異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
第10話 勇者、TS姫様と美人の先輩探索者に挟まれて両手に花です
「こんばんは。〈勇者と姫の帰還配信〉の小宮イオリです」
配信開始を示す表示が点いている。
「普段はリョウと二人で、ダンジョン探索や雑談の配信をしています。今日は初めて見てくださる方も多いと思うので、ちゃんと最初から自己紹介します」
「相沢リョウです。よろしくお願いします」
『短い』
『勇者ほんとにこれなんだ』
『帰還配信初見です』
『姫様きょうは丁寧やね』
『名字の記憶を取り戻してて草』
今日は探索へ行かない、僕たちの家からの配信。
僕は黒い探索服ではなく、淡い青灰色のトップスにチャコールグレーのロングスカート。
いつもの装備ベルトもポーチもない。
青墨色の長い髪も下ろしてある。
『探索服じゃない姫様たすかる』
『似合う』
『勇者は私服でも黒い』
『〈かわいい〉』
「そして今日は、ずっと匂わせていた、初コラボ!」
僕は、隣にいるリョウの反対側にいる女性を見た。
「〈ミナト探索記録〉の榊ミナトさんです!!」
「榊ミナトです。普段はダンジョン探索と、現場の記録を中心に配信しています。帰還配信の視聴者のみなさん、よろしくお願いします!」
ミナトさんがカメラへ軽く手を上げる。
『ミナト枠からお邪魔します~』
『ようこそ帰還配信へ』
『今日から両方見る』
『〈かわいい〉』
今日はミナトさんも、いつもサムネで見るような探索服ではない。
鎖骨を少し越す暗い茶色の髪を、珍しく下ろしている。長めの前髪だけが目にかからないよう横へ流され、まっすぐな毛先が白に近い明るいシャツの肩へ落ちていた。
袖は肘の少し下まで折り、黒いストレートパンツ。
背が高く、座っていても手足が長い。
僕とは全然違う。
きれいだけど、それ以上に、格好いいと思う人だった。
『みなとんも私服だ!!!!姫様GJ』
『髪下ろしてるの珍しい』
『美人が二種類いる』
『勇者が真ん中で草』
『両手に花です』
今日は僕たちのチャンネル。次のコラボは、ミナトさんのチャンネルで配信する。
今日のコメント欄には「みなとん」という呼び方のコメントが混ざっている。
普段は違う場所にいる人たちが、一つの配信へ集まっていた。
コメントを見たリョウが、自分の左右へ一度ずつ目を向けた。
「……両手に花って、俺のことか」
「僕とミナトさんに挟まれてるからでしょ」
「ああ」
「納得して終わるんだ」
リョウの向こうで、ミナトさんが笑った。
「リョウくん、こういうの気にしないんだね」
「何を?」
「美人二人に挟まれてること」
「三人で映ったらこうなるだろ、俺が一番でかいから」
『美人二人を画角扱いする勇者』
『つよい』
『勇者さあ』
「まあ、実際そうなんですけどね」
僕もモニターを見る。
左に僕。真ん中にリョウ。右にミナトさん。
――両手に花。
別に、だからどうということもない。
ただ、なんとなく。
僕はほんの少しだけ外側へ身体をずらしていた。
「イオリ」
「何?」
「戻れ」
「なんで?」
「そっち、表示にかぶる」
「え?」
リョウに言われて、またモニターを見る。
三人用に組んだ今日の画面には、いつもより表示物が多い。左端にはコラボ用のロゴとタイトル表示まで載せてある。
外側へずれた僕の肩が、その装飾枠へ少しかかっていた。
「……ちょっとくらいよくない?」
「自分で位置決めただろ」
「そうだけど」
仕方なく、元の位置へ戻る。
さっきより意識したせいか、リョウの腕が妙に近く感じた。
『姫様いま離れた?』
『姫様のが意識してるじゃん』
『〈かわいい〉』
『連れ戻す勇者GJ』
「違いますからね!」
「何が?」
「リョウは黙ってて」
「何も言ってないけど」
リョウの向こうを見ると、ミナトさんが笑っていた。
僕は、構わず続ける。
「それで、このコラボなんですけど」
僕はミナトさんを見る。
「これから何度か、ダンジョンでも一緒に探索させてもらう予定で、その初回、ということになります」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
『三人探索くる?』
『豪華すぎる』
『〈了解〉』
『みなとん枠もあるな』
「ただ、今日は潜りません。今回は初めてのコラボということで、せっかくなので、お互いがどういう探索者なのか、まず話してみようという回です」
「顔合わせだね」
「はい、そのとおりです!」
僕から先に、質問させてもらう。
「ミナトさん、僕たちは最初どんな印象でした?」
「正直に言っていい?」
「どうぞ」
「もっと近寄りがたい二人だと思ってた」
「……僕たちが?」
「異世界から帰ってきた勇者と姫様で、ダンジョンでは普通に強いでしょう。もっとこう……本当に、英雄っぽい二人なのかなって」
『w』
『正直すぎる』
『分かる』
『プロフィールだけなら強キャラ』
『同じ印象』
『異世界設定を受け入れているわけではなさそうかw』
「配信を見たら?」
「イオリちゃんがずっとリョウくんの世話を焼いてて、リョウくんがずっとイオリちゃんを見てた」
「なんでそこなんですか」
『よく見てる』
『理解が早い』
『異議なし』
『〈安全確認〉』
「見てます」
隣から、ほとんど間を置かずに声がした。リョウだ。
「なんでそれを即答する……?」
