「ナ〜ナナナ〜ナ〜」
「珍しい。ご機嫌だね」
「ねぇこれ店長さんまだ酔ってるんじゃ」
「昨日夜飲んでた時間考えると治安官に見つかったら一発アウトですね」
「ちょっと??」
意外と飲酒運転はバレないものだ。
通行止めなんかでチェックが入ると一発アウトだが、そういう道は通らなければいい。
「ニコラス、張り込みがないルートを提示」
『提案:このまま逮捕されるべきでは?』
「AIに正論言われてる……」
「飲酒運転はノーヘルに並んで郊外の礼儀だ、何も問題はない」
「いつまで郊外気分引きずってるんですか?」
ダイアリンの痛烈なツッコミは聞かなかったことにしておいた。
ともあれ、愉快に音楽を流しながら車を走らせる。
シティ・ソウルは車を走らせるときに相性が良い。
気分良くエンジンの回転数が伸びていく。
とはいえ、今回は一人ではないのだからバカみたいに飛ばすわけにもいかない。
程々に安全運転を心掛けて移動しねぇとな。
「……シドさん、あたしずっと疑問なんですけど」
「うん」
「なんでバイク乗ってる人って……わざわざ音をうるさくするんですか?」
「郊外に関して言えばナメられないようにマフラーいじってる節はあるな」
「ああ、なるほど……でもシドさんはしてないですよね?」
「
なので基本的には能力使うなどして消音している。
「大抵の場合イキリだしあんまりうるせぇならぶっ飛ばしていいよ」
「今の時代って暴力合法なんだっけ?」
「どの時代も基本違法だと思いますよ」
郊外へと抜ける。
舗装されていない道はガタついている。
自分一人なら無視して飛ばすんだが、流石に他のメンバーを考えれば躊躇のほうが勝つな。
仕方ないので速度を落として進めることにする。
「今のうちに装備について説明しとこうか」
「あ、はい」
念のためそれぞれにある程度の装備を預けておいた。
俺のほうは普段通りの装備に加え、ダイアリンからもらったフリンツ合金を利用した音動機も追加で持っている。
「今南宮さんに着てもらってるコートは防蝕と衝撃耐性あるのと、一応防蝕マスクも持ってきてる。すぐ帰る予定だからこれは何かあったとき用。一旦服に突っ込んどくでいいよ」
「はい」
「渡してる音動機に関しては音で攻撃する機能がついてる。もし何かあったときは躊躇わず使ってくれ」
「巻き込んだりとかしないですか……?」
「範囲は絞ってあるから問題ない。使い方はさっき一回試してもらった通り、使う時に変に焦らないように」
使わないに越したことねぇんだが。
というか、使わせるつもりはねぇんだが。
とはいえ危険地帯なことには変わりない。
身を守る手段はいくらかあったほうがいいだろう。
一応近接用の装備も渡してある。
彼女の要望に応えて二振りのハンマーを作っておいた。
聞けばこっそりホロウに入った経験もあるようで、そのときの武器がそれだったらしい。
注意したほうが良いのだろうが、俺も俺で散々やらかしているので注意できねぇ。
「で、レミエール。一応侵食対策で音動機渡してるが、そもそもなくてもオマエはどうにかするだろ。以上」
「わぁ、雑」
「そんなバカみたいな服着てホロウ出歩いてるほうが悪い」
「キミって意外と服にうるさいよね」
「オマエもダイアリンも南宮さんももうちょっと落ち着いた服着たほうがいいと思ってる」
「えっボクも? 確かに衣装はちょっと、派手かもだけど……」
「あたしのは仕事用の服です」
「私は趣味だよ」
「おうそうか」
じゃあやっぱオマエには言っていいじゃん。
「で、ダイアリン。一応整備はしたけど使い勝手変わってないかだけ確認してくれ」
「今のところは違和感ないですよ。というか音動機に関してはなんか魔改造されてるような……」
した。
従来の使用感を残しつつ順当にスペックアップさせた形になる。
とはいえそれ以外の装備は特にいじってもいない。
ダイアリンとレミエールに関しては、特に戦闘で心配することもない。
南宮さんに関しては念を入れて色々と用意したが、二人に関しては最低限で問題ないだろう。
そうして、ホロウへと突入し、そのまま進んでいく。
特段戦闘になることもなくホロウをくぐり抜け──そうして、もはや朽ち果てつつある建物の前へと、到着する。
といってもそれは表層だ。
研究所は地下に作られている。
「見た目は……倉庫みたいなんですね」
