『魔法使いの嫁 × ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 ――魔法使いと魔術師、その隣人たち――』   作:丹波りん

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第44話 力の顕現

グレイは、迫り来る合成獣を大鎌で引き裂きながら、フラットたちの元へと駆けていた。

付近で苦戦している生徒がいれば、通りすがりに援護する。

一体を斬り伏せ、別の生徒へ襲い掛かろうとしていた合成獣を薙ぎ払う。

「ありがとうございます!」

背後から聞こえる感謝の声を受けながらも、グレイは足を止めなかった。

視線の先では、フラットたちが徐々に追い込まれている。

遠目からでも、それははっきりと分かった。

「……急がないと」

さらに脚を速める。

だが、そのときだった。

視界の端に、見覚えのある姿が映った。

「……智世さん?」

グレイが足を緩める。

そこにいたのは、智世だった。

しかし――どこか様子がおかしい。

普段なら周囲の状況を確認しながら冷静に対処しているはずなのに、

今の智世はただ目の前の合成獣を倒し続けている。

その動きには、どこか野生動物的なものさえあった。

そして、さらに奇妙なことが起きた。

付近にいた合成獣が、智世の姿を認めた瞬間、グレイへの攻撃を中断したのだ。

獣たちは一斉に踵を返し、智世へ向かっていく。

「……?」

グレイは思わず足を止めた。

《夜の愛し仔》の性質。

もしかしたら、それは合成獣にまで及んでいるのかもしれない。

だが、それ以上に問題なのは――。

智世の周囲には、他の生徒が一人もいない。

完全に孤立している。

あの数の敵を一人で相手にするのは危険だ。

グレイは反射的に智世の方へ向かおうとした。

しかし、その脳裏にフラットたちの姿が浮かぶ。

「……拙は、どうすれば……」

智世を助けるべきか。

それとも、フラットたちへの援護を優先するべきか。

迷いは判断を鈍らせ、グレイの脚を重くした。

その横を、一人の人影が駆け抜けていく。

「俺はアイザックたちの元へ向かう。グレイはチセを頼んだ!!」

リアンだった。

グレイが振り向くより早く、リアンは剣を抜く。

姿勢を低くし、そのまま弾丸のように戦場を駆けていった。

その背中を見送り、グレイは決める。

「……はい!」

自分が向かうべき場所は決まった。

グレイは智世の元へと走り出した。

 

***

 

辿り着いた先は、酷い有様だった。

地面には合成獣の亡骸が多数横たわり、辺り一面が血に染まっている。

周辺の大地が、すべてが赤黒く汚れていた。

その中央に――智世が立っていた。

俯いたまま、微動だにしない。

「智世さん。大丈夫ですか?」

グレイが声を掛ける。

返事はない。

ただ、俯いたまま、何かを呟いている。

「……」

耳を澄ませても、何を言っているのかまでは聞き取れない。

やはり、普段の智世ではない。

グレイは警戒しながら距離を詰めた。

このままでは危険だ。

一度、結界の外へ連れ出した方がいい。

「智世さん、聞こえますか? ここは危険です。一度、外へ出ましょう」

そう言って、グレイは智世の腕へ手を伸ばした。

その瞬間だった。

視界に、それが映った。

指先から肩まで。

まるで何かに侵食されているかのように、左腕が黒く染まっている。

皮膚の下では、何かが脈打っていた。

「……これは……」

明らかに異常だった。

このまま放置していいものではない。

学院の医務担当者か、それとも師匠に診てもらわなければ。

そう判断して、グレイは智世の手を取ろうとした。

そのとき――。

智世が、ゆっくりと顔を上げた。

「……っ!?」

視線が重なる。

その瞬間、グレイの身体が反射的に後ろへ跳んだ。

一気に距離を取る。

「……」

智世の瞳。

普段の彼女なら、明るい新緑を思わせる色をしている。

だが、今そこにあるのは――。

落ち窪んだ穴。

瞳というよりも、深い《孔》を覗き込んでいるような、歪な色だった。

『おい、グレイ。さっさと逃げろ』

いつものような揶揄う声ではなかった。

アッドの声にも、明らかな警戒が滲んでいる。

グレイは無意識に柄を強く握った。

あの瞳は何だ。

あれは、グレイがこれまで戦ってきた霊魂や悪霊とは明らかに違う。

もっと根深く、もっと異質なもの。

「……呪い……」

その言葉が、自然と口から零れた。

あれは呪いだ。

少なくとも、グレイにはそう感じられた。

しかも、自分が知る呪いとは一線を画す何かだった。

 

