四十三話目です!
団長と信之助の戦いに決着がつくと、信之助が負っていた傷は全てまやかしだったらしくいつの間にか綺麗に消えていた。
(はぁ。始めっから勝負にすらなってなかったんやなぁ)
団長は溜め息をつきながら戦っていた少年の方を見る。少年は今、仲間達と共に勝利の喜びを分かち合っていた。先程少年が放った圧倒的とも言える威圧感をこの身で感じて理解した。少年がその気になりさえすれば何時でも勝つことが出来たのだと。
団長がノーネームの面々を眺めていると少年が此方に気付いた。
「いやー、負けましたわ。名無しにしては骨があるコミュニティやったわ」
「それほどでも~」
少々悔しげに言うと少年、信之助は照れ臭そうに後ろを向きながら頭をかく。そしてこちらに向き直って……笑った。
「お姉さんも凄かったゾ! 痛いのはやっぱり嫌だけど凄かった!」
「ッ!?(はは、こんな時にこんな風に笑うんかい)」
それは勝者としての笑みでもなく強者としての笑みでもない。それはごく普通の少年の笑みだった。自分を傷付けた相手にだ。
「お?」
団長は苦笑しつつも、信之助に向けて手を伸ばす。
「なかなか楽しませてもらったわ。黒ウサギさんも騙してすまなかったなぁ」
「い、いえ、そんな……」
突然の謝罪に戸惑う黒ウサギだったが騙されたのは事実なので受け入れることにした。そして、信之助が握手に応じようと手を伸ばした瞬間、
「アンタ達ならもしかしたらこのサーカスを……」
幻のように消えた。
「お姉さん!?」
「団長さん!?」
「うそ! 消えた!?」
「これって……!?」
消えた団長に困惑すると同時にテントが揺れ始める。地震が起きたように大きく揺れるテントに観客達も騒ぎ始めた。
「お、おい! なんだよ、これ!?」
「俺が知るわけねーだろ!」
「や、やべぇって!! 逃げろー!!!」
身の危険を感じた観客達は次々と転移できる出入口から退避していく。そして、観客の全てが消えると同時にその声は響いた。
「アハハはハはは!! まだマダ終わラセないよウ!」
「こ、この声は!?」
「まさか……」
突如響いた聞き覚えのある声に飛鳥と耀が気付く。
「こコで選手交替! 団長に代わッテボクがオ相手シヨウ」
「「「「「………………」」」」」
ノーネームの前に現れたのは少女漫画に出てきそうな金髪のキラキラとした青年だった。予想の斜め上に行ったその声の正体に沈黙が流れる。すると女性陣が集まりこそこそと話し出す。
「……誰ですか? あの風変わりな方は?」
「知らないわよあんなスルー対象」
「関わらないでおきたい……」
「ウっわ、大不評!?」
丸聞こえな女性陣の評価に、せっかく姿を変えて姿を見せた青年は少なからずショックを受けた。続いて青年を見ていた信之助達が青年に言った。
「おじさん、誰?」
「オじサン!?」
「やっぱり、まだ生きてたか……ねじ切れ太!!」
「誰ダいそれ!? 変なニックネーム付けナイでよッ!?」
「おじさん程変じゃないゾ」
「ボクの方が変なノかい!? 後、ボクはオジさんでもねじ切れ太でモナいピエールだよ!?」
「「うわ、似合わねー」」
「ヒドい! てか君ラさっきまで喧嘩しテタよね!? 仲良すギじゃないかい!?」
先程まで喧嘩していたとは思えない信之助と十六夜の阿吽の呼吸。この箱庭でも滅多に見ないコンビネーションに金髪の青年へと姿を変えた絵の具の
「凄イ! こンナに羨ましクないと思っタノは生マれて始めテダ!?」
「いやーそれほどでも~」
「褒めテなイよコノヤロー!!」
「何だ、まだ居たのかエノグマン?」
「エノグマン!? ナンか格好イイのが腹立ツ! てか帰らナイよ! まだ来たばっかりダヨ!」
「てか野原、こいつにあんま喋らせんな。文字にしたら読みづらそうだからな」
「文字?」
