異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第17話 TS姫様、5年前の自分を追い越して勇者と決着します[本気レースゲーム配信③]

「次は、ふたりの車を交換します」

 

 僕は車両選択へ戻り、リョウが使っていた大型車を選んだ。

 

「リョウは僕の車ね」

「俺もか?」

「交換なんだから当然でしょ?」

 

 5年前の僕に0.4秒負けて、そのあとリョウにもタイムアタックで負けた。

 

【対戦スコア RYO 2-1 IORI】

 

 あと1本取られたらこの勝負は僕の負けだ。

 

「いったん、少しだけお互いの車を試して、4本目の勝負は交換した車での対決です!!」

「おお。いいぞ」

 

『車交換戦きた』

『勇者が軽量級w』

『姫様重量級いけるのか』

『2-1でそれやる勇気ある?w』

『悲鳴素材増えそう』

『ポテチ休憩まだ?』

 

「素材は増やしません!」

 

 

++++++++++

 

 

 僕はリョウの大型車。

 

 最初のコーナーで、いつもの位置から方向を入れた。

 

「う……これ重い!」

 

 車体はすぐに向きを変えず、僕の身体のほうが先に動いているのに、画面の大型車はまだまっすぐ進んでいく。

 

「早く切りすぎだ」

「曲がらないんだよ!」

「一度戻せ」

「戻したら外へ出る!」

 

『画面見てw』

『本人だけ先に曲がってる』

『小窓が仕事してるな』

 

 次の狭いカーブでも、いつもの感覚で内側へ入った。

 

「入らない!」

「2台分あったな」

「いつもなら入るんだよ!」

 

 そのまま、

 

 ゴンッ。

 正面から壁へ刺さった。

 

「わあっ!」

 

『悲鳴まとめ更新』

『追加ありがとう』

『これが岩甲獣止めてた人ですか』

『髪めっちゃ揺れたw』

 

「いまのは悲鳴じゃない!」

「ぶつかっただけだな」

「そういうこと!」

 

 ついにはリョウに擁護されつつ、車をコースへ戻した。

 

「押しても動かない!」

「力を入れても変わらないぞ」

「分かってるよ!」

 

 今度は、いつもの軽い車みたいに内側へねじ込まない。

 さっき見たリョウの走りを思い出し、少し早めに外へ出て、曲がる前に車体の向きを整えた。

 広い角度からコーナーへ入ると大型車は安定し、立ち上がりでも速度がほとんど落ちない。

 

「……こう?」

「そう」

 

 入り口で少し遅くても、出口で速度を残す。リョウの走り方はただ安全なわけじゃなく、車体を崩さないから、その次の加速までつながっている。

 

「なるほど」

「分かったか?」

「だいたい」

 

 今度は、リョウが僕の軽い車を動かした感想をいった。

「軽いな」

「でしょ?」

 

 最初のコーナーで、リョウがいつもの車と同じ位置から車体を内側へ向けた。

 

「思ったより曲がる」

「そこがいいんだよ!」

「向きが変わりすぎるな」

「変わりすぎないよ。リョウが遅い車に慣れてるだけ」

「重いだけで遅くはないぞ」

 

『勇者マイペースすぎ』

『軽量車でも安全運転w』

『小窓見比べるのおもろい』

 

 実際、僕の車へ乗り換えてもリョウの走り方はあまり変わらなかった。

 

 僕ならもっと奥まで内側へ入れる場所でも、リョウは無理に狭い線を選ばない。早めに向きを整え、出口へ向かって余裕を残したまま抜けていく。

 

「せっかくこの車なのに、もっと曲がればいいのに」

「必要なところで曲がる」

「もったいない」

「イオリは曲がりすぎだ」

「そんなことないよ!」

 

 短い練習を終える。

 次は、このまま交換した車で、正式な4本目だ。

 

 

++++++++++

 

 

【対戦スコア RYO 2-1 IORI】

 

「これ取られたら終わりだからね」

「そうだな」

「取らせないよ」

 

 僕はリョウの大型車で、リョウは僕の軽い車。

 

『もう王手かかってます』

『姫様の方が明らかに不慣れなんだがw』

『勇者その車返してあげて』

『対決イイネ』

 

【START】

 

