二十七話目です。
ギフトゲーム開始数時間前。
「お前が野原 信之助か?」
トカゲのような男が信之助に話し掛けてきた。
「おじさん、誰?」
「ああ、すまねえ。俺は“サラマンドラ”の者だ。あんたの事はマンドラ様やサンドラ様から聞いてるぜ」
“サラマンドラ”の者と聞いて、信之助は納得する。思えば彼処にはトカゲのような人が多かった。
「それでオラに何の用?」
問題はそれだ。信之助に話し掛けてきたという事は信之助に用があるはずだ。
「そうだったな。実はマンドラ様から伝言を頼まれてんだ。どうやら、マンドラ様はサンドラ様からあんたの事を聞かされたみてえでな。ここから近くにいくつか倉庫があってな。そこから好きなのを勝手に持っていって良いそうだ」
そう、サンドラから信之助の実力を聞かされたマンドラは戦力になると渋々ながら了承したのだ。
「ほうほう、それは太っ腹ですな。でもいいの?」
コミュニティにとって危険な事ではないのか。信之助はそんな疑問を抱く。
「それなら大丈夫だ。非常時だし、彼処には貴重なギフトなんか無いし、普通のヤツや掴まされた不良品ばっかだから好きに持っていって構わねえんだ。というより彼処はいらない物しか置いてねえ。倉庫と言うよりゴミ箱だなありゃ」
「えー…なんか欲しくなくなるんだけど…」
ゴミ箱という例えに信之助は口を尖らせる。
「まあ、そう言うなって。ちゃんと使えるヤツもあるから」
そしてこの後、信之助はあのフラフープと金ダライを手にいれる事となる。
◇◇◇
「くっ! (間に合わなかった)」
ナナリーが持つ黒い飴を確認した信之助はアルゴールの時を思い出し、止めようと駆け出したが復活した骨の兵達によって邪魔され止める事が出来なかった。
ス・ノーマン・パーは極寒の風を放出し続けているが、先程の炎の影響で周囲に熱が残っており、全ての骨の兵達を凍らす事が出来なかったのだ。そして…
「アァ…」
その呻きと共に、最初の変化が始まった。
ナナリーを中心に黒煙を乗せた風が渦巻き、包み込む。
「ナナちゃん!」
信之助はナナリーに呼び掛けるが返事はない。
黒煙の風は勢いを増し、天にまで届かんとする竜巻へと変わる。それは信之助ですら容易には近付けない程である。それでも信之助はナナリーを助けようと足を進める。その時だ。
「え?」
先程まで、凄まじい風を撒き散らしていた竜巻が嘘のように霧散した。そして、その場に居たのは。
「ナナ…ちゃん?」
大人になったナナリーだった。身長は信之助とほぼ同じにまで成長し、その顔立ちは幼さは鳴りを潜め、妖艶な美しい大人の女性へと変わっている。その美貌はかなり堅物な男性すらも魅了するだろう。今のナナリーが放つ雰囲気が
「クス…」
ナナリーが微笑を浮かべた瞬間、ゾッと寒気が走る。それは、信之助が箱庭に来てから初めて感じた…恐怖だった。
◇◇◇
「良かった、成功して♪」
少女はその
「アルゴールの時はア法と相性が悪くて中途半端な力しか出せなかったけど…」
そう、少女がナナリーに言った食べた者によって得られる能力が違うという話は…
「この分なら大丈夫だね♪」
真っ赤な嘘。
「うんうん。やっぱり、ナナちゃんを“隠”の依り代に選んで正解だよ♪」
ある日、少女は思った。“鬼”の語源は得体の知れないモノを意味する“隠”だと言う。ならば、かつて隠と呼ばれていた頃の鬼が存在したのではないか。“この世界”なら存在するのではないか。そう思い、長年探し続けた。結果、遂に見付け出したのだ。
それから暫くしてだった、ナナリーを見付けたのは。一目見て欲しくなった。少女はあの日の事を思い出す。
◇◇◇
「こんにちは、ナタリーさん」
「だ、誰よ、あんた!?」
少女はナナリーが家を飛び出したのを見計らって、ナタリーに挨拶した。突如現れた異質な雰囲気を纏う少女にナタリーは驚愕する。
「単刀直入に言うね。ナナちゃんをちょうだい♪」
「は?」
ナタリーは一瞬意味が分からなかったが、すぐにその意味を理解し、怒りを露にする。
「ナナちゃん、欲しいんだよね。才能もあって、性格も良し。何より可愛いし♪」
ナタリーの返事は決まっている。娘を渡すなど、絶対に出来ない。
「お前なんかに娘を「じゃあ、いいや」がっ!? があああああ!!」
少女の細い腕がナタリーの胸を貫いた。何故か血は一滴も流れず、激痛だけがナタリーを襲う。その激痛にナタリーは絶叫する。
