異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第13話 勇者は、通信の切れた観測点で大型魔物と戦います[ダンジョン探索回]

「今朝から? 7番は今朝から止まってるんですか?」

 イオリが聞き返す。

 俺も横からミナトさんの端末を覗いた。1番から6番までは数字が並んでいるのに、7番だけ現在値が空いている。

 

「うん。最後に正常な通信が来たのが7時12分。朝の確認で落ちてるのは分かってたよ」

 

『電源落ちてる』

『通信機だけ死んだ説』

『途中の配線じゃない?』

『これは異世界やろなあ』

 

「ほら、私のチャンネルだと、ちょっとでも異常があるとね、すぐコメントで考察がはじまるの。それじゃコラボ雑談が成立しないでしょ? だから、7番まで来たら話そうと思ってたんだよねえ」

 ミナトさんが笑って続ける。

 

「まあ、異世界かどうかはともかく、原因はだいたいその辺だね。電源、通信機器、途中の配線、観測機本体。それから何かにぶつけられたとか、浸水とか」

 

「直せそうなら、その場で直すんですか?」

 イオリの声は少し楽しそうだった。

 

「通信まわりの予備は持ってきてるんだ。朝、追加したからね」

 

『さすみなとん』

『今日のメインディッシュ決まったな』

 

「じゃあ、見に行こうか」

 

 6番を離れ、さらに奥へ進む。この辺りまで来ると一般の入域者はもう見えず、壁沿いには観測用の配線や、何度も補修された跡が続いていた。

 

「携帯の方は?」

「いま見てる限り、ここの歪みは基準範囲です。6番の地点から変化なし」

 イオリが携帯型空間歪計を確認する。

 数字を見ても俺には細かい差までは分からない。ただ、イオリの顔はさっきまでと変わらない。

 

『ほーん』

『じゃあ今この辺で異常が続いてるわけではない?』

 

「少なくとも、いま僕たちが測ってる範囲では、異常な歪みは出てない、ということです」

 イオリは端末を閉じず、そのまま歩きながら記録を続ける。

 

「朝の7番がどうだったかは、まだ分かりません」

「そういうこと」

 ミナトさんが頷いた。

 

 俺もミナトさんに聞く。

「一人の配信でもここ回ってますよね」

「見てたんだ? このルートなら一人の日もあるよ」

「コラボ決まってから何本か」

 

『予習する勇者w』

『えらい』

『一人点検回好き』

『壁を見ながら一時間歩くチル枠』

 

「探索がチル枠扱いされる時代なんだよ~」

 ミナトさんは笑っている。

 

「でも、だいたい合ってるんだよね。前回と同じなら測って、撮って、ログを残して帰る。違うものがあったら、その時に止まって確認する」

 

 イオリが続ける。

「一人で回って大丈夫なんですか?」

「このルートならね。戦闘より探索と計測が専門の私でも、一人で回れる。管理用の通信も通ってるし、入る前にルートと帰還予定も管理棟に提出してるし」

「いま通信途絶えてますけど、7番」

「ああ、切れてるのは観測機の回線。こっちは別」

 

 ミナトさんは肩の無線へ手を伸ばした。

「亀戸管理、こちら榊です。6番まで終了。これから7番の通信切断状況について、現認します。3名、退路異常なし」

 

 すぐに短い応答が返ってくる。

「――という感じで、連絡はできるからね」

 

『いつもの定時連絡』

『これ聞くと安心する』

 

 なるほど。7番機が黙っているだけなら、俺たちまで外と切れているわけじゃない。

 

「じゃあ、本当に知らない場所へ行く時はどうするんですか?」

「それは最初から複数人で組むよ。未知区画とか、通信条件が悪い場所とか、崩落の可能性がある場所とか」

 

 そこまで答えたところで、ミナトさんの足が止まった。

「待って。そこ踏まないで」

 

 床の端に、青灰色の金属片が落ちている。薄い板が途中から曲がり、片側の塗装が剥がれていた。

 

『出たww』

『「前回なかった」くる?』

『??』

 コメント欄を見ると、ミナトさんの枠の視聴者には定番のようだ。

 

「まだ何も言ってないでしょう」

 そう言いながら、ミナトさんはもうカメラを向けている。

 

「でも、前回はなかったね」

 金属片だけでなく周囲の床まで撮影し、イオリが座標と時刻を記録する。

 その間、俺は通路の先を見ていた。

 

「はい、リョウくん。回収するのお願い」

 

『勇者の出番』

『筋力担当』

『嗅いでみて』

 

「リョウくん、『嗅いでみて』だって」

 

「金属の匂いしかしないでしょう」

 俺は無視して、金属片を回収袋へ入れて進む。

 今度は壁際の床に重いものを擦ったような跡が続いていた。

 

『何か引きずってる跡がある』

『これ前回あった?』

 

「これもなかったねえ」

 ミナトさんの返事は早かった。

 その場で写真を数枚撮り、跡の向きを確認する。

 

「これは、重いものが動いた跡には見えるね。写真と位置を残して――その先が7番の地点だよ」

 

 通路が緩く曲がった。

 右壁に7番機が見えてくる。

 

 観測機の外装は片側が大きくへこみ、側面のカバーも半分外れていた。床には、さっき回収したものと同じ色の破片が散っている。

 

