十七話ですよ。
「それじゃあ、道案内よろしくね。ナナちゃん!」
「…ナナちゃん?」
「うん。ナナリーだからナナちゃん」
「はあ…」
北側で出会った少女 ナナリーと共に信之助は街を見て回る事となった。
「どうしたの? さっきから元気がないゾ」
「いえ、大丈夫です…」
ナナリーは大丈夫だと言うが明らかに元気がない。
「それで野原さんはどこに行きたいのですか?」
「もう。しんちゃんって呼んで良いんだゾ?」
「えっと、恥ずかしいので、その…」
ナナリーは信之助から目をそらす。さすがに初対面の信之助の事を愛称で呼ぶのは恥ずかしいようだ。
信之助はうーんと少し悩んでから…
「まあ、本人の自由だしね。それじゃ、友達にお土産買って行きたいんだけどオススメのお店とかある? 後、この街の名物とか」
「お土産ですか…」
ナナリーは少し考え、前の方を指で差した。
「この先を少し行くと小さいお店があります。そこはとても貴重で珍しいものがよく売っていますよ。行きますか?」
「ほうほう。それじゃ行きますか」
「分かりました」
信之助はナナリーに案内されながら街の中を歩く。
◇◇◇
「おお! これは…」
「驚きましたか?」
信之助は感嘆の声を上げる。
そこには信之助でも見たことがないものが沢山あった。
「いろんなものがありますな~」
「このお店、掘り出し物があったりするんですよ?」
その分、とても高いですがとナナリーは付け加える。
信之助は店内を見て回る。妖皇の着物、七色言霊石の髪飾り、魔導王の杖、携帯獣の玉、飴刀ぶりぶり丸と様々なものがあった。中には何故か見覚えがあるものもあったが。
「お! これなんかひまが喜びそうだゾ」
「どれですか?」
ナナリーが覗き込むと信之助は宝石のペンダントを手に取っていた。それはその場の環境や状況によって様々な色に変化するという美しい宝石がはめ込まれたペンダントだった。
「これは…綺麗ですね。確かにこれなら喜んでくれますよ」
「…………」
「どうしました?」
「ん? いや、ひま元気かなって」
信之助が静かなのを不思議に思い、聞いた。
信之助は箱庭に来てから一ヶ月近く経った。ナナリーを見ているとついつい向日葵の事を思い出してしまう。
「他にどんなのがあるのかなー。ん?」
信之助は店内を見回すと気になるものを見つけた。それは一つの人形だった。
「雪だるま?」
それは雪だるまの人形。ただ、物凄く見覚えがあるのだ。品名ス・ノーマン・パー
「野原さん!」
「ん?」
突如、ナナリーから声がかかる。
「他にいろんなお店があるのですけど、行ってみませんか?」
「おー! 行く行くー!」
その店でいくつか買い(ついでに人形も)信之助はナナリーと共に店を出た。
◇◇◇
「いやー、沢山買いましたな~」
ナナリーの案内でお土産を十分に買うことが出来た信之助はレストランで昼食を取っていた。
「でも、相当時間がかかりましたけどね」
ナナリーが信之助をジロリと見る。
実は他の店に行く途中、信之助が女性をナンパしたり、挙げ句美人の店員などもナンパしていたので予想以上に時間がかかったのだ。
「でも本当にいいんですか?」
「大丈夫大丈夫。ここはオラの奢りだって」
ナナリーの案内のお陰でノーネームの皆へのお土産が買えたのだ。傷の手当てのお礼にはとてもじゃないが釣り合わないと信之助が食事を奢ることにしたのだ。
「こんな贅沢はコミュニティに居るときは出来ないしね~」
ノーネームは裕福とは言えないむしろ貧乏である。信之助達四人のお陰で大分マシにはなってきたがそれでも贅沢出来るほどの余裕はない。
「そういえば、ナナちゃんはどうしてこの街に来たの?」
「え? 私ですか?」
「オラはお祭りがあるから来たんだけど、ナナちゃんは一年前から住んでるんだよね?」
信之助に質問され、困ったような顔をする。少し悩んだあとナナリーは重い口を開いた。
「私は…母様の…母の最期の願いを叶えるために来たんです」
「お母さんの願い?」
「はい…」
ナナリーは頷く。ナナリーはとても悲しそうだった。それを見て、信之助はなんとなく事情を察する。
「そっか。ナナちゃんはお母さんが大好きなんだね」
「え?」
ナナリーは目を見開く。
「だってそうでしょ? この街に来てまでお母さんの願いを叶えたいなんて大好きじゃないと出来ないゾ」
「野原さん…ありがとうございます」
ナナリーは思わずクスリと笑ってしまった。
「お。ナナちゃんやっと笑った!」
「笑った?」
