嵐を呼ぶ問題児が異世界から来るそうですよ   作:塗る壁

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どうも塗る壁です。

そんなこんなで三十話目です。


黒死班の魔王との決着だゾ

「ペストさん…」

 

 ナナリーは現在、戦っているであろうペストと信之助がいる方向を哀しげに見つめる。

 

「ペストの心配をしてるのか?」

 

「ス・ノーマンさん…」

 

 ナナリーが振り返ると、そこには雪だるま。ス・ノーマン・パーが居た。ナナリーは俯き、言う。

 

「……私にその資格はありません。私は、彼女を裏切りました」

 

 ナナリーは短い間ではあったがペストに世話になった身であり、仲間だった。本当なら今すぐにでもペストの援軍に向かうべきであろう。なのにナナリーはそれをしない。ナナリーには戦う意思も気力もなくなってしまった。

 ナナリーの戦うための支えは母の代わりに復讐することで償うこと。だが、ナナリーに復讐はもう出来ない。つまり、ナナリーは戦うための支えを失ったのだ。だからナナリーは戦うことが出来ず、動くことも出来ないでいた。いや、それどころかこれからどう生きていけばいいのかも分からない。

 自分は勝手に戦意を喪失し、ペストを裏切った。今更、どんな顔で会えばいいのか。そこまで考えた所で

 

「ごちゃごちゃと考えてんじゃねぇよ」

 

「痛っ!?」

 

 ナナリーはス・ノーマン・パーに頭を叩かれた。

 

「な、なにするのじゃなくて何するんですか!?」

 

 突然のことに驚いたナナリーは思わず敬語が抜けてしまった。

 

「まだ10歳のガキが何くれぇことを考えてんだよ」

 

「わ、私は…」

 

「ガキはガキらしくしてればいい」

 

 ス・ノーマン・パーはナナリーに説教する。例え、どんなに精神が早熟していようとス・ノーマン・パーにとってナナリーは10歳の子供でしかないのだから。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 それは家族と、または友人達と共に決戦に挑む時、自分達を奮い立たせるための合言葉、覚悟の咆哮。

 

「ノーネーム、ファイヤー!」

 

 拳を握り締め、空へ掲げると共に咆哮する。()()()()()

 

「…………あれ? 皆やらないの?」

 

 信之助はやっているのが自分だけだということに気付いた。

 

「えっと…その…」

 

「この歳でそれはないわよ」

 

「クックッ…どんまい野原」

 

「あの…えっと…え?」

 

 黒ウサギは申し訳なさそうに目を反らし、飛鳥は恥ずかしそうにそっぽを向き、十六夜は笑いを堪え体を振るわせている。サンドラに限っては状況が分からず困惑している。

 

「もう。みんなノリが悪いゾ」

 

 信之助はガックリと肩を下ろす。

 

「貴方達、よくこんな状況で漫才が出来るわね」

 

 ペストは苛ついたように信之助達を睨む。

 

「おお。そうだったそうだった。黒ウサギ、なんか作戦がある?」

 

「お任せください!」

 

 黒ウサギは待っていたのだ。こちら側の主力が揃うこの時を。

 

「今から魔王とここにいる主力。纏めて、月までご案内します♪」

 

 そして、突如周囲の光が暗転し、温度が急激に下がる。見渡すとそこにあるのは先程までの町の風景ではなく灰色の荒野だった。

 その光景にペストは蒼白になって叫ぶ。

 

月界神殿(チャンドラ・マハール)! 軍神(インドラ)ではなく、月神(チャンドラ)の神格を持つギフト! けど、ルールではゲーム盤から出ることは禁じられているはず」

 

「ちゃんとゲーム盤の枠内ですよ? ただ、高度が物凄く高いだけでございます」

 

 まさか、天体そのものを町の頭上に持ってきたと言うのか。天体を動かすギフトはあったとしても使えるかどうかは別問題。

 信之助といい、ギフトを素手で砕いた少年といい、化け物揃いだとペストは内心舌打ちをする。

 

「これで参加者側の心配はなくなりました! サンドラ様、十六夜さん、信之助さんは魔王を押さえつけてください!」

 

