四十二話目です!
信之助が傷を負ったことに驚愕するノーネームの面々。当然だ、信之助が疲弊したところは見たことはあれど傷を負うところなど見たことがなかったからだ。
そんな驚愕するノーネームの面々に対し、信之助は……
(いてて、ちゃんと避けたのに~)
傷を負ったことを疑問に持ちつつも、そこまで深刻には考えていなかった。
ノーネームの面々は驚愕しているが、信之助にとって傷を負うなど少し前まで日常茶飯事だった。もちろん、他の皆も信之助のこれまでの戦いや冒険の話を幾つか聞いていているが話に聞くのと実際に見るとでは大分違う。皆、それぞれ差はあれど信之助の強さを信頼し、また信用しているのだ。
(痛いの嫌だけど、降参すると皆怒りそうだしな~。ヤレヤレ面倒くさいゾ)
そう思った所でそっと溜め息をつく。他の問題児3人と信之助の最も違う点、それは勝利への執着であろう。
「クス、どうしたん? 反撃せんとホントに負けてしまうで? まあ、反撃しても無駄やと思うけどな!」
団長は強気な発言を繰り返しながら、信之助に向け幾度もムチを振るう。信之助も避けるがその度に傷を負い、苦痛に顔が歪む。
「もう! オラはそっちの趣味はないゾ!」
流石に怒ったとばかりに曇天丸を振り落とす。それは峰打ちで普段からすれば手加減したのだと分かる一振りだった──だが……
「……あれ?」
それは、何かが違っていた。効かなかった、団長は信之助の攻撃を受けて。いや、効かなかったのはいい、違ったのはその手応え。硬いのでもなく強いのでもない、信之助は直感的に感じ取っていた──届いていない、と。当たった筈なのに届いていないと、そういう風に感じていた。
「フフッ」
団長が信之助を見下すように不敵な笑みを浮かべると同時に……
「いッッッッた!!? ぐぅぅぅ!!」
「信之助ッ!?」
「信之助君!」
「信之助さん!?」
「信之助……」
信之助の全身のいたる所に傷を負う。傷ついていく信之助を見て、悲痛な声があがる。
「チッ! 野原、切り札を出せ!」
だが、この男は違っていた。
「切り……札?」
「ああ(俺の予想が正しければこいつのギフトは……)」
十六夜は既に今までの戦いから団長のギフトについて当たりを付けていた。
「お前が前に言っていた“三大奥義”。その一つに街もろとも吹き飛ばすような技があるってな。そいつを使え! その威力に観客席まで丸ごと吹っ飛ぶが、所詮コイツらはロクデナシのゴロツキ共だ! どうなったって構うかよ!」
十六夜は
「ハッタリだ合わせろ野原」
「ほうほう」
信之助は納得したように頷くと、
「観客を巻き込むなんて、彼らがどうなってもいいのか! 見損なったゾ、十六夜君!」
「どこに合わせてんだ、テメェ!」
大袈裟なポーズを取る信之助に十六夜がツッコミを入れる。信之助はガックリと肩を落とし、面倒くさそうに言い返す。
「え~、これって観客を巻き込もうとする十六夜君をオラが止めるってシーンじゃないの~」
「違うに決まってんだろ!? 何考えてんだよ!」
「もう、ワガママなんだから~」
「それはテメェだろうがッ!!」
「お、御二人とも落ち着いてくださーい! 今は仲間割れしてる場合じゃないですよ~」
途端に口喧嘩を始める二人を黒ウサギが慌てて止めようとするが微塵も効果がない。先程までのシリアスな空気が台無しである。そんな二人を見て、心配も吹っ飛んだのか耀、飛鳥、白夜叉も呆れたように話し出す。
「……信之助と十六夜って普段は仲いいけど、喧嘩も多いよね」
「確かにね。あの二人、噛み合う時は手がつけられないぐらい噛み合うけど、噛み合わない時は犬猿の仲かってぐらい噛み合わないわよね……」
「ふむ。聞けばあの二人は育った環境が真逆らしいからの。似てる所も多いが……やはり合わない部分も多いのじゃろ」
信之助と十六夜。この二人は似てるようで真逆だ。白夜叉は面白い、と思った。生まれた世界も育った環境もまるで違うのにも拘らずまるで鏡のようだと。そう、まるで……
──出会うべくして出会ったような……
「もう! 三日間ぐらい、口聞いてやんないゾ!」
「ハッ! こっちこそしばらく菓子奢ってやんねぇ!」
「お、御二人とも~、そんな子供みたいな~」
お互いにそっぽを向く二人に黒ウサギがオロオロと泣きべそをかきながら止めに入るがやはり効果はない。
耀や飛鳥は溜め息をつく。この二人は喧嘩も多いが三日間とかしばらくとか言いながら次の日には一緒に遊びに出かけるような二人だ、耀や飛鳥は既に心配するだけ無駄だと理解しているのだ。
「……なんや、私のこと忘れてやしませんか?」
「「「「「「あ……」」」」」」
団長の声に黒ウサギも含めた全員がそう言えばとばかりに声が出た。結論から言おう、全員忘れていた。
