Jukebox Driver 作:Penthouseはいいぞ
触れたことない人がオーディオの入門として何か触ってみようかなと思ったとき、個人的にはFinalのE3000を買ってスマホをプレイヤーにするのが一番いいかなというのが持論 中古の玉あればMA750が格安のハイエンドだから持っとくと便利
「ファック」
電話越しに吐き捨てる。
ケラケラと笑う声はただでさえイライラする頭に点火して、もう爆発寸前だ。
ただでさえ気の長い方じゃねぇんだ。
次ゴタゴタ言ったら殺そう。そう心に決めて、俺は極めて冷静に次の言葉を導引する。
「ファックだクソったれ。音動機はもう売らねぇぞ。勝手に侵食で野垂れ死んでろカスが」
『おいおい、そう言うなよ。ただ出力が落ちたものを中古で売り捌いただけじゃねぇか』
「おかげでギリガンは指名手配された。それを承知で俺に話を持ちかけてんだよなテメーは。どういうつもりだ? 下手なこと言ったらブチ殺すから覚悟しとけよ」
『そうキレんなよ。おかげでオマエも自分自身の価値がわかっただろ?』
よし、殺す。
手に握った鉄球が、けたたましい金切音を立てて変質する。
その音が電話越しに聴こえたのだろう。薄ら笑いはピタリと止まり、声音は真剣そのものに変化した。
『まぁ落ち着けよ、請負人。今回は素性の知れた依頼人だから。なんと驚け、TOPSの──』
「つまらねぇ命乞いをどうも。シンキングタイムだクソ野郎。テメーをブチ殺すまでに」
「──店長、取り込み中ですか?」
電話を切った。
振り向くと、少し見慣れてきた天使の少女が、入り口付近に立っている。
「おはようございます、南宮さん。もうそんな時間でしたか」
「ええ、もう夕方です。……というか、電話は大丈夫なんですか? ボクに気を遣わなくても」
「いえいえ、腐れ縁からの電話ですから大丈夫ですよ」
少し、息をつく。
彼女との会話で少しクールダウンできた。
あんなカスのことはさっさと忘れたほうがいい。このあと一時間程度は素直に震えてくれるだろ。
その姿を想像して、なんとか溜飲を下げる。
「ひょっとして、また何も食べてないんじゃないですか? お茶入れてきますね」
「あー、ありがとうございます」
なんかバイトっていうか、秘書っぽくなってないか?
最近来る度に食べるもん用意してくれるんだよな。
つってもインスタントのものがメインだが。
一回コンロ壊れたからな。それ以来下手に触らないようにしているようだ。
彼女が怪我する可能性だってあるので無理しないでくれるのは、正直助かる。
責任取れるような身分でもねぇし。
鉄球のなれはてを床に放り捨てておく。
しかし、TOPSね。
企業もいろいろ裏でやってるってことなんだろうか。
ま、聞かなかったことにしといてやろう。
どうせ音動機なんか流さねぇんだし。
「はい、お待たせしました」
サンドイッチと紅茶が、カウンターのテーブルへと置かれる。
折角用意してもらったのだ。先に食べておこうか。
「美味しい」
「……良かったです」
彼女は、どこか安心したように微笑んだ。
しかし、なぁ。
バイトって体にしてるし、実際に仕事に必要なものは手伝ってもらってるからいいんだけどさ。
こういう身の回りの世話までやってもらってんのはちょっと領分を越えてないだろうか。
端から見れば金払って若い女の子に世話してもらってる引きこもりだぞ。
あまりにも聞こえが悪い。
「そうだ、店長。デジタルアンプってなんですか?」
「んー? どうしたんです、急に」
「ちょっと家で勉強してたんですけど、デジタルとかアナログとかいろいろとあって……よくわからないなと思いまして」
「なるほど」
確かに、そのあたりはちょっと難しいな。
「俺の定義としては、ざっくり言うとスイッチング電源を利用するアンプのことをひとまとめにデジタルアンプと言います。あとはフルデジタルアンプなんかもありますが、これもほとんど同じ音がするので同じ括りにしてますね」
「なるほど……アナログとはどう違うんですか?」
「ノイズはかなり少ないですね。あとはアナログよりもパワーがあるように見えますが、反面低音部分が繊細に鳴らなかったり、音の立体感に欠けます。個人的にはどちらかというと業務用の運用に向くアンプですね」
「うーん……」
何よりの問題は、音色が出づらくなるところだ。
アンプ部分による色付けがなくなるし、かつ音が荒れやすくなる。
イヤホンとかにはかなり向いているが、スピーカーで使うとなると……表現力が高くなるせいで問題が可視化されやすい。
あとはアンプによる個体差が出づらい。まともに作れば、基本的にデジタルは基本同じような音が出てくる。
例外的に極わずかなノイズが添加されてウォームに寄るデジタルアンプなんかもあるが、それは逆に言えばノイズを取れば同じ音になるわけで。
ぶっちゃけイヤホンやヘッドホン用に一つ持っておけば良いかなという感覚。
値段が安いことと、リファレンスが取りやすいというのも個性ではあるんだが。
「アナログアンプは、まぁデジタル以外の全般が当てはまりますかね。うちのような店だと、基本的にはA級のアンプを取り扱いますが」
