十二話です。
信之助が十六夜達の元へたどり着く少し前。
「飛鳥!」
「春日部さん!?」
信之助に言われ、飛鳥の元へ行った耀は何故か石化していない飛鳥を発見する。
「無事でよかった。でも何で石化してないの?」
「春日部さんも石化していないじゃない?」
「私は……信之助に助けられたから…」
耀の疑問は当然であろう。
自分は、悔しいが信之助に助けられたから石化することはなかった。本来なら石化しているはずの飛鳥が石化していないのだ。だが飛鳥はギフトを無効化できるものはもっていないはずだ。
「私も光に包まれた時はダメかと思ったけど。でも、あの時…」
飛鳥は困惑しながらも耀にその時のことを話す。飛鳥の話によれば……
「煙?」
飛鳥が褐色の光に包まれた瞬間、自分の周囲から現れた灰色の煙や霧のようなものに覆われたらしい。そして、その煙や霧のようなものは砂になり、自分だけ無事だったと。
「それって……信之助の?」
「ええ。多分それかと思うわ」
曇天丸の加護。
飛鳥、耀、ジンに信之助が与えたもの。曇天丸は曇りを象徴とした刀である。曇りは光を、太陽を遮る。信之助は知らないが曇天丸は光に関するギフトに対して強い耐性をもっていた。それにより石化する褐色の光を遮ったのだ。
「予想外だったけど好都合よ。早くジン君達を助けにいきましょ」
「待って」
「どうしたの? 春日部さん」
飛鳥は石化しなかったことを好都合と思い、ジン達の助けに行こうとしたが、耀に止められる。
「私達じゃ、足手まといになる」
「足手まとい?」
飛鳥は耀の言葉に怒りを見せる。しかし、耀は引かない。信之助の力の片鱗を見た耀だからこそ分かっていた。自分達の今の力では信之助達の足手まといになることを。
それほど迄に信之助達の実力と差があることを。その事を飛鳥に説明する。
「…そう。でも今だけよ」
「! …うん」
そう。今だけだ。今こそとてつもない差があるが、いずれは追い付く。
二人は新たに決心する。信之助にも十六夜にも負けていられないと。
◇◇◇
そして、現在に戻り。
「ハハ。随分と面白くなってきたな!」
「十六夜さん! 笑ってる場合ではありません!」
「せ、世界が変わって!?」
「ハハハハ! 凄いぞ、アルゴール!」
(これってア法? でもなんで?)
今まで居た世界が不気味な石像がいくつも浮いていて、茶色のレンガで作られた世界へ変わった。
四人がそれぞれ驚愕している中、信之助は考えていた。アルゴールが使っているのは間違いなく信之助が11年前に出会ったもの達が使っていた力。だが、基本ア法はその世界のもの達しか使えないはず。
それ以外で使えるものは信之助が知る限り、
「ん~。今考えてもしょうがないし。取り敢えずあれをどうにかしますか」
「キャハハハハハハハハハハハハハ!!」
ア法のことは一旦置いておいてアルゴールを見る。アルゴールは狂ったように笑っている。そして…
「キャハハハ!」
「があ!?」
側にいたルイオスを殴り飛ばした。
「ア、アルゴール!? 何をしている!? 敵はあいつらだ!!」
「キャハ…」
しかし、アルゴールはルイオスの言葉に従わない。そして身体から無数の蛇を産み出した。
それらはルイオスの方へ向かっていく。
「何だ? 仲間割れか?」
「いえ……どうやらアルゴールが暴走しているみたいですね」
「どうしますか」
「放っておく訳にもいかないしね。オラ、ちょっと助けてくるから十六夜君はオルゴールをお願いね」
三人がこの状況を困惑している中、信之助はルイオスの助けに向かおうとする。
「おい野原。あんなヤツは放っておけよ。助ける義理もねえしな。それに自己責任だ。後、アルゴールな」
十六夜はルイオスを助けようとする信之助に言う。十六夜が言っていることは当たっている。
ルイオスは敵であり、アルゴールの事も自己責任だ。
「でも助けないほどの悪人じゃないゾ。それにいちいち助ける助けないの理由なんて考えられないしね」
「……野原、お前」
そう言って信之助は曇天丸で結界のようなものを作ってからルイオスを助けに向かう。
ルイオスを助けに向かう信之助を見て十六夜はため息をつく。
「まったくバカだなアイツ」
十六夜は信之助をバカだと言う。しかし、その顔には微かに笑みが浮かんでいた。
「さてと、やろうか? アルゴール」
十六夜はアルゴールへと向かっていった。
◇◇◇
「く、来るな!」
腰が抜けて立ち上がれないルイオスは無数の蛇に向かってデタラメに剣を振るう。しかし、蛇の数が多すぎた。瞬く間に蛇に囲まれてしまう。
「だ、誰か、誰か助けてくれ!」
それは、聞く人がいれば虫が良すぎると言うだろう。今までいろんな人に迷惑を掛けたのだから、自業自得だと言うだろう。ルイオスが諦めかけたその時。
