二十一話です。
(箸なんかでシュトロムを破壊するなんて!?)
少女は目の前の光景に自身の目を疑った。
突如仲間を救いに現れた少年はシュトロムをいとも簡単に破壊した。
天災に関連する悪魔であり、その恩恵を授かった巨兵シュトロム。その体は陶器で出来ているが悪魔だけあってその強度は本来の陶器とは一線を画している。だがこの男はそのシュトロムを脆弱な箸で破壊したのだ。
(武器を強化するギフト? いや、そんなことはどうでもいい…)
少女を驚愕させたのはシュトロムを箸で破壊したことだけではない。
(動きがまったく見えなかった…)
そう。油断していたとはいえ少女には見えなかった。信之助の動きが。
シュトロムが攻撃したかに見えたが少年には当たらずに次の瞬間にはシュトロムがバラバラに切り裂かれた。いつ避けたのかもいつ攻撃したのかも見えなかった。
武術の達人は相手に動作1つ悟らせないというが、この少年はそれを平然とやってのけたのだ。
(この男、段違いに…強い!!)
少女は少年と睨み合う。
「それはそうと。お嬢ちゃん」
先に口を開いたのは信之助。信之助は身構えてる少女を箸で差しながら指摘するように言った。
「さっきからパンツ見えてるんだけど」
「えっ!?」
少女はとっさにスカートを押さえる。確かな隙。信之助はそれを見逃さない。
「レティシア、今のうちに!」
「あ、ああ。分かった!」
「あっ!」
信之助を冷ややかな目で見ていたレティシアに向けて行くように促す。
少女が気付いた時にはもう遅かった。レティシアには既に追い付けない。
「くっ…まさか、
この男は中々に知恵が回るのかも知れない。少女はさらに警戒心を高める。
「水玉模様の事?」
「は?」
信之助が言った事を少女は一瞬理解できなかった。何を言っているんだとそう思った時、少女は気付いた。その言葉の意味を。
「な、ななな…」
気付いた少女は耳まで赤く染め、プルプルと体を振るわせる。
「死ねえええええええ!!!」
「うお!?」
怒りと羞恥が頂点まで到達した少女は黒い風のようなものを信之助へと放つ。少女の突然の攻撃に信之助は慌ててギフトカードから曇天丸を取り出した。
「ここで死ね! 今すぐ死ね! 早く死ねえええええ!!」
「おっとっと!? もう、女の子が死ねなんて言っちゃいけないでしょうが」
「うるさーい!」
信之助は次々と罵声を浴びせてくる少女の黒い風を刀で斬り払う。
その時の少女は少し、涙目だった。
「っ!?」
突如、紅き業火が少女に襲い掛かる。少女はその荒ぶる業火を黒き風で受け止めた。
「助太刀します。信之助さん」
「サンドラちゃん」
「“火龍”サンドラ(まずいわね…)」
少女に攻撃したのはサラマンドラのリーダー・サンドラだった。援軍に少女は焦る。それはサンドラが強大な力を持っているからではない。
少女にはサンドラとレティシアを一度に相手取っても勝てる自信があった。予想外だったのは信之助の強さ。少女は
(今の私じゃ、1人では無理ね)
信之助が相手では少女1人では勝てるかどうか分からないのに、そこにサンドラも加わったのだ。1人では勝ち目はない。そう。1人だけならば…
「2対1は…少し卑怯ですよ?」
信之助の後ろから声が聞こえた。
「…野原さん」
「っ!?」
信之助はいきなり仕掛けられた背後からの攻撃を防ぐ。ガキン!と高い音が響くと共に信之助は前に跳び、その者と向き直る。そこには…
「ナ、ナナちゃん!?」
「また…会いましたね。野原さん」
信之助を攻撃した正体は昨日知り合ったばかりの少女、ナナリーだった。
「遅いよ、ナナリー」
「すみません。遅くなりました」
少女は自身やサンドラとそう変わらない年齢であろう、 ナナリーを見て微笑を浮かべる。
「ナナちゃん。どうして…」
信之助はナナリーに問う。信之助の知るナナリーは真面目で優しい少女だった。そのナナリーが何故魔王の仲間をしているのか。
「野原さん。前に言いましたよね? 母の願いを叶えるためと」
ナナリーは剣身まで純白の剣をゆっくりと信之助に向ける。
「改めて名乗りましょう…」
ナナリーは信之助を見据えて、冷たい声で言う。
「私の名はナナリー・コツバーン。吸骨鬼最後の生き残り」
信之助はその事実に目を見開き、驚愕した。ナナリーは信之助に向けて…
「野原信之助。一族の仇、討たせてもらいます!」
殺気を放つ。それと同時に雷鳴が轟いた。
「審判権限の発動が受理されました! これよりギフトゲームは一時中断し、審議決議を執り行います! プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!」
◇◇◇