 最初のコーナーでは、最初から自分の軽い車と同じようには扱わない。

 少し早めに大型車の向きを作り、内側へ無理に飛び込まず、出口まで崩さない。

 

「……こう」

 

 車体が安定したままコーナーを抜ける。

 

「さっきよりいいな」

「いまは勝負中だから話しかけないで!」

「さっき俺には話しかけてただろ」

「僕はいいの!」

 横を見る余裕はない。

 ただ、リョウの軽い車が僕より内側を走っているのが画面に入った。

 

『理不尽で草』

『姫様ルール多いな』

『w』

『この交換戦どっち有利なんだ?』

 

 中盤へ入っても、リョウは軽い車の旋回性を全部使おうとはしなかった。

 狭い場所へ飛び込むより、出口の向きを早く作って速度を残している。

 

 だったら、僕も大型車で同じことをする。

 高速区間へ入る前に車体を安定させ、ぎりぎりまで内側へ寄せるのを我慢する。

 出口へ向いたところでアクセルを押し込むと、さっきまで曲げるのに苦労していた大型車が、今度はまっすぐ速度を伸ばした。

 

「あ、来た」

「リョウの車だからね!」

「俺の走り方だろ」

「今は僕が使ってるから僕の!」

 

『強奪したw』

『技術まで借りパクする姫様』

『勇者軽量でも普通に速いな』

 

 最後のコーナーが近づく。

 僕の軽い車ならもっと遅くまで待ってからでも向きを変えられるけれど、いま乗っている車で同じことをすれば、また出口で外へ膨らむ。

 

 少し早めに大型車の向きを整えてそのまま出口へつなげると、隣ではリョウも軽い車を安定させたまま並んでいた。

 二台で直線へ入る。

 

「いける……!」

 

 僕は出口で落とさなかった速度を、そのままゴールまで持っていった。

 

【1st IORI】

【2nd RYO】

 

「勝った!」

 

『おおおお』

『姫様重量級で勝ったw』

『勇者の車で勇者に勝った』

『交換戦おもしろかった』

『これで2-2!』

『最終戦は元の車に戻す?』

 

 配信画面のスコアが切り替わる。

 

【対戦スコア RYO 2-2 IORI】

 

「リョウの車でリョウに勝った!」

「俺はイオリの車だぞ」

「条件は同じでしょ!」

「そうだな」

 

『ごもっとも』

『勇者が認めたw』

『サムネ5枚の行方が気になる』

 

 僕はすぐに車両選択へ戻した。

 

「でも、やっぱり僕はこっち」

 いつもの軽い車を選ぶ。

 

「俺も戻す」

 リョウも大型車へ戻った。

 

「リョウ、よくあの車でずっとやってたね」

「好きだからな」

「僕は絶対こっち」

「知ってる。昔から変えなかっただろ」

「リョウだって変えてないじゃん」

「だから好きなんだよ」

 

『5年前から愛車固定』

『ゲーム友達してる』

『〈かわいい〉』

 

「リョウの車、最後まで重かった」

「イオリのは軽すぎる」

「でも曲がるでしょ?」

「曲がりすぎる」

「そこがいいんだよ!」

 

 

++++++++++

 

 

 最後の1本を前に、僕は残っていた質問を一つ開いた。

 

【いまも配信外で、二人だけでゲームをしますか?】

 

「最近は少ないです。普通に遊ぶ時間は召喚前より減りました。このゲームも5年ぶりです」

「今日は遊んでるだろ」

「配信中だからね」

「終わったら、もう1回やるか」

「サムネイル案を5枚作ってからね」

「イオリもやるのか」

「僕が勝つから作りません!」

 

『まだ勝つ気だ』

『亀戸の件で来たのにゲームも面白い』

『こういう日もやってくれ』

『5年ぶりなのもったいない』

 

「もっとやるかは……今日の結果次第です」

 

 僕はそのまま軽い車。リョウも、いつもの大型車を選ぶ。

 

「今度は待たないでね」

「落ちなければ待たない」

「落ちても待つな!」

 

【START】

 

 僕が内側、リョウが外側。

 

 5本目。最後の勝負が始まった。

 

 最初のコーナーでは、僕が軽い車の向きを早く変え、リョウは大型車を崩さず外側から速度を残す。

 

 二台の走る場所は、最初から違う。

 