「よっと!」
「は!??」
何者かが周囲の蛇を吹き飛ばした。ルイオスはその人物の顔を見て驚愕した。
「お、お前…どうして!?」
ルイオスを助けたのは他でもない、敵であるはずの信之助だったからだ。
「お兄さん無事?」
「お前、どうして僕を助けた!? 僕はお前達の敵だぞ!? それなのにどうして!?」
ルイオスには分からなかった。信之助が何故自分を助けたのか。何故自分の無事を聞いてくるのか。ルイオスには理解が出来なかった。
「まったく十六夜君も似た様なことを言ってたゾ。オラは特に理由は考えてないんだってば」
「か、考えてない…」
ますます訳が分からなかった。理由は考えてない。それが信之助の答えだった。ルイオスは今まで損得だけ考えてきた。それなのにこの少年は自分を助けたのだ。損得も考えず理由もなく自分を。
「ほい」
「は?」
ルイオスが困惑していると信之助は立ち上がれないルイオスに向けて、手を差し伸べる。
「早くいかないとまた蛇が来ちゃうゾ」
「だ、誰が名無し風情なんかに…」
ルイオスに残ったちっぽけなプライド。それがルイオスを躊躇わせた。だが信之助は…
「もう、お兄さんまだそんなこと言ってるの? 名無しがどうとか今は関係ない。助けてもらったらありがとう。幼稚園児でも出来るゾ。お兄さんは大人でしょ」
「!? …っくそ!」
ルイオスは舌打ちをすると信之助の手を掴む。
「よし! 行くゾ」
信之助はルイオスを引き上げ、一緒にジン達の元へ走る。その間にも蛇は襲ってきたが全て信之助が刀で返り討ちにした。
「ふう。やっとついた」
「信之助さん無事ですか! それに……」
「ルイオスさん…」
ジンと黒ウサギは曇天丸の結界に入り込んだ信之助達の元へ駆けていったがルイオスを見て複雑そうな顔をする。
二人は人を見捨てる程非情ではないが、ルイオスのせいでレティシアや仲間がひどい目にあったのだ。複雑に思うのも仕方がないと言えた。
「ほい。そこまで」
「し、信之助さん」
信之助が待ったをかける。
「いろいろ言いたいことはあると思うけど、今は後。まずはあれをどうにかしないと」
信之助は、現在十六夜と戦っているアルゴールを見る。
「そ、そうです。ルイオスさんが負けを認めれば」
このギフトゲームをペルセウスのゲームマスター、つまりルイオスを倒すか負けを宣言させればいいのだ。
「それじゃあ根本的な解決にならないゾ」
そう。アルゴールはルイオスのギフトであるが、ルイオスとは別物である。しかも現在のアルゴールは暴走していてルイオスでもコントロール出来ない。
白亜の宮殿はギフトゲームにより箱庭から切り離された世界になっていたのだ、アルゴールの力により変わってしまったがそれは今も同じなはずだ。
もし今、ルイオスが負けを認めればギフトゲームには勝利できる。だが、それにより箱庭の世界へ戻り、今のアルゴールが解放され被害が出るかもしれないのだ。
「つまり、アルゴールを倒さない限りゲームを終了することは出来ない。いえ、終了するわけにはいかないということですね」
「そういうこと」
ジンは信之助の考えを聞き納得する。ならばますますあのアルゴールを倒さなければならない。ジンが考えている…その瞬間。
「!? ジン君!」
「え? うわ!?」
ジンの後ろの床が砕け巨大な蛇が現れる。巨大な蛇は信之助を突き飛ばす。
「ぐっ!」
信之助は鞘に収まった曇天丸を前に構え蛇の攻撃を防いだため、無事だ。しかし…
「ジン君!」
巨大な蛇は標的を信之助からジンに変え口を開け襲いかかる。黒ウサギは審判であるため手を出せない。信之助とジンの距離は離れており間に合わない。だが…
「名無し風情に借りをつくるなんて死んでもごめんだ」
ルイオスがジンを乱暴に突き飛ばした。
「うわ!?」
ルイオスがジンを突き飛ばしたことにより先程までジンが居た場所にルイオスが立つ。それはつまり蛇が狙っていた場所に居るのはルイオスであるということだ。
ルイオスは信之助の方へ見て口を開く。
「─────」
そしてルイオスは蛇に飲み込まれた。
「お兄さん!」
ルイオスを飲み込んだ蛇は床の大穴に素早く引っ込むと、蛇が出てきた穴は消える。
「そんな…」
「ルイオスさん」
ジンと黒ウサギは青ざめ、信之助はアルゴールを見る。アルゴールは十六夜と戦いながら信之助達を見て笑っていた。
信之助には聞こえていた。ルイオスが蛇に飲み込まれる瞬間、信之助に向けて
<ありがとう>
そう言っていたのを。
「っ! アルゴール!!!」
信之助は怒号と共に刀を抜く。
なんかルイオスが改心したみたいになっちゃった。
どうしよう……