「違法な研究ですからね。倉庫だったら物を運んでても違和感を持たれないでしょう?」
定期的に荷物の行き来があったとしても、倉庫という名目であればバレづらい。
「…………」
「大丈夫か?」
難しい顔をしたダイアリンに、声をかける。
俺の言葉に、彼女にしては緩慢に頷いた。
「……ここの下。ひょっとしてホロウに繫がってたりします?」
「……ま、『廃棄』に向いてるしな」
「……そうですか」
彼女はそれだけで、理解したのだろう。
それ以上追及してくることはない。
「それじゃ、さっさと必要なもの回収しちゃおっか」
「おう」
「地下がホロウと繫がってるなら、変なところに裂け目ができてるかもしれません。一応マスクは持っておいたほうがいいですね」
車の中に置いてある防蝕マスクを引っ張り出して、そのまま建物の中に入る。
シャッターは閉まっていた。
俺がぶっ壊したあと、誰かがここに来た痕跡がある。
TOPSもそりゃ隠蔽しようとするか。
そのまま俺が先導して、中に入る。
周辺の景色は、寂れたまま何も変わらない。
俺が破壊した痕が残っている。
中身のものだけ回収して撤収したみたいだ。
これじゃ証拠が残っているかもわからない。
ダイアリンが、周囲を見回して言う。
「どれだけ隠しても、痕跡はあるものです──下に向かいましょう。隠しきれない痕がどこかにあるはず」
そう言って、一歩踏み出したダイアリンの足が、止まる。
「……これは」
ダイアリンはそうして、こちらへと振り返る。
「シドさん、落ち着いて聞いてくださいね」
その顔は、真剣そのものだった。
「──この研究所、まだ動いてます」
それは、きっと『死者の声』とやらで掴んだのだろう情報。
今更彼女が、つまらない嘘を言うとは思わない。
だから、これは本当なのだろう。
「一旦引きましょう。南宮さんを安全なところに」
『おいおい、折角来たのに帰るのか?』
会話の中に、俺達以外の声が混ざった。
──癪に障る話し方。
それを俺は、知っている。
その姿を探そうとした直後。
「天使ちゃん、こっちに」
レミエールが南宮さんを即座に引き寄せる。
分断を想定してだろうか。
今はその冷静な判断が頼もしい。
即座に上を見上げたが、天井ごと落ちている。
飛んで逃げることまで想定されているようだった。
「……なんで、テメーが、生きてやがる」
『ふぅん。何個か質問を想定していたけれど、そのどれよりも低次元なものが来るとはね。
──ありえない。
確かにあのとき、俺は殺した。
原型を留めないくらいに壊したはずだ。
俺達を作る機械だって、もう残ってはいない。
その技術は存在しない。
『仕方ないから答えてやろう。キミは始まりの主を知っているか?』
「──」
その言葉に反応したのは、俺ではなく。
ダイアリンとレミエールだった。
『そっちの二人は勉強できているようで何より。僕は死んだ後、そいつに肉体を再生されて復活したんだよ。それから
「復活……意味わからん。気色悪い」
『お、そこは意見が合うね。僕もそう思ったんだよ。だから
「は?」
『おっと、これじゃ意味がわからないか。百聞は一見に如かずという言葉もあるからね。どういう意味か、その目で確かめて見るといい』
そして、部屋の下降が終わり、シャッターが開く。
扉の向こう側は広間のように開けた場所だった。
まるで俺達を迎え入れるかのように、男が一人立っている。
「──え?」
その声は、誰のものだっただろう。
誰のものでもおかしくはなかった。
俺自身、困惑と驚愕の最中にあったのだから。
「や、久しぶり」
そこに立っていたのは──俺だ。
「……狂ってるね」
レミエールが、眉を寄せて呟いた。
「そうかい? 僕からすればキミのほうが狂っていると思うけど。勝手に人の子どもを奪うなよ」
「少なくとも、この子はキミのことを親だとは思ってない」
「事実を否定することは誰にもできないんだけどねぇ」
それに対し、そいつは気負いもせずに返して──その声が、声帯の使い方以外俺と全く同じという事実を認識する。
「あぁ、そういえばまだこの答えを聞けてないな」
そして。
そしてヤツは、いつかと同じように。
まるでこの世のすべてに価値を感じていないような話し方で、俺に向かって言ったのだ。
「天使になり損なった気分はどうだ?」