関係ありませんけど、勇者のパーティーって大体決まってますよね?戦士、魔術師、僧侶で五人の時は盗賊が入る。自分のイメージ的にはこんな感じですかね。
戦士→近接戦闘においてパーティー随一の近接型
魔術師→攻撃魔法などの火力で敵を攻める魔法型
僧侶→回復や強化などパーティーを支える支援型
盗賊→他にはない特殊な技能が使用できる特殊型
勇者→近接、魔法、支援、特殊技能を持つ万能型
まあ、世間話はこれくらいにして二十八話です。
“隠”を取り込んだナナリーと信之助が戦う少し前。二人がいる場所から離れた場所で十六夜はヴェーザーを相手取っていた。
「随分と余裕だな? お前」
戦いの最中、ヴェーザーが聞いてきた。
「何だよ? いきなり」
ヴェーザーの聞いてきたその事を理解できない。十六夜には余裕がある訳ではない。事実、ヴェーザーと十六夜は互角の攻防を繰り返していた。
「いや、さっき出てきた何かは俺からしてもやべえ化け物だ。それなのにお前には焦った様子がねえからな」
そう言って、ヴェーザーは苦笑する。ここまで離れた場所でも感じ取れるそれは、神格を得た悪魔であるヴェーザーですら恐怖を感じる程であった。
「あっちの方には確か野原がいるはずだからな。アイツがどうにかすんだろ。出来れば俺が戦いたかったんだがな。今はお前だ、ヴェーザー」
十六夜はそう言い返す。
「野原信之助か。確かにアイツは強いがそれでもアレには「ハッ」あ?」
十六夜は鼻で笑う。ヴェーザーはそんな十六夜の態度に苛立ったように低い声が出る。
「いや、悪いな。お前は野原と一度戦ったくせに全く分かってねえみたいだからよ」
十六夜は知っている。信之助の強さを。1ヶ月前、二人が戦った際に山一つが吹き飛んだ。十六夜の拳で、信之助の刀で、二人の戦いの余波で。だが、それは間違いではないが正確ではない。正確には山の大部分を吹き飛ばしたのは十六夜ではない。
「アイツは、俺が認めた男だぞ?」
十六夜が思い浮かべるのは、能天気に、だが何処か不敵さを感じさせる笑みを浮かべた一人の少年であった。
◇◇◇
「第2ラウンドだゾ。ナナちゃん」
信之助はナナリーに向けて、そう言った。
「行くゾ! ナナちゃん!」
信之助は、その日初めて
「アアァァァァァ!!!」
ナナリーも咆哮し、地を駆け、信之助と激突する。そして、起きたのは圧倒的な
「うおお! アイツ等、なんちゅう戦いをしてやがる!」
ス・ノーマン・パーも悲鳴を上げる。少しでも気を抜けば、瞬く間に吹き飛ばされてしまう。そんな時だった。
「な…ん…で…」
ナナリーの攻めが…
「なん…で…」
段々と…
「なんで…」
信之助の攻めに…
「なんで! なんで!! なんで!!!」
塗り潰されていく。
ナナリーは幼い子供が癇癪を起こしたように怒鳴り散らす。なんで、あり得ない、そんな思いが溢れてくる。力も速度も自分が上。上の筈だ。なのに現在、ナナリーは信之助に押し負けている。それと比例するようにナナリーの攻撃と防御の割合を防御が上回っていく。
信之助の攻めに、攻める隙さえ無くなっていく。
「アアァァァァァァ!!」
ナナリーは無理矢理攻撃した。ナナリーの手が信之助の頭へと迫る。そして…
「っ!?」
そこに居た筈の信之助が消えていた。
「ふっ!」
「っ!?」
左から攻撃がくる。そう気付き、伸ばした腕をそのまま左へと振る。
「またぁ!」
また居ない。左に振った腕は何も手応えもなく空を切る。
「とぉー!」
「っ!?」
上からくる。だが、気付いたとしても反撃する余裕はない。ならば防ぐしかない。何とかもう片方の腕を間に合わせ、信之助の攻撃を防ぐ。
