異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第8話 勇者の「俺の姫」から、初配信が初めて届いた日[2周年企画③]

【設定乙w】

 

 過去の僕の、動きが止まる。

 

 過去の僕は、コメントの意味が分かっていないようだ。

 否定されたとも、笑われたとも、理解していない。

 

[『乙』は、お疲れという意味だったよね]

[たぶん]

 過去のリョウが言う。

 

[では、説明を最後まで聞いていただけた、ということでしょうか]

 

 現在の僕は、頭を抱えた。

「違うよ!」

 

 いまなら、その一言の意味が分かる。

 

 笑われたのは、勇者や姫君という肩書きだけではなかったのだ。

 向こうに街があり、そこで誰かが毎日を暮らしていて、僕たちを助けてくれたということまで、まとめて「設定」にされていた。

 

 現在のコメント欄が、また騒がしくなった。

 

『原点』

『www』

『伝説の始まり』

『設定乙w』

『単芝やめろ』

『2年見てるけどこれが作り話には見えない』

『誰も意味教えてくれなかった』

『姫様ごめん同時視聴でももう見てられん……』

『でもこのあと俺の姫だから耐えろ』

『ここから空気変わるぞ』

『〈設定じゃない〉』

 

 いまでは、異世界を設定扱いされた時に返す、怒った僕のミニキャラまでスタンプになっている。

 異世界の思い出を語る僕たち自身も、異世界を「設定」だと思う人たちの言葉を利用させてもらっている。

 

「いまとの温度差がひどいよ」

 現在の僕が抗議している間、2年前のコメント欄には、新しい言葉が一つも流れない。

 

 同時視聴者数が11人になり、すぐ10人へ戻った。

 この瞬間が、初配信の最高同接だった。

 それを今日は、6万人が見ている。

 

 ふと、気がついた。

「……というか、なんで僕たち、この時なにか一個くらい術を見せなかったんだろ」

「仮住居だったからだろ」

「あ……」

 

 言われて、ようやく思い出す。

「そうだった。帰ってきて四日目で、携帯を返してもらって、パソコンにもログインさせてもらえて……それで、そのまま始めちゃったんだった」

「外にも出てない」

「そうだね。『配信をやろう』っていうより、『いま使えるもので僕たちの話を残そう』だった」

 

『〈なるほど〉』

『帰還4日目だもんな』

『そりゃ企画とか考えてないわ』

『むしろ配信始める判断が早い』

 

「でも小障壁くらい出せたよね?」

「出してどうする」

「少なくとも、ずっと座って王国と魔王の説明してるより分かりやすいでしょ!」

 

『w』

『真顔で異世界の説明する痛さに気づけてエライ』

『何も見せないから二回目の配信では謎の電波系アイドル扱いだったぞ』

『今の姫様なら絶対実演する』

 

「誰が電波アイドル!」

 

『草』

『俺の姫ショートから来た奴の認識だいたい電波系だった』

『異世界帰りを主張する異常コスプレ男女』

『設定盛りすぎ電波系美少女』

 

「……まあ、結果的に今の形になってよかったよ。ダンジョンに入ったのって、3回目だっけ?」

「3回目だな」

「なんか、そこで自然と術とか戦い方を見せることになったんだよね。ダンジョン探索系配信者ってジャンル自体知らなかったのに」

「それで探索配信が増えていった」

 

『三回目で空気変わった』

『今もわりと電波(以下略』

『ビジュで釣って異世界チートを見せるチャンネル』

『普通にチャンネルの歴史講座になってきたな』

 

「ビジュで釣ってない!」

「イオリをサムネイルにした方が人は来た。イオリもすぐ気づいてた」

「リョウまで言わないで!」

 

++++++++++

 

 そんな話をしていると、ようやく、過去の画面に別のコメントが来た。

 

【二人は付き合ってるんですか?】

 

 過去の僕とリョウが、コメントを読むため、同時に画面へ顔を寄せる。

 

[付き合っていません!]

[親友です]

 

 ぴったり重なった。

 現在のコメント欄が一気に流れる。

 

『きたああああああ』

『初回から同時』

『今と同じ』

『そこだけ即答』

『異世界の説明より息があってて草』

『親友ですキリッ』

『2年間まるで成長していない』

『質問のでるところが生々しいなあ』

 

「『成長していない』って、変わる必要がないでしょ!」

「親友です」

「そうだよ!」

 

『現在も即答』

『そうだよ(便乗)』

『二重音声たすかる』

『もう駄目だこの二人』

『〈かわいい〉』

『くるか?』

『まだ?』

 

 異世界について話していた時より、明らかに反応がはやいし多い。

 

 当時の視聴者は、王国や召喚術の説明には返事をしなかったのに、二人の関係には質問を送ってきた。

 いまなら、セシリアたちや昨日の亀裂を真剣に追う人もたくさんいる。

 それでも、結局のところ、いちばん速くコメントが流れるのは、僕とリョウの距離が話題になった時だった。

 

