Jukebox Driver 作:Penthouseはいいぞ
ものを作った。
「よし」
多少苦労したが、これで問題はないだろう。
とはいえ万全とは言い難い。
ハードこそ完璧に近いとはいえ、ソフトのほうはそういうわけでもないしな。
機械を弄ったりするのは得意だが、プログラムの構築は苦手なのだ。
とはいえ外注するあてもないのだから困った。
「色域は優秀、視差もなし、書き心地も良し──ほんと、ソフトさえなんとかなればなぁ」
自分で使う用だから多少の不便は耐えられるが。
これなら完成品を後から弄ったほうが良かったのではないだろうか。
でも作ったほうが安上がりだしな。
それにこれも勉強だ。軽く動作を確かめてみて、作業に取り掛かる。
「ふむ」
今のところは問題ないな。
長期使用してどうなるか確かめてみるか。
やっぱ企業努力ってのはすげぇ。
こういう電子機器は再現しようったって安定性の点で勝てそうにない。
ハード部分の性能自体は勝ってるが。
とはいえ、俺が使うぶんには充分以上。
ほとんど紙に書いているに等しい感覚を考えれば、多少の不便は呑み込める。
これで俺も液タブ使いだ。
これまでは紙に漫画を描いてたからな。
デジタルの恩恵にやっとあやかれる。
さーて、売り物の説明書でも描くか。
「で、完成した説明書がこれですか」
後日のこと。
何やら頻度の増したお誘いで、描いた漫画を見せてみる。
「忖度無しで意見を聞かせてほしいなと。説明書はわかりやすさが大事ですから」
なるべくわかりやすく描いたつもりだが、俺にとっての常識は他の人にとっての常識と違う。
どこまで噛み砕いて描けば良いのかってところが特にややこしい。
それに、あんま漫画上手くねぇし。
一回チェックしてもらったほうが直したほうがいいのかもわかりやすい。
「そうですねぇ……」
何から言うべきか、といった表情で彼女はストローからメロンソーダを吸い上げた。
「絵はかわいいですね。もふもふで」
「良いでしょう?」
「良いと思います」
ただ、と付け加えて。
「説明書なのに導入で3ページ使うのはさすがにちょっと……もっとコンパクトになりません?」
「えっ……でもこのあとの説明に繋げるには必要な流れで」
「それなら前提がおかしいんでしょう。説明が1ページで終わってるのも変ですね。尺の配分逆じゃないですか? しかも説明自体かなりざっくりしてますし」
「ある程度噛み砕いたほうがわかりやすいかなと」
「説明書なら詳細なほうが助かると思いますよ」
「なるほど」
やはりこういうのは第三者から評価してもらったほうが助かるな。
彼女の言った通りにするには、どう修正しようか。
持っている電子メモパッドに軽くコマ割りを描き出していく。
「フリーハンドでそこまで綺麗な直線、よく書けますね……」
「これくらい普通じゃないですか?」
この程度できなきゃ手作業はできない。
というのはちょっと言いすぎだが、少なくともこのくらいできたほうが効率が良い。
綺麗な線が引けるだけで、別に絵が上手くなるわけじゃないしな。
「それ、聞く人によっては怒られますよ。あたしもちょっと呆れてます」
「え……でもぶっちゃけこれ習得するのとあなたにあげたシステム既存品から組むなら後者のほうがはるかに難しいですよ」
真空管だとノイズがダルいからな。
スピーカーだと耳との距離の関係で微細な音が潰れるが、イヤホンだと特に耳障りだ。
ノイズをなくして音色だけ残すのが理想。
けど実際それは難しいので、あえてノイズを音作りに利用するのが一番バランスの取れた判断だろう。
さらにもっと言えばイヤホンだってアンプによる相性があるわけで。
ナメてると普通に地獄を見る。
ポータブルサイズだし簡易なバッテリーで動くようにしてあるから余計に難しい。
いくらイヤホンとはいえ小さいサイズで作ろうってのはちょっと骨だ。
彼女にあげたシステム、ぶっちゃけマニアに売ろうとすれば百万くらいの値がつくんじゃないだろうか。
つってもそこらが限度だが。しかもとびきりのイカれたマニアって前提だし。
まともなやつならスピーカーに行ってるだろう。
「……そんなにですか?」
「うん。まぁぶっちゃけ」
人によっては一生辿り着かないし。
金出せば良いものが完成するなんて世界でもねぇからな。
彼女にあげたシステム自体、実際のところは五万もしねぇ。
ドライバと音作りが面倒ってだけで、イヤホン自体の音作りとしてできることもそうないしな。
あとは判定できる耳もいる。
「……その……すごく今更ですけど……いいんですか? これでもあたし、ある程度の余裕あるつもりですけど」
「自分から差し出しといて金くれは図々しすぎるっしょ」
「ん……でもあたしのほうが落ち着かないんですけど」
「こうやって漫画の指摘してもらってるだけで助かってますよ。俺、友達いないんで」
普通に他人と関わることがねぇ。
自分から関わりにいくのも面倒だ。
人付き合い嫌いなんだよ。
たまに真剣に話すれば、茶化されたり。
言う必要のない言葉で、不用意に傷つけてしまったり。
言われたくない言葉で嫌な気分になったり。
そういうことの繰り返しばかりで、だったら仕事だけの関係でいるのがずっと良い。
それじゃどうして彼女に話しかけたのかって言われると、特に理由らしいものは持ち合わせてないんだが。
ま、あんな夜の浜辺を薄着で彷徨いてる人に対して多少思うところがあったんだろ。
別にそれは俺に限った話じゃなくて、誰だって今にも消えてしまいそうな人にお節介をしたくなることだってある。
「……あたしもいませんね。友達って言えるような人は」
かと言って、俺と彼女が友達かって言えば話は別。
友達って言うにはお互い気ぃ遣いすぎだし。
かと言って尊重しすぎることもない。
なんだろうな。
家族というか、仲間というか。
ぶっちゃけ気楽だ。
だからずるずると関係が続いてるんだろうが。
少しの間、沈黙が続く。
「……ちょっと、そこで黙らないでくださいよ」
「あ、失礼。ちょっと考えごとしてました」
さっきからコマ割りが思いつかねぇ。
図面とかなら一瞬で浮かぶんだけどなぁ。
漫画ってなればとんと出てこない。
一度頭の中で組み立てられれば、俺の手はそれをほとんど再現できるんだけど。
残念ながらそういう冴えは俺にはない。
この説明書だって、苦心して一週間ほどでなんとか形にしたし。
「話戻りますけど、マジでお礼とか考えないでいいですよ」
音動機をいじったとかでもないしな。
ただお節介で余ってたシステムをあげた。
それだけだ。
そんな俺の反応に、彼女はどこか歯がゆそうな顔をして、グラスを両手で包み込む。
「……それじゃ、あたしにできることがあればなんでも言ってください。なるべく力になりますから」
横転した。
女の子がなんでもとか言うのやめろマジで。
もっと自分を大事にしてほしい。
電話が鳴った。
愉快な音楽は仕事の合図だ。
「なんだ?」
『依頼があってな。ホロウでドンパチやりたいらしい』
「おいおい、こちとらオーディオショップの店主だぞ?」
『ナンセンスな冗談だな。ロックスターは捨てたのか? コミック作家は? ライターは向いてるかもな。導火線に火ィつけてばっかじゃねぇの』
「うるせぇな。詳細を言えよ」
『端的に言えば取り立てだ』
電話の向こうで声が言う。
『得意分野だろ? 請負人』