***

 

「……っ、まだかい、フラット!?」

ヴァイオレットが叫ぶ。

キメラの爪先が横切った。

紙一重で躱したものの、勢いに押されて体勢を崩しかける。

だが、ヴァイオレットは咄嗟に武器を地面へ突き刺した。

柄を軸に身体を回転させ、独楽のように身を捻る。

そのまま攻撃の勢いを流し、再び地面へ着地した。

「そろそろ厳しいかも!」

ジャスミンが蛇頭の攻撃を切り上げる。

だが、使っていた短剣は半ばから折れていた。

こびり付いた血が刃の切れ味を鈍らせている。

それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。

リアンも山羊頭へ狙いを定めて斬り込む。

しかし、急所を狙った一撃は見えない障壁に弾かれた。

「……硬いな。ファビオ講師も、中々厄介なものを作るもんだ」

「感心してないで何とかしろ、リアン!!」

アイザックが叫ぶ。

フラットへ近づこうとする合成獣を大斧で蹴散らしながら、

さらに別の個体へ向き直った。

「そうはいってもな」

リアンは苦笑する。

連続して戦闘をこなしてきた。

体力も魔力も、すでに限界が近い。

双子も、アイザックも、リアンも。

そして、フラット自身も。

そのときだった。

「……よし」

フラットが小さく呟いた。

彼の魔術が、ついに山羊頭へ干渉した。

キメラの三つの頭が、一斉に動きを止める。

次の瞬間――。

獅子が何もない空間へ爪を振り下ろした。

蛇頭が、存在しない敵へ牙を剥く。

そして、蛇の頭はついに山羊頭へと咬みついた。

「メ゙ェェェェ!?」

山羊頭が苦しげな声を上げる。

キメラの各頭部が、互いを敵と認識してしまっている。

その混乱を見て、フラットは確信した。

 

       「【観測完了(ゲームオーバー)】」

 

「よし、今です、皆さん!! 攻撃を集中してください!!」

「やるじゃないか!」

ヴァイオレットが笑う。

「……リアン、止めは任せた!!」

双子が同時に駆けた。

二人は獅子の両側へ回り込み、それぞれの短剣を両目へ突き刺す。

「グオォォォォォ!!」

獅子が咆哮を上げ、暴れ回る。

だが、リアンは動じなかった。

混乱するキメラの身体、その奥にある核だけを見据える。

リアンは指先を切った。

滴った自身の血を剣へと纏わせる。

そして、静かに詠唱を紡いだ。

 

「【旧き牡牛 涙の国の君主よ

   始まりの子の血を持って

  赤き湖を涸らし 不義の根を断て】」

 