「スッゴい理屈キター! てかまだ話しタイこと話してないんだケド!?」
「ならさっさと話せよな」
「そんなんだから女の子にモテないんだゾ」
「棚上げニモ程があるよ!? せっかく……行方不明者達を連れてキテあげたのにサー!」
「「「「「ッ!?」」」」」
ピエールがそう告げるとピエールの後ろから目の焦点が合っていない人々が大勢姿を表した。信之助と十六夜、そしてツッコミをサボっていた黒ウサギ達もその数の多さに驚愕する。
「サァ、最後のショーを始めヨウ!!!」
◇◇◇
そして、少し時間は遡り……
「…………」
フェルナは静かにテントを眺めていた。歓声も悲鳴も何も聞こえない静寂の中、無表情でただ一人……。
「ふう、やっとついたな。あれがサーカスのテントか……想像以上にでっかいな!」
「ジ、ジンさん大丈夫ですか?」
「ハァハァハァ、だ、大丈夫です」
声が聞こえ振り向くと、テントを見て感心しているレティシアと何故かバテているジンを支えるナナリーが居た。
「貴女達はノーネームの……」
「む? フェルナ、無事だったか。何、黒ウサギが行方不明と聞いてな、私達も探しに来たのだ。所で信之助達は何処だ?」
「皆さんは……明日対策を練ろうって向こうの宿で休んでます。なんでも魔王のコミュニティだったらしくって……」
そう言って、フェルナは宿がある方を指差した。しかし、フェルナの発言にナナリーは首を傾げてしまった。
「明日、ですか? しんさん達がこんな時に?」
「う、うん」
「どうしたんですかナナリーさん?」
首を傾げているナナリーに対しジンもまた首を傾げてしまった。
「だって、しんさん達らしくないと思いまして……」
「え?」
「その通りだ。ジン、そいつの言っていることは嘘だぞ。あの問題児達が明日考えるなど悠長なことするわけがない。特に信之助なんかは他の三人が止めたとしても助けに向かう。そいつは私達を、邪魔者を遠ざけたいだけだ!」
レティシアがテントに触れると同時に影が爪のような形で実体化し、切り裂いた。
「ッ!? これは……」
しかし、レティシアが切り裂いたにも拘わらずテントは瞬く間に傷一つ残すことなく修復された。
「……壊せるわけないじゃん。外からも、内からも……」
「フェルナ、さん?」
フェルナが俯いたまま告げる。突如、雰囲気が変わったフェルナにナナリーもジンも戸惑いを隠せない。
「“ペルセウス”や“グリムグリモワール・ハーメルン”に打ち勝った奴等。そいつらが仲間になれば楽しいだろうなぁって思ってたんだぁ。私達、“トリックスター”の仲間にね。そして……もっともっとこの箱庭を盛り上げるのよ!!」
「フェルナさん、貴女っ!!」
様子が変わったフェルナにナナリーが叫ぶ。しんさん達を騙したのですか、ナナリーはその言葉を呑み込んだ。ナナリー自身、人の事が言える立場じゃないからだ。
「盛り上げる……」
<サーカス楽しみ~>
<あんまはしゃぐなよ野原>
「盛り上げるんだ……」
<わぁ、凄いわね春日部さん>
<うん! 来てよかった……>
「それが私達の……」
<安心しろよフェルナ>
<泥船に乗ったつもりで任せなさい!>
<泥船だと沈んじゃうよ>
<いい加減しなさい貴方達!>
「役目なんだから!!」
「フェルナ、さん……」
まるで自分に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返すフェルナにナナリーは思わず言葉を失った。似ている。それが自分の役目だと使命だと言い聞かせていたかつての自分に。
「“トリックスター”……聞いたことがある。数十年も昔、
レティシアがトリックスターを思い出していた時だった。テントが爆破されたように吹き飛んだのだ。
「な、なにが起きたんですかー!?」
「待てあれは……!?」
