ロクシーは引けるかわからんね 来月ヴィクトリア家政のフィギュアがドカっと届くので……金銭的に だいたいアンプ買ったせいです
節制を心がけよう!
端的に言って、ダイアリンは近頃忙しかった。
木っ端とはいえTOPS関連の研究所が不自然な消失をしたり。
その理由を調査した結果、何だか別のお仕事が増えてしまったり。
そもそもオペレーターとしての仕事のほうだって妙に増えており、結果としてまともに息抜きすらしていられなかった。
爆速で捌いたり、個人の判断で多少減らしたりところで母数が多すぎれば結局時間は取られるばかり。
「はぁ……」
そんな間にもビデオ屋の店主は色々と何かをしているし。
なんか路上ライブしていたり。
インターノットで動画が出回っているらしく、
なんか実店舗を用意したり。
これまでなかったことのほうが変な話のようにも思えるが。
これに関しては、こちら側から彼のもとに出向きやすくなったのでダイアリンとしては嬉しい話だった。
いきなり家に行くなんて、変に思われそうで嫌だったが。
お店なら別にいつ行ったとしてもそこまで違和感はないだろう。
と、いうことで。
ようやく仕事に一区切りがついたので、ダイアリンは久しぶりに青年に会いにいこうと決めた。
扉を開くその最中、中から一際大きな声が聞こえる。
「──じゃあおにーちゃん、ダイアリンさんのこと好きか嫌いかで言えば!?」
「そりゃまぁ好きだが」
予想だにしていなかったその言葉に、ダイアリンは思わず持っていた包みを落としてしまった。
中には、どこかの虚狩りみたいな顔立ちの少女と──この間ライブで見た少女たちがいる。
そして、店主は特段感情の読めない顔で。
「お久しぶりです」
そんなことを言うので、ダイアリンもまたつとめてフラットに返すしかない。
「……えっと、はい。お久しぶりです」
思ったよりも、固い声が出た。
対する青年のほうは声が震えもしないのだから、やっぱりなんだか向こうが上手なように見えて。
それがやっぱり、気に入らない。
「えーと」
けれど、喋るための言葉を探すかのように、そうやって前置きを一つ入れるその姿に。
わかりづらいだけで、彼もまた相応に動揺しているのだという事実を認識した。
「南宮さん、店番任せますね」
「え?」
「あ、逃げようとしてる。こういうときはみんなで石投げていいんだよ。逃げるなーってぎゃっ!?」
空間が鈍く音を立て、少女がまるで上から殴られたかのように頭を押さえる。
涙目で屈み込むその姿は、何故だろうか。まったく同情する気にはならない。
「ちょっとやりすぎちゃったみたいだねぇ。了解でーす、どうぞどうぞお二人でごゆっくり〜」
「プライベートなことだもん、邪魔しちゃ悪いよねっ」
「ていうか今の何したんやろ……遠距離げんこつ……?」
そうやって、青年と入れ替わりにカウンターに入っていくバイトの少女。
どこか邪な視線のように感じるが、今はとりあえず無視して、ダイアリンは青年に招かれるままに二階の部屋へと向かっていく。
「……はぁ。ここなら普通に話せる」
そう言って、青年はため息をついた。
「さっきの方は……? ご家族ですか?」
「弟ですよ。血は繫がってませんが」
「……弟、ですか」
「はい」
どう見ても女の子のように見えたが。
しかし、この青年がそういうつまらないことで嘘をつくとは思えないので、人類の不思議としてかたづけておこう。
「で、ダイアリン。今日はどうしてここに?」
「お店が出たらしいので。あと、普段お世話になってますから──これ、よかったら」
そうして、ダイアリンは手に持っていた包を渡した。
さっきうっかり落としてしまったが、別に壊れ物でもない。
心象が悪いだけで、別段影響はないはずだ。
「これは──金属?」
「フリンツ合金、っていうらしいですよ。仕事で融通してもらいました。ちょっとしかありませんけど……」
「結構馴染むな」
指の上で器用にくるくると回しながら、青年はその合金を弄ぶ。
あまり大きなサイズを用意できなかったのは、ダイアリンにとって不覚であった。
だがまぁ、散々悩んで、人に相談にも乗ってもらって──最終的に行き着いた答えは、顔を見る感じ間違ってはなさそうだ。
「いいですね、これ。ありがとうございます」
そう言って青年は、かすかに笑った。
「ありがたいですけど、俺にこんな気ィ使わなくていいですよ。そういうのはまた別の良い人にやってあげてください」
「……? いませんけど」
青年が何を言いたいのかよくわからなくて、ダイアリンは疑問に首をひねった。
正直盤岳しか頭の中に出てこない。
けれどダイアリンと彼はそのような仲でもないし。
「……こないだ、一緒に歩いてませんでした?」
「このあいだ──ああ」
そこで、彼が何を言いたいのかをようやく理解した。
「あれ、友達のお兄ちゃんです。シドさんへのプレゼントの相談に乗ってもらってただけですよ」
勿論、『パエトーン』の二人のことは人間的に好ましいと思っているのだが。
とはいえあの青年とダイアリンの間に、特別な何かがあるかと言えば話は別だ。
そもそもあのときは、わざわざパエトーンの二人が一緒に来ていたわけで。
なので、青年が言っていることはなんだか的外れなように思える。
「今あたしが一番気を遣いたいのは、シドさんですから」
と、いうか。
この人はまったく。
好きに染めても良いと、そういったはずなのだが。
「……俺、そこまでされるほど上等な人間じゃないですよ」
「意味を与えることができても、価値をつけるのはいつだって他人です。なのでシドさんの価値は、あたしが決めます」
ダイアリンの価値を、今のところ黒枝が担保しているように。
青年が認められない青年自身の価値だって、ダイアリンが担保してやろう。
「
「……はぁ」
青年は、観念したように目を閉じて。
「時々、あなたのことを俺の中の虚像と思うときがあります」
そう、なんだかよくわからないことを言った。
ちょっと失礼な響きだった。
電話が鳴って、お店の外へ一旦退避。
「はーいもしもーし。オペレーター番号2493でーす」
『ああ、ダイアちゃん。今大丈夫だよね?』
「大丈夫ですよ照ちゃん先輩。で、一体何の用ですか? 何か情報でも出てきました?」
『うん。ホロウ・ザ・ヒーローの景品にギリガンの音動機が出品されることがわかったよお』
と、言うことは。
仕事用の冷徹な頭が、すぐに答えを導き出した。
「──そこでひっ捕まえろってことですね」
『うん。別口でプロメイアちゃんもホロウ・ザ・ヒーローに出場するし、なんだったら盤岳先生と一緒に行ってもらって大丈夫だからね』
まぁ、相手が相手だ。
別にそのくらいやってもおかしな話ではない。
「とにかく、わかりました。出場申請しておきます」
電話を切って、一息つく。
そうして、今しがたの仕事のことは一旦頭の片隅に置き、ダイアリンは店の中へと戻るのだった。