「見てるから」
『速い』
『帰還配信へようこそ』
『付き合ってないんですよね?』
ミナトさんが少し目を丸くした。
「ほんとにこうなんだ」
「何がですか」
「ううん」
「絶対何かありますよね?」
「まだ初回だから言わないでおく」
「余計気になるんですけど」
『みなとんの観察日記勇者と姫編開始w』
『公正な評価を期待』
「じゃあ、こっちからも聞いていい?」
「もちろんです」
ミナトさんが隣のリョウを見ながら言った。
「じゃあリョウくん。私の配信を最初に見た時は?」
「仕事が丁寧」
「第一印象が業務の評価なんだ」
『勇者w』
『見る場所そこなの』
『たぶん褒め言葉』
『リョウくん呼びだけで草生える』
「僕は――」
言いながら、少し考える。
最初に何本か配信を見た時は、もっと単純な印象だった。
「最初は、すごく踏み込む人だと思いました。まだ情報の少ない場所でも、自分で見に行く人」
「うん」
「でも、何本か見てるうちに、そこより、小さい変化を拾うのが上手い人なんだって思って」
「へえ」
「魔物が出た時とか、大きな異常が起きた時だけじゃなくて。壁の形とか、前回と違う根の伸び方とか、誰かが歩いた跡とか。小さい変化でも止まって見るでしょう」
「ああ」
「僕なら先に魔力反応とか、退路とか、危険が増えてないかを見るような場面でも、ミナトさんは別の変化を拾ってる」
「うん」
「それで終わらないんですよ。次に潜った時、前回の記録とちゃんと比べる」
「見てくれてるねえ」
「コラボするんだから見ますよ!」
『ガチ予習勢』
『探索者によって見る場所違うんだな』
『ちゃんと同業者の評価だ』
『ミナトは最古参探索者だからなあ』
僕たちは異世界帰りの勇者と姫様として知られている。
ミナトさんは、地球でダンジョンを調べ続けてきた探索者だ。
……僕たちが、初配信で電波系アイドルとか思われていたときには、ミナトさんはすでに東京でのダンジョン探索やその配信の第一人者だった。
経歴はまるで違う。
それでも今は、同じ仕事をしている、同業者として見てもらえている。
「イオリ」
「ん?」
「髪」
リョウの大きな手が伸びてきた。
肩から前へ流れていた髪の一束を取って、そのまま背中側へ送る。
「ありがと」
「ああ」
話を戻そうとして、リョウの向こうを見る。
ミナトさんが、じっとこっちを見ていた。
「……何ですか?」
「いや」
『見たw』
『いつもの』
『第三者がいてもやるのか……』
『〈かわいい〉』
「髪がマイクへ擦れると音が入るからですよ」
「私は何も言ってないけど」
「顔が言ってます!」
ミナトさんがまた笑った。
「さっき言ったこと、訂正しなくてよさそうだなって」
「何をですか」
「リョウくんがずっとイオリちゃんを見てるってやつ」
「これはマイクを見てたんですよ!」
「イオリも見てた」
「リョウは黙ってて!」
『草』
『両手に花なのに一輪しか見てない』
『みなとん初回から理解してしまった』
「はい! じゃあ次!」
「逃げたね」
「進行表通りです!」
僕は机の上に置いていたメモを開いた。
ここからは、ミナトさんに前から聞いてみたかったことだ。
メモには、最初に潜った時の装備や魔物、昔の探索者のこと、それに昨日書き足した質問まで並んでいる。
その中で、ダンジョンの話になったら最初に聞こうと決めていた質問があった。
「ミナトさん」
「うん」
「地球のダンジョンでは、僕たちよりずっと先輩なので。これ、ずっと聞いてみたかったんです」
メモから顔を上げる。
「ダンジョンが見つかったばかりの頃、何が一番おかしいと思いましたか?」
ミナトさんは、すぐには答えなかった。
少しだけ考えてから言う。
「広さ」
「広さ?」
「地下の図面と、実際に歩いた距離が合わなかった」
思っていた答えと違った。
『そこか』
『魔物じゃないんだ』
『古参勢が好きなやつ』
『最初は測量からなんよ』
「最初から、奥が広いって分かったんですか?」
「最初は機械がおかしいと思ったよ」
「そっちを疑うんだ」
「だって、東京の地下でしょう?」
ミナトさんが笑う。
「地面の下に、地上から考えたら入るはずのない広さの空間があるなんて、普通は思わないから」
いまなら、僕も知っている。
ダンジョンの内部は、地上の道路や建物の形とは一致しない。
僕たちがこっちに戻ってきたときに降り立った新宿でもそうだった。
入口をくぐった先に、東京の地下へ物理的に収まりそうにない空間が続いている。
僕たちは帰還した日から、それを「ダンジョンだから」で受け入れていた。
でも、最初に見つけた人には。
まだ、その言葉すらなかったはずだ。
「それ、もっと聞きたいです」
「いいよ」
「最初は何を持って入ったんですか? 装備とか、観測設備とか――」
「ああ。その話をするなら」
ミナトさんが僕の質問を止めた。
「入口から話した方が分かりやすいかな」
「入口?」
「うん」
そして、とてもダンジョンの話を始めるとは思えない調子で言った。
「最初は、ただの陥没事故だったよ?」
10話をお届けしました。
ここからは、お話は次の編に入ります。
目次にもありますが、タイトルは
「先輩探索者とコラボします――ダンジョンができた地球。一体何があった?」
まずは地球側から謎に迫っていきます!
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