途中、信之助は十六夜を見つけ、共に大祭運営本陣営の大広間へとやってきた。
信之助と十六夜の姿を見つけた黒ウサギ達は二人の元へ駆け寄ってきた。
「十六夜さん、信之助さん、ご無事でしたか!?」
「心配したんだぞ!」
「オラ達は大丈夫。黒ウサギも無事みたいだね」
「他のメンツは?」
十六夜に問われ、ジンは悔しそうに答えた。
「残念ながら、十六夜さんに黒ウサギ、そして信之助さん以外は皆さん満身創痍です。飛鳥さんに至っては姿も確認できず…」
「すまない、信之助。お前に任されておきながら守れなかった…」
聞けば、飛鳥は耀とジンを庇って敵の足止めをし、レティシアが来た時には既に姿が見えなかったらしい。落ち込む二人を頭に優しく手を置いた。
「ジンくんやレティシアが悪い訳じゃ無いでしょ?」
「し、しかし…」
「大丈夫。絶対助けるから」
信之助は二人を安心させるように微笑む。
◇◇◇
「お姉さん、オラに愛の一曲をお願いします」
「は?」
「「「ハァ…」」」
魔王との審議決議に参加した信之助は出会い頭に白髪の美女ラッテンをナンパした。いきなりナンパされたラッテンは呆然とし、同じく審議決議に参加しているジンに黒ウサギ、そして十六夜までもが溜め息をつく。
「信之助さん、時と場所を選んでください!」
「少しは空気読めよ…」
「あ、あの信之助さん!?」
「誰だ。このバカを連れてきたのは」
「すみません。本当にすみません」
黒ウサギは怒り、十六夜は呆れ、サンドラは困惑し、マンドラは苛立ちげに、ジンは必死に謝る。
「何がどうなってんだ?」
「さあ?」
「大変そうね…」
「…………」
目の前の混沌とした状況に黒い軍服の男ヴェーザーと白髪の美女ラッテンは混乱し、斑模様のワンピースの少女は憐れみに満ちた目で見ており、ナナリーに至っては無表情だ。
「オホン。それでは審議決議及び交渉を始めます」
黒ウサギはこのままではらちが明かないので、仕切り直すことにした。
黒ウサギが不正がないか確認したが、不正は無く。ギフトゲームはホスト側が有利に再開させることとなってしまい。再開が1ヶ月後となった時、ジンと十六夜が止めた。
「主催者に問います。貴女の仲間は
十六夜、ジンを除いた全員が驚愕した。ペスト達は見破られた事に、黒ウサギやマンドラ達は少女がペストである事に。
ペストとは黒死病とも言われ、人類史上最悪の疫病である。
「ええ。正解よ」
魔王ペストは面白そうに微笑を浮かべる。
「これで魔王様はわかったが、そいつだけが分からねえ。何者だ?」
十六夜は興味深そうにナナリーを見る。
「ああ、彼女? 彼女はナナリー・コツバーン。昨日加わったばかりよ」
「初めまして私の名はナナリー・コツバーン。
「吸骨鬼?」
十六夜は吸骨鬼という種族に聞き覚えがなかった。
「黒ウサギ、吸骨鬼ってなんだ?」
「え? あ!? すみません。黒ウサギも吸骨鬼という種族に聞き覚えはありません…」
十六夜は黒ウサギに聞くが黒ウサギも吸骨鬼という種族には聞き覚えがなかった。黒ウサギだけではない。ジン、サンドラ、マンドラも吸骨鬼という種族に聞き覚えはなく、首を傾げている。
「吸骨鬼についてなら彼が知ってるんじゃない? そのために来たんでしょ。野原 信之助」
「えっ!?」
ジンが驚き、信之助に全員の視線が集中する。
「野原。お前、知ってるのか?」
「うん、まあね。11年前になるかな」
信之助は話し出す。かつてあった戦いを。
信之助の世界にはかつて吸骨鬼と呼ばれる種族がいた。
「そして、11年前にボーンキングが復活した」
偶然巻き込まれた信之助達一家は吸骨鬼を研究していた研究者と女性の剣士と共に吸骨鬼達と戦った。
「オラ達はボーンバンパイアキングを倒して平和を取り戻したんだ」
吸骨鬼の王を倒した後、共に戦った研究者と剣士は世界中に散らばった吸骨鬼達を倒す旅に出た。
「その中にナタリー・コツバーンっていうボーンキングの愛人がいたんだよね。ナナちゃん。もしかしてナナちゃんの母親って」
「はい。貴方の想像通り、私の母はナタリー・コツバーンです。父・ボーンキングの子である私を身籠った母は人里離れた場所に隠れ、私を出産しました」
ナナリーは続きを話し出す。
「………その母も一年前に亡くなりました。だからこそ、最後の生き残りである私には義務がある。父と母の代わりに一族を復興させ、倒れた吸骨鬼達の仇を取る義務が。それを果たす力をつける為に私は箱庭に来たのです」
ナナリーは話す。箱庭に来た目的を。信之助はナナリーにとって、仇の1人だったのだ。
その時、信之助はナナリーの話に違和感を感じていた。
信之助が感じた違和感とは。次回は明日か明後日。多分