嵐を呼ぶ問題児が異世界から来るそうですよ   作:塗る壁

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どうも塗る壁です。

二十三話です。


オラVSハーメルンだゾ

 交渉を終えたペスト達は無人となった展示場にいた。

 

「なあ、マスター。なんであんな条件を付けたんだ?」

 

「そうそう。刀や剣の使用を禁止するなんて」

 

 ヴェーザーとラッテンは疑問に思っていた。何故日数を減らしてまで刀剣を禁止したのかと。

 ヴェーザーとラッテンが疑問に思うのも当然である。二人が知る限り、相手の主力の中で刀剣を使うものはいない。にも関わらず自分達のマスターであるペストは刀剣を禁止した。ペストは少しの沈黙の後、口を開く。

 

「……野原信之助の力を削ぐためよ。あの場にいたでしょ? ろくに空気を読まず、ラッテンをナンパしたり交渉中寝てたりしてたヤツが。あいつが野原信之助よ」

 

「野原信之助? それって“あの少女”やナナリーが言ってたヤツ? あの子がそうなの?」

 

「確か一番注意するべきとか言ってたな」

 

 ヴェーザーとラッテンはあの場にいた短髪で眉毛が太い少年の事を思い浮かべると同時にあの少女、タブラ・ラサが言っていた事を思い出していた。あの少女は言っていた。野原信之助には気を付けろと。

 

「ええ、私も半信半疑だったんだけど…一度戦って確信したわ。あいつが一番危険だってね」

 

 ペストの真剣な表情と声に二人は息を呑む。二人はここまで警戒しているペストを見たことがなかった。

 

「マスターがそこまで言うなんて…」

 

「つまり、あの条件を出したのもそいつが刀や剣を使うからか。ナナリー、お前はどう思う…どうした、ナナリー?」

 

 ヴェーザーはナナリーに意見を求めたが、ナナリーはある場所を見て、少し驚いたような表情を浮かべていた。

 

「いえ。あの、ここにあったはずの鉄の人形が消えているんです」

 

「何っ!?」

 

 ヴェーザーも鉄の人形が置いてあった筈の場所を見る。そこにはあった筈の人形がなかった。それと同時にラッテンが叫ぶ。

 

「ヴェーザー、あの紅いドレスの子も居ないわ!?」

 

 ラッテンに捕らえられた飛鳥も姿を消していた。二人が慌てている。そんな時だった。

 

「えー! 飛鳥ちゃん居ないの?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 声が聞こえた。本来なら絶対に聞こえるはずが無い声が。

 

「こいつ、いつの間に!?」

 

「どうしてここに!?」

 

「野原…信之助…」

 

「……………」

 

 ヴェーザーとラッテンは驚愕し、ペストとナナリーは信之助を睨み、警戒心を最大限に高める。

 

「どうして貴方はここにいるのですか?」

 

 ナナリーが聞く。信之助が自分達に気配を全く悟らせなかった事に驚きはしない。問題はその目的だ。

 

「ん? どうしてって、飛鳥ちゃんを助けに来たんだけど? ここには居ないみたいだけどね」

 

 四人全員に殺気をぶつけられる中、信之助は能天気に答える。余裕な態度を崩さない信之助に向けてナナリーは告げる。

 

「まさか、そのまま無事に帰れると思ってる訳ではありませんよね?」

 

 気付けば、信之助は囲まれていた。

 

「悪いが坊主。場所を知られたからには帰す訳にはいかないんでね」

 

「暫く大人しくしてもらうわよ」

 

 先に動いたのはヴェーザーだった。棍のような巨大な笛を信之助に向けて振り落とす。その時、ヴェーザーは殺さないように加減をしていた。しかし、信之助に対してそれは失策だ。

 

「ほいっと」

 

 信之助は振り落とされた笛を受け流し、床に叩き付ける。叩き付けられた床には亀裂が広範囲に広がる。

 

「ちっ!? おらぁ!!」

 

 流された事に驚いたヴェーザーだが、それは一瞬のみ。すぐに叩き付けられた笛を、今度は全力で信之助に向けて振り上げた。笛は空気を裂く音と共に信之助に襲い掛かる。

 

「もう、しつこい!」

 

「なっ!?」

 

 信之助はヴェーザーが振り上げた笛を、そのまま蹴り上げる。笛の勢いに信之助の力も合わさった事で笛を持ったヴェーザーの腕が引っ張られ、思わず後退する。

 

「ラッテン!」

 

「分かってる!」

 

 ヴェーザーに促され、信之助を操ろうと魔笛を奏でる。美しい旋律が空間を満たす。

 

「おー! お姉さん、上手~。アンコール! アンコール!」

 

「こいつ、魔笛が効いてない!?」

 

 信之助に魔笛は効かず、それどころか呑気に拍手までしている。

 

「そう…そんなにもう一曲お聞きしたいなら、これはどうかしら?」

 

