嵐を呼ぶ問題児が異世界から来るそうですよ   作:塗る壁

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どうも塗る壁です。

大変お待たせしました嵐を呼ぶ問題児が異世界から来るそうですよ四十四話目です!


トリックスターとの決着だゾ

 ノーネームの仲間達は驚愕していた。あの温厚な信之助がこれ程までの怒りをあらわにしたのは初めてだった。更に信之助が放つ威圧感は殆ど感じたことのない威圧感。あるとすればそれは……

 

(まるであの時の白夜叉みたいだ……)

 

 問題児の誰もが思った。信之助が放つ威圧感は白夜叉が力の差を分からせる為に放った覇気に近いと。

 空気が、建物が、地面が、信之助の怒りに呼応するように震え出す。

 

(でも、何故だろう……)

 

 信之助の威圧感に驚愕すると耀は同時に思った。

 

(白夜叉と違って全然怖くない。それどころか……)

 

 信之助は今も凄まじい威圧感を放っている。だが白夜叉と違って恐怖は感じない。代わりに感じるのは……

 

「……凄い」

 

 思わず声が漏れる。誰もが理解したのだ。これが“英雄”と呼ばれた男なのだと。

 

「行くゾ、エノグマン! っ!?」

 

 刀を構え、ピエールに向けた時だった。数十人もの行方不明者達が信之助の前に立ちはだかる。勿論、信之助が本気を出せば彼等を蹴散らす事など児戯に等しい。だが彼等は操られているだけ、信之助達に敵意を持っているわけではない。だからこそ……信之助は彼(・)等(・)を(・)傷(・)付(・)け(・)る(・)事(・)が(・)出(・)来(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)。

 

 だが──

 

「たく、仕方ねーな」

 

「はぁ、とんだ脇役ね……。まぁいいわ、あのピエロもどきが気に入らないのは私達も同じだもの」

 

「信之助、ここは私達に任せて」

 

 信之助には──

 

「十六夜君、飛鳥ちゃん、耀ちゃん……」

 

 頼れる仲間達がいる。

 

━━しんちゃん、キミは……

 

 あの日、あの時、あの戦いで……

 

━━キミはきっと……

 

 少女は言った。過去を思い出し、信之助は小さく笑う。

 

(そんな事ないゾ……。今までも、これからも!)

 

「何ぼさっとしてんだよ! せっかく俺達がモブの相手をする脇役をしてやってんだ、さっさと主役をやってこい!」

 

 十六夜が不敵な笑みを浮かべ、信之助を叱咤する。

 

「十六夜君! 飛鳥ちゃん! 耀ちゃん!」

 

 信之助は刀を構え、足に力を込める。

 

「頼んだ!」

 

「「「任せろ!」て!」なさい!」

 

 その声と同時にピエールに向けて地を蹴った。

 

◇◇◇

 

 

 

〔ほう。“英雄”として完全に覚醒しているな〕

 

「アハハ、当然でしょ♪ 敵を畏怖させ、仲間を鼓舞する英雄としての覇気。魔王や未熟な十六夜君じゃ出来ない芸当だよ♪」

 

〔まあ、こればっかりは強さじゃなく精神(こころ)の問題だからね〕

 

 少女とその者は信之助の戦いを観戦しながら嬉しそうに会話している。

 

(見せてもらうよ、野原 信之助。“アレ”を宿す君の力を)

 

 その者は密かに笑う。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 駆け出した信之助の前に彼等は立ちはだかる。剣を担いだ雅な剣士が、巨大な槍を振り回す重戦士が、長弓を構えた狩人が、信之助に襲い掛かる。しかし、信之助は減速せず、むしろ加速する。

 

「邪魔はさせないわよ!」

 

「せっかく面白いもんが見れそうなんだからすっこんでろ!」

 

「信之助! 行って!」

 

 飛鳥のディーンが、十六夜の拳が、耀の強風が、信之助の前に立ちはだかる敵全てを吹き飛ばす。信之助は刀を強く握り締め、直進する。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

「こノ……化ケ物めぇエエエエええ!!!」

 

 信之助に気圧されたピエールは自身の足場を液化させ、何十本もの音速を越えた触手の鞭を信之助に向ける。触手の鞭が信之助に当たるその瞬間、一瞬だけ信之助の刀を握る片腕が刀ごと消えた。瞬間放たれるは百何十もの斬撃の嵐。散弾ならぬ散斬が全ての触手を切り刻む。

