ホロウ・ザ・ヒーロー。
単純に言えばホロウを利用した競技大会だ。
市政が認めた大会なので、特段後ろ暗いことはないのだが。
こういう大会が通る時点で、ホロウレイダーという存在もある程度黙認されてんだよな、と思う。
本来であれば全く興味もないイベントであるが、今回はそうもいかない。
どうもTOPSがスポンサーについているらしく、大会の規模感が随分と大きくなっているらしい。
景品だって相応に豪華だ。
なんとその中にはギリガンの音動機だって出品されている。
番付としてはA-7。
機能は『停止』。
物体の動きを強制的に停止させる能力だ。
とはいえその規模感は小さく、人間大ですらたかだか四肢の一部位程度にしか使えない。
頭に使えば一応殺人くらいはできるんだが。
結局振動能力の応用でしかないので操作には癖があり、照準には慣れが必要。
そもそも素体である俺自身が殴ったほうが強いし、停止速度より速く動けば解除だって簡単だ。
ので、これもまた玩具程度にしか過ぎないものではある。
ま、ギリガンの音動機である以上は回収するべきだろう。
「……」
わざわざ指名手配されてるギリガンの音動機を景品にするなんて、意味がわからん。
頭の中に、この間出会った再生女が過る。
誘いだろうか。
とはいえ、何が来ようと正面から叩き潰せばいいだけだろう。
特に今は新しく奥の手も用意してあるしな。
新しく作った音動機を指の上で回しながら、俺は大会の告知をそのまま眺め。
「あれ、キミもコレ出るんだ。私も出るよ。なんだったらチームでも組んじゃう?」
「うるせぇくっつくなどっから入りやがったテメー」
後ろから覗き込むようにしてもたれかかってくるレミエールに対して、即座に攻撃を仕掛けた。
さも当然のように止められる音は、やはり相性の悪さも露呈しているような気がする。
ため息一つ。
このままやり合って部屋の中の物を壊すわけにもいかない。
鬱陶しいが、無視することにした。
「で、何を企んでる?」
「んー? 別になにも。むしろ私は企みに乗っかってあげてる側だよ」
何かを知ってそうな素振りを見せる割には意外と何も知らないよなこいつ。
つっても俺のことを知ってりゃそれはそれで逆に気味が悪いが。
「で、一緒に出る? ちょっとは楽しいと思うけど」
「いらねぇ。助手席に乗せる相手は選ぶ主義だ」
「お母さんを乗せてくれないの? 酷いんだぁ」
「だってオマエ運転にごちゃごちゃ文句つけてきそうだし」
「どういう偏見なのそれは」
多少ムッとしたような声。
人のことをからかうくせに煽り耐性はあまりないあたり、質が悪い。
友達少ないんだろうな。
まぁそれは、俺も同じか。
「それじゃ一人で出場するの?」
「そのほうが都合がいいからな」
戦闘スタイルの都合上、味方がいないほうが楽なんだわ。
「でもまぁ、もし見かけたらちょっとは手助けしてあげよっか」
「ありがとさん。んじゃ俺も手助けしてやるよ」
脱落のな。
言葉にしなかった部分もしっかりと読み取ったようで、レミエールの口端が僅かに引きつった。
「もう……本当に素直じゃないんだから」
母親面やめろって。
受付を済ませ、ハンディタイプの参加証をもらう。
エーテリアスカード、と言うらしい。
獲得したポイントを記録できる上に、キャロットデータを読み込むことができるようだ。
これが壊れると失格扱いになるようだ。
つまり失格させたいやつがいたらぶっ壊せばいいのか。
随分と俺に向いた仕様だ。意外と気楽かもな。
腕や頭よりも気軽に吹っ飛ばせる。
支払い待ちの長蛇の列に並ぶのも気が引ける。
景品でも見て待つか。
そう思って、そちらに向かえば──レミエールが、誰かに絡んでいる姿が見える。
「……」
何やってんだあいつ。
見ているのはフリンツ合金の音動機のようだが。
俺の持ってるものよりも純度が高い。
つってもそれだけだ。
今のとこ、特筆すべき部分は見当たらないが。
「あれ、シドさん?」
馴染みの深い周波数の声。
振り向けば、ダイアリンがそこに立っていた。
傍には只者ならぬ雰囲気を醸し出している知能構造体もいる。
「ダイアリン。どうしてこんなところに」
「それはこっちのセリフですよ。オーディオショップの店長さんがどうしてこんなところにいるんですか? ひょっとして、大会出るんです?」
「ええ。ちょっと事情がありまして。それにカスタマーサポートのほうが余っ程似つかわしくないと思いますが」
それに、後ろに立っている構造体。
見ればわかる。
ありゃ殺し用に作られてるな。
俺の作る道具と、似た気配を感じる。
「あたしのほうも諸事情がありまして。ああ、紹介しますね。こっちはあたしの同僚の盤岳先生です」
「同僚」
『うむ! この盤岳、ダイアリン殿の同僚である』
そりゃまぁ随分と厳つい同僚で。
『おぬしがシド殿であるな。ダイアリン殿から噂はかねがね』
「ちょっと、余計なこと言わないでいいんですよ」
カスタマーサポートの同僚にしては随分と異質な感じがするが、まぁTOPSだしな。
ひょっとしたら第二の人生を歩んでるとかそういうパターンかもしれん。
変に突っ込むのはやめておこう。
そもそも、人殺しが別の仕事をやってることなんざよくある話だろうが。
「あれ? ダイアリン! それに盤岳先生も……」
と、ここでレミエールに絡まれていたと思わしき女性がこちらへと寄ってきた。
ということは、同じく話していた相手のほうもフリーになったということで。
「シドくん、ここにいたんだ」
「寄ってくんじゃねぇ」
面白そうと見るやこっちに向かってくるのは何なんだ本当。
「お久しぶりです、リンさん」
「うん、久しぶり! こっちの人は……」
「こちら、オーディオショップを営んでいるシドさんです。リンさんには、南宮さんのバイト先の店長さんって言うと伝わりますかね?」
「へぇー、羽の! はじめまして、私はリンって言います!」
「ええ、はじめまして。先のご紹介通り、俺はシドと言います」
リンと名乗った彼女は、こちらに馴れ馴れしいレミエールを見て、そのまま疑問を口にする。
「シドさんって、ラミルと知り合いなんですか?」
「……不本意ながら」
偽名か。
まぁ流石に本名は使えねぇよな、初代虚狩りだし。
そこのところを突く必要もないので、俺は大人しくその思惑に乗った。
「えぇ~? お義母さんに対してそんな態度でいいのかな?」
「えっ」
「えっ」
『ふむ』
二人分のあっけにとられた声。
そりゃそうだろう。
俺とレミエールで見た目の年齢はそう変わらねぇからな。
南宮さんがこいつを俺の親扱いしている理由がようやくわかった。
こいつ、こうやって無理矢理周囲に事実として認めさせようとしてないか?
「気にしないでください。妄言ですから」
「否定しちゃって。恥ずかしがりやさんなんだから」
「すべて妄言です」
「……気の置けない仲なのはよくわかったかな!」
気の置けない?
俺と?
こいつが?
そんなわけがないが、ダイアリンの知り合いに対して口汚い言葉を吐くのも憚られる。
そういうわけで、曖昧な顔だけ作っておいた。