更新のモチベはあるのに平日は物理的に時間なくてきち〜です
「第一回! 親睦を深めようの会〜! いえーい!」
「いえーい!」
乾杯。
ぱちぱち、とダイアリンが手を叩くのを見て、俺はグラスの中身を飲み干した。
カウンターの向こうにはシャツとベストで正装をした、バーテン気取りのレミエールが立っている。
さて。
「……気は済んだか?」
「うん。お酒のことは任せるよ」
そう言って、カウンターから出てきて二階へと上がっていくレミエールを見送る。
着替えに行ったんだろう。
「……店長のお義母さんって、変わってますよね」
「あれはただ浮かれてるんですよ」
今が楽しくて仕方ない、といったところだろう。
あいつがいつ目覚めたのかは知らんが、孤独に耐えられるような人間ではない。
必要だからそうしているだけ。
だからこそ、孤独でなくなった今が楽しい──といったところか。
つっても裏じゃ何考えてるのかもよくわからんが。
「というか店長、あれだけ世間体を気にしてるのにボクの前でお酒飲むんですね」
「ここは俺の家です。勝手に転がり込んできてる前提の上で文句言われたらキレます。意味わかんねぇから」
「わお、苛烈ぅ……」
「あ、南宮さんは飲んじゃダメですよ」
「飲みませんよ!?」
なんか彼女、飲んで失敗しそうな雰囲気あるんだよな。
ダイアリンは飲むとしんみりするタイプだが。
南宮さんはなんか、飲んでブレーキの制御をミスるタイプにも見えるというか。
「で、シドさん。親睦を深めようとのことですが、何か宛はあります?」
「いえ、特には。そもそもこんなことするって俺聞いてないですからね。アンタら俺が寝てるときに転がり込む計画を立てるのやめなさいよ」
「それは……すみません。でもこのくらい押していかないと、シドさんは引いちゃいますから……」
そう言って、ダイアリンは俺の腕に触れ、そしてすぐに離した。
無意識の行動を修正するかのような仕草だ。
不味い。
何が不味いって、この場には
「それじゃあ、ボクはお二人のお話を聞きたいかなぁ〜? 大会では何やら色々あったらしいですしぃ〜」
当然彼女がこのような隙を見逃すわけもなく。
すかさず食いついてきた姿に、なんだか俺は安心した。
しかし、大会か。
冗談めかしているが、実のところ大会で何が起きたのか、はっきりと知りたいところだってあるのだろう。
ま、しゃーない。
これは心配させた側への罰でもある。
仕方ないから、話すことにしよう。
「といっても、大会なんて適当にいろんなやつをボコって最後俺もダウンしたくらいですよ。ぶっちゃけ俺が一位通過なんじゃないですかね」
「……ちなみに、シドさんの点数ってどのくらいだったんですか?」
「13万」
「おかしくないですか?」
「おかしくないですよ。バイクで走りながら──あっ」
そう言えば。
ホロウに一旦バイク置いてたんだったわ。
あれどうなったんだ? 端末からニコラスの位置情報で探るが特に反応はない。
ということは。
「やべ、ホロウにバイク置いてきた」
「えっ!?」
「あ、それは盤岳先生に回収してもらいました。今は
「…………」
抜け目ねぇな。
これ上手いこと足奪われてるじゃねぇか。
「良かったですね」
「……そうですね」
ま、ダイアリンの反応を見るに情状酌量をもぎ取れば返してくれるだろう。
そのはずだ。
「おまたせー。何の話してたの?」
「俺のバイクがヤバいって話」
「ああ、うん。アレほんとにバカみたいな速度で走るよね。ホロウはサーキットじゃないんだけど」
「いいだろ? 明らかに公道で走ることを想定してないバカみたいなバイクで。あれアイドリング五分でエンジンから発火する可能性あるんだぜ」
「本当にバカみたいなバイクじゃん」
「この髪の長さでヘルメットなしなのも怖いですよね。巻き込みそうだし、どっかに引っかかりそう」
「店長さん、世間の目を気にするわりに法律を無視してるのはどうなのそれ」
最後の南宮さんの言葉が一番刺さる。
とはいえ郊外で生きてたらこんなのが普通なわけで。
別に俺がおかしいというわけでもないだろう。
じとー、っと南宮さんの視線が突き刺さる。
逃れるように、俺は酒を更に口へと含むのだった。
「……今更な話ですけど。店長さんって、結構やんちゃ?」
「本当に、この子は初めて会ったときから手のかかる子で……やんちゃもやんちゃ、超やんちゃだよ。だから攻撃が高くて特防は低いんだよね」
何の話してんだよ。
「まぁ……どちらかで言えば、間違いなくやんちゃ側ですよね」
