『魔法使いの嫁 × ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 ――魔法使いと魔術師、その隣人たち――』   作:丹波りん

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第4話 魔法使いの鞄

 朝の光が、カーテンの隙間から部屋の中へ差し込んでいた。

 智世は、ぼんやりとした意識の中でゆっくりと目を開ける。

 見慣れない天井が目に入った。

 数秒ほど、その意味が分からないまま天井を眺めていたが、

 やがて昨夜の出来事が一気に蘇ってくる。

 知らない部屋。

 そこで出会った、三人の魔術師。

 自分を守ろうとしたルツ。

 そして、ここが自分の知っている場所ではないという事実。

 「……そうだった」

 小さく呟き、智世は身体を起こした。

 まだ少し眠気が残っている。

 それでも、昨日のことを思い出してしまえば、もう一度眠る気にはなれなかった。

 隣を見る。

 そこには、すでにルツがいた。

 黒い毛並みを整えるように身を動かしながら、静かに部屋の様子を窺っている。

 昨夜と同じように、周囲への警戒は解いていない。

 「ルツ、おはよう」

 「おはよう、チセ」

 返事はいつも通りだった。

 ただ、その声には普段より僅かに緊張が混じっているように聞こえる。

 智世も、それを感じ取っていた。

 ここが安全なのかどうか、まだ分からない。

 昨日出会った三人が敵ではないことは何となく分かっている。

 それでも、突然知らない場所へ来てしまった以上、慎重になるのは当然だった。

 智世はベッドから降り、朝の支度を始める。

 顔を洗い、髪を整える。

 荷物は昨日、Ⅱ世に預けたままだったため、

 いつものように鞄から必要なものを取り出すことはできない。

 それでも、身支度そのものはなんとか整えることができた。

 ルツはその間も、部屋の中を静かに見回していた。

 「まだ気になる?」

 智世が尋ねる。

 「まあな。昨日の今日だから」

 「そっか」

 智世は苦笑した。

 自分も同じだった。

 少しずつ慣れていくしかない。

 そう考えていると、部屋の外から控えめな音が聞こえてきた。

 コン、コン。

 智世とルツが同時に扉へ目を向ける。

 「はい」

 返事をすると、しばらくして扉の向こうから声がした。

 「智世さん、失礼します」

 聞き覚えのある声だった。

 グレイだ。

 扉が開き、グレイが姿を見せる。

 その手には、朝食の載ったトレイがあった。

 「おはようございます」

 「おはようございます、グレイさん」

 「おはよう」

 ルツも短く挨拶する。

 グレイは小さく会釈を返した。

 「朝食をお持ちしました。昨日は突然のことで、

  落ち着いて食事をする時間もなかったと思いますので」

 「ありがとうございます」

 智世は素直に礼を言った。

 グレイがテーブルへトレイを置く。

 そこには、パンや卵、それに温かい飲み物などが用意されていた。

 もう一つ、床へ置かれた器には別の食事が入っている。

 智世が目を向けると、それはどう見ても犬用の食事だった。

 「あ……」

 智世は思わず声を漏らした。

 グレイが不思議そうに振り返る。

 「どうかしましたか?」

 「いえ、その……」

 そこで智世は、ようやく思い出した。

 昨日、自分はルツが人の姿になれることを説明していなかった。

 突然の出来事が続いたせいで、そこまで話す余裕がなかったのだ。

 「グレイさん」

 「はい」

 「ルツなんですけど……」

