『魔法使いの嫁 × ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 ――魔法使いと魔術師、その隣人たち――』 作:丹波りん
「分かりました」
智世が頷いた。
その返事を聞いても、Ⅱ世はすぐには次の言葉を口にしなかった。
目の前に座る少女を、改めて観察する。
昨夜から何度も耳にしている言葉があった。
魔法。
そして、魔法使い。
智世は自分を魔法使いだと言い、エリアスという人物から魔法を教わっていると話している。
しかし、その「魔法」が時計塔で使われる言葉と同じ意味なのかと問われれば、
Ⅱ世にはまだ判断できなかった。
むしろ、ここまで話を聞いた限りでは、同じ言葉を使っているだけで、
別のものを指している可能性のほうが高い。
Ⅱ世は眼鏡の位置を直した。
「では、最初から整理しよう」
落ち着いた声に、智世が顔を上げる。
「君の言う『魔法』とは、何なのか」
智世はすぐには答えなかった。
膝の上に置いた手を見つめ、それから少しだけ首を傾げる。
「魔法は……魔法使いが使うもの、です」
Ⅱ世の眉がわずかに動いた。
「それは言葉を置き換えただけだな」
「あ……」
智世が困ったように目を伏せる。
「すみません」
「いや、謝る必要はない」
Ⅱ世は小さく息を吐いた。
問い方が悪かったのかもしれない。
智世は自分が知っていることを説明しようとしている。
だが、それを時計塔の魔術師が理解できる言葉へ変換するのは、
彼女にとっても簡単なことではないのだろう。
「君自身の言葉で構わない。誰から、どう教わった?」
「エリアスからは、魔法と魔術は別のものだと教わっています」
「別のもの?」
「はい」
智世が小さく頷く。
「似ているところはあるけれど、同じものではないそうです」
Ⅱ世は黙って続きを促した。
ライネスも口を挟まず、興味深そうに智世を見ている。
こういう時の彼女は、珍しく大人しい。
兄がどこまで話を聞き、どこで引っ掛かるのかを楽しんでいるのだろう。
「魔術師が扱うものが、魔術です」
「うむ」
「それに対して、魔法使いが使うものが、魔法です」
そこまでは、昨日までに聞いた話と大きく変わらない。
Ⅱ世は腕を組んだ。
「では、その二つを分けるものは何だ?」
智世は少し考える。
それから、何かを思い出したように顔を上げた。
「アンジェリカさんから教えてもらった話なんですけど……」
「アンジェリカ、か」
鞄の中身を見せてもらった際にも出てきた名前だ。
魔法に関わる道具を扱い、智世へ知識も与えている人物。
Ⅱ世の中では、まだ輪郭のはっきりしない存在だった。
「それで?」
「魔術師が扱うものは、『魔術』という名前の科学なんだそうです」
「……科学?」
思わず、Ⅱ世の声がわずかに低くなる。
隣でライネスが楽しそうに目を細めた。
「それはまた、随分と思い切った言い方だね」
「私も最初に聞いたときは、ちょっと変な感じがしました」
智世は苦笑する。
「でも、魔術にはちゃんと仕組みがあって、
それを理解して使うものだから、そういうふうに説明していました」
Ⅱ世はしばらく黙っていた。
科学。
魔術師がその言葉を聞けば、反発する者も少なくないだろう。
時計塔が積み上げてきたものを、
世俗の学問と同じものとして扱われることを快く思わない者は多い。
だが、智世の説明を聞く限り、彼女が言いたいことは別にある。
魔術には理論がある。
再現するための術式がある。
そして、それを扱うための知識が必要になる。
偶然に奇跡を起こしているわけではない。
そういう意味で「科学」という言葉を使っているのなら、完全に的外れとも言えなかった。
「では、その『科学』は、どうやって結果を起こす?」
「世界には、『理』があるんだそうです」
「理?」
「はい」
智世は少しだけ身体を前へ傾けた。
「世界には、決まった仕組みがある。それを『理』って呼ぶんだって」
Ⅱ世は黙って聞いていた。
「その理を理解して、自分の持っている魔力を使って