 

「炎纏化(えんてんか)……」

 

 刀身に深紅の業火が灯る。信之助は高く飛び上がり、ピエールに向けて振り落とす。

 

「火斬噴刀(かざんふんとう) 落下傘(らっかさん)!!」

 

 業火の刃が振り落とされた瞬間、火山の噴火のような火柱が空に昇る。

 

「ハハハハハ! 相変わらずあいつの技には常識ってもんがねぇな!!」

 

 十六夜は非常識な信之助の技を見ながら、面白いものを見たと笑う。

 

「お、終わったの?」

 

「いや、まだだ。おい、白夜叉!」

 

 呆気ない幕切れに茫然とする者達を他所に十六夜は満足げに暴れている白夜叉を呼んだ。

 

「なんじゃ、十六夜?」

 

 不満そうな白夜叉に反して十六夜はニヤリと笑う。

 

「この街、ぶっ壊すぞ」

 

 十六夜は既に敵の正体に感づいていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 

(死ぬノカ、ボクガ?)

 

 まだ一部を失っただけなのにピエールは死を感じていた。理解してしまったのだ。信之助が持つ強大な力を。アレは自分を消滅させる事の出来る存在だと。

 

(いやダ!? イヤだイヤだイヤだイヤだイヤ!!! ボクは箱庭ニ居続ケる! モッとモっと箱庭を!! ドンなことヲしてモ!)

 

 信之助の圧倒的な力に恐怖する。もしここで改心したならばまだ望みがあっただろう。誰かが言った、信之助は鏡だと。良き人には幸運が訪れ、悪い人には不運が訪れる。そして、ピエールにとって最大の不幸は……

 

「「「「おもしろいな~たのしいな~……」」」」

 

(は?)

 

 声が聞こえた。老若男女全ての声が重なりあったような声が……。

 

「「「「もっともっともっともっと!!!」」」」

 

(ヒッ!?)

 

「「「「ヨロコバセロ……」」」」

 

(ギャアアアアアあああアアアアあああ!!!?)

 

 ピエールは意図も容易く……喰い潰された。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ほう、街を壊すとな! ワハハハ、合点承知の助だ!」

 

「オイそれ死語だぞロリババア!」

 

「和気藹々と何をとんでもない事をぬかしておりますかーッ!!! 皆様も何か言ってやってください!」

 

 まるで遊びに誘うが如く、軽い感じで街を壊そうとする二人に驚愕の声を上げる黒ウサギは他の皆に助けを求める、が。

 

「良いのではないか? 私はジンと避難しておくのでな」

 

「レティシア様ー!?」

 

「こっちも大体片付いたしやってみたら……?」

 

「一応何か考えがあるんでしょう」

 

「お二人までーッ!?」

 

 早々に避難したレティシア達やゆるい感じの飛鳥や耀に大きなショックを受ける。黒ウサギは助けを求め、気絶した行方不明者達を骨の兵で運んでいるナナリーに目を向ける。黒ウサギの視線に気付いたナナリーはにっこりと微笑んだ。

 

「皆さんの守りは任せてください!」

 

「違いますよ!? いえ、違いませんけど……でも違いますよう!!」

 

 善意100%の笑みを浮かべるナナリーを黒ウサギは責める気になれずガックリと項垂れる。

 

「街を壊すって街の人達はどうすんの?」

 

「安心しろって野原。お前も感(・)づ(・)い(・)て(・)ん(・)だ(・)ろ(・)?」

 

 十六夜の言葉により信之助は十六夜が言わんとしていることに気付いた。その時だった。

 

「な、何!?」

 

「地震が!?」

 

 突如、街が揺れ始める。突然の地震に驚愕するノーネームの面々。同時に地面の下から呻き声のような叫びが這い上がってくる。

 

「オオオオオ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

「ナナリーさん!?」

 

 その叫び声と共に胸を押さえ踞るナナリーに黒ウサギは慌てて駆け寄る。

 

「十六夜君!」

 

「ああ!」

 

 信之助と十六夜は同時にその方向を睨む。“それ”はヘドロのようなものだった。“それ”は周囲にある建物や瓦礫を巻き込みながら空高く盛り上がる。そして……現れたのは━━

 

「オオオオオオオオオオ……アア、最高ノ気分ダヨ」

 

 無数の瓦礫を鎧のように纏う下半身の無いヘドロの巨人━━ピエールは酔っているような声を漏らしていた。

 