ナナリーは理解できていないようできょとんとした顔をする。
「ナナちゃん、ずっと暗い顔をしてたゾ。良かった良かった」
「私が…笑った?」
その時だった。
ドガァンと巨大な何かが激突したような音が響き渡る。
「な、何ですか!?」
「あ。あれじゃない?」
「え?」
信之助は窓を指した。そこから見えるのは
「うそ…」
巨大な時計塔の頭角が砕けた光景だった。
「多分十六夜君だゾ。あれ」
「十六夜?」
「うん。オラの友達」
信之助の頭には軽薄に笑う友人の姿が浮かんでいた。
「全く、人の迷惑を考えて欲しいですな」
「野原さん…」
ナナリーは信之助を冷めた目で見る。信之助をよく知るもの、いや少しでも関わったことがあるものなら誰もが言うだろう。お前が言うな、と。
それからも他愛もない世間話が続く。
◇◇◇
「色々とありがとね~」
「いえ、私も楽しかったです」
食事を終え、店の外に出た信之助はナナリーと別れることとなった。
「すみません。私の事情で最後まで案内できなくて」
ナナリーはこの後、人との約束があるとのことで申し訳なさそうだった。
「気にしなくていいのに。あ、そうだ」
信之助は何か思い付いたようにポケットを探る。
「ほい、これあげる」
「え!? これって…」
信之助が取り出したのは最初の店で買ったペンダントだった。
「でもこれ妹さんに…」
「いいのいいの」
信之助は笑ってナナリーにペンダントと渡す。
「ナナちゃんにはお世話になったしね~。それに友達にプレゼントするぐらい普通だゾ」
「友達? 私がですか?」
「うん」
信之助は当然とでも言うかのように頷く。
ナナリーは渡されたペンダントに触れる。
「友達…ですか…」
ナナリーは小さく呟く。信之助はナナリーに向けて手を振る。
「それじゃ、またね。ナナちゃん」
「はい」
信之助は去っていった。一人残されたナナリーは
「
そう言ってその場を後にするのだった。
◇◇◇
人混みの中をその少女は歩く。
「わたしはなーに♪ あなたはなーに♪
人混みの中、少女は唄う。
「わたしのすべてはきえてしまった♪ わたしはわかれてさっていく♪ こどくをかかえ♪ せんねんすごす♪」
その少女は黒い髪に黒いワンピース。年齢は十はいかないだろう。
「すべてのくろがわたしにむいた♪ そめあげようとおいかける♪ きょうふをだいて♪ ひゃくねんすごす♪」
その少女の放つ雰囲気はあまりにも異質すぎた。少女の周囲の空間すらも歪めてしまう。
「そしてわたしはあなたをみつけた♪ あなたならすくってくれる♪ きぼうをひめて♪ じゅうねんすごす♪」
しかし、誰一人その少女には気付かない。まるでそこに存在しないかのように。
「わたしのねがいはじゃまされた♪ だけどわたしはあきらめない♪ けついをかため♪ いちねんすごす♪」
いつの間にか人気が無くなっていた。それでも少女は唄い続ける。たった一人で、唄い続ける。
「これはわたしのためのものがたり♪ わたしがまおう♪ あなたがゆうしゃ♪ ねがいがかなうそのひまで♪」
「それは“貴女の唄”ですか?」
突如、少女に声がかかる。同時に少女は歩みを止める。
「やあ。やっと来たね、ナナちゃん♪」
少女に声をかけたのは暗めの銀髪でポニーテールの少女 ナナリーだった。少女はナナリーに微笑みかける。
「しんちゃんはどうだった?」
少女は知っている。彼女が信之助と会っていたのを。
「全てお見通し。ということですか?」
ナナリーは少女を睨み、本気の殺気をぶつける。混血とはいえ、限りなく純血に近い
「全てじゃないよ。知ってることだけ」
少女はあっけらかんと答える。凄まじい殺気をぶつけられても少女は余裕を崩さない。
「野原 信之助には何も感じていません」
ナナリーは冷徹な声で言う。少女はクスリと笑う。
「もしかして、揺れてる?」
ナナリーがほんの少し、本当に少しだけ体が震える。少女はそれを見逃さない。
「しんちゃんはカッコいいしな~。好きになっちゃった?」
「違います…」
ナナリーは俯いて、その表情は見えない。少女はクスクスと笑う。
「プレゼントも大切に持ってるみたいだし。笑えたんでしょ? 一年ぶりに」
「違います!!」
ナナリーは声を荒げて否定する。
「母の願いを叶える。それだけが私の生きる理由」
ナナリーは言う。しかし、それは自分に言い聞かせるようだった。
「貴女は黙って見てなさい!」
ナナリーは少女を睨む。そして口にする。
「タブラ・ラサ!」
少女の名を。
疲れました連日投稿。