…組み替えたり、書き換えたりするんです」
「書き換える?」
「はい」
「それによって、望んだ結果を起こす」
「そうです」
智世は頷いた。
Ⅱ世は視線を落とし、片手を顎へ添えた。
世界に存在する法則を理解し、そこへ干渉する。
言葉こそ違うものの、その発想自体は決して奇妙ではない。
魔術師もまた、世界を無秩序なものとして扱っているわけではない。
神秘には神秘の法則があり、それを理解し、術式として再現する。
智世が「理」という言葉で呼んでいるものが何を指すのかはまだ分からない。
それでも、少なくとも考え方の一端は掴めてきた。
「その『理』というものを、何かに喩えていたか?」
「はい」
智世の表情が少し明るくなる。
「コンピュータのプログラムみたいなものだって」
「コンピュータ……」
ライネスが首を傾げた。
「それを魔術の説明に使うのかい?」
「はい。アンジェリカさんは、コンピュータのことも知っているので」
「ほう」
ライネスが興味深そうに眉を上げる。
Ⅱ世も考え込んだ。
世界そのものを一つの巨大な仕組みに見立て、
その内部で動いている規則をプログラムに喩える。
比喩として考えるなら、それほど理解しにくいものではない。
「つまり、そのプログラムを理解して、必要な部分へ干渉するわけか」
「はい」
「それが、君の教わった魔術の考え方なんだな」
「そうです」
智世の返事には迷いがなかった。
Ⅱ世は小さく頷く。
少なくとも、彼女が魔術というものを
何も知らないわけではないことは、これで十分に分かった。
むしろ問題なのは、その先だ。
「では、魔法は?」
智世の表情が少し変わる。
「魔法は……魔術とは違います」
「どう違う?」
「魔法は、『奇跡』なんだそうです」
その言葉を聞いた瞬間、ライネスがわずかに目を細めた。
Ⅱ世は何も言わない。
魔法を奇跡と呼ぶこと自体は珍しくない。
問題は、その「奇跡」が何を意味するのかだった。
「具体的に説明できるかね?」
「はい」
智世は少し考えてから答えた。
「妖精や精霊、幽霊や悪魔みたいな……人間ではないものの力を借りて起こすものです」
Ⅱ世の指が、組んだ腕の上でわずかに動いた。
「人間ではないものの力を?」
「はい」
「そして、その力を使って理へ干渉する」
「そうです」
Ⅱ世は黙った。
精霊。
妖精。
幽霊。
悪魔。
その類の存在は、時計塔にとって決して未知のものではない。
契約を結び、力を借りることもある。
使い魔として従わせることもある。
ならば――。
「確認したい」
Ⅱ世が静かに言った。
「人間ではない存在の力を借りることが、魔法と魔術を分ける基準なのか?」
智世は答える前に、少しだけ考えた。
自分の中にある知識と照らし合わせているようだった。
「……はい」
やがて、頷く。
「そう教わっています」
「なるほど」
Ⅱ世は背もたれへ身体を預けた。
ここで、ようやく違いがはっきりした。
智世が教わった体系では、力を借りる相手が重要になる。
人間ではない存在の力を借り、その力によって理へ干渉する。
それを魔法と呼ぶ。
しかし、時計塔の基準では、それだけでは魔法とはならない。
人外の存在と契約していても、それによって成立する結果が、
その時代の人間の技術や知識によって再現可能なものならば、魔術として扱われる。
逆に、人間の技術では決して到達できない結果であれば、
それがどのような方法で起こされたものであっても、魔法として扱われる。
重要なのは、誰の力を借りたかではない。
何が起きたのか。
そして、その結果が、その時代の人間にとって到達可能なものなのか。
そこに境界がある。
Ⅱ世は目の前の少女を見た。
同じ「魔法」という言葉を使っている。
しかし、二人がその言葉を分類するための基準は、まるで違っていた。
「……面白いね」
ライネスが口元に笑みを浮かべる。
「兄上の知っている魔法とは、ずいぶん違うじゃないか」
「そうだな」
Ⅱ世は素直に認めた。
「だが、智世が間違っていると決めつけるのは早い」
