それでは三十六話目です。
「それで? 東側最強の白夜叉様がどうしてこんな所までセクハラをしに来たのかしら」
セクハラされた飛鳥は怒りをあらわにしながら白夜叉をつまみ上げる。
「うむ少々野暮用があっての! して黒ウサギは何処におるのだ?」
「それはこっちが聞きたいところだわ。昨日から見つからないのよ」
降ろした白夜叉からの問いに飛鳥は首を振る。飛鳥達も黒ウサギを探しているのだ。白夜叉は飛鳥の返事に…
「あやつめ、ついに急性胃腸炎で逃げ出したか…。だからあれほどストレスは溜めるなと…」
「違うわよ」
白夜叉の答えに飛鳥は即答で否定する。実はあり得ない話ではないのだが…
「まあ冗談はそこそこにして、今日ここに来たのは他でもない。近頃不穏な話を耳にしての」
「不穏な話?」
白夜叉の真剣な表情に思わず息を呑む。
「サーカスを観に行った者達が帰って来ぬと言う話をな」
「え? それって黒ウサギと同じ…」
側で聞いていた耀も驚く。それはまさに、自分達の状況と同じであった。
「なぁ、ちょっといいか? それに関してこいつからも話があるんだ」
十六夜の発言で全員がフェルナに注目する。フェルナは申し訳なさそうに口を開いた。
◇◇◇
「ええ!? フェルナのコミュニティにも行方不明者が!?」
フェルナから事情を聞き、驚愕の声を上げる。
「ちょっと前にも観に行った事があって、その時も黒ウサギさんと同じでショーに参加した一人が帰ってこなかったの。サーカスが怪しいとは思ってたんだけど。打つ手がなくなっちゃってて…そんな時に皆と出会ったの。それで思ったんだ」
フェルナは四人を見渡しながら言う。
「この人達なら何とかしてくれるんじゃないかって!」
「それじゃあ私達をサーカスを誘ったのは初めからその為に!?」
「ご、ごめんなさい! 危険だとは分かってたんだけどそうするしか…」
「大丈夫!」
信之助はフェルナの頭に手を置いた。
「黒ウサギもフェルナちゃんの仲間も他の人達も、皆オラ達が助ける。それにオラ達はただのノーネームじゃないゾ」
「え?」
信之助はフェルナの頭から手を離すと右腕を斜め横に伸ばし、左腕も同じ方向に伸ばしてポーズをとる。
「オラ達は“最強”のノーネーム!泥船に乗ったつもりで任せなさい!」
自信満々の笑顔で言い切った。
「信之助、泥船だと沈んじゃう」
「え? じゃあ木船?」
「うん。木船なら浮かぶから大丈夫だね」
「ツッコミ所はそこじゃないでしょう!」
信之助と耀に飛鳥がツッコミを入れる。
「何をボケた会話をしてるのよ貴方達! 後、泥船でも木船でもなくて大船よ!」
「そうとも言う~」
「そうとしか言わないわよ、って何で私がツッコミをしてるのよ! こういうのは黒ウサギかジン君の仕事でしょう!」
叫ぶ飛鳥に信之助はやれやれと首を振る。
「だって、二人とも居ないじゃん。じゃあ耀ちゃん」
「無理」
「十六夜君」
「却下」
耀と十六夜は即答である。
「仕方ない。ここは私が「それじゃあフェルナちゃん」おい!」
白夜叉を飛ばし、フェルナへと聞いた信之助に白夜叉が叫ぶ。
「何でじゃ!? ここは私に…「わ、私!?」おい、聞いとるのか!「大丈夫大丈夫。フェルナちゃんならきっと出来る」無視するな! 信之「ちょっと!会ったばかりの子に荷が重すぎるわよ!」おーい…「だって、他にツッコミ出来そうな子居ないし」………「いや、貴方達が普通にしてれば……無理ね」…ぐすん」
完全に無視され白夜叉は涙目である。こうして、黒ウサギ、ジンに続くツッコミ役が飛鳥に決定付けられた。
「おんしら、私の話を聞けーーーー!!」
◇◇◇
夜になり、ノーネームの面々と白夜叉の五人はサーカスのテントの前にやって来た。
「公演は昼のみと聞いておったのだが?」
「本当だ、明かりがついてる…」
白夜叉と耀が明かりに照らされるテントを見上げる。
「中で宴会でもやってんじゃねーのか?」
「もしくは世界征服への作戦会議だったりして」
「わざわざテントの中でやる必要もないでしょう」