 イオリがまず反応した。

「……これは、分かりやすく壊れてますね」

 

『物理的に逝ってて草wwww』

『通信も切れるわな』

『何がぶつかったんだ』

 

「近づくのは待って」

 ミナトさんの声から軽さが消えた。

 

 俺も、7番機の、その先を見ていた。

 

 7番機より少し奥。通路の中央にあった岩の塊がゆっくり動き、太い前脚を床へつく。

 

 イオリが言う。

「岩甲獣。成体ですね」

 

 現れたのは、首から肩にかけて岩を何枚も重ねたような外殻を持つ四足の大型魔物だった。低い姿勢のままでも横幅があり、特に前半身が大きい。

 

『でかスギィ!!』

『この辺にいたっけ?』

『前見たのもっと奥じゃないか』

 

 ミナトさんは、まだ、コメント欄を見る余裕はあるようだ。

「あ、覚えてる人がいるね。そう。私が前に見た成体はもっと奥」

 

 イオリが尋ねる。

「この辺だと珍しいんですか?」

「珍しいね。少なくとも、私はここまで上がってきた成体を見た記憶はないかな」

 

『これが7番機壊した?』

『これは討伐やろなあ』

『機械の恨みは重い』

 

「これを見ると、あいつが壊したのかもね。あのへこみ方なら、ぶつかったと考えても不思議じゃないから」

 

 ミナトさんは7番と岩甲獣を交互に見る。

「内部ログが残ってれば、いつ大きな衝撃が入ったかも確認できるかもしれないね」

 

 岩甲獣がこちらへ頭を向けた。

 7番機へ近づくには、あいつの前へ出るしかない。

 

『勇者助けて!』

『3人に勝てるわけ無いだろ』

『これ戻るやつ?』

『今日は戦うか』

 

「一人なら戻るところだね。位置と状況を管理へ送って、必要なら討伐できる人と戻ってくる。定点観測のために成体と一人で戦う理由はないからね」

 ミナトさんがこちらを見る。

 

「でも今日は選択肢が増えてるんだよねえ」

 ミナトさんが、一瞬だけ笑った。

 

「リョウくん。あれは?」

「倒せます」

 

『即答w』

『頼む前に終わった』

『勇者なら余裕やろ』

 

「イオリちゃんは?」

 

 イオリは岩甲獣の脚と通路幅を見た。

 

「全身は無理です。成体だと重すぎる。でも右前脚だけなら短時間止められます」

「退路は?」

 

 イオリが後ろを確認する。

「6番側まで問題なし。拘束しながらでも、障壁は一枚なら出せます」

 

 ミナトさんは最後に7番側の壁を見た。古い補修跡が縦に走っている。

 それから無線へ手を伸ばす。

 

「亀戸管理。こちら榊。7番手前に岩甲獣成体1。こちら3名で対応可能と判断。退路確保済み。支援待機をお願いします」

 

 応答を待ってから、俺たちを見る。

 

「じゃあ3人で処理しよう。私は7番と壁を見る。あっちへ寄せすぎないで」

「了解」

 

 俺は剣を抜いた。

 

 イオリも一歩下がり、右目が金色へ変わる。

 

『討伐キター』

『勇者頼む』

『夢のタッグや!』

『ミナト枠でも右目金になるのか』

『右目はどこでも発動可??』

 

「ここからはコメントへの返事を止めるよ。配信はそのまま続けます」

 ミナトさんは画面から目を離した。

 

「リョウ、7番の地点から離すよ」

「ああ」

 

 俺は正面で待たず、7番機と反対側へ動く。

 岩甲獣の頭がこちらを追い、そのまま巨体も通路の中央へ出てきた。

 

 十分に壁から離れたところで、岩甲獣が床を蹴った。ガッと硬い音が響く。

 

「今!」

 金色の方陣が右前脚を捉えた。

 

 前脚だけ急に止められて、岩甲獣は大きく身体を傾けた。

 

「3秒!」

 

 外側へ回り込み、前脚の付け根へ剣を打ち込む。

 ガンッ!!

 一撃目を厚い外殻に弾かれた。同じ場所へ二撃目を叩き込むと、表面に細い亀裂が走る。

 

「外れる!」

 

 拘束が解ける前に剣を引いて距離を取ると、岩甲獣もすぐに俺へ向き直った。

 

「もう一回。また3秒ね」

「足りる」

 

 今度はイオリが斜めに障壁を出した。真正面から受けるのではなく、岩甲獣の肩が触れた瞬間だけ進路を外へ流す。

 

 その横を抜けると、亀裂の入った右前脚がもう一度方陣に捉えられた。

 

 同じ場所へ剣を押し込む。

 バキッ、硬い外殻が割れ、右前脚が沈んだ。

 

 そこまでは狙いどおりだった。

「リョウ、離れて!」

 

 岩甲獣は前へ倒れなかった。

 

 壊れた脚で踏ん張れないまま、身体ごと7番側へ流れる

 

「そっちは駄目!」

 ミナトさんの声が飛んだ。

 

 巨体がズドンと7番側の壁へ激突する。

 

 補修跡の脇から亀裂が走り、岩甲獣が姿勢を戻そうとして、もう一度背中を壁へ叩きつけた。

 

 ミナトさんが頭上を見る。

 

「崩れる!」

 




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