 智世が言い終える前に、ルツが口を開いた。

 「チセ、オレがやる」

 「え?」

 ルツは犬の姿のまま、智世の方へ一度だけ視線を向ける。

 それから、静かに立ち上がった。

 黒い身体を包む空気が、わずかに揺らぐ。

 次の瞬間、その姿が変わった。

 四つ足の身体がゆっくりと形を変え、黒い毛並みが人の輪郭へと収束していく。

 やがてそこに立っていたのは、黒い髪を持つ青年の姿だった。

 グレイが目を見開く。

 「……」

 声が出ない。

 ルツはそんなグレイを見ながら、淡々と言った。

 「オレは人の姿にもなれる」

 「……そう、だったのですね」

 グレイは驚きを隠せない様子だったが、すぐに視線を食事へ向けた。

 そして、少し申し訳なさそうに口を開く。

 「でしたら、食事を変えましょうか?」

 ルツは床に置かれた器へ目を向けた。

 「別にいい」

 「ですが……」

 「犬の姿で食べればいいだけだ。気にしてない」

 そう言って、ルツは再び犬の姿へ戻った。

 その動作も、まるで何事もなかったかのように自然だった。

 グレイはしばらくルツを見ていたが、やがて小さく頷く。

 「分かりました」

 「ごめんなさい。昨日、説明するのを忘れていて」

 智世が頭を下げる。

 「いえ。昨日はあれだけのことがありましたから、仕方がないと思います」

 グレイは穏やかに答えた。

 「それに、食事については次から気を付けますので」

 「ありがとうございます」

 智世は微笑んだ。

 ルツは器の前に座ると、特に気にした様子もなく食事を始めた。

 智世も席につき、朝食へ手を伸ばす。

 昨夜までの緊張が完全に消えたわけではない。

 それでも、こうして朝食を用意してもらい、

 普通に食事をしていると、ほんの少しだけここでの時間が現実のものとして感じられた。

 食事の間、グレイは必要以上に話しかけることはなかった。

 智世も無理に会話を続けようとはしない。

 ただ、静かな朝の時間が流れていく。

 やがて食事が終わると、グレイは空になった食器を片付けた。

 「ありがとうございました」

 「いえ。昼食の時間になりましたら、また何かお持ちします」

 「お願いします」

 グレイは一礼し、部屋を出ていった。

 扉が閉まる。

 部屋の中が再び静かになった。

 智世は椅子に座ったまま、しばらく扉を見ていた。

 「……昨日よりは、少し慣れたかな」

 「まだ油断はするなよ」

 「うん」

 ルツの言葉に、智世は素直に頷いた。

 朝食を終えたばかりの部屋には、まだ温かな空気が残っていた。

 智世は窓の外へ目を向ける。

 朝の街は、昨夜とは違って明るい。

 それを眺めているうちに、少しずつ身体の緊張も解けていった。

 ルツも近くに座り、窓の外と部屋の中を交互に見ている。

 そうして二人で静かに過ごしていると、やがて再び扉を叩く音が聞こえた。

 今度は、先ほどよりもしっかりとしたノックだった。

 智世が顔を上げる。

 「はい」

 返事をすると、扉が開いた。

 そこに立っていたのはグレイだった。

 その後ろには、エルメロイⅡ世とライネスの姿もある。

 「おはよう、智世」

 ライネスが、いつものように軽い調子で声を掛ける。

 「おはようございます」

 智世が立ち上がる。

 Ⅱ世は部屋の中へ入り、智世とルツへ視線を向けた。

 「昨夜は眠れたかね」

 「はい。おかげさまで」

 「それならいい」

 グレイも続いて部屋へ入り、扉が静かに閉じられる。

 昨日とは違う朝の光の中で、四人は向かい合った。

 これから、昨日の夜にはまだ聞けなかったことについて、話をすることになる。

 

 *

 

