というわけで遅くなりましたがすみません三十一話目です。
「はぁ~、眠い」
ペストと決着を付け、数日。信之助は以前にノーネームの面々と過ごした部屋で窓から射す日の光を浴びながらだらけていた。
「随分とだらけてんな、野原」
「ん? あっ、十六夜君」
信之助がだらけていると一緒に戦った仲間、十六夜が呆れたように信之助に話し掛けてきた。
「いや~、ペスト達と戦って疲れたしねー、それに日向が暖かくて気持ちいしね~。そう言えば、十六夜君はなんか用があるとか出掛けてたけど何だったの?」
耀や飛鳥、それに黒ウサギ達は現在ギフトゲームによって先延ばしになっていた祭りを楽しんでいる。信之助は面倒くさがって行かなかったが、十六夜は用があると言って何処かに出掛けていた。
「ちょっとマンドラの所にな………なぁ、野原」
十六夜が考え事をするかのように少し間を置いて、信之助に聞いてきた。
「お前、今回のギフトゲームの事、
「何が?」
信之助は十六夜の言っている意味が分からないようで首を傾げる。
「お前が気付いてねぇ訳がねぇよ。今回のギフトゲームは出来すぎてる。数百枚のステンドグラスを短時間、それも数人のコミュニティが用意出来る訳がねぇし、白夜叉が目を光らせてるから、簡単には動けねぇ。つまり、裏で手を引いてる“奴等”が居るって事だ。そもそも
十六夜は獰猛な笑みを浮かべ、信之助を見る。
「え? オラの事を
「そっちの想うじゃねぇよ! そっちの趣味は俺にもねぇ!」
ドン引きしたように後退り、顔を背ける信之助に十六夜は怒鳴る。先程までのシリアスな雰囲気が台無しである。
「もう、冗談なのに~」
「
ヤレヤレと呆れたように首を振る信之助に本気で苛ついた十六夜であった。
「俺が言いてぇのは、野原、お前は最初から気付いてたんじゃねぇかって事だ。野原、お前は聞いたか? 今回のギフトゲームの死傷者の数を…」
「勿論、聞いてるゾ」
十六夜の問いに信之助が頷く。今回のギフトゲームの死傷者の数。ペストを倒したことで黒死病は消えたが負傷者は数百人、あまりの数に数え切れない程だった。そして死者は…
「死者0人、出来すぎにも程があるだろう? まずあり得ねぇぜ? 普通のなら兎も角、魔王のギフトゲームで死者が出ねぇなんてな」
勿論、犠牲者を極力減らせるように配慮はした。それでも数人、下手をすれば数十人は死んでいた可能性があった。それでも、死者が居なかったのは…
「野原、お前が救ったからだ」
そう。特にペストが死の風を放った時、襲われたサラマンドラのメンバーは死んでいても可笑しくなかった。
「別にお前を責めてる訳じゃねえ。更に貸しを作れたし、それのお陰で
信之助がサラマンドラの命を救ったことで、サンドラが深く信之助に感謝し、マンドラもノーネームとの交渉に応じた。その信之助“個人”の報酬として今回のギフトゲームで使ったフラフープを貰い、ナナリーを引き取った。因みに金ダライは危険すぎると言うのでくれなかった。余談だが、交渉の後マンドラが何故こんなものがあるのかと頭を悩ませたとか。
「十六夜君…」
十六夜の話を静かに聞いていた信之助は沈黙を破り、
「考えすぎ」
「は?」
あっけらかんと答えた。
「確かに変だなーって思ったけど、オラはそこまで考えてないゾ。サラマンドラの人達を助けたのは助けたかったからだし、フラフープを貰ったのだってくれるって言うから貰っただけだし、ナナちゃんを引き取ったのはただそうしたかったのと…何より
◇◇◇
信之助が、黒い飴を飲み込み暴走したナナリーと戦っている時だった。
「アア…アアアァァァァァァァァ!!!」
「ナナちゃん!?」
ナナリーの胸の辺りからサンライトイエローの光が溢れ、ナナリーが苦しみ出す。そして、ナナリーから黒い煙が離れていった。
「おっと」
信之助は慌てて、倒れそうになったナナリーを支えた。
「おいおい、この小娘は大丈夫なのか?」
「うーん、大丈夫だとは思うけど…」
ス・ノーマン・パーは心配そうにナナリーの顔を覗く。信之助は脈を測りながらナナリーの顔を見る。その寝顔は吸骨鬼の姫とは思えない年相応の、ただの少女の顔だった。信之助はナナリーの頭を優しく撫でる。
「もう、無理に我慢しなくていいからね。………ねぇ、そこに居るんでしょ?」
「は? 何言ってんだ、信之助。うお!?」
信之助が振り返るとそこには、半透明の質素な服を着た女性。
「久し振り、ナタリー・コツバーン」
ナナリーの実母、ナタリー・コツバーンが立っていた。
「あら? 驚かないのね」
ナタリーは信之助の平然としている態度に少し驚いていた。
「
「……別に、私は大したことをしてないわよ。私はただ、この子に残ってる
ナタリーはとても悲しそうに顔を俯く。その姿は信之助が知るナタリー・コツバーンではなかった。
「ナナちゃんの心を覗いたなら分かってるんじゃない?」
ナタリーはビクリと体を奮わせる。
「ナナちゃんはね、誰よりもお母さんの事を尊敬してて、誰よりもお母さんが自慢で、誰よりもお母さんの事が大好きなんだゾ」
髪に隠れてその表情は分からないが地面にポツポツと雫が落ちる。