一歩、踏み込む。

山羊頭を斬り落とし、そのまま身体の奥へ剣を突き立てた。

刃が、核を貫く。

「……っ!」

リアンはすぐに距離を取った。

直後、キメラの巨体が大きく揺らぐ。

それでもなお、しばらくの間はその場で暴れ続けていた。

やがて――。

最後の咆哮が戦場へ響き渡る。

巨体が地面へ倒れた。

誰も声を上げなかった。

全員が、荒い呼吸を繰り返しながら倒れたキメラを見つめている。

そして、ようやく。

「……やった……」

フラットが膝に手をつく。

「……僕たちの勝利だ!!」

雄叫びとともに両腕を上げる。

だが、その身体は限界を迎えていた。

後ろへ倒れそうになったところを、双子が慌てて支える。

「凄いじゃん、フラット!!」

「他者の魔術に干渉するなんて、中々できないよ!!」

双子に頭を撫で回されながらも、フラットはやり切った笑顔を浮かべていた。

「……あぁ、疲れた……」

アイザックも大きく息を吐く。

「帰ったら親父の説教が待ってると思うと……」

その言葉に、双子が顔を見合わせる。

「私たちも説教されるから」

「仲間だよ、アイザック」

「……慰めになってねぇよ」

それでも、誰もが笑った。

リアンはフラットへ向き直る。

「……フラット」

その表情には、僅かな苦さが浮かんでいた。

「本来、護衛対象である君を戦闘に巻き込んだばかりか、援護まで頼むとは

  ……我ながら情けない姿を晒した」

一度言葉を切り、リアンは手を差し出した。

「だが、君のおかげで全員が無事だ。君の勇気に敬意を示す」

フラットは笑顔で、その手を握り返した。

「はい!」

全員が、ようやく張り詰めていたものを解いた。

互いの健闘を讃え、戦いを終えた――。

 

その空気を打ち破る声が響く。

「……お前ら、青春ごっこは結構だが、油断しすぎだ」

全員が振り向いた。

そこには、呆れたような顔をしたファビオが立っていた。

「……言ったろ? キメラを舐めすぎだって」

その瞬間、背後で何かが立ち上がる気配がした。

Ⅱ世の目が見開かれる。

「……まさか」

「おいおい、冗談だろう?」

ライネスも表情を変えた。

ファビオは肩を竦める。

「キメラは合成獣の中でも上物だ。それに俺が調整したものだぞ」

その口元に、僅かな笑みが浮かぶ。

「核が一つなわけがないだろうが」

確かに、核は一つだった。

リアンの手によって、完全に破壊されたはずだ。

だが――。

仮死状態へ移行したキメラの体内では、すでに別の核が鼓動を刻んでいた。

失われたはずの魔力が、再びその身体へと集まり始める。

「……そんな!?」

フラットが声を上げる。

「「ふざけんな、クソ講師!!」」

「……あぁ、畜生」

アイザックも頭を抱えた。

リアンだけが剣を握り直し、立ち上がろうとする。

だが――。

身体が動かない。

残っている魔力も、体力も、ほとんどない。

それでも守護の一族たる者、最後まで抗うべきだ。

リアンはふらつきながらも立ち上がり、全員を庇うように一歩前へ出た。

完全に立ち上がったキメラが、こちらを見据える。

その視線が、ふと別の場所へ向いた。

「……?」

リアンがその先を見る。

「……っ!?」

そこにいたのは――智世とグレイだった。

「させるかっ!!」

リアンが駆け出す。だが、身体が追いつかない。

キメラは立ち塞がったリアンを弾き飛ばし、そのまま智世たちへ向かって駆けていった。

「リアンさん!!」

フラットが叫ぶ。

「そんな……智世さん! グレイ!!」

他の仲間たちも後を追おうとする。

しかし、誰一人として身体を動かせなかった。

すでに、戦える状態ではない。

双子は悔しそうにキメラの背中を睨みつけている。

「おいっ!! 止めさせろ! 既に戦える状態ではない!!」

Ⅱ世がファビオへ詰め寄る。

「君、正気かい? このことは後で学長に報告させてもらうよ」

ライネスも鋭い視線を向ける。

しかし、ファビオは聞く耳を持たなかった。

「おいおい、少しあの嬢ちゃんを試すだけだって」

「ヤバくなったら止めるからよ」

その言葉に、Ⅱ世の顔がさらに険しくなる。

すでにルツは駆け出していた。

「チセ!!」

だが、距離がありすぎる。

間に合わない。

Ⅱ世が今にもファビオへ掴み掛からんとするのを、ライネスが制止する。

それでもファビオの視線は戦場から離れない。

正確には――グレイへと向けられていた。

 

***

 