  Ⅱ世は部屋の中を一度見回してから、智世へ視線を戻した。

 「まずは、預かっていた荷物を返そう」

 そう言って、Ⅱ世は手にしていた鞄へ目を向ける。

 昨日、智世がこの部屋へ現れた直後に預かったものだった。

 智世も鞄へ視線を落とす。

 「ありがとうございます」

 「ただし、その前に一つ確認させてほしい」

 Ⅱ世の声が少しだけ改まった。

 「中身を一つずつ確認したい。君が何を持っていたのか、それを把握しておく必要がある」

 昨日の夜、Ⅱ世は鞄を勝手に開けなかった。

 確認するなら、智世本人の了承を得てからだと考えていたのである。

 「構わないかね」

 「はい。私も、ちゃんと説明したほうがいいと思います」

 智世は素直に頷いた。

 「助かる」

 Ⅱ世は鞄をテーブルの上へ置いた。

 ライネスとグレイも、その中身を確認できる位置へ移動する。

 ルツは智世のそばに座ったまま、静かに様子を見ていた。

 Ⅱ世が鞄を開く。

 最初に取り出されたのは、一冊の手帳だった。

 表紙には特別な装飾もない。

 だが、開かれたページを見た瞬間、Ⅱ世の目が止まった。

 そこには細かな文字とともに、いくつものスケッチが描かれている。

 人のような姿をしたもの。

 羽を持つ小さなもの。

 植物や動物を思わせる姿をしたもの。

 その周囲には、それぞれについての記述が添えられていた。

 どのような場所に現れるのか。

 どのように接すればいいのか。

 何を嫌い、何を好む傾向があるのか。

 姿だけでなく、周囲の環境や特徴、時には接した際の反応まで細かく記録されている。

 「これは?」

 「精霊や妖精について書いたものです」

 智世が答える。

 Ⅱ世はもう一度、ページへ目を落とした。

 「……君が書いたのかね?」

 「はい。実際に見たものや、エリアスに教えてもらったことをまとめています」

 「実際に見たもの、か」

 Ⅱ世の指が、ある頁の端で止まった。

 そこには一体の小さな存在について、姿形だけではなく、

 現れた場所や周囲の状況、近づいた際の反応まで記されている。

 単に文献から知識を得て書いた記録ではない。

 少なくとも、実際にそれらと接した経験がなければ、ここまで具体的にはならないだろう。

 「……随分と身近な存在として書かれているな」

 「そうですか?」

 智世は不思議そうに首を傾げた。

 「家の周りにもいますし、一人でいると、向こうから近づいて来ることもありますので」

 その答えに、Ⅱ世は僅かに目を細めた。

 精霊や妖精が存在すること自体は、時計塔の魔術師にとって未知の話ではない。

 しかし、こうして一人の少女が、まるで身近な生き物を観察するように記録している。

 それがⅡ世には気になった。

 「……そうか」

 Ⅱ世はページをめくる。

 記録は一つや二つではない。

 かなりの数が書き留められている。

 「これだけの数を、実際に?」

 「はい」

 「そう簡単に会えるものなのかね?」

 思わず口から出た問いに、智世は少し考える。

 「場所によると思います。でも、私の周りには結構います」

 Ⅱ世は黙った。

 知識として知っていることと、実際に日常の中で接していることは違う。

 その違いが、この手帳にははっきりと表れている。

 ライネスも横からページを覗き込み、感心したように呟いた。

 「これは確かに興味深いね。単なる魔術的な資料の写しではない」

 「ああ」

 Ⅱ世は頷く。

 「本人の観察記録だ。しかも、かなり長い期間にわたっている」

 「忘れないようにしているだけです」

 智世が答える。

 「これを『だけ』で済ませるのかね……」

 Ⅱ世の呟きに、ライネスが小さく笑った。

 「少なくとも、普通の学生が持ち歩いている手帳には見えないね」

 「……普通のものも入っていますよ」

 智世が少し困ったように答える。

 Ⅱ世は手帳を閉じ、次の品へ手を伸ばした。

 出てきたのは筆記用具だった。

 鉛筆やペン、それからいくつかの消耗品。

 それらを確認したⅡ世は、今度は特に反応を示さず、元の場所へ戻す。

 「これは問題ないな」

