今回はタイトル通りナナリーメイン回となります。
それでは四十話目です!
レティシア、ナナリー、ジンの3人が街の探索を初めて約10分ほど、結果的に言えば危険はなかった……いや、あまりにも何もなさすぎた。
「……人気が全くないな」
「はい……」
「夜とは言え、そこまで遅い時間じゃないのに大通りすら誰も通らないのはおかしいですよ」
3人は周囲を警戒しながら歩くが何も起こらない。それどころか明かりが点いていた幾つかの建物を窓から覗いてみたりもしたが、未だ人ひとり見ていない。
誰もいない、月と街灯が仄かに照らすだけの夜道は通常のものとは違い不気味な静寂が五月蝿いくらいだ。
そして──
「─────」
「え?」
何かがざわめき……
「どうした、ナナリー?」
「ナナリーさん?」
「いえ、いま……」
「─────」
何かが囁いた……そして……
「あそんでよ」
「ッッッ!!!?」
「ナナリー!?」
「ナナリーさんッ!?」
ナナリーが突如、口元を抑え
(こ……れは……)
ナナリーは……既に知っていた。
(この感じは……!?)
奥底から込み上げてくるこの恐怖を、この嫌悪感を。
(ま……さか……まさかまさか……ッ!?)
ナナリーは込み上げてくる恐怖と嫌悪感を無理矢理押さえ付け、跳び跳ねるように立ち上がり振り返る。
「何か……来ます!!」
その警告に、レティシアもジンも身構える。ざわめきは大きくなり足音が聞こえ始める。そして、建物の間の小道から現れたのは……
「……人?」
ジンは呟いた。建物の間から現れたのは一般の服を着た人。その者に続くようにして5人……10人と現れる。
「一般の方……では、ありませんね!」
だが、その誰もが手にナイフや斧、鎌など凶器を持ち、狂気を宿した笑みを浮かべていた。
「後ろから……建物からも!」
先程まで無人であった道や建物からも現れ始める。凶器を持ち、狂気を宿したその者達は50人を超え、100人に近付こうとしていた。
そして──
「あー……そー……ぼー……」
その声はこだまし、彼等は一斉に笑みを深め、襲い掛かる。
「
ナナリーは信之助達の無事を祈り、レティシアと共に迎え撃つ。
◇◇◇
「さて、残すところあと一勝。戦況は確実にこちらが優勢でございます!!」
観客達の歓声の中、黒ウサギは不敵に笑い、サーカスの団長を見る。
現在の戦績は2勝1分、おまけにこちら側の最大の戦力である十六夜と信之助は未だ健在(因みに白夜叉は出番を悉く潰され不貞腐れている)。対して敵側で戦えそうなのは団長のみ。つまりはこちら側の圧倒的に有利、なので黒ウサギは完全に調子に乗っていた。
「これも我が新生ノーネームの圧倒的パワーと黒ウサギの優秀さをもってすれば当然の結果なのですよー!!!」
どや顔を決める黒ウサギを……
「……せやな」
団長は鼻で笑う。
「すみません……今回たいして何もしてないのに調子に乗っちゃってすみません……」
「返り討ちに遭うなら最初から調子に乗らないの!」
出鼻を挫かれた黒ウサギはズーンと沈み、飛鳥が黒ウサギに説教する。
「それどころか、しちゃった側だもんね」
「信之助、それは言ってはいけない約束……」
トドメを刺され、黒ウサギは更に沈みこんだ。こちら側にもブルーな雰囲気が漂ってくる。
「あーあ、十六夜君のせいで……」
「俺じゃねぇだろ、バカヤロー。わかってんのか白夜叉ァ」
「私か!?」
「いい加減にしてください! この三馬鹿様がアアア!!」
3人の身を
「うんうん、いつもの黒ウサギだ」
「こんないつもはイヤですよーーー!!!」
勝手に納得している信之助に黒ウサギは泣きながら反論した。黒ウサギからしてみれば問題児達には真面目になってほしいのである……それが、叶わぬ願いだと知りながらも……。
「それはそうと、そろそろ行きますか」
そう言って、信之助がステージに向かい始めると十六夜が意外そうな顔をした。
「へえ? 珍しいな、お前が自主的に参加するなんて」
「まぁねぇ~」
本来、物臭でマイペースな信之助がギフトゲームに参加するのは巻き込まれる形が殆ど。こういった自分で参加出来るか選べるものは、基本やりたがらない。
「オラもそのぐらい空気読むゾ。それにみんな心配してるだろうし早く帰らないとね」
「信之助さん……」
「信之助君……貴方……」
「信之助……」
「野原……お前……」
「信之助よ……」
そうだ、そういう男なのだ。普段こそマイペースでふざけているが、ここぞという時には誰かの為に体を張り、頼りがいがある。10年以上もの間、世界を守るため、家族を守るため、友達を守るため、戦い続けた本物の英雄なのだ。
「そうと決まれば……」
「ふふ、覚悟は決まっとるようどすなぁ」