キメラの巨体が、こちらへ向かって駆けてくる。

体表の傷が徐々に塞がっていく。

失われた肉が繋がり、完全な姿へと戻りつつあるのが、遠目からでも分かった。

「っ!? ……智世さん! ……アッド!!」

グレイが大鎌を構える。

『おいおい、正気かグレイ。そんな奴、放って逃げようぜ』

「黙ってて!!」

普段のグレイからは考えられないほどの焦燥が滲んでいた。

アッドはそれ以上何も言わなかった。

グレイの意思を感じ取ったのだ。

大鎌を構え直す。狙うのは、キメラの核。

だが、今のグレイには魔力がほとんど残っていない。

アッドの封印すら、完全には解けない。

それでも、そんなことを気にしている場合ではなかった。

チャンスは一度きり。

これを逃せば、二人とも大怪我では済まない。

冷たい汗が頬を伝う。

グレイは意識を研ぎ澄ませた。

獅子が咆哮を上げる。

「……っ!」

グレイが大鎌を振り抜こうとした、その瞬間だった。

蛇の尾が伸びる。

大鎌へ巻き付き、その軌道を強引に逸らした。

「そんな!?」

キメラの巨体がグレイを弾き飛ばす。

地面を何度も転がり、土煙が舞い上がった。

「……っ」

グレイはすぐに立ち上がろうとする。

だが――間に合わない。

キメラの獅子頭が、智世へ向き直った。

「智世さん!!」

振り上げられた爪が迫る。

その光景が、智世の瞳に映った。

「……ぁ」

鮮血が、咲いた。

 

***

 

誰も、言葉を発しなかった。

辺り一面に肉片が飛び散っている。

原型すら残っていない。

雨のように降り注いだ血飛沫が、大地を赤く染めていた。

振り抜かれた《異形の腕》。

その爪先から、未だに血の雫が滴っている。

肥大化した左腕。

その腕を覆う、爬虫類を思わせる赤い鱗。

そして、鋭く伸びた三本の爪。

そこに立っていたのは、先ほどまでの智世ではなかった。

生物だったもの――キメラは、完全に破壊されていた。

核さえも、無数の肉塊の中へ沈み、その鼓動を止めている。

「……おい……」

ファビオの声が震える。

「……ふざけんなよ」

力のない声だった。

だが、智世はそれを聞いていない。

そこへ、ルツが駆け寄ってくる。

「チセ、落ち着け!! もうお前を狙う奴はいない!」

その声に、智世が反応した。

「……ルツ?」

「……落ち着いたら、その腕を戻せ。ゆっくりでいい」

智世は、自分の左腕を見つめた。

そこにある異形を確認する。

そして、ようやく状況を理解したのか、力を抜いた。

肥大化した腕が、ゆっくりと元の大きさへ戻っていく。

爪が縮み、鱗が消え、人の腕へと戻っていく。

だが――黒く染まった腕だけは、そのままだった。

智世は周囲を見渡す。

そこで初めて、自分が何をしたのかを目にした。

所々に、何かの肉片が転がっている。

地面は血の海になっていた。

「……ぁ」

顔から血の気が引いていく。

ルツはそんな智世を見て、静かに声を掛けた。

「……今はいい。結界の外に出るぞ」

そして周囲を睨みつける。

「邪魔する奴は、オレが噛む」

そう言って、ルツは人型へと姿を変えた。

そのまま智世を抱き上げる。

「行くぞ、チセ」

智世は何も言わず、ルツに身を預けた。

二人はその場を後にする。

 

***

 

「……あれって」

フラットが呟く。

双子は何も言わなかった。

リアンだけが、しばらく智世たちの去っていった方向を見つめていた。

「……父上に報告すべきか」

「……止めておけ」

アイザックが答える。

「智世のアレは、《フィロメラの事件》のときにも見た」

「……そうなのか?」

「あぁ。お前のところの養子になったばかりだろ。余計なことは止めておけ」

リアンはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「……そうだな」

その一方で――。

 

「……なんだ、アレは」

Ⅱ世は呆然と呟いていた。

ライネスが隣に立つ。

「落ち着きたまえ、兄上。ここで騒いでも答えは出ないさ」

その言葉に、Ⅱ世はライネスへ詰め寄った。

「落ち着け? ……落ち着けだと!?」

声が裏返る。

「あぁ、私は混乱しているとも!! この世界に来てから、私の常識は壊されてばかりだ!

