原作既読推奨です
「あった! ホロウ観測データスタンドだよ!」
キャロット内のデータと現在配布されているデータを比較して照合する、とのことだが。
一体どこで解析してやがるのやら。
AIを搭載してるみてーだが。
よりによってエーテリアスカードにか、と思わなくもない。
そもそもその規模のAIがエーテリアスカードに入り切るとも思わん。
オフラインじゃ動かねぇだろうな。
つまりホロウの内と外で通信ができているということになる。
プロキシとして相当名も知れてそうだ。
ま、治安官が頼るくらいならそうなんだろうが。
「この『キャロット』──ナビゲーションをちょっとずつズラして、みんなが知らず知らずのうちに同じ地点に行くよう誘導してたんだ」
つまりそこが狩場ってことだろう。
データを更新しなけりゃ問題はないだろうが。
高得点に釣られた連中は巣穴に引き込まれるってわけだ。
「………………」
ダイアリンがこういう違和感に気づかねぇとは思えない。
彼女は俺より賢いし、人数でポイントを等分したとしてもあの構造体なら上位圏に入るのはそう難しくないだろう。
速さだけはどうか知らねぇが。
だから。特に問題はないと思うのだが。
「進むぞ」
「ごめんシドさん、ちょっと待って。このデータスタンドをハッキングして、正しいデータをみんなに送るから!」
「……そんなことできんの?」
「うん。偽のデータを流した中継局を逆探知して掌握したら、そこから正しいデータをみんなに送信できる!」
「っ、て、そんなことしたら黒幕に気づかれちゃうかもじゃん!?」
「それでも、だよ。だって、私はプロキシなんだから!」
どーすっかな。
二人を置いてって、俺だけ先の地点に向かって制圧するか?
データスタンドへの到着は、比較的早かったはずだ。
だがだからといって悠長な行動をしている余裕はない。
正しいデータを送るのが間に合えば、一旦の問題はなくなるだろう。
しかしその間にもあの犬野郎は動き続ける。
たぶん今も殺し続けてやがるだろうな。
「……………………」
端末とにらめっこする、プロキシの姿を見て、逸らした。
「……はぁ」
「ぴぇっ」
あの金髪、いくらなんでも怯えすぎじゃねぇか?
マジで見覚えねぇんだが。
あれで結構サポートの視野広いのは、さすが治安官といったところだろう。
蛇だからか。
隙間を縫うような動きが上手い。
ま、しゃーない。
ここでちょっとでも悩んで時間を使ってしまった時点で今更動くのもな。
だから俺は、そのハッキングが終わるのを待って。
「よーし……私が──みんなのプロキシだよ!」
その言葉とともに、転送されてきたデータを確認する。
かかった時間は、行ったことを考えれば早い部類だろう。
「すっご……マジでナビが変わってるし! や、やるぅ……」
「これでもオタクの端くれだからね。腕は鈍ってなくてよかったよ」
「喜んでるところ悪いが、さっさと進むぞ。んなこと仕出かしたクソ犬をぶっ殺さねぇと」
なるべく急いだからだろう。
どこか疲弊した様子の彼女に、俺はそう言い放つ。
「……ま、待って! そんなに急ぐ必要なくない!? 正しいデータだって送信できたんだし……」
「だとして、んなことするカスが止まると思うか? 罠がバレたんなら巣穴から這い出て狩りを始めるに決まってるだろ。俺だってそうする」
そうなれば、近場にいるやつは手当たり次第って感じになるだろうな。
「……請負人なのに、人を助けたいって、そんなお節介なワケ?」
「ビビってるくせによく言うじゃねぇか。だから答えてやる。助けたいのは身内だけ。顔も知らんその他大勢なんてどうでもいい」
だからあの犬野郎が、どれだけ人を殺していたとしてもどうだっていい。
ただ、その中に俺の身内がいる可能性がある。
だから殺す。
その程度の話でしかない。
「……シドさん」
想定外に。
俺の言葉に眉を寄せたのは、プロキシの彼女のほうだった。
「顔も知らないなんて、最初は誰だってそうじゃない?」
何を言いたいのか。
よくわからなかった。
「シドさんは、私がダイアリンの友達だから私たちに協力してくれてる。それはシドさんの理屈で、身内の友達だからってことだよね」
「ま、そうだな」
「じゃあダイアリンは? シドさんとダイアリンが会ったのは最近じゃないの? 羽だってそうでしょ?」
なるほど。
彼女の言わんとすることが、なんとなくわかった。
「共通点がある人間には甘いもんでね」
だから、こう返すことにしよう。
「けど、だからって見えないものにまで手を差し伸べるつもりはねぇ。だってそりゃキリがねぇ話だ。アンタだって、ついこないだまで俺のことを知らなかっただろ?」
それと同じ。
「リソースの問題だ。あいにく俺は天使じゃねぇ。手が届く幅には限度がある」
「……そうだよね。ごめんなさい、変なこと言っちゃった」
「気にしちゃねぇよ。アンタの意見も正しい」
最初はみんな知らない人、か。
そりゃそうだ。
弟。
ダイアリン。
南宮さん。
レミエール。
今俺が身内として扱う人々は、実のところ意外に最近会った人が多いわけで。
俺が殺してきた連中の中にも、実は気の合うやつらだっていたのかもしれない。
だがそんなこと、どうでもいいことだ。
そうやって誰かに気を向けたせいで大事なものを取りこぼすほうが──よっぽど最悪な話だろ。
レミエールの仕業だろう、色褪せたエーテリアス区間を抜けて。
「よぉ、犬っころ。雑魚狩りは楽しかったか?」
「──その雑魚を守るなんてな。急に博愛主義にでも目覚めたか?」
罠の犯人が、予想した通りであったことを確認し。
さっさとブチのめそう、と決めた。
「強いて言うなら迫害主義だ。駆除してやるよ、野良犬風情が」
だから俺は、カラーグラスを除けた。
「『請負人』の本領を知るといい」
「──────ぇ」
何故だろうか。
その理由を、俺は考えることもしなかった。