「ナナちゃんにとってお前は誰よりも母親なんだゾ」
ナタリーは涙で濡らす顔を上げ、ナナリーを抱き締めた。霊体である彼女はナナリーに触れることは出来ない。それでも優しく、そして何処か力強く、ナナリーを包み込むように抱き締める。
「ごめん、ごめんねナナリー…私は、貴女を巻き込んでしまった。でも、もっと美味しいご飯を食べさせて上げたかった! オシャレだってさせて上げたかった! 学校だって行かせて上げたかった! ずっと…一緒に居たかった…」
(そっか…)
ナタリーは、ずっと後悔してたのだ。自分がやった事を。吸骨鬼達がやった事は許されない事だ。だからこそ、ナタリーは母親としてではなく吸骨鬼として生きていた。でも本当はただの母親として生きたかったのかも知れない。ナナリーも吸骨鬼の姫としてではなくただの娘として育てたかったのかも知れない。でも後悔は後戻り出来ないからするのだ。
そこに居るのは信之助が知る吸骨鬼としてのナタリーではない、ナナリーが知る母親としてのナタリーだった。
(後悔しない人生なんてないんだよね…)
後悔はしない。口で言うのは簡単だ。だが、それをやり遂げるのは困難を極める。でも、信之助は思う。簡単ではないから後悔しない覚悟は強さとなるが、後悔の感情も大切なのではないか。
信之助も悔いがある。友達になった電子生命体、過去で出会った侍、映画の中の少女、家族として過ごした機械の父。あの時こうしていれば、この時ああしていれば、何度思ったろう。
「野原信之助…この子を…お願い…」
ナタリーの体から白い光の粒子が出ている。時間が来たのだ。今のナタリーは信之助の【絆の共鳴】によって呼び出され、この世界に辛うじて繋ぎ止められた奇跡のような存在だ。
「任せて」
信之助のその一言を聞くと、ナタリーは安心したように笑って、消えた。
◇◇◇
信之助の答えを聞いた十六夜は溜め息を吐く。
「ただ助けたかったからか。お前、前から思ってたが甘すぎるんじゃねぇか?」
十六夜は信之助を睨みながら続ける。
「お前が甘かろうと別にいいけどな、お前の甘さに巻き込まれるのはごめんだね。俺だけじゃねぇ、お嬢様や春日部、黒ウサギ達だって傷付けるかも知れねぇ。半端な甘さは捨てた方がマシだ」
厳しい事を言っているように聞こえるが十六夜の言ってることは事実だ。半端な甘さは人を傷付ける。これでも十六夜は信之助を思って言っているのだ。これから先、その甘さのせいで取り返しのつかない事になる前にと。この時の十六夜は気付いていなかった。
野原信之助という人間を
「ねぇ、十六夜君。人は変われると思う?」
信之助が静かに聞いた。
「は? なんだいきなり。変われるか変われないかで言えば変われるんじゃねぇか。だが、今はそんなこと関係ねぇだろ」
「そんなこと無いゾ。オラもね、大分変わったよ。ケツだけ星人もしなくなったし、下ネタも言わなくなった。現実だって知っている。甘さを捨てる。それも一つの変化で、変われるのが人の強さだ」
信之助は、ゆっくりと立ち上がる。
「お前は甘い、そんなことは理想論だって、よく言われたゾ。でもこれだけは変わらない、変えられない」
「っ!?」
十六夜は思わず一歩下がった。今の一瞬、間違いなく、信之助に、気圧された。
「変われるのが人の強さなら、変わらないのも人の強さだ。甘いなら甘さなりの強さがある。オラはこの強さで守ると決めた。これはオラの我が儘だけど。でも…」
信之助は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「貫く覚悟も背負う覚悟も、とうの昔に出来てるゾ」
これが十年以上もの間で出した信之助の答えであった。十六夜は衝撃を受ける。
(ハハ、どうやら俺の目は曇ってたらしいな。甘い? 冗談じゃない)
野原信之助という人間に
「ハッ、そうかよ。そこまで言うならもう止めねぇよ。邪魔したな」
信之助に背を向け、十六夜は部屋から出る。そして、廊下を歩きながら思う。
(おもしれぇ!)
信之助の持つ強さは十六夜が持っていない強さ。十六夜が知らない強さ。
野原信之助と逆廻十六夜。そう遠くない未来、この二人は“全力”でぶつかることが決定付けられた。
◇◇◇
彼女は誰も居ない夜道を一人で歩く。雪のように白い髪に白い肌、白いワンピースを着た二十代前半と思われる美しい女性。
「皮肉なものだな…」
女性はクスリと苦笑する。
「拒み、過去にしがみついた“ワタシ”は未来への力を、受け入れ、未来へ祈った私は過去への力を」
何故そうなったかは私にも分からない。でも今では感謝している。この力のお陰で私は知ることが出来たのだから。
<この世界は絶対に…>
「信之助君、君にしか出来ないんだ。“彼”が作り出したあの力の受け継いだ君にしか。彼女を、“ワタシ”を止めなければ世界は滅びてしまう。そして、また“始まってしまう”。“彼”が止めた…」
なんかこの小説を書いてたら、この信之助を別のやつにクロスさせないな~、と思ってしまった。小説が完結したらIFか続編で書こうかな…。