 「はい」

 続いて、何冊かの本が取り出された。

 表紙を確認したⅡ世が、眉を上げる。

 「教科書か」

 「カレッジの授業で使っているものです」

 智世は一冊ずつ説明していく。

 一般的な教科に使う教科書。

 そして、魔法に関係する内容を扱った書物。

 Ⅱ世は一般教科の教科書を確認したあと、魔法関係の本を手に取った。

 ページを数枚めくる。

 その表情が、先ほどまでとは僅かに変わった。

 「……これも君が使っているのかね」

 「はい」

 「カレッジで?」

 「そうです」

 「なるほど……」

 Ⅱ世は本を閉じた。

 魔法について学ぶ学生が、それに関する書物を持っていること自体は不自然ではない。

 だが、智世が昨日口にしていた

 「魔法使い」という言葉については、まだ分からないことが多かった。

 その疑問を胸に残したまま、Ⅱ世は次の品へ手を伸ばす。

 そして、そこで手が止まった。

 鞘に収められた一本のナイフだった。

 Ⅱ世は慎重にそれを手に取る。

 「これは?」

 「ナイフです」

 「それは見れば分かる」

 Ⅱ世は僅かに呆れたように言った。

 「問題は、何でできているのかということだ」

 智世はナイフへ目を向けた。

 「海鋼岩です」

 「……海鋼岩?」

 ライネスが聞き返す。

 「月晶花の水で鍛えたものです」

 その言葉を聞いた途端、Ⅱ世の表情が変わった。

 グレイも、思わずナイフへ視線を向ける。

 「月晶花の水で……鍛えた?」

 「はい。アンジェリカさんが作ってくれました」

 智世は、ごく自然に答えた。

 Ⅱ世はナイフを見つめたまま、しばらく黙っていた。

 問題なのは、ナイフそのものだけではない。

 海鋼岩という素材。

 それを月晶花の水で鍛え、ナイフとして仕上げているという事実。

 そして、それほどの品が、智世にとっては特別なものでもないらしいことだった。

 「……君は、これを普段から持ち歩いているのかね?」

 「はい」

 智世が頷く。

 Ⅱ世はナイフを鞘へ収め直した。

 それから、鞄の中へ視線を落とす。

 「まだあるのかね?」

 「はい」

 智世が答える。

 次に取り出されたのは、一着の外套だった。

 「これは外套です」

 「それは分かる」

 Ⅱ世は外套を広げ、布地を確認する。

 「素材は?」

 「鳴神鳥の羽です」

 「……鳴神鳥」

 Ⅱ世の眉が僅かに動いた。

 その名と素材から考えれば、これもまた普通の衣類として扱えるものではない。

 ライネスも外套へ目を向ける。

 「まさか、これも普段着なのかい?」

 「普段使っています」

 智世は何の気負いもなく答えた。

 ライネスが外套を見つめる。

 「……随分と贅沢な使い方をするね」

 「そうですか?」

 「そうだとも」

 ライネスは笑ったが、その目は外套から離れない。

 Ⅱ世も同様だった。

 「これも、鞄に入れて持ち歩いていたのかね?」

 「はい」

 「……」

 Ⅱ世は一瞬、言葉を失った。

 鞄の中へ丁寧に畳まれていたとはいえ、幻想種に由来する素材を使った外套である。

 それが学生の持ち歩く荷物の一つとして、他の教科書や筆記用具と一緒に入っている。

 時計塔の魔術師からすれば、どうにも感覚が噛み合わない。

 「これもアンジェリカさんに作ってもらったものです」

 智世が付け加える。

 Ⅱ世はその名前を聞き、外套へ向けていた視線を智世へ戻した。

 「……そうか」

 次に取り出されたのは、折り畳まれた皮だった。

 「これは?」

 「水棲馬の皮です」

 グレイが小さく目を見開く。

 「水棲馬……」

 Ⅱ世も、その名前を反芻するように呟いた。

 皮の状態を確認する。

 こちらも幻想種に由来する素材であることは、名称からも推測できる。

 「これも、君が使うものなのかね」

 「はい。いろいろ使い道があるので」

 「……そうか」

 Ⅱ世は皮を見つめた。

 そして、何気なく鞄へ視線を移す。

 「これも、鞄の中に?」

 「はい」

 「……他のものと一緒に?」

 「はい」

 あまりにも迷いのない返答だった。