 そう言うと同時に三人はペストの元へ突撃する。そんな三人にペストは黒い風で迎え撃つ。

 

「十六夜君。右腕怪我してるけど大丈夫?」

 

 信之助はペストの黒い風をフラフープで切り裂きながら十六夜の右腕を見る。十六夜の右腕は血を流し、ボロボロになっている。十六夜はヴェーザーとの戦いで右腕を負傷していたのだ。

 

「ハッ、お前も人の事言えんのかよ」

 

 十六夜も黒い風を蹴りや左腕で砕きながら言う。十六夜は気付いていた。信之助は見た目こそ無傷だが、自分以上に体力を消耗していることに。

 

「でもそんなこと」

 

「通じる相手じゃねえよな」

 

 瞬間、ペストからとてつもない衝撃波が放たれる。信之助はフラフープで、十六夜は左腕で衝撃波を迎え撃つ。

 

「「ハアァァァァ!!」」

 

 体力を消耗しているとはいえ、とてつもない威力を秘めた二人の攻撃は衝撃波を相殺する。衝撃波が相殺されると同時にサンドラが業火を放つ。ペストは瞬く間に炎に呑み込まれるが…

 

「無駄よ」

 

 ペストを覆っていた炎が吹き飛ばされ、傷が一瞬で癒える。サンドラの炎では火力が足りなかった。

 

「私を打倒したくば、星を砕くに値する一撃を用意しなさい」

 

 ペストは黒死病で亡くなった八〇〇〇万の霊群にして死神である。神霊である彼女には生半可な攻撃は通用しない。

 

「なら、これはどうだ!」

 

 確かに神霊であるペストには生半可な攻撃は通用しない。しかし、信之助は思い出していた。サンドラの炎を遥かに越える炎を。

 信之助はギフトカードから金ダライを取り出した。

 

解放(リバース)!」

 

 その掛け声を合図に金ダライからナナリーとの戦いで吸い込んだ炎が解き放たれる。

 

「ま、まさかそれは!?」

 

 ペストは恐怖した。神霊である彼女はその炎の正体に気付いたのだ。

 

「神殺しの恩恵を宿す業火!それにこれは…」

 

「火龍の炎をも超える神霊の炎!」

 

 サンドラは驚愕する。自分の炎よりも格上の炎を目の当たりにしたのだ。だが、本当に驚く場所はそこではない。サンドラが驚愕したのはその炎ではなくそれを自在に操る信之助にだ。

 

「いくゾ!火輪(かりん)()げ!」

 

 信之助はフラフープを円盤投げのようにペストへと投げ、炎を纏わせる。ペストは黒い風を使い、フラフープを防ごうとするが黒い風はその炎に焼き付くされる。あれに触れれば無事では済まない。ペストはすぐ側まで迫ったフラフープを全力で避ける。通りすぎたフラフープは火が消え、ブーメランのように信之助の元に戻る。

 

「もういっちょー!」

 

 再びフラフープを投げ、炎を纏わせる。

 

「くっ」

 

 ペストはフラフープを再び避ける。フラフープはそこまで速い訳ではない。だからこそ避けることが出来た訳だが…

 

「隙だらけだぜ?」

 

「がっ」

 

 避けた瞬間、ペストは十六夜に蹴り飛ばされ地面に叩き付けられる。神殺しの炎を警戒し過ぎたため、接近してくる十六夜に気付かなかったのだ。

 

「こんな、所で…」

 

 砂埃の中、ペストは立ち上がる。

 

「皆さん、退いてください! 飛鳥さん!」

 

 飛鳥は右手をかざして命を下す。

 

「撃ちなさい、ディーン!」

 

 その命に従い、紅い鋼の巨人は怒号を上げ、手に持つ雷を放つ武器…インドラの槍を投擲する。槍は幾千幾万の天雷を宿し、ペストを襲う。

 

「こんな…もの!」

 

 回避は不可能。なんとか黒い風を総動員し、槍を防ごうとする。ペストは警戒していた。その槍は雷を放っているとはいえ、神霊であるペストを倒すには足りない。しかし、この場面で放つ槍がこれだけであるはずがない。彼女達は勝算があるからこそこの槍を使ったのだ。彼女は負けるわけにはいかない。八〇〇〇万の死者の怨嗟を叶えるため、怠惰な太陽に復讐するため。なによりも決めたのだ。