  いったいなんなんだ、次から次へと!?」

Ⅱ世は頭を抱えた。

「時計塔への報告? 出来るわけがないだろう! いったい何を報告すればいいっていうんだ!?」

「……師匠」

グレイが心配そうに声を掛ける。

ライネスは深い溜息を吐いた。

そして、トリムマウへ目配せする。

「……」

トリムマウが一歩前へ出る。

「だいたい……」

Ⅱ世がさらに何かを言おうとした、その瞬間。

「アガッ!?」

鋭い拳が顎へ突き刺さった。

「師匠!?」

見事なジャブを受け、Ⅱ世の身体が大きく揺らぐ。

そのまま意識を失ったⅡ世を、トリムマウが支えた。

ライネスは何事もなかったかのように微笑む。

「義兄が失礼をした。この醜態は、見なかったことにしてもらえると助かるよ」

有無を言わせない視線が、全員へ突き刺さる。

誰も何も言えなかった。

「……よろしい」

ライネスはⅡ世を支えるトリムマウを見てから、周囲へ向き直る。

「とりあえず、ここから出ようではないか。流石に気分がいい光景とは言えないからね」

こうして、全員が結界の外へと移動することになった。

 

***

 

既に目を覚ましていたルーシーを、ゾーイが必死に宥めていた。

「ザッケローニ! よくもやってくれたわね!! ぶん殴ってやるから、こっちに来なさい!!」

「落ち着いてよ、ルーシー。怪我はもういいの?」

「そんだけ騒げるなら大丈夫だろ」

アイザックが呆れたように口を挟む。

ゾーイもルーシーも、大きな怪我は負っていなかった。

守護の護符が、しっかりと効果を発揮していたからだ。

だが――痛い思いをしたことまで消えるわけではない。

そのため、ルーシーはすっかりお冠だった。

その少し離れたところでは、ファビオが頭を抱えて項垂れている。

「……あのキメラ、俺の全財産だったんだぞ。それが……それが……」

「「自業自得だろ、バカ講師」」

双子の声が綺麗に重なった。

ファビオには怒る気力すら残っていない。

「それで? チセはどこにいるの?」

ルーシーが周囲を見渡す。

リアンが答えた。

「それなんだが……」

そして、ここまでの経緯を話す。

話を聞き終えたルーシーは、腕を組んだ。

「ふーん」

「いやいや、ふーんて」

ヴァイオレットが呆れた声を漏らす。

「ルーシー、チセのアレ知ってたの?」

ジャスミンも問い掛ける。

「フィロメラの事件のときにも見たことがあるもの。まぁ、腕は初めて聞いたけど」

ルーシーは肩を竦める。

「左腕だけなんでしょ? 全身じゃないだけ、誤差よ。誤差」

あまりにもあっさりとした言い草に、ゾーイは苦笑した。

「なによ?」

ルーシーは少しだけ頬を赤くする。

「どんな姿でもチセはチセでしょ。友達だってことに変わりはないわ」

その言葉に、生徒たちは一瞬だけ顔を見合わせた。

やがて、誰からともなく表情が和らぐ。

「……違いない」

誰もが、同じ気持ちだった。

そんな様子を眺めていたライネスが、やがて口を開く。

「いやね、君たちの友情に水を差すつもりはないが、そろそろ私たちにも説明が欲しいのだがね」

そう言って、未だ意識を失ったままのⅡ世を小突く。

「いつまで落ち込んでるんだい、兄上? 先ほどの醜態が、それほど堪えたかね?」

ここぞとばかりに嗜虐的な笑みを浮かべる。

「……お前というやつは、f……」

Ⅱ世は目を覚ましたらしい。

だが、学院の生徒たちがいることを思い出したのか、そこで言葉を止めた。

咳払いを一つ。そして、再び真面目な表情を作る。

「君たちは、智世のあの腕のことを知っていたのかね?」

「私たちは、いま聞かされたばかり」

ヴァイオレットが答える。

「私も~」

ジャスミンも続く。

「……詳しいことは、俺も初めて聞いたな」

リアンも頷いた。

最後に、ルーシーが溜息を吐く。

「……黙ってても、皆もう見ちゃったものね。しょうがないから教えてあげるわ」

「いいのかなぁ? チセもいないのに」

ゾーイが不安そうに尋ねる。

「ふん! 心配かけた罰よ」

ルーシーはそっぽを向いた。

「……俺のキメラ……俺のボーナス……」

ファビオが未だに落ち込んでいる。

「いつまで落ち込んでんだよ」

呆れたアイザックの声が、静かに響いた。

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