「普段すごく穏やかなのに。なんかちょっと意外……」
「私に対する対応見てるとよくわかると思うよ。よよよ、お母さんに向かって酷い態度なんだから……」
「だってオマエ母親を名乗る不審者じゃん。なんで尊重しなきゃなんねぇの」
「酷い!」
事実しか言ってない。
「こんなこと言ってるけど、困ったときには私を頼ってくるんだよ。ふふ、今はちょっと反抗期ってだけみたい」
「母親を名乗る不審者……?」
「まぁ、シドさん側からしたらそりゃそうでしょうね……」
南宮さんが疑問に首を傾げ、事情を知っているダイアリンが俺の言葉に同意する。
南宮さんにはもう、俺の出生について軽く話してるしな。
今更隠すことでもない。
「俺の母親ってクローンなんだけど」
「……はい」
「
「……ダン──え、あれっ、それって確か、初代虚狩りの名前じゃ……?」
「はーい、初代虚狩りのダン中佐でーす。よろしくね、天使ちゃん?」
「……………………えぇ?」
南宮さんは混乱している。
死人が現れたときの反応なんてこうなるもんだろう。
「そういうこともあるだろう」で割り切れる俺やダイアリンのほうがおかしいのだ。
「特に驚きもないってことは……キミのほうは、察しがついてた感じ?」
「ええ、まぁ。そんな特徴的な名前、偽名だとして名乗る人なんてそういませんし。……あたしは『始まりの主』や『虚狩る戎具』とも関わったことがありますから。そういうこともあるんでしょう」
「……へぇ。ただのガールフレンドにしては勘が良いなと思ってたけど」
「おい待て」
その言葉に、いつもの余裕そうな顔でグラスを揺すっていたダイアリンの手が止まった。
俺のほうも、ついつい口を出してしまう。
「誰がガールフレンドだって?」
「んー? お義母さん良いと思うよ?
「いや、そういうことではなくて……」
「すみません、その話詳しく」
南宮羽の混乱が治った!
「んー……これはちょっと天使ちゃんには刺激が強いから、ナイショかな。あ、でもこの子ったらそんなすごいこと言われたあとに『もう会わないほうがいいよ』とか言い出して逃げようとしたんだよね。どう思う?」
「甲斐性なし……」
「反省してっから蒸し返すのやめてくんない?」
「あたしはまだ許してませんけどね」
仕方ないだろ、と言いたくなるが。
ダイアリンの怒りは正当だ。
甘んじて受け入れるしかないだろう。
とはいえ。
いつまでもそのことを根に持たれるのもな。
「……どうしたら許してくれます?」
「そうですね……」
ダイアリンは、僅かに悩むように俺を見た。
俺の顔を、ぼーっと眺めるように、見て。
「全部終わっても、あたしの前からいなくならないって約束してくれたら……それで許してあげましょっか」
そう言って、笑った。
頬は僅かに赤らんでいた。
グラスはとうに空になっていて、そのせいなのだろうか──判別はつかないが。
どーすっか。
できない約束はしないようにしているが。
「指切りでもしましょうか?」
「いえ。いなくなったときは契約不履行として追いかけるだけなので大丈夫です」
「それじゃ、そういうことで」
ぱちぱちと囃し立てるような拍手がなければもうちょっと格好もついたんだろうが。
こいつらさっきからずっと楽しそうだな。
軽く見てみれば、もうみんなグラスは空き始めている。
次を用意しようと立ち上がり、ストックしてあるものの中から適当に見繕う。
「……ああそうだ、ニコラス。BGM用、適当に掛けといてくれ」
『承りました』
どうも今日の夜は長そうだからな。
口を軽くする材料は多ければ多いほど良い。
今夜が無礼講なのだとすれば。
「戻ったぞー」
「……ねぇキミ、当然のように業務用ペットボトル持ってくるのやめない? というか普段角瓶なのにどうして」
「あれじゃ足りねぇからに決まってんだろ?」
「やっぱり店長さんってわりと世間一般的にはダメな大人だよね」
「だから世間体を気にしてるんですよ。後ろめたい気持ちがあるから」
「なるほど……!」
「なんだろ、焚きつけといてなんだけどこういうところ見ると彼女さんを止めたくなるなぁ」
「……彼女じゃないですよ」
「またまたぁ」
「つっても酒もタバコもやんねぇロックンローラーなんてダサいだけじゃねぇ?」
「……店長さん、それは音楽やる発言ってことでいいのかな! そういうことだよね! ね!」
そうだな。
明日からみんなが俺に気を遣わなくて良くなるくらいには、遠慮がなくなれば良い。
なんてことを、思った。