「ほう?」
「彼女は、自分が教わったことを話しているだけだ。
それが一つの体系として成立しているのなら、そこには相応の理屈がある」
智世は少し不安そうにⅡ世を見る。
「……私の説明、変でしたか?」
その声には、ほんの少しだけ心配する響きがあった。
Ⅱ世はすぐに首を横へ振る。
「いや。説明そのものは筋が通っている」
「本当ですか?」
「ああ」
Ⅱ世は眼鏡を押し上げた。
「ただ、私たちの知る魔法とは、分類の基準が違う。それだけだ」
智世の表情から、わずかに緊張が抜ける。
「よかったです」
その返事に、ライネスが小さく笑った。
「智世は素直だね」
「そういうところをいちいち口にするな、ライネス」
「だって本当のことだろう?」
Ⅱ世は呆れたように息を吐く。
智世は二人のやり取りを見て、ほんの少しだけ笑った。
先ほどまで張り詰めていた空気が、少しだけ柔らかくなる。
だが、Ⅱ世にはまだ確認したいことが残っていた。
「君の言う魔法は、人外の存在から力を借りる。そういうことだったな」
「はい」
「ならば、その力を借りれば、魔術師にはできないことができるようになるのか?」
智世は首を横に振った。
「必ず、というわけではありません」
「ほう」
「魔法だから、何でもできるということではないんです」
その答えに、Ⅱ世はわずかに目を細める。
「誰かから、そう教わったのか?」
「アンジェリカさんが言っていました」
智世は少し考えてから、言葉を続けた。
「『魔法は奇跡だけど、万能じゃない』って」
Ⅱ世は黙った。
その言葉は、妙に印象に残った。
魔法というものを万能の力として扱わない。
奇跡であっても限界があると理解している。
少なくとも、智世の言葉を聞く限り、
彼女が魔法を何でもできる便利な力として考えているわけではないらしい。
「それと……」
智世が続ける。
「魔法のほうが簡単に見えることもあるけれど、
借りた力だから、加減や操作が難しいとも言っていました」
「借りた力だから?」
「はい」
「自分の力ではないから、完全には扱えない?」
「そういうことだと思います」
Ⅱ世は少し考え込んだ。
それも理解できる。
借りる相手が自分とは異なる存在である以上、
その性質まで完全に術者の都合へ合わせられるとは限らない。
能力だけではなく、意思や性質、術者との相性さえ結果に影響する可能性がある。
そう考えれば、むしろ自然な話だった。
「つまり、魔法使いは一人だけで全てを成立させるわけではない」
「はい」
「人間ではない存在と関わり、その力を借りて理へ干渉する」
「そうです」
Ⅱ世はそこで、隣にいるルツへ視線を向けた。
黒い毛並みが静かに揺れる。
ルツは会話の間ずっと伏せたまま、こちらの様子を眺めていた。
その赤い瞳だけが、時折Ⅱ世やライネスへ向けられる。
「……では、ルツもその一例なのか?」
「ルツですか?」
智世が隣を見る。
「魔法のために、君が力を借りている存在なのかと聞いている」
「うーん……」
智世は困ったように眉を寄せた。
それから、ルツのほうへ身体を向ける。
「ルツは、そういう感じではないと思います」
『オレはオレだ』
低い声が静かに響いた。
ライネスが思わず笑う。
「随分と簡潔な答えだね」
ルツはライネスを見る。
『チセのそばにいる。それだけだ』
智世は少し照れたように笑った。
「……そういうことです」
「それだけ?」
ライネスが尋ねる。
「はい」
智世は頷いた。
「ルツは、私の家族なので」
その言葉を聞くと、Ⅱ世は一瞬だけルツへ視線を戻した。
契約。
使い魔。
人間ではない存在。
時計塔の知識だけで考えれば、いくらでも分類することはできる。
だが、智世が語るルツとの関係は、そうした言葉だけでは片付けられないように思えた。
ルツもまた、何も言わずに智世の隣にいる。
まるで、それが当然であるかのように。
Ⅱ世はそれ以上、この件を追及しなかった。
「分かった」
視線を智世へ戻す。
「では、もう一つ確認したい」
「はい」