 ラッテンは再び魔笛を奏でる。信之助を操れないなら、別のものを操ればいい。

 

「ネズミ?」

 

 ラッテンが操ったのはネズミ。数百や数千ではきかない大量のネズミが信之助を取り囲む。今にも襲い掛かっても可笑しくはない。それを見た信之助は片足を上げると──

 

「よっ!!」

 

 床を思いっきり踏みつける。轟音に空間が震え、衝撃が床を伝う。

 

「うそ!?」

 

 信之助が放った衝撃により殆どのネズミが気絶し、残ったネズミ達も正気に戻り逃げていく。

 

「はっ!」

 

 自身に背を向ける信之助に向けてナナリーが体勢を低くし、横一文字に斬りかかる。

 

「遅いよ、ナナちゃん」

 

「っ!?」

 

 信之助に斬りかかったナナリーだが、突如視界が反転する。

 

(投げられた!?)

 

 合気か柔術か。信之助は相手が気付かないほどさりげなく、ナナリーの勢いを利用し投げ飛ばしたのだ。

 

「くっ」

 

 何とか着地したナナリーだったが、平衡感覚を狂わされまともに立つことができない。

 

「ナナちゃん…ん?」

 

 信之助は足が動かないことに気付く。見れば、信之助の足は石のようなものに捕まっていた。

 

「これって…」

 

 動けずに自分の足を見ている信之助に向けて、ヴェーザーが再び笛を振るう。

 

「まーいっか」

 

「なに!?」

 

 信之助を捕らえていた石は、足を少し動かしただけで容易く砕ける。信之助はヴェーザーの笛を避け、襟をつかむと──

 

「ほい」

 

 そのままヴェーザーを、隙をうかがっていたラッテンに向けて投げ飛ばす。

 

「ぐぅ!」

 

「きゃあああああ!?」

 

 ラッテンはヴェーザーと共に壁に激突した。ふうっと一息ついていた信之助に向けて黒い風が襲い掛かる。

 

「うお!?」

 

「よく避けたね(こいつ。武器も使わずに!?)」

 

 ペストは内心驚愕していた。武器を封じれば信之助の力もある程度は削れると思っていたのだ。しかし、その結果は三人を素手で圧倒するという馬鹿げたものだった。

 

 ペストは勘違いをしていたのだ。ペストだけではないノーネームの面々も。

 確かに信之助の剣技はずば抜けている。事実、剣を使っている方が強いのは確かだろう。だが、ノーネームの面々も知らないが、信之助が剣をまともに使うようになったのは箱庭に来てからである。剣道をやめて以降、剣を使うのはたまにしかなかった。つまり──

 

「もう。いきなり攻撃するなんてひどいゾ」

 

 信之助は剣よりも素手の方が得意である。ペストは戦慄する。何故ならこの男の強さは底は知れない、そう感じ取ってしまったから。そんな時だった。

 

「負ける訳には…いかないんです」

 

「ナナちゃん…」

 

 回復したナナリーは立ち上がりながら言う。

 

「母の願いを叶える。これは…私の…」

 

 信之助はナナリーを見る。ナナリーからは強い決意と様々な感情が感じられる。それでも…

 

「ナナちゃんには悪いけど、オラにも譲れないものがあるからね」

 

 信之助には助けたい人がいる。守りたい人がいる。救いたい人がいる。だから、信之助も負ける訳にはいかないのだ。

 

「だから今度こそ“本気”でね、ナナちゃん。オラも本気で行くから」

 

「望む…所です」

 

 二人は向かい合う。互いに譲れないものをかけて。

 

「じゃあ、またね」

 

「…はい」

 

 信之助は去っていった。今度は止めるものは居なかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「貴方は何をやってるんですか!!!」

 

「ごめんごめん」

 

 戻ってきた信之助は何処に居て何をやっていたのか説明し、怒り心頭の黒ウサギから説教を受けていた。

 

「ちゃんと反省しているのですか! 無事ですんだから良かったものの、もしもの事があったらどうするんですか!」

 

「落ち着けよ。お陰でお嬢様が脱出したことがわかったんだしな」

 

「これが落ち着けますか!今度こそ、信之助さんにはことの重大さを理解してもらいます!」

 

「はぁ…」

 

 黒ウサギが怒るのも無理はない。敵の本拠地に一人で乗り込むなど正気ではない。今回は無事で済んだが、下手をすれば殺されていたかもしれないのだ。怒る黒ウサギ、軽薄に笑う十六夜、疲れたようなジン。何時もの光景に信之助は苦笑いをしてしまう。

 

「何を笑っているのですか!」

 

 そのせいで数時間もの間、黒ウサギから説教をされるのだった。




信之助、最後の最後でしまらない。

この信之助は剣を使った方が強いですが、得意な方は素手という設定です。

もしかしたら書き直すかもしれませんがまた次回。
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