能天気に笑う十六夜と信之助に飛鳥が呆れたように言う。
「でもこれだけ明るいなら他にも誰か気が付きそうなものだけど…」
「テントの周囲は屋台や商店ばかりで民家が少ないみたいだからな。それとも気付いた奴等に何か起こったのか…(そう言えば野原が前に変な感じがするとか言ってたな。それと何か関係があんのか?)」
十六夜は目の前のテントを見上げながらかつて信之助が言ったことを考えていた。その時…
「きゃっ!?」
「春日部さん!?」
「耀ちゃん!?」
突如、悲鳴を上げた耀へ皆が駆け寄る。
「どうした何があった!?」
「えっと、これ!」
耀は手に持った紙を皆に見せる。瞬間、全員が驚愕の表情を浮かべた。
「
──────────────────────
ギフトゲーム“Funny Circus Clowns”
・プレイヤー
現時刻、テント前に現れた者。
・クリア条件
円形闘技場にて5回試合での3勝以上。なおプレイヤー達は招待状を見付けなければ闘技場への入場は許可されない。
・敗北条件
上記の条件を陽が昇るまでに満たせなかった場合。
──────────────────────
「どうやら始まってしまったようだの。覚悟は良いな、おんしら」
白夜叉が四人を見渡しながら言う。
「これは
◇◇◇
「とは言われましても…」
信之助は一人、町を探索していた。
「まったく手掛かりがない…」
ガクリと肩を落とす。信之助は必要な招待状の手掛かりを何一つ見付けて居なかった
「………やっぱり変な感じ」
信之助は町を見渡しながら言う。この町に入った時から感じた違和感。未だその正体は分からないが油断だけはしない。
「お? あれって十六夜君に白夜叉?」
町を見渡していると走る十六夜と白夜叉を見つけた。取り合えず手掛かりも見つかっていないので二人を追い掛ける事にした。
◇◇◇
「おっ、居た居た。あれ? 飛鳥ちゃんまで居る。おーい」
二人を見付けると飛鳥も集合していた。
「皆何してるの? ……え?」
追い付くと目の前に…
「耀…ちゃん?」
一人のピエロの前に倒れ伏す耀を発見した。
「アハハ。いらっしゃいマし、みなサマ」
信之助達に気付いたピエロは振り返り、大きく腕を広げ、信之助達を歓迎する。
「御託はいい。招待状ってのを探してるんだが何か知ってるな?」
十六夜が睨み付けると、ピエロは一枚のチケットを取り出し、ヒラヒラと揺らす。
「もちロンだとも! それナラ僕が持っテルからね」
「じゃあオラからも一つ。耀ちゃんをそんなにしたのはお前?」
「野原?」
「し、信之助君?」
信之助は何時もと違い、低く静かな声で言った。その様子に二人は困惑の表情を浮かべる。
「ん? コの子かい? そうダよー、真っ先にココへ来タから少し……あレ?」
「嘘…」
「おいおい」
「ほう」
ピエロが答えた、その瞬間、一瞬で懐に飛び込んだ信之助により細切れにされた。それこそ飛鳥には全く見えず、十六夜は見切りきれず、白夜叉は感心する程であった。
信之助はすぐに耀を抱き抱え、そこから離れる。
「春日部さん!」
「大丈夫、気絶しただけみたい」
耀を地面に寝かせると飛鳥が駆け寄ってくる。
「おいおい、野原。速効で終わらせ過ぎだろ。俺達の出番がねぇじゃねぇか」
一瞬で終わらせた信之助に十六夜が不満を漏らす。
「ごめんごめん。でも、まだ終わってないゾ」
「何?」
十六夜が怪訝な顔をした瞬間。
「アア、なんてマナーの悪いお客サンだ」
液体が再び人の形を取ろうと集まり初める。そんなグロい光景に飛鳥が悲鳴を上げる。
「いやあああ、何なのあれ!? 気味が悪いわ!!」
悲鳴を上げた飛鳥は白夜叉の後ろに隠れる。
「恐らく自らの体を違う原子に変質させる類のギフトであろうな。信之助よ、おんしは気付いておったのか?」
「流石に最初からじゃないけどね。一太刀目、峰打ちでぶっ飛ばそうと思ったんだけどすぐに感触で液体だってことは分かったから、時間を稼ぐ為にそのまま細切れにしたんだゾ」