爆発したテントの中から飛び出してくる複数の影。その中に……
「十六夜!」
「しんさん!」
「何だ、お前らも来てたのか?」
「あ、ナナちゃん、レティシア、ジンくん、オッヒサー」
「な、何をしてるんですか二人ともー!」
「何って……」
十六夜は静かに後ろを指差す。ジンが十六夜の後ろを覗き込むと……
「大乱闘じゃないですかー!!?」
大勢の人々を耀が、飛鳥が、白夜叉が、黒ウサギが容赦なくぶっ飛ばしていた。白夜叉にいたっては妙にテンションが高い。
「みん……な……」
「フェルナちゃん?」
フェルナの存在に気付いた信之助はその様子に首を傾げる。他のメンバーもフェルナの様子に気付いたらしく、行方不明者の猛攻を防ぎながらこちらに視線を向けている。フェルナは途切れ途切れに言葉を紡いでいく。
「サー……カスに……いかない……チケ……ット……がたま……たま……てに…はいっ……て……みんなと…いこうと……」
「フェルナさん、貴女は!?」
「人形……だったの……」
フェルナの顔が、手が、少しずつひび割れていく。それでも何も持っていない手でチケットを手渡そうとするフェルナの姿はまるで幼子のようで……。
「サー……カスに……行こう……」
「フェルナちゃん……」
信之助はもう動くことも困難なフェルナに近付き、その頭を優しく撫でた。
「フェルナちゃん……チケットありがとう……サーカス楽しかったゾ」
それは本心だった。目を瞑れば鮮明浮かび上がる人々を魅了した曲芸の数々、楽しそうな団員達。だから……
「ありがとう、フェルナちゃん」
……声が聞こえる。誰だろう? もう……何も分からない。ああ、でも、どうしてだろう……とても、懐かしい感じがする。そうだ、ずっと昔に聞いたことがある気がするんだ。だからかな……これだけは言わないといけない気がする。ずっと言ってなかった言葉、ずっと言えなかった言葉……
「ご……らい……じょう……」
フェルナはゆっくりと顔を上げ、そして信之助に向けて小さく……微笑んだ。
「ありがとう、ございましたっ!!」
そこに残っていたのは……小さな……少女の、人形だった。
「フェルナちゃん……」
「信之助! 後ろ!!」
耀の声が飛ぶ。信之助に向けて巨大な瓦礫が投げ飛ばされたからだ。しかし、信之助は振り向かない。迫る瓦礫に背を向けたまま、拳を振り上げ、粉砕する。
「アれ~? もウ壊れちゃっタノ、そいツ?」
声が聞こえる……
「まあ、大分ガタがきてタシ、仕方ナイか。それにソイツ、何時マデも死んダヤつらに執着シテ鬱陶しかッタんだよね~」
嗤う声が……
「あ、君がヨければアゲるよ、その
「てめぇ……」
十六夜が低く唸る。十六夜だけではない他のノーネームの面々全員が怒りの表情で嗤うピエールを見ていた。
「笑うな……」
「はア?」
「フェルナちゃんは……残したかっただけなんだゾ。大切な人が残してくれたものを、大切な人達が居た意味を、フェルナちゃんは……残したかっただけなんだゾ」
「ハァ? 残しタカった? 大切な人? 意味? 馬鹿ナンじゃねぇ? アハハはハハハははは!!」
「笑うなって言ったゾッ!!!」
「ッッッ!??」
呼吸が出来ない、体が震える。全ての大気を押し潰す覇気が、全ての地面を揺らす怒気が、その街全体に放たれた。
「オラの友達をッ!!!」
信之助が激昂する。仲間達も見たことがないほどの怒り。今までの怒りとは桁外れの、圧倒的な怒気。全ての者が理解する。
「馬鹿にするなァァアアアア!!!」
信之助が、ぶちギレた。
やっとここまで来ました。信之助ついにぶちギレ。次回どうなるのか!? 感想お待ちしてます!
ついでに嵐を呼ぶ問題児と関係ないのですが書いてみたい別のやつが七つぐらい貯まってます。近いうちに一つか二つ短編として投稿するかもしれません。もし投稿したらそっちも是非読んでみてください。