「ぐっ」
これこそがナナリーが押し負けた理由の一つ。当たらないのだ、ナナリーの攻撃が。縦横無尽、千変万化、自由自在、そんな言葉が似合う、いっそのことふざけてるのかと言いたくなる信之助の予測不能な動きに翻弄される。
「アアアァァァァァ!!」
ナナリーは信之助に殴りかかる。信之助は自分に襲い掛かる拳に左の掌を合わせ引く。瞬間、信之助の肩と両腕が滑車のように動き…
「ふっ!」
「ぐっ!?」
信之助の右の拳がナナリーの腹部に突き刺さる。ナナリーはまるで自分の拳が
──秘技・拳伝え──
掌で相手の拳の威力と速度に任せて引き、両腕と肩を滑車のように動かすことでもう片方の腕に伝え、相手と同じ威力と速度で叩き付けるカウンター技。一瞬でもタイミングを間違えれば自身がダメージを負う諸刃の剣。ナナリーは後方へ吹き飛ばされる。
「やっぱり、ダメージは無いよね」
ナナリーは平然と立ち上がる。
「な…んで? なんで…死ん…で…くれない…の? なん…で…人は…生き…ようと…するの?」
それはナナリーを取り込んだ何かが放つ嘆きの声。その時に気付いた。
「ナナちゃん、それ…」
ナナリーの首に掛かっているそのペンダントに。ペンダントにはめ込まれた宝石は黒く澱んだ色になっている。
「苦…しいよ…寂…しいよ…鬼に…なれ…ば…苦し…くない…寂しく…ない…」
ナナリーの目から涙が流れ、頬を伝う。
「なん…で…私は…生きてるの?」
「っ!!! …それがナナちゃんの本音なんだね」
ナナリーを取り込んだ何かに隠れたナナリー自身の声。計り知れない後悔と苦痛と孤独が形作るその声に信之助は悲痛の表情を浮かべる。
「だからこそ、絶対に助ける!」
信之助は再び、フラフープを構える。その時、信之助は気付かなかった。ペンダントの宝石が一瞬、小さく光ったのを。
◇◇◇
暗い闇の中、ナナリーの意識は漂っていた。
「母…様…」
闇の中、思い出すのは母の事。
「母様…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」
ナナリーは亡き母に向けて謝り続ける。ずっと後悔していた。何故最後に喧嘩をしてしまったのだろう。何故救えなかったのだろう。全て自分のせいだ。だから、せめてもの償いに母の願いを叶えようと思った。力を身に付ける為に箱庭に来た。
さらに苦痛が襲う。ナナリーはこの箱庭で何度も死にかけた。だが、母の為、願いを叶える為、逃げることは許されない。
さらに孤独が襲う。たった一人の家族を亡くし、友人も頼れる人も居ない。夜、一人で野宿した事もある。約十歳の少女にはあまりに酷である。
だがナナリーは堪えてきた。ずっと一人で。そして、ついに思ってしまった。
死にたいと。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ナナリーは思ってしまった。全てを捨てて楽になりたいと。苦痛から、孤独から逃げたいと。だがそれは
「「「「おいで」」」」
「えっ?」
声が聞こえた。老若男女様々な何重にも聞こえる声。
「「「「楽になってもいいんだよ。逃げてもいいんだよ。だからおいで」」」」
「いい…の?」
「「「「いいんだよ。ここは苦しくないよ。寂しくないよ。おいで、おいで、おいで」」」」
甘い…甘い…囁き声がナナリーを飲み込んでいく、染めていく。ナナリーはその声がする方へと近付いていく。ずっと苦しかった。ずっと寂しかった。ずっと…
<ナナちゃん>
苦しかった?
<ねえねえ、彼処行こうよ>
寂しかった?