「おー! お姉さん待っててくれたの? 結構いい人?」
ごめんね、と謝る信之助。実際に信之助と十六夜の口喧嘩が始まって多少の時間が経っていたが、その間待ってくれていた団長は確かにいい人なのかも知れない。
「あ、そう言えばお姉さんを見てて思ったんだけど……」
「……! まさか……(私の能力に……)」
「野原、お前……」
団長は内心焦る。先程の様子から十六夜という少年は自分の力に気付いている様だった。もしかしたらこの少年も気付いて……
「お姉さん……色っぽい水着とか似合いそうだゾ!!」
なかった。
「……は?」
「……は?」
何を言っているのか理解出来なかった。堂々と胸を張る信之助の言葉に全員が言葉を失ったのだ。何を言っているんだこの子は、と団長が思ったその時……
「水着……いいな」
「いや、浴衣も捨てがたいぞ」
「分かってねぇなぁ。こういうのは女王様スタイルだろ」
「いいねぇいいねぇ」
信之助の言葉をきっかけに観客の男性陣が議論を始める。あれがいいとこれじゃないとその声は次第に大きくなる。観客の大多数は男性だ。それも品も礼儀も持ち合わせてないゴロツキ共。少数しかいない女性陣が冷めきった侮蔑の視線を向けているにも拘らず男性陣は構わず議論を続けていく。
「ちょっ!? や、やめやアンタら!!」
団長が今までにないほど慌て始める。だが、団長の叫びは空しくも届かず……
「ナッ!?」
『おおおお!?』
団長の服装がハイレグに変化する。団長が驚愕と羞恥の声をあげ、信之助が男性陣と一緒に歓声を上げる。
『おおおおおおおお!!!』
「ホ、ホントやめや、アンタらぁあああ!!」
団長の服装が浴衣、ドレス、ナース服等々、次々と変わっていく。それと共に興奮と歓声を最高潮へと高まっていく。
「ぽっぽーー!!」
興奮が最高潮へと高まった瞬間、ドガァン、と爆音が響き渡り、会場は瞬く間に静まり返る。観客席の視線がその音の方向へと集中する。信之助もまた、音がした方へと振り返る。そこには、絶対零度の視線で信之助を睨み付け、憤怒の形相で石畳の床を踏み砕いた耀がいた。
「信之助……」
「は、はい!!」
天敵である母・みさえを彷彿とさせる今の耀に信之助は急いで姿勢を正す。あまりの迫力に周りの十六夜達もドン引きだ。
「真面目にやって」
「イエッサー!!」
信之助は耀に向けて敬礼する。そして、気付いた。
「…………耀ちゃん?」
耀が俯いたまま顔を上げないのだ。どうしたのかと俯く耀の顔を覗きこもうとした時だった。ポタポタと小さな雫が落ちていた。
「え!? 耀ちゃん!? どうしたの、傷が痛いの!?」
耀の涙に信之助は今までに見たことがないほど狼狽していた。気付けば、他の四人も信之助を責めるような視線を向けていた。流石に楽観的な信之助もどうしていいか分からず言葉を失い始める。
耀自身も自分が分からなかった。ただ、信之助と一緒にいると様々な感情が広がった。楽しかったり、イライラしたり、呆れたり、心配したり、そして……ときどきあたたかくなったり……色んな感情がぐちゃぐちゃで、そしたら涙も出てきた……もう最悪だ。
「よ、耀ちゃん……大丈夫?」
「信之助……」
「は、はい!」
不器用にも励まそうとする信之助に向けて、小さく、だがはっきりと耀は言った。
「勝って……」
「……!」
信之助が傷付く所なんて見たくない、信之助が負けるところなんて見たくない、だから勝って……カッコいい所を私に見せて……。
耀の真摯な視線に射ぬかれ、息を呑む。そして、力強くはっきりと……
「オッケー!」
応えた。
「という訳でお姉さん。この勝負、絶対に勝つゾ!」
「フフッ、出来るものなら……ッ!?」
団長は思わず息を呑む。いや、団長だけではない観客達もノーネームの仲間達も、全員が。先程までとはまるで違う信之助の雰囲気に呑まれた。
(な、なんやこの子……さっきまでとはまるで違うやんか!?)
団長のギフトは想像を実現させるギフト。勿論、一定の範囲内それも幾つかの制限があるが、黒ウサギを操ったのも信之助を上回れたのもこのギフトのお陰だ。観客達には団長が勝利するというイメージが染み付いている。だからこそ少年を圧倒することが出来た。だが、今この少年が放つ威圧感は全てを塗り潰す。団長の今までの勝利を、イメージを。
「いくゾ!」
少年が動き出し、そして消えた。
「ッッッ!!?」
次に襲うは謎の浮遊感、そして……
「お姉さん場外。オラの勝ちね~」
「……………は?」
気が付けばステージの外に居た。少年は少女へと振り返り……
「勝ったよ、耀ちゃん」
「ッッ! うん!」
勝者 野原 信之助。ノーネームが勝利した瞬間だった。