「
少女はナタリーの胸を貫いている腕を捻る。今の激痛を越える痛みがナタリーを襲う。
「があああああ!! …ぐっ…ハハ」
激痛が襲う中…ナタリーは笑った。
「何で笑えるの? 吸骨鬼でも気絶どころかショック死しても可笑しくないのに。それとも痛みで可笑しくなっちゃった?」
少女は不思議に思った。今、ナタリーを襲っているのはそれほどまでの激痛だ。なのに何故笑えるのか。
「ハハ…
「え?」
「私の…娘に…手を出すな!!!」
「へえ?」
少女は感心したように笑う。少女は、ナナリーを除けば吸骨鬼の事を
「母は強し、ってヤツ? 好きだよ…そういうの」
「グッ!?」
少女は胸を貫いている腕を引き抜くと、ナタリーを突き飛ばす。
「ナ…ナリー…」
「それに免じて、ちょっとだけ命を残してあげる。運が良ければお別れくらいは言えるかもね」
気を失ったナタリーに向けて、そう言い残す。少女は気絶したナタリーに背を向け、家を出た。
「あ、そうだ」
家を出ると同時に何かを思い付いて、手をポンと叩く。
「他の吸骨鬼も殺そ♪ ナナちゃんは吸骨鬼の姫にして、最後の生き残り。うん、良い設定♪」
◇◇◇
吸骨鬼を皆殺しにした後にナナリーを勧誘し、箱庭に連れてきた。
「私が目論んだ通り、
ナナリーが飲んだ飴は
「アハハ、これは私の為の物語、他の誰のものでもない私の物語! 動き出した歯車はもう止まらない、止めさせない! アハハハハハハハハハハ!!」
圧倒的な狂喜に満ちたその笑い声に気付く者も感じ取る者も居ない。そして、その声とは対称的にその少女の表情は…今にも泣き出しそうであった。
◇◇◇
「ナナちゃん…」
信之助は豹変してしまったナナリーを見て気付く。今のナナリーはペストよりも危険であると。
「ナナちゃんには誰にも傷付けさせないよ」
だからこそ、止めなければならない。友人や仲間の為に、何よりもナナリー自身の為に。信之助は金ダライをギフトカードに戻し、フラフープを取り出す。
「おいで…ナナちゃん」
信之助はフラフープを回転させて構える。チェーンソーの高い音が周囲に響き渡る。そんな信之助を見て、ナナリーは笑う。
「遊んで…くれるの? …それ…じゃあ…」
そして…
「何…して…遊ぶ?」
「っ!?」
ナナリーが凄まじい速度で目の前に現れた。同時に信之助の直感が何かを感じ取る。
「ぬう!」
考えるよりも体が勝手に動いた。フラフープを巧みに使い、それを受け流す。攻撃された。それに気付いたのは攻撃された後だった。
信之助は距離を取る。
「鬼ごっこ…隠れ鬼…高鬼…色鬼…氷鬼。私が…鬼で…お兄さんは…人…」
ナナリーは大人の風貌とは不釣り合いな子供のような口調で喋る。ナナリーは一度、周りを見渡す。
「鬼は…私だけ? …人は…沢山…なら」
恐らく、他の場所に居る人の気配を感じ取ったのだろう。ナナリーは信之助を見て…
「
ユラリと笑う。ナナリーは再び信之助の目の前に現れた。再び信之助の直感が感じ取る。
「くっ! (スピードも…)」
信之助はその直感と技量を持って捌き、避け、受け流す。
(パワーも…)
信之助も、時折反撃するが避けられ、防がれる。この攻防で気付く。
(十六夜君よりも上だ!)
ナナリーのスピードもパワーも桁違いに上がっていた。それこそ、あの十六夜をも越えるほどに。高速の攻防が続き、余波で周囲の物が吹き飛んでいく。
「信之助!? ちくしょう!」
骨の兵達を再び凍らせたス・ノーマン・パーが信之助の加勢に来たが、二人の戦いの余波で近付けず、身を守るので背一杯だ。
「うおおおおお!!」
ス・ノーマン・パーが近付けないでいると、それは起こった。
信之助がフラフープを使い、ナナリーを吹き飛ばした。
「あれ? …なんで?」
ナナリーは吹き飛ばされた事が理解できず困惑する。信之助が行った事は単純だ。単純に、
「ふぅ…」
信之助は息を吐く。
戦いにおいて防御と攻撃の使い分けは重要だ。例えば十六夜は攻撃か防御かで言えば、攻撃重視の戦い方だろう。信之助が行った事、それは箱庭に来てから使っていた
それはつまり、信之助は防御を重視した戦い方で箱庭の強者と互角以上に渡りあってきたと言うことだ。現に…
「それじゃあ、第2ラウンドだゾ。ナナちゃん」
信之助は箱庭に来てから今まで、一度たりとも傷を負っていないのだから。
次回、ナナリーと決着!信之助はナナリーを救う事は出来るのか!