<またね、ナナちゃん!>
「あっ」
それはたった数時間。だけど苦しくなかった。寂しくなかった。幸福に思える時間をくれた彼。
「野原さん…」
ふと、彼がプレゼントしてくれたペンダントを見る。そのペンダントにはめ込まれた宝石は澄んだ白い色をしていた。その色からは何故か優しさと
─ナナリー…─
「えっ?」
◇◇◇
「どういう事!?」
少女は困惑する。ナナリーから“隠”とは違う別の力が感じられたのだ。その力が発生すると同時に信之助の力が高まっている。
「絆の共鳴? でも誰と………まさか」
少女はあり得ない事実に辿り着く。
「ナナちゃんを助けるという想いが共鳴を引き起こした…でも、死した魂とも共鳴するなんて!?」
◇◇◇
「母…様?」
「「「「なにそれ? 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。早く捨ててこっちにおいでよ」」」」
一瞬、母の声が聞こえた気がした。辺りを見回すが母の姿はない。闇から聞こえる声はペンダントが気に入らないのか、ナナリーに捨てるように言ってくる。
─ナナリー…─
「母様!?」
─思い出して─
「何処!? 何処に居るんですか! 母様!」
必死に母を探すナナリー。だが、姿は見えない。
─ペンダントを─
「ペンダント?」
再び、ペンダントを見ると白い光を放っていた。
「これは…」
<ナナリー、私とあのお方の自慢の娘>
「ああ…」
<貴女は生きて。吸骨鬼の事も何も気にしなくてもいい。ただ、貴女が幸せに生きていてくれるだけでいい。それが私の本当の願い>
「母様…」
何故、忘れていたのだろう。何故、聞こえていなかったと思ったのだろう。ナタリーが願っていたのはナナリーの幸せであった。それは吸骨鬼としてではなく母としての願い。
「「「「なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!」」」」
「ひっ」
その悪意に満ちたその声にナナリーは悲鳴を上げる。正常に戻ったナナリーはその声の異常さに気付いてしまった。
「「「「おいでよおいでよおいでよおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいで来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!!!」」」」
「い、いや…」
何故、何重にも聞こえるのか、何故、様々な声があるのか。その声はこの空間のあらゆる方向から聞こえてくるのだ。ナナリーは既に囲まれている。
「こ、来ないで!」
「来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い!!こっちに来い!!!」
その声は次第に近付いて来ている。
「た、助けて…」
ナナリーはペンダントを握り締める。
「助けて!野原さん!」
その声と共にペンダントから全てを照らす太陽の、サンライトイエローの輝きが放たれる。
「「「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ」」」」
声が悲鳴を上げるとナナリーは意識を失った。
◇◇◇
「うっ」
「ナナちゃん!」
「え?」
ナナリーが目を開けると信之助が不安そうに顔を除いていた。
「野原…さん?」
「ナナちゃん、大丈夫?」
「私は…一体…」
あれは夢だったのだろうか。ナナリーは何が起きたのか信之助に聞こうとする。
「ナナちゃんには色々説明しないといけないことがあるけどちょっと待ってくれる?」
「え? あっ…はい。あれ?」
まだギフトゲームの途中だ。今の信之助に説明する余裕はないのだろう。そう納得した時だ。ナナリーは気付いてしまった。今の自分の体勢を。
「これって!」
俗に言うお姫様だっこだった。
「ス・ノーマン。少しの間、ナナちゃんをお願いできる?」
「ちっ、しゃーねーな」
「あっ」
信之助からス・ノーマン・パーに代わる。なぜだろう? あまり嬉しくない。
「なんだよ。その不満そうなツラは」
「いえ、その…」
ス・ノーマン・パーに睨まれ、ナナリーは思わず目を反らす。
「それじゃあ、オラは皆の所に行くね」
そう言って、信之助は皆の所へ向かって行こうとする。その時だ。
「「「「おいでよ」」」」
あの声が聞こえたのは…
前回、決着と言いましたけどまだ続きます。ごめんなさい。次回もよろしくお願いします!