「君は、魔法と魔術を実際にはどうやって区別している?」
智世は少し考えた。
「どうやって……ですか?」
「ああ」
Ⅱ世は指を一本立てる。
「魔術師なら、術式を組む。魔力を流す。必要なら詠唱を使う。道具を使う場合もある」
もう一本、指を立てる。
「君が魔法を使う場合は?」
智世は自分の手を見つめた。
「決まったやり方は……あまりありません」
「詠唱は?」
「することもあります」
「杖は?」
「使うこともあります」
「つまり、どちらにも必ず必要なものではない?」
「はい」
Ⅱ世は眉を寄せる。
「では、何をもって魔法を使っていると判断する?」
智世はしばらく黙っていた。
言葉を探しているのだろう。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……どうしたいかを考えるんです」
「どうしたいか?」
「はい」
智世は小さく頷く。
「それから、どうすればできるのかを考えて……魔力を使います」
「それだけかね?」
「たぶん……」
少し自信のない答えだった。
智世自身、自分が何をしているのかを説明するのが難しいのだろう。
Ⅱ世はそれを見て、すぐに次の質問を重ねることをやめた。
彼女が魔法について無知なのではない。
むしろ逆だ。
自分の中では理解している。
ただ、それを時計塔の魔術師が使う言葉へ置き換える術を持っていない。
「なるほど」
Ⅱ世は静かに呟いた。
「君にとっては、魔法を使うことそのものが、特別な手順を必要としないわけか」
「はい」
「その結果を見て、自分が魔法を使ったと分かる」
「……たぶん、そうです」
Ⅱ世は椅子の背へ身体を預けた。
ここまで聞いて、ようやく一つの形が見えてきた。
智世の教わった体系と、時計塔の体系。
どちらも世界の理へ干渉するという点では似ている。
だが、何をもって「魔法」と呼ぶのかが違う。
智世たちの基準では、人間ではない存在の力を借りることが重要になる。
時計塔では、そうではない。
どのような方法で結果を得たのかではなく、
その結果がその時代の科学や技術によって再現可能かどうか。
そこが大きな境界になる。
「君に一つ、質問していいかね」
「はい」
「君が使った結果が、科学や技術で再現できるものだった場合
――君は、それを魔法と呼ぶのか?」
智世は答えられなかった。
目を瞬かせ、少し困ったようにⅡ世を見る。
「……分かりません」
「そうだろうな」
Ⅱ世は頷いた。
「それは君が教わった定義の中には、ないのだろう」
「はい」
智世は素直に答えた。
「そういう考え方をしたことは、ありませんでした」
ライネスが顎に手を添える。
「つまり、同じ結果でも、兄上と智世では呼び方が変わるかもしれないわけだ」
「その通りだ」
Ⅱ世は頷いた。
「時計塔での魔法と魔術の区別は、結果と時代に強く結びついている」
「時代?」
智世が聞き返す。
「ああ」
Ⅱ世は説明する。
「昔は人間の技術では不可能だったことが、
後になって科学や技術によって可能になることがある。
その場合、かつて魔法と呼ばれていたものが、魔術として扱われるようになることもある」
智世は目を丸くした。
「じゃあ……昔は魔法だったものが、今は魔術になることもあるんですか?」
「あり得る」
「……面白いですね」
智世は小さく呟いた。
Ⅱ世はその表情を見ていた。
彼女は戸惑っているようでもあり、
それと同時に、純粋にその考えを面白がっているようでもある。
ライネスが横から笑う。
「智世にとっては、かなり新鮮な考え方だろうね」
「はい」
智世は頷いた。
「でも……」
少し考えてから、続ける。
「どちらも、その世界のことを知って、そこに働きかけるものなんですね」
Ⅱ世はわずかに目を細めた。
その言葉は、思っていた以上に核心を突いている。
「……そうだな」
全く同じではない。
だが、全く別のものでもない。
世界の仕組みを理解する。
そこへ干渉する。
そして、何らかの結果を得る。
異なるのは、その方法と、それを分類するための基準だ。