信之助はステージに立ち、強い意思を秘めた目で両者は向き合う。次の瞬間、信之助は団長に向けてこう言った。
「お姉さ~ん、ピーマン食べれる~」
「は?」
そして4人はずっこけた。
◇◇◇
「ハァアアアアア!!!」
ナナリーは目の前の敵に掌底を叩き込み、腕を掴んで投げ飛ばす。吸骨鬼であるナナリーは成人男性程度なら片腕で投げ飛ばせるのだ。
(この匂い……)
「数が多い、な!」
レティシアは竜の遺影を使い、幾人もの敵を薙ぎ払う。だが、敵の数は100人を超え、200人に届こうとしていた。
「っ!? ジンさん、頭を下げて!」
「え!? あ、はい!」
ジンが慌てて頭下げるとナナリーがジンの後ろに向けて回し蹴りを食らわせる。そしてジンの後ろに居た敵が数メートル離れた地面にリバウンドしながら叩き付けられる。
「ジンさん、大丈夫ですか!」
「う、うん……(い、今スカートの中が……ど、どうしよう……)」
ナナリーが回し蹴りをした瞬間、スカートの中を見てしまったジンは罪悪感に襲われる。
「ジンさん?」
「え、白……いや、ごめんなさい!!」
「?」
顔を赤くしているジンにナナリーは首を傾げる。ジン=ラッセル、コミュニティのリーダーと言えど所詮は思春期の少年であった。
「やっぱり、この微かな匂い……まさか……」
ナナリーは純白の剣を抜き、敵の一人に向けて走り出す。
「ハッ!」
その横を通り抜ける寸前にその腕を切りつける。そして確信する。
「レティシアさん、この人達は人間ではありません! 固まった土の人形です!」
「そうか!」
それを聞いたレティシアは加減を止め、影を最大限にし、敵を噛み砕き薙ぎ払う。砕かれた者達は次々と土くれに戻っていく。
「やはり、全て土人形か!? だがこの数……!」
結果的に言えば、じり貧だった。敵は次々と出現し、既にその数は500を超えている。一体一体が強い訳ではないが圧倒的なまでの物量差に二人は苦戦する。
「しんさん……私は」
ナナリーは信之助がくれたペンダントを握るとかつての会話を思い出す。それは──三日前に遡る。
「ナナちゃん、こんな所に居たの?」
「信之助さん……」
星や月明かりが照らす中、屋敷の外で暗い顔で踞っているナナリーに探しに来た信之助が声を掛ける。
「まだ気にしてるの? もう皆は気にしてないのに……」
「それは……」
ナナリーは更に暗い顔で沈みこむ。ノーネームの面々が気にしていないのは事実だ。ナナリーは敵ではあったが、ナナリーが直接傷付けた者は皆無である。だからこそ“サラマンドラ”もすんなりとナナリーも引き取ることを承諾したのだ。
「実は……それだけじゃないんです」
「ん?」
ナナリーは意を決したように顔を上げるとその訳を話し出す。
「私は……自分が恥ずかしいんです。一族の仇を取る、母の願いを叶える、そんな事を言っておきながら私は……それを口実にしたんです。自分の罪から逃げるための口実に……誰も、母様も望んでないのに……」
「ナナちゃん……」
ナナリーは自分を恥じてきた。一族の仇を取る事を、母ナタリーが口にしていた願いを、自らの口実にしたことを。
「でももう向き合えるんでしょ? ナナちゃんのお母さんが本当に願ってたこともわかるんでしょ?」
「……はい」
「ナナちゃんはもうちょっと我が儘になったほうがいいゾ。オラの妹なんてナナちゃんと比べ物にならないくらい我が儘だゾ……」
ヤレヤレと首を振る信之助をナナリーは見上げ、耳をかたむける。
「ナナちゃんは自分の気持ちに正直に生きていいんだからさ。どんな事があってもナナちゃんの気持ちは本物なんだゾ」
信之助は笑みを浮かべながらナナリーの頭を撫でる。
「ありがとう……ございます……
ナナリーは信之助に笑みを返す。その笑顔は年相応の少女の顔だった。
そして──今。
(手のひら返しだと分かってる……ムシのいい話なのも分かってる……でも……)
ナナリーはダークシルバーのギフトカードを静かに掲げ、敵を見る。
「レティシアさん! ジンさんをお願いします!」
「ナナリー?」
「ナナリーさん?」
全部分かってる。自分の行いがどんなものかも全部……それでも……。
(どんなにバカにされてもいい。それでも皆さんを……助けたい気持ちは本物だ!!)
その瞬間、ダークシルバーのギフトカードが輝き、100体もの骨の兵が出現する。
吸骨姫ナナリー・コツバーン、その実力が今発揮される。
今回のお話はどうだったでしょうか?楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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