 過去の映像に、また1件、コメントが届いた。

 

【異世界では、二人はどういう関係だったの?】

 

 過去のリョウが答えた。

[向こうでは、俺が勇者で、イオリが俺の姫だった]

 

 僕は身を乗り出して、リョウの手からリモコンをさっと奪った。

 

「もう止めよう!」

 

 映像が一時停止する。

 

 画面には、真顔のリョウ。

 その隣には、黒灰色の目を見開き、口も開けたまま固まる2年前の僕。

 

 一時停止ボタンを押した指が、そのまま離れなかった。

 

 2年前の僕だけではない。

 現在の僕まで、耳の後ろがじわりと熱くなる。

 

 ……あの僕が固まった理由が嫌というほど分かる。

 

「勇者と姫君」と言われるのとは違う。

「俺の」がつくだけで、僕だけがリョウのものみたいに聞こえる。

 

 それを6万人と一緒に聞き直すのは、やっぱり普通に恥ずかしい。

 

「っ! この言い方!」

「事実だろ?」

「『俺の姫』のところがおかしい!」

「じゃあ、何て言えばよかった」

「『同じ高校の親友でしたが、向こうでは姫君でした』!」

「長いだろ」

「省略してもいいけど、所有格を足すな!」

 

『あ』

『きちゃあw』

『ここか』

『俺の姫』

『真顔で言うのやめてね』

『固まってる』

『〈かわいい〉』

『所有格って用語すらエロく聞こえる』

『親友ですとは』

『6万人と見る俺の姫』

『これが有名なやつか』

 

 現在の同時視聴者数自体も、この場面で今夜いちばんの数字までぐんと跳ねた。

 ダンジョンで世界の裂け目かもしれないものを流していたときよりも高い。

 

「なぜかこのへんだけ勝手に切り抜かれて、最初に伸びたんだよね……」

「1週間で26万回再生」

「なんで覚えてるの?」

「その切り抜きのあと、次の配信にはじめてまともに人が来た」

「だからって再生数まで覚える?」

「お前が、今後も続けるって言った、その理由の数字だから」

 

 初配信終了後、視聴者の1人が、この10数秒だけを縦型動画へ切り抜いた。

 

 異世界も魔王も、地球のダンジョン異常について説明した部分も入っていない。

 

 

 入っていたのは、帰還直後の戦闘服を着た二人だけだった。

 傷の残る長身の自称勇者と、濃紺の戦闘服を着た自称元男子の姫君。

 

 その自称勇者が真顔で「俺の姫」と言い、隣の自称姫君が本気で固まっている。

 設定を盛りすぎた二人が、付き合ってもいないと主張しながら、何を言っているのか。

 

 たぶん、最初はそれがただ面白かったのだ。

 半分、痛いともいう。

 

 翌朝から、短い動画のおすすめ欄へ乗り始め、1週間で26万回再生されていた。

 

 2年後に探索庁が調査対象として求めることになる映像の中で、最初に大勢の人に届いたのは、召喚や帰還についての証言ではなかった。

 

 召喚も、魔王も、向こうの世界に残してきた人々のことも、ほとんど届かなかった。

 

 僕たちの感慨とは関係なく、コメントは流れ続ける。

 

『〈かわいい〉』

『初回で芸風が確立しとる』

『異世界は知らんが俺の姫だけ本物』

『切り抜いた人、有能w』

『異世界設定より親友設定の方が無理があるんよ』

『ここから26万再生は夢ある』

 

「リョウ、じゃあ、その次の配信はどうだったかは覚えてるの?」

「……最大463人」

 

『急に現実的』

『26万再生→463人w』

『そんなもんかw』

『11人から463人は十分すごい』

『新人電波系アイドルの配信としては十分』

 

「僕たちには大事件だったんだよ。11人の次だから。あと電波系アイドルじゃないよ」

「多かったな」

「多かったよ!」

 

『2回目もまた同時視聴で見たい』

『昨日の同接超えてきた』

『カップル営業の原点を見た』

『でもこれ美形じゃなかったら成り立ってないよね』

 

「営業じゃないからね!」

 僕が反応すると、またコメントが速くなった。

 

『営業じゃない=本物』

『本人から否定いただきました』

『営業じゃないそうです』

『親友です』

『姫様墓穴ほったな』

 

「あ……もう再生するよ!」

 

++++++++++

 

 僕は再生ボタンを押した。

 過去の僕も、止まっていた時間から動き始めた。

 

[俺の姫って……]

 

 小さく呟き、リョウを見る。

 

[違うのか?]

[そういう言い方を、知らない人の前でする必要はないでしょ]

[向こうでの関係を聞かれた]

[勇者と姫君でいいでしょ!]

[同じだろ]

[同じじゃないよ!]

