係ではないし。
彼女も今忙しいらしく、メッセージのやり取りだけで会えてはいない。
そのメッセージも、何気ないことを送り合っているだけだしな。
本来俺と彼女の距離感なんてこんなものだ。
こんなものだったはずなのだ。
次に、密室っつってもうちにはニコラスがある。あいつは俺がマジでやらかしそうなら治安局に通報するだろ。そういう性格をしている。
最後に、お人好しだなんて評価は俺から最も遠いものだ。
彼女の評価がまるで的外れなようで、結局俺は何も言えなかった。
「ただいま──あれ? 模様替えしたの?」
「あ、お久しぶりですお義母さん」
「…………店開く準備してたんだよ」
そんでもってナチュラルに遊びにくるレミエールは何なんだよ。
あの夜からわりと頻繁に遊びに来るんだけど何なんだ。
暇なんだろうか。
あとなんで南宮さんはこいつのことをしれっと俺の親扱いしてんだ。
何を吹き込んでやがる。
思わず素の口調で問い詰めそうになるが、それをぐっと抑え込み、俺はただ状況の説明だけをした。
ともあれ。
そんな経緯で、「ネーヴェ・エスターテ」は店舗の営業を開始したのだった。