「ここが休憩地点、ねぇ」
周辺に人の影はいない。
ちょっとばかり早すぎたようだ。ポイントを確認すると、上位層であることが確認できる。
知り合いでも来ねぇか。
そう思って座り込んだ途端、裂け目を通って人の姿が現れる。
「あ、やっほー。キミもここに来たんだ」
「オマエかよ……」
誰かと思えばレミエールだ。その翼でふらりとこちらまで飛び寄ってきて、俺の隣へと座り込む。
「ポイントの調子はどう?」
「まぁぼちぼち。そっちは?」
「私も結構調子いいよ。そうだ、どっちが勝ってるか比べっこしない?」
「13万点だが」
「ねぇキミチート使ってない?」
どっちかというと挙動がズルいのはオマエのほうでは?
俺と同じように特段アクションらしい攻撃でなくエーテリアスの挙動を止められるのだ。
こうして成績差があるのだとすれば、それはきっと移動速度の差程度。
休憩所は裂け目次第で位置変わるからな。
やっぱバイクズルかったかもしれん。
「あ、そうだ。さっき変なやつとやり合ったんだが、オマエはそういうの特になかったか?」
「ふふ、私の心配? キミっていつもツンツンしてるけど本当は優しいんだよね」
「どの視点から物言ってんだよ」
「お母さん視点だけど?」
ここまで豪語されるとそろそろ違和感なくなってくるのが困る。
「で、話戻すけど私のほうはそういうのなかったよ。あったらボコボコにして終わってるかな。10先ノーダメで完封するくらいにボコだよ、ボコ」
「何の話してんの?」
ま、そりゃそうか。
他の参加者にもああやって絡んでそうではあるんだが。
ダイアリンのほうは、あの盤岳という構造体がいる。
ありゃ明らかに戦ったあいつより強い。
ダイアリンを守りながらでも問題なく勝てるだろう。
速さに翻弄さえされなければ特に問題ないはずだ。
だから、あとはあのリンとかいう子がどういう面子と進んでるかによるんだが。
「思ったよりポイント負けてたし、もう行くよ。キミはまだ休憩?」
「他の知り合いが来るまではちょっと残るわ」
「余裕って感じ? 調子乗って突き放されても泣いちゃダメだよ?」
「こちとら生まれたときすら泣いてねぇ」
「うーん、そのセリフも今思えば闇だよね」
わざわざ胎内で生まれるのを待つわけねぇだろ。
母体の損傷が無駄に激しくなるんだから。
レミエールが「それじゃ」、と言って休憩所から去っていく。
取り残された俺のほうは、手持ち無沙汰なのでバイクの様子を見ることにした。
前面のカウルが破損してやがる。
仕方ねぇ、ちょっと補修すっか。
ある程度の整備用具は持ち歩くようにしてるのはこういうところに理由がある。
車できたほうが良かったか? でもなぁ、流石にこういう場所に車でくるのもどうなんだっていうわけで。
そうして時間を潰していると、休憩所にはちらほらと人の姿も見えてくる。
「あれっ、シドさんだ!」
「──待って、
『ストップだ、店長。蛇の姉ちゃんの言う通り』
自分を呼ぶ声。
一度だけ聞いたその周波数から、誰かを即座に類推する。
後に続いた声のうち片方は知らねぇが、もう片方は知ってるな。
「……二人とも、どうしたの……?」
「こんにちは、リンさん。んでもって久しぶり。意外にアンタとは縁があるな」
『ああ。……やり合う気はない、でいいんだよな?』
「ポイントの余裕があるからな。接戦になりそうならエーテリアスカード壊して回るつもりだったんだが、そんなことするまでもなさそうだ」
『はぁ。そいつは助かるぜ』
「そ、それじゃあーしらはこれで失礼しまーす……!」
「二人とも、なんでそんなに警戒してるの……?」
俺からしたらその無警戒さのほうが異質に映るけどな。
顔見知りだからか。
知り合いの知り合いだから、だろうか。
『店長だって聞いたことあるだろ。泣く子も黙る伝説のアウトロー……『請負人』を』
「あんま公衆の面前で話すことじゃねぇな」
音を制御して、この周辺以外に伝わらないようにする。
やっぱ便利だな、この能力。
「ま、アンタとつるんでるんなら見た目通りのカタギじゃねぇんだろ。戦えそうにはねぇしプロキシってとこか? あの邪兎屋と縁があるあたり、ある程度名だって知れてそうだ。ご紹介にあった通り、『請負人』とは俺のことだ。以後お見知りおきをどうぞよろしく」
「……! シドさんが、『請負人』……!」
うーん。わからん。
俺が知ってるプロキシといえば弟と「パエトーン」くらい。
しかも後者にいたっては弟の知り合いに熱狂的なファンがいるからって程度の理由だからな。
プロキシなんざ基本頼らねぇ。
ニコラスで十分だからな。
だから、目の前の彼女の正体を測りかねている。
「で。一番気になるのはそっちの金髪のほうだが」
「ひぃっ!? あああ、あーしに何か用なわけ……!? あーし治安局の捜査官だかんね! あーしに何かあったら戦争だよ戦争!」
「治安官に『請負人』バレしちまったか。厄介事になる前に掃除しねぇとな」
「ぴっ!?」
「はっはっは。冗談だよ。アンタが俺の正体を黙ってる間はな」
「はい! 誰にも言いませぇん!」
つーかなんだその服。
レミエールよりもヤバい疑惑がある。
空飛ぶことを考えたらレミエールのほうがありえないが。
ありゃどう見ても痴女だ。
ダイアリンといい南宮さんといいこういうの最近のトレンドなのか?