 Ⅱ世は小さく息を吐いた。

 「君は、随分と物の扱いが大らかだな」

 智世は少し困ったように笑った。

 「ちゃんと包んではありますよ」

 「そこではない」

 ライネスが横から楽しそうに口を挟む。

 「兄上が言いたいのは、そもそもそんなものを学生の鞄に入れて持ち歩いていることだろう?」

 「……そういうことだ」

 続いて鞄から出てきたのは、細い糸の束だった。

 「鋼蔦の糸です」

 「鋼蔦……」

 Ⅱ世の視線が細い糸へ集中する。

 ライネスも覗き込む。

 「これもまた、随分と聞き慣れない素材だね」

 Ⅱ世は糸を確認した。

 細い。

 しかし、その名が示す性質を考えれば、単なる繊維として扱えるものではない。

 「これも、アンジェリカという人物が?」

 「はい」

 その答えに、Ⅱ世はまた黙った。

 そして最後に取り出されたのは、小さなルーペだった。

 「これは?」

 「蛍石のルーペです」

 Ⅱ世はルーペを手に取る。

 蛍石そのものが珍しいわけではない。

 加工されたルーペを確認すると、今度は特に驚いた様子を見せず、元へ戻した。

 「これは普通に実用品ということか」

 「はい。細かいものを見るときに使います」

 「そうか」

 テーブルの上には、智世の手帳や教科書、筆記用具、それからいくつもの道具が並んでいる。

 一般的な学生の持ち物と呼べるものもある。

 だが、その中に混じっている品々は、Ⅱ世たちが普段目にするものとは明らかに違っていた。

 特に問題なのは、それらが一点だけではないことだった。

 幻想種に由来する素材。

 特殊な性質を持つ素材。

 それを加工して作られた実用品。

 そして、それらが智世にとっては「必要だから持っているもの」という程度の扱いである。

 Ⅱ世はテーブルの上を見渡した。

 「……これで全部かね」

 「はい。たぶん……」

 「そうか」

 Ⅱ世は一度頷いた。

 そして、少し考えてから尋ねる。

 「では、最後に一つ。これらの品は、どこで手に入れたのかね?」

 智世は少し考えてから答えた。

 「アンジェリカさんのお店です」

 「店?」

 「はい。エリアスが買ってくれました」

 智世はテーブルの上の品々へ目を向ける。

 「私に必要だと思ったものを、アンジェリカさんが用意してくれたんです」

 Ⅱ世は黙って、並べられた品々を見た。

 これほどの素材を扱い、それを実際に加工している。

 しかも、それを店として提供しているという。

 ナイフも、外套も、糸も。

 それぞれ異なる素材を使いながら、必要な形に仕上げている。

 「……アンジェリカという人物が、これらを用意しているのかね?」

 「はい」

 「素材を手に入れるだけではなく、加工まで?」

 「そうです」

 智世は頷いた。

 Ⅱ世の表情から、僅かに思考の色が濃くなる。

 その人物について、まだ何も知らない。

 だが、少なくとも簡単に扱える素材ではないものをいくつも用意し、

 道具として仕上げ、店で扱っている。

 それだけでも十分に気になる存在だった。

 そして、もう一つ。

 智世が昨日口にしていた「魔法使い」という言葉についても、

 Ⅱ世はまだ納得のいく説明を得ていない。

 彼女が言う「魔法」とは何なのか。

 時計塔で知られている魔術と、どこが違うのか。

 その疑問も、まだ残ったままだ。

 Ⅱ世は静かに智世へ視線を向けた。

 「……いくつか、聞きたいことが増えたようだ」

 「はい」

 智世も、その視線を受け止める。

 「まずは、君の言う『魔法使い』について聞かせてもらおうか」

 「魔法使い、ですか?」

 「ああ。昨日も君はそう名乗っていたが、私はまだその意味を正確には理解していない」

 Ⅱ世は一度言葉を切った。

 「それから、アンジェリカという人物についても聞きたい」

 智世は静かに頷いた。

 「分かりました」

 昨日から残されていた疑問についての話が、ここから始まろうとしていた。

 

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