「コレダケノ“力”ガアレバ、ズット箱庭ニ居続ケラレル! モット箱庭ヲ盛リ上ゲル事ガ出来ル! 箱庭ノ全テヲ覆イ尽クセル!」

 

 興奮したように咆哮する。そして、じろりと信之助達を見下ろし、嗤った。

 

「サァ、フィナーレダ!」

 

 100メートルは越えているであろう巨腕を振り落とす。その迫る脅威に対し、両雄は冷静に並び立つ。

 

「確かに最後だな……野原!」

 

「おう! 十六夜君!!」

 

 信之助と十六夜は互いの拳の甲を合わせ、全くの同時にピエールの巨拳に向けて突き出した。

 

「「ハアァァァアアアアアア!!!」」

 

「バ、バカナッ!?」

 

「うそ……」

 

「もう、何でもありね……」

 

「デ、デタラメ過ぎます!?」

 

「ハッハッハッこれは愉快!!」

 

「デタラメだな……」

 

「こ、これがお二人の力……!」

 

「す、凄いです!」

 

 その余りにも現実離れをした光景にノーネームの他の仲間達の殆どが茫然とする。二人の拳の衝撃はピエールの巨腕を貫通し、破壊し、それにとどまらず貫通した衝撃は夜天に浮かぶ巨大な雲を穿ち、霧散させたのだ。

 

(う~ん、十六夜君のは(・)じ(・)か(・)れ(・)る(・)感(・)じ(・)、苦手だゾ)

 

(野原のこの技。さっきの増(・)え(・)た(・)斬(・)撃(・)といい、全く原理が分からねぇ)

 

 十六夜の規格外な力を信之助の非常識な技によって一点に凝縮し、放ったのだ。二人は仕組みを理解している訳ではない。だが、何となくだが分かるのだ。十六夜なら、信之助なら、それが出来ると。

 

「マ、マダダ……マダ……ボクハ……」

 

「決めるぞ、白夜叉!」

 

「よし来た!!」

 

「み、皆さん、衝撃に備えてください!」

 

 笑みを浮かべ、拳と炎を振り落とす二人を見て黒ウサギが慌てて促す。

 

「百骨兵!」

 

 ナナリーの骨の兵が黒ウサギ達や気絶した行方不明者達を守るように囲う。その瞬間、放たれるは熱波を含んだ衝撃波。その熱波に街の風景が塗装の様に剥がれていく。

 

「ア、熱イ! 体ガ燃エル!? マ、マダボクハ!? ボクハマダ!?」

 

 その熱波を受けてピエールの体が燃え始める。だがそれでもピエールは必死に世界にしがみつく。

 

「セメテ! オ前達ダケデモ!!」

 

 ピエールは燃えるもう片方の腕を信之助達に向けて振り落とす。だが━━

 

「諦めろ……」

 

 声が響く。

 

「お前の前に立っているのは……」

 

 ピエールの前には……

 

「英雄だ」

 

 世界を救った少年が立ちはだかる。

 

「ふぅ……」

 

 信之助は刀を、曇天丸を上段に構え、そっと息を吐き出した。

 

(耀ちゃん、飛鳥ちゃん、十六夜君……)

 

 野原 信之助は……我が儘だ。

 

(黒ウサギ、ジン君、レティシア、ナナちゃん、白夜叉……)

 

 助けたいものを助けたいと言い、守りたいものを守りたいと言う。理想を語り、現実に為す。

 

 野原 信之助は我が儘だ。

 

(フェルナちゃん……)

 

──奥義──

 

 刀身に、金色の光が宿る。

 

(こいつはアルゴールの時の、いやそれ以上のッ……!)

 

──真──

 

 太陽に匹敵しかねない光を撒き散らし、今放たれる。それは、信之助が持つ“三大奥義”が一つ。

 

「八雲斬り!!!」

 

 本(・)来(・)の(・)威(・)力(・)を(・)発(・)揮(・)し(・)た(・)八(・)雲(・)斬(・)り(・)。放たれた莫大な光は巨大なピエールを容易く呑み込み、距離にして2キロを越えて爆進し、吹き飛ばす。

 

 トリックスターとの最後の戦いが終わった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どう……シテだ? ボ……クの何が……イケなかっ……た? 何を……間違エた? ボクはタダ……この世界ニ……在り続けタ……かっ……ただけで……もっと……この箱庭ヲ盛リ上げタカった……だけ……ナノに……」

 