 魔王としての意地と底力を見せてやると。

 黒い風が、八〇〇〇万の怨嗟が、雷を纏う槍とせめぎ合う。しかし、その力を増していく槍に押されていく。ペストの予想は当たっている。この槍の正体は帝釈天の加護を持つ穿()()()()()()()()()必勝の槍。裏を返せば、穿()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「なめるなぁぁぁぁ!!」

 

 ペストの脳裏に過るのは、あらゆる攻撃を捌き、流し、避けきった信之助の姿。勿論、ペストにあのような技術はない。ペストは全ての力を総動員し、槍を止めるのではなく、その射線上から外れる事に成功したのだ。

 

「嘘!?」

 

「そんな…」

 

 飛鳥と黒ウサギは絶望の色を見せ、ペストは勝利を確信した笑みを浮かべる。その時だ。

 

「まだだぁぁぁぁぁ!」

 

 まだ、諦めない男が居た。

 

「十六夜君! オラを蹴り飛ばせぇぇぇぇぇ!!」

 

「っ!」

 

 考えるよりも先に体が動く。十六夜は信之助に向けて蹴りを放つと同時に信之助は十六夜の足に飛び乗りジェット機の如く槍へと飛んでいく。

 信之助には確信があった。先程までペストと戦っていた信之助の位置は通りすぎた槍とそこまで離れていない。同時に槍は黒い風との衝突で減速していた。今ならまだ間に合うと。

 信之助は槍を掴むと、体を回転させる。急な方向転換に、信之助の体に多大な負荷が掛かる。信之助がやろうとしていること。それは槍をペストへ投げ返すこと。力を流し、捌く圧倒的な技量を持つ信之助だからこそ出来る芸当。槍の向きを変えると共に肉と骨が悲鳴を上げる。だが信之助はそれを無視する。回転しながら信之助は思う。ペストは凄いと。かつて信之助が戦ってきた敵の中で誰かのために戦っている者は数える程しか居なかった。殆どの者が私利私欲のために戦っていた。箱庭に来てから誰かのために戦っている者に三人も出会った。しかし、ヤクモは試すためだった、ナナリーには迷いがあった。純粋に敵として戦ったのはペストだけ。

 

「ハアァァァァ!!!」

 

 槍の穂先をペストへと向ける。信之助は感じ取っていた。ペストの覚悟も強い想いも。

 信之助は知っている。助けるだけでは救えない者もいると。だからこそ、本気でペストと戦うと決めた。

 

「ペストぉぉぉぉ!」

 

 信之助はペストへ槍を投げ返す。槍は激しい雷と金色の光を放ち、全てを呑み込む暴風を纏う。嵐という言葉すら生温い、天災を纏った槍がペストへと直進していく。

 

「野原…信之助ぇぇぇぇ!!」

 

 ペストは自身が持つ死の恩恵と八〇〇〇万の怨嗟の()()()()()()()槍へと向ける。今までとは比べものにならない桁違いの死と怨嗟の塊が天災を纏い金色の光を放つ槍とぶつかり合う。

 ペストは信之助が嫌いだ。ペストが憎み、妬み、呪った太陽に似ているから。

 ペストは信之助が嫌いだった。鬱陶しくて、暖かくて、全てに影響を与える太陽に似ているから。

 ペストは気付いていなかった。一滴(ひとしずく)の涙が流れていることに。ペストの脳裏に一つの光景が流れる。それはペスト自身の記憶か、それとも八〇〇〇万の霊群の誰かの記憶かは分からない。ずっと昔に忘れてしまった、かつての光景(思い出)。太陽に感謝し、家族と友達と笑い合い、生きていた幸福の記憶(1ページ)

 槍が死と怨嗟の塊を打ち砕き、ペストを貫いた。

 

(ああ…そっか…)

 

 ペストは、最後に悔しそうに、そしてどこか安心したように小さく笑う。その瞬間、金色の光が全ての者の視界を満たす。

 ペストは、槍と共に光の中に消えた。




三十話目。どうだったでしょうか?

次回は第二章の最終回です。
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