 

 ほんの少し前に交わした会話を、2年前の僕たちがそのまま繰り返していた。

 現在のコメント欄には、当然のようにツッコミが入った。

 

『www』

『さっきも同じ会話してなかった?』

『2年前から同じことで揉めてるの草』

『再放送はじまった』

『この二人ずっとこれやってるの?』

 

 過去のコメント欄にも、短い言葉、というか、文字が流れた。

 

【草】

 

[これは?]

[笑ってる]

[……なんで?]

[分からない]

 

「リョウも全然分かってなかったんじゃん!」

「今も、どこがそんなに面白いのかは分からない」

「2年間も切り抜かれてるんだから、そろそろ理解してよ!」

 

 現在のコメント欄は、リョウの理解を待つ気がない。

 

『草』

『草1個だけ流れてくるコメ欄痛すぎる』

『これが草だけのコメ第1号か』

『現在も分かってない』

『ガチだから強い』

『狙ってたらこの味は出ない』

『よくこの状況で配信続けられたな』

 

 過去の僕は、咳払いをして話を戻した。

 

[改めて説明します。僕たちは、異世界に召喚される前からの友人です。向こうでは、リョウが勇者として戦い、僕は王国で姫君として扱われたあと、リョウの遠征に同行しました]

[イオリは俺と一緒に戦った]

[僕は支援を担当しました。剣で魔王を倒したのはリョウです]

[最後までいた]

 

 過去の僕が、少しだけ黙ってから答える。

[……はい。最後まで一緒でした]

 

『〈なるほど〉』

『最後まで一緒』

『言い方ずるい』

『だから俺の姫なのか』

『異世界はともかく一緒にいた事だけ伝わる』

『強い設定は2年間かけて立証されてる』

 

 異世界を信じてもらえなくても、僕たちが最後まで一緒だったことだけは、画面に残っていた。

 

++++++++++

 

 初配信は終盤へ入った。

 視聴者はピークの11人から9人へ減っている。

 過去の僕は、配信の終わらせ方を確認するため、また何度もノートパソコンを見ていた。

 

[本日は、僕たちの説明を聞いていただき、ありがとうございました]

 反応はない。

 

[今後も、調査で分かったことを報告します]

 まだ何も流れない。

 

[それでは――]

 最後に、1件だけコメントが届いた。

 

【本当かどうかは分からないけど、生きて帰れてよかった】

 

 過去の僕は、画面へぐっと顔を寄せる。

 隣からリョウも覗き込む。

 

 二人で、何度も読み直す。

 画面の中の二人が、同じ1件のコメントへ顔を寄せる。

 

 今の僕の隣にいるリョウも、2年前と同じように、少しだけ身を乗り出していた。

 

 僕は配信を閉じようとして口にしていた言葉を止め、返事をしていた。

[ありがとうございます]

 

 リョウも頭を下げた。

[ありがとうございます]

 

 初配信は、そこで終わった。

 

++++++++++

 

 現在のコメント欄へ、言葉が流れていく。

 

『おかえり』

『〈帰還〉』

『本当かどうかはまだ分からん』

『続けてくれてありがとう』

『2周年おめでとう』

『今は9人じゃないぞ』

『俺は異世界の話も調査待つよ』

『あの異世界の服もっと着て』

『これからも見る』

 

 誰もが異世界を信じたわけではない。

 いまも異世界は設定だと笑う人がいる。

 昨日の亀裂だけでは、何の証拠にもならないと言う人もいる。

 僕たちの距離を営業だと決めつける人、逆に恋人だという人もいる。

 その横を、「おかえり」のコメントが流れる。

 

「2年前は、1件来るたびに二人で読んでたんだねえ」

「今も二人で見てる」

「人数が全然違うよ」

「見ている側が二人なのは同じだ」

 

 僕は、いつもより少し長くコメントを見た。

 2年前は、最後にたった1人が「生きて帰れてよかった」と言ってくれた。

 いまは、「おかえり」が何度も流れている。

 2年前の僕に、この画面を見せてやりたいと思った。

 

「異世界の話は本当だからね。2年間、一度も嘘はついていないよ」

 

『お??』

『改めて見ると本当っぽくなってきた』

『調査結果が出るまでは保留』

『つまり親友設定の方は嘘で夫婦ということ?(名推理)』

『設定乙w』

『異世界の話もっとしてくれ!』

『はじめて同接7万いってる!!!』

『同接最高更新乙』

 

「結局『設定乙』って返されるのは変わらない……」

 

 笑いがコメント欄を埋めていく。

 

 2年前、異世界の話より先に大勢へ届いたのは「俺の姫」だった。

 いまも、届く順番はあまり変わっていないのかもしれない。

 

 それでも、11人しかいなかったあの画面の向こうには、いまは返事をしてくれる人がこれだけいる。

 

 

 やがて、2年前の僕たちが配信を終えた。

 

 けれど、あの夜には、配信に残っていない続きがある。

 

 




8話をお読みいただきありがとうございました!
初配信同時視聴③をお届けしました!
同時視聴回はここまでですが、配信後の夜の話をもう一話続きます!


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