「間違えてないゾ」

 

「え?」

 

 いつの間にか目の前にあの少年が居た。

 

「世界に居たいって思いも、盛り上げたいって思いも間違えてなんていないゾ」

 

 でもね、と少年は語る。切なそうに悲しそうにピエールに向けて。

 

「泣く人が居たら、苦しむ人が居たら、全然楽しくないゾ。全然、盛り上がらないゾ」

 

「そう……カ……」

 

 そうか……なんだ……そういうことか……

 

「ねぇ……キミ?」

 

「何?」

 

「ボ(・)ク(・)ら(・)の……サーカスは……楽しカッた……かイ?」

 

「うん、とっても!」

 

「ソウ……か」

 

 それだけだったのだ。簡単な事だったのだ。

 

「ゴメンね……みん……ナ……」

 

 ピエールが消えていく。悪い事をした奴だったけど、酷い事をした奴だったけど……

 

「バイバイ……ピエール……」

 

 その願いはきっと……悪いものではなかったのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「結局あいつの正体って?」

 

「虚栄(ヴァニタス)。おそらく、それがヤツの正体だ」

 

 飛鳥達の疑問に十六夜は予め予想していたピエールの正体について語る。

 

「“空の空(ヴァニタス) 空の空(ヴァトゥーム) 一切は空である(オムニア ヴァニタス)” 旧約聖書“コヘレットの書”の虚無を表す一節に由来した絵画様式。ヤツはその作品群から悪魔として箱庭に生まれ、この滅びたコミュニティに居着き、絵の具で飾り立てた仮初の繁栄で人々を誘い込んでいたんだ」

 

 十六夜は次々とピエールの正体を推理していく。ノーネームの皆は十六夜の知識量と推理に驚きを隠せない。

 

「つまり黒ウサギ達が戦った団員達も皆、奴が再現したもの!? なぜそんな事を……」

 

「それを頼んだ奴が居たんだろう。おそらく、あいつが。とうに滅びたコミュニティの役目を未だ果たそうと、悪魔と手を組んでまで、言葉巧みに人を誘い、手段も選ばず、まだこの世界にあろうとした……」

 

 そう、全ては少女の寂しさが生んだものだった。悪魔もまた少女の願いに同調し、多くの悲劇を生んだ。それは決して許される行いではない。だが、その根幹にあった願いだけは純粋なものであったはずだ。正しいものであったはずだ。だからこそ━━

 

「二人共、最後は寂しくなかったかな……」

 

 二人は最後に気付けたのだ、大切なものを。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 遠く離れたその場所で、少女は静かに空を見上げていた。すると近付いてくる気配に気が付く。

 

「やあ、お帰り♪ “隠(おぬ)”」

 

 少女が声をかけるとドロリとグロテスクなヘドロが浮かび上がり人の形を成す。

 

「どう? 面白かった?」

 

 少女はクスリと笑う。

 

「ああ、おもしろかったおもしろかった、とくにあ(・)の(・)む(・)す(・)め(・)……フ(・)カ(・)ク(・)、(・)ネ(・)ヅ(・)イ(・)テ(・)イ(・)タ(・)……」

 

「そう……」

 

 少女は笑みを深め、腕を広げる。

 

「さあ、プロローグはもうお仕舞い……“隠(おぬ)”」

 

 少女がそう言うと隠と呼ばれたそれはポチャンと地面に溶け、広がっていく。少女は袋を取り出すと紐を解いてばら蒔いた。中を舞う光る欠片、ステンドグラスの欠片が雪のようにゆっくりと降り注ぎ、広がった隠の中へと沈んでいく。

 

「私は事象を書き記す。私は万物を書き描く。私は全てに書き込んだ。創作神話(オリジナリティミソロジー) 第■節━━転生」

 

 少女がそう唱えると沈んだステンドグラスの欠片が禍々しい光を放ち、同時に何かが這い出よう蠢き始める。

 

「これは私の物語だ。これは私達の復讐だ。私の名は……タブラ・ラサ━━“白紙の書き手”タブラ・ラサ!!!」

 

 今、物語が動き出す。




読んで頂きありがとうございました! 今回の話で第三章最終話です。深まる謎、新たな敵の気配、楽しんで読んでいただけたなら嬉しいです!

それと大変勝手ながら他の連載を再開するため、こちらの更新を暫く停止致します。大変申し訳ありません。

これから再開する“武神と大空の出会い”もよろしくお願いいたします!
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