『魔法使いの嫁 × ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 ――魔法使いと魔術師、その隣人たち――』   作:丹波りん

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第23話 懐かしき家

 その視線の先に――一人の女性が立っていた。

 銀色の髪が、風に揺れている。

 その姿を見た瞬間、智世の表情が変わった。

「……エリアス」

 名前を呼ぶ。

 女性――エリアスは、智世のもとへ歩み寄った。

「チセ」

 そして、そのまま智世を抱きしめる。

「無事でよかった」

「……うん」

 智世もエリアスの背に腕を回した。

「おかえり、智世」

「ただいま、エリアス」

 二人の再会を、Ⅱ世たちは少し離れたところから見ていた。

 やがて、ライネスが口元を緩める。

「お熱いことだね」

「ライネス」

 Ⅱ世がすぐに窘める。

「からかうな」

「少しくらい、いいじゃないか」

 その言葉に、智世の頬が赤くなる。

 そんな様子を眺めていたフラットが、ふと首を傾げた。

「……あの」

「何かな?」

「エリアスさんって、女性の方だったんですか?」

 あまりにも率直な問いだった。

「夫だと聞いていたので」

「フラット」

 グレイが小さく声をかける。

「あ、すみません。でも、気になって」

 エリアスは特に気を悪くした様子もなく、フラットを見る。

「そう思うよね」

 そして、自分の姿へ視線を落とした。

「この姿は、学院で講義をするときに使っているんだ」

「学院で……」

 Ⅱ世の目が、わずかに細くなる。

 女性の姿を取っているだけなら、魔術師の側にも似たような術はある。

 しかし、目の前の人物は智世が夫として語っていたエリアス本人だという。

 ならば、これは単なる変装ではなく、肉体そのものを含めた形態の変化なのだろう。

 そう考えれば、この姿にも納得はいく。

 だが、今ここでそれを掘り下げる必要はない。

「……そういうことか」

 Ⅱ世はそれだけを口にした。

 エリアスも、それ以上説明することはなかった。

 エリアスが一行へ向き直る。

「チセとルツがお世話になったんだよね」

「ああ」

 Ⅱ世は一礼した。

「こちらも、色々と興味深い話を聞かせてもらった」

 魔法や魔術についての話。

 魔法機構や、智世が持っていた道具についての話。

 これまでⅡ世たちが知ることのなかった知識は多く、短い時間ながらも興味深いものだった。

「そう」

 エリアスは頷く。

「それでも、ありがとう。チセとルツが無事に帰ってこられたのは、君たちのおかげだから」

「礼を言われるほどのことではない」

 Ⅱ世はそう答えた。

「こちらとしても、得るものは多かった。世話になったのはこちらも同じだ」

 エリアスは少しだけ目を細める。

「なら、よかった」

 それから、エリアスは周囲を見回した。

「ここで話し続けるのもなんだね。ボクの家へ行こう」

「そうしてもらえると助かる」

 一行はエリアスの案内で、道を進み始めた。

 道幅は広くない。

 両側には低い石垣が続き、その向こうを細い水路が流れている。

 水の流れる音が、静かな道に小さく響いていた。

 人の姿は見えない。

 時折、風が木々の葉を揺らす音が聞こえるだけだった。

「随分と静かなところだね」

 ライネスが周囲を眺めながら言う。

「うん。この辺りはあまり人が来ないから」

 エリアスは振り返らずに答えた。

 道の先には、遠くなだらかな山の稜線が見えている。

 ロンドンの街中とはまるで違う景色だった。

 しばらく歩くと、道が水路を横切る場所に差しかかった。

 そこには、細い板を渡しただけの簡素な橋が架かっている。

 エリアスが先に渡り、智世とルツが続く。

 その後ろからⅡ世たちも橋を渡った。

 板が足元で小さく軋む。

 橋を渡った先には、さらに細い道が続いていた。

 道の両側にあった石垣は次第に途切れ、代わりに木々が近くなる。

 進むほどに森が深くなっていく。

 やがて、木々の向こうに建物の一部が見えた。

 智世が足を止める。

「……」

 見慣れた景色だった。

 森の中に建つ、石造りの家。

 急な勾配の屋根からは煙突が伸び、壁には蔦が絡んでいる。

 窓の向こうには、木々の隙間から柔らかな光が覗いていた。

 周囲の森と家が一続きになったような、静かな佇まいだった。

「……あれが」

 グレイが小さく呟く。

「うん」

 エリアスが振り返った。

「エインズワース邸だよ」

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