そう思って、隣のリンさんへと目を向ける。
「……?」
落ち着くな。
本来服とはこんなのが普通であるはずなんだが。
ともあれ。
「リンさんはダイアリンの友達で、南宮さんとも面識があるんだよな?」
「うん。羽については、なんだったら妄想エンジェルの特別コーチをやったこともあるよ」
「そうか。んじゃアンタと敵対をする気はねぇ。だから今は気ィ抜いて休んどきな」
つーかダイアリン来ねぇな。
休憩してないのか、それとも複数休憩スペースがあるのか。
前者な気がする。
盤岳と呼ばれていた男は見た目通りだろうし、ダイアリンにしたってあれで体力はあるわけだし。
体力ねぇなら仕事終わったあと気分転換とはいえ遊びに行きはしないだろ。
こっちから探しにいくか。
そう考えたところで、エーテリアスカードから通知音が鳴り響く。
遮音を解除すれば、それはどうやら全員に向けて通知されているもののようだ。
内容としては、逆転のチャンスとしてデータスタンドに高得点のエーテリアスがいる場所がわかるようキャロットを更新するというもの。
なるほど。
「──嘘くせぇなぁ」
『……そうか? 大会が仕掛けるイベントとしてはあんま違和感ねぇけどなぁ』
「ううん、シドさんの言う通りだよ。こんな場当たり的にキャロットを更新するなんて、もしそれが正確じゃなかったならホロウの中で迷子になっちゃうかもしれないんだよ?」
「それもそうだが、逆転のチャンスとして送信しているのであれば俺に通知する理由がない。俺のポイント数は頭一つ抜けて高いはずだからな」
休憩所で時間を潰した上でこれなのだ。
周囲と同時に通知した時点で、データスタンドまで真っ先に到着して高得点のエーテリアスを狩り尽くしに向かうと想定できるはず。
『……アンタ、今何ポイントなんだ?』
「13万」
『ヤベェ』
「ありえないんですけど」
「あの短時間でどうやってそんなに……」
「時速200キロで流しながら目についたやつを殲滅するだけだぞ」
参考にならない、と三人が首を振った。
「とにかく、キャロットを確認しにいこう。罠なんだったら、他の参加者が危ないもん」
『ああ。店長の言う通りだ! こいつが罠なんだとしたら、スターライトナイト──の忠実なファンとして見過ごせねぇ!』
「え、えぇ……やめとこーよ、『請負人』が頭一つ抜けてるだけで、あーしらだって十分点数高いはずなんだし……なんかあったら危ないじゃん……」
「んじゃ俺もついていこうか。こういうことやりそうなやつに心当たりがあるしな」
まぁ。
たぶんあの犬野郎だろうな。
大方人を集めてからまとめて狩ろうって魂胆だろう。
どうやってこんな罠を用意したのかは疑問になるが。
ただまぁ、こういうことをやってくるのであれば話は別だ。
いくらあの盤岳が強いからといって、その他大勢の足手まといを抱えながらあいつと十全に戦えるかというと疑問だからな。
ということで、データスタンドに向かうことになった。