Ⅱ世は静かに息を吐いた。
「少なくとも、今日の話で一つ分かった」
「何でしょう?」
「君が使っている『魔法』という言葉が、私の知る『魔法』と完全に同じ意味ではない」
智世は小さく頷いた。
「はい」
「そして、君が間違って覚えているわけでもない」
智世が少し驚いたように顔を上げる。
「違うんですか?」
「違う」
Ⅱ世はきっぱりと言った。
「君は君の師から、一つの体系として教えられている。
それを私たちの体系と照らし合わせたとき、分類の基準が異なっているというだけだ」
智世の表情が少し和らいだ。
「よかったです」
「何がだ?」
「私、ちゃんと説明できていないのかなって思っていたので」
「説明はできている」
Ⅱ世は淡々と答えた。
「ただ、私たちの言葉へ置き換えるには、まだ情報が足りない」
「そうなんですね」
「ああ」
Ⅱ世はそこで言葉を切った。
室内が静かになる。
窓の外から、時計塔のどこかで鐘の音が聞こえた。
智世はその音へ一瞬だけ視線を向け、それから再びⅡ世を見る。
Ⅱ世はそんな彼女を見ながら、まだ一つ確かめていないことがあるのを思い出した。
定義だけではない。
実際に、彼女がどのような結果を起こすのか。
それを見なければ、本当の意味で判断することはできない。
「……では」
Ⅱ世が口を開いた。
「次は、君自身が使う魔法について聞かせてもらおう」
智世が目を瞬かせる。
「私の魔法、ですか?」
「ああ」
「実際に見たほうが分かりやすいんですか?」
「言葉だけでは分からないことが多いからな」
ライネスが楽しそうに笑った。
「兄上、ずいぶん興味が出てきたようじゃないか」
「当然だ」
Ⅱ世は即答した。
「これだけ分類の基準が違うのなら、実際の現象を見なければ判断のしようがない」
「やっぱり見たいんじゃないか」
「……君は本当に余計なところをよく見ているな」
ライネスがくすりと笑う。
その横で、グレイはこれまで黙って話を聞いていたが、ふと智世へ視線を向けた。
「……拙も、少し興味があります」
智世がグレイを見る。
「グレイさんも?」
「はい」
グレイは少しだけ言葉を探した。
「昨日から、智世さんが話されている『魔法』が、
拙の知っているものとは違うように感じていました」
それから、ほんの少しだけ視線を伏せる。
「ですから……実際に見ることができるのであれば、知りたいです」
「そうなんですね」
智世は嬉しそうに笑った。
「分かりました」
Ⅱ世はその様子を見ながら、椅子の背へ身体を預けた。
今日のところは、ここまでで十分だろう。
言葉だけで完全に理解できるとは思っていなかった。
それでも、昨日よりははるかに多くのことが分かった。
智世が学んだ「魔法」。
時計塔が知る「魔法」。
同じ言葉でありながら、その境界線は異なっている。
その違いが生まれた理由までは、まだ分からない。
だが――。
実際の現象を見れば、もう少し近づけるかもしれない。
Ⅱ世はそう考えながら、目の前の少女を見つめた。
「では、次の機会に見せてもらおう」
「はい」
智世が頷く。
Ⅱ世はそれ以上、魔法について話を続けなかった。
まだ分からないことは多い。
智世がどのような師に学び、どのような環境で魔法を身につけたのか。
そして、彼女が語ったアンジェリカという人物が、どのような存在なのか。
それらを知ることも、今後の話を考える上では必要になるだろう。
「……そういえば」
Ⅱ世がふと口を開く。
「君が使っている道具についても、まだ聞いていなかったな」
智世が顔を上げる。
「道具、ですか?」
「ああ。先ほど見せてもらった鞄の中身だ。
あれを用意したというアンジェリカについて、もう少し聞かせてもらいたい」
智世は一瞬だけ考えるように目を伏せた。
それから、ゆっくりと頷く。
「分かりました」
その返事を聞いて、Ⅱ世は椅子の背へ身体を預けた。
まだ聞くべきことは残っている。
そして今度は、智世が魔法を使うために手にしていたものと、
その背後にいる人物について話を聞く必要があった。