「ハッ! あの一瞬でそこまで考えてたのかよ」
十六夜ですら一瞬でそこまで判断するのは難しい。幾度も死線を潜り抜けることで身に付けた優れた判断力を持つ信之助だからこそ出来たのである。
「しかし物理攻撃が効かぬのは厄介であるな。だが私の力を持ってすればあの様な三下、如何様にでもなる。見るがいい、これが太陽と白夜の星霊の力!!」
白夜叉の力の波動と覇気が膨れ上がる。そして…
「はいそこまで」
十六夜の拳骨が、白夜叉の脳天に突き刺さる。
「何をすんじゃあこの小童めがあアア!」
「お前みたいなチートが出たら一瞬で片付いちまうだろうが!!」
せっかくかっこよくきめていた所を邪魔され、白夜叉は十六夜と言い争いを起こす。
「チートじゃと! それはおんしや信之助も大概じゃろうが!」
「お前程じゃねぇよ! 大人しく煎餅でもかじって見てろよ!」
「煎餅も良いが私は大福が好きだぞ!」
「こしあんか!?」
「つぶあんだ!!」
「ほい、つぶあん」
「おお、ありがとうって何で持っておる!?」
「貴方達いい加減にしなさい! 論点ズレ始めてるわよ!!」
二人の言い争いは飛鳥によってやっと止まるのであった。
「とにかくあの面白生物は俺達に任せろ!」
十六夜は不敵な笑みを浮かべ、ピエロへ向き直る。
「つー訳で面白い芸を期待するぜピエロさんよ!」
「ウワー責任重大! ガンバッちゃウよー」
丁度、先程の姿に戻ったピエロは大口を開けて笑う。そして体の一部をドロリと液化させ地面を走らせる。液体は剣山の様な形に変わり、三人を突き刺そうとする。
「変幻自在って訳ね。見れば見るほど気味が悪い!」
三人はすぐに避ける。
「っ!!」
液体は形状を変え、飛鳥を頭上から襲い掛かる。
「止まりなさいっ!」
飛鳥の“威光”により液体はピタリと動きを止める。しかし…
「な!? 後ろからも!」
飛鳥の僅かな油断を狙い、後ろから迫る。
「曇天丸!」
その言葉と共に煙のようなものが、飛鳥を包み込み、守る。そして何かが高速で飛鳥に襲い掛かっていた液体を打ち砕く。
「ありがとう信之助君、十六夜君」
「どういたしまして」
「気ぃ抜くな! 奴は広範囲に広がる! 攻撃はあらゆる方向から来るぞ!!」
信之助が曇天丸の能力により飛鳥を守り、十六夜が石を高速で投げ液体を打ち砕いたのだ。
「それにしても、本当に物理攻撃が効かないね」
「俺が殴っても、野原が斬ってもすぐに元に戻りやがる」
「どうやって倒せばいいのかしら…」
三人はそれぞれ愚痴も漏らす。
「ここは新技を試してみますか」
「新技? そんなの何時考えたんだよ?」
「さっき!」
「おい!」
「ちょっと! 私達は遊んでる訳じゃないのよ!? それにぶっつけ本番で出来る訳ないじゃない!」
あっけらかんと言う信之助に十六夜と飛鳥が怒鳴る。
「大丈夫大丈夫。
そう言って信之助は刀を地面に振り落とした。
◇◇◇
「へぇ? 随分と面白いのが出てきたね♪それに大分根を張ってるみたいだし♪」
信之助達の戦いを観戦している少女、タブラ・ラサは興味深そうに眺めていた。
「大分苦戦しているようだな野原 信之助は…」
突如、声色と表情が別人のように変わる。
「ちょっと、勝手に表に出てこないでよ。君の出番はもっと後でしょ」
「別にいいじゃないか。何時も中から覗くだけじゃつまらない。“ボク”もたまには外に出たいんだよ」
一人で二人の表情と声を出すその少女は外から見ればとても異様である。
「ダーメ♪君はまだまだ引っ込んでて」
少女はクスクスと笑う。
「あ! でも一つだけ訂正させて」
少女は笑みを消して言った。
「あの程度でしんちゃんが苦戦する訳がない」
◇◇◇
信之助が地面に振り落とすと火花が散った。その火花は刀身を発火させ、その火は刀身全体に広がる。更にその火は、大火と呼べるレベルにまで燃え盛る。
「
炎を纏いし刀がピエロへと向けられる。
その姿に十六夜も、飛鳥も、ピエロも、そして白夜叉ですらその
「切り裂けないなら焼き斬るまでだ!」