「A級……は、一番良いところだけを使う贅沢な方式ですよね」
「正解です。近年のエントリー帯あたりではAB級が基本かな? あとは例外枠にオペアンプが存在しますが、これはポータブル系に使われることが多いです」
「なるほど……」
「音が良ければ増幅形式なんかなんでも良いんですが、スピーカーで厳密に音を追求したときにはA級動作が前提になってくるのは面白いですよね」
「そうですかね……?」
なんなんだろうな。
デカい振動板を複数動かすためにはやはりある程度パワーがいるから、効率とか考えず中身の詰まった重たいアンプでガンガン電力使って爆熱を吐き出したほうが良くなるのは当然ではあるんだが。
しかし、わざわざ勉強までしてるのか。
いくら興味のある分野とはいえ、たかがバイトにそこまでするとは随分と真面目なものである。
「……」
或いはそれだけ、『夢』に対する思いが強いのか。
提出された録音で聴いている歌声は、日に日に上手くなっていく。
細やかに表現を使い分ける歌い方は、彼女の頭の回転の早さも相まってやけに様になっていた。
成長は彼女自身の努力に依るものだ。
それでも、その一助になれているのだとすれば、それは嬉しいと思う。
気分転換がしたいとの連絡を受けたので、車を出した。
ボート・エルピスの屋台でフライドポテトを購入し、並んで海を眺めている。
「はぁ……あっ、すみません」
「珍しいですね。どうしました?」
「お仕事のことなので、あんまり……」
「別に良いですよ。なんなら愚痴ってくれていいです。それであなたの気分が楽になるなら」
「う……」
そう返すと、彼女は少し気不味そうにしてから。
「……じゃ、ちょっとだけ聞いてくださいね。人に聞かせるような話じゃないんですけど」
「酷い話なら聞き慣れてるんで大丈夫です」
請負人とはそういうものだ。
嫌な話もよく聞くし、その報復だって芯が腐るくらいにしてきた。
今更ちょっとした愚痴で歪むようなものもない。
「仕事道具が壊れちゃったんですよ。直るまでは他の備品で代用しなきゃいけないんですけど、そっちはちょっと馴染まなくて。で、同僚の伝手でもっと良いやつにできるかもっていう話だったんですけど……」
「頓挫したんですか?」
「ええ。向こう側から拒否されちゃいました。ちょっと期待したんですけど……そのぶん余計に落とされた感じがしてですね」
「あー……」
それはまぁ、当然だろう。
道具の性能が上がるというのはそれなりに気分の上がるイベントでもある。
それが肩透かしに終わったとなれば、その落胆も意外と大きい。
「んー、仕事道具ってなんですか?」
「あー……えっと」
彼女は、少し悩む素振りを見せて。
自分の中である程度折り合いをつけたのか、そのまま話してくれた。
「音動機なんですけど」
「カスタマーサポートですよね?」
「はい。……クレーム対応でホロウに入ることもありますから、支給されているんです」
マジかよ。
今のクレーム対応って過酷すぎるだろ。
そりゃ生気すり減らすに決まってる。
……音動機か。
しゃーない。
「壊れた音動機って今持ってたりしますか?」
「持ってます。近々修理に出す予定で」
「ちょっと借りてもいいですか?」
「……まぁ、あなたなら良いですよ」
提げていた電話型の音動機を、彼女は取り外してこちらに渡してくる。
──これなら、今すぐにでも治せるな。
ポケットにある手持ちの道具だけでなんとかなる。
売らねぇっつったけど、別に人の持ってるもんを改造しないとは言ってない。
元の性能が良さげだからそこまでいじることはないが、多少手は加えさせてもらう。
欠けたパーツは短縮し、壊れた回路部分は残ったパーツと手持ちの部品だけでもより効率良くできそうなので簡略化して設置。
僅かに出来たスペースを利用して、周波数の動きを滑らかにするための調整をする。
オーディオ機器作成と音動機の構造は似ているっつーか、主要部分は同じだからな。
スピーカーと同じように、箱の調整次第で効果も多少なり変わってくる。
よし、OK。
三十分程度はホロウの滞在時間も伸びただろう。
外装の塗装は流石に無理だ。
塗料がねぇ。
が、まぁ経年劣化と言い張れる程度の剥がれだし、一旦放置で。
「治しました」
「──え、もう……?」
「ちょっと調整も入れてます。今度壊れたら、もっとちゃんと直しますんで俺に連絡ください」
「ちょ、っと待ってください……これ、さっきよりも手に馴染んで……」
そりゃ良かった。
「……修理費用、これで足りますか?」
「えっ……あー、足ります。余裕で」
財布からさっと札束を抜き出した彼女に、ざっくりと算段して市場適正価格ぶんだけ工賃をもらっておく。
材料費ほとんどかかってねぇしな。
むしろもらいすぎなくらいだが。
そもそも修理に出す予定だったものを俺が横から修理したわけで、彼女が払う予定だった対価ぶんはもらっとかないと向こうの据わりも悪いだろう。
ということで、仕方ないから受け取っておく。
あんま露骨に嬉しそうな顔するのやめてくれ。
金もらってるとこだけ見られたらほんとに通報されそうなんだから。