『並んでる』

『姫様攻めるな』

『勇者の方が出口速い』

『最後ガチじゃん』

 

 次のコーナーで、僕の肩と膝が内側へ入る。

 

 裸足のつま先まで床を押す。

 5年前から変わらない癖だ。

 でも、指の動きまで5年前と同じにする必要はない。

 

 高速区間が近づいた。

 

 高速区間は、5年前の僕が速度を落とさず飛び込み、0.4秒負けた時の僕が安全な外側へ膨らみ、リョウが大型車を崩さず抜けていった場所だ。

 3つの走りが、全部頭に残っていた。

 

 ぎりぎりまで加速する。でも、そのままは飛び込まない。

「まだ、まだ……」

 タイミングを待って内側へ向ける。

「ここ!」

 抜けた。落ちなかったし、速度も残っている。

 

『おおおおおお????』

『うまい』

『5年前とは違う』

『学習してる?』

 

 次の連続カーブでは僕が速度を落とし、後ろのリョウも同じ場所で落とした。

 一瞬だけ二台のエンジン音が重なり、僕の軽い車が前へ出る。

 ここから最後の直線。後ろから、大型車の音が近づいてくる。

 

「来ないで!」

「追いつくぞ」

「もうちょっと待って!」

「待たない」

「今回は待って!!!」

 

『どっちだよwww』

『ガチ勝負とは』

『忖度なしでお願いします』

 

 ゴールが近づく。

 

 横へ並ばれる前に、僕の車が線を越えた。

 

 

「勝ったあああ!!!!!!」

 

 立ち上がりかけて、結果画面の数字が目に入った。

 

【1st IORI】

【TIME 1:41.781】

 

【2nd RYO】

【TIME 1:41.836】

 

「……あ」

 

 5年前の僕の記録は、1分41秒992。

 いまのレースは、それより少し速い。

 

「リョウ、これ」

「見えてる」

「5年前の僕にも勝ってる!」

 

『おおおお』

『過去姫も抜いたw』

『0.4秒取り返した』

『勇者と0.05秒差!?』

『対戦しながら更新してる』

『勇者にも過去自分にも勝った』

 

 配信画面のスコアが最後に切り替わる。

 

【対戦スコア RYO 2-3 IORI】

 

「3対2!!僕の勝ちです!」

「サムネイル5枚かあ」

「逃げないでね?」

 

++++++++++

 

 3本先取の対戦セットを終了し、結果をプロフィールへ保存する。

 

【PROFILE DATA SAVED】

 

【RYO LAST PLAYED TODAY】

 

【IORI LAST PLAYED TODAY】

 

 5年前で止まっていた二つの最終プレイ日が、同じTODAYへ変わった。

 

『おおお』

『5年ぶりにデータ動いた』

『常設2P復活』

『これは本人っぽい』

『男子だった証明は?』

『やっぱり幼なじみヒロインなんだよな・・・・』

 

「これでっ!! 証明できたでしょう!!!!」

 

 僕はコントローラーを置き、カメラへ向き直る。

 

「これで、僕たちが召喚前から普通の男子の親友だったことは、十分証明できたと思います!」

 

『は?』

『wwwww』

『親友だったのは分かった』

『証明失敗』

『男子は?』

 

「なんで?!」

「親友は証明できたんじゃないか?」

 

 リョウが言った。

 

「男子の! 普通の! 親友!」

「親友だな」

「二つ抜けてる!」

 

『勇者判定でも親友だけ合格』

『やっぱラーメンのが良かったな』

 

「少なくとも、大盛ラーメンを食べるよりは証明できたでしょう! ……まあ、今日はここまでにしましょう!」

 

 男子だったことまで証明できたかは、まだ納得していない人がいるらしい。

 でも、ゲーム配信の勝負には勝った。

 

「じゃあ、最後に次回のお知らせです」

 

 僕は配信画面を確認してから、カメラへ向き直った。

 

「次回は、前から準備していた遠征の荷造りをします。遠征そのものの詳しい話は、公開できるところまで決まったらあらためてまとめます」

 

 遠征の予定は、亀戸へ行く前からリョウと準備を進めていた。

 近場の探索より持ち出すものは多い。探索装備だけじゃなく、補給品や予備品まで含めて二人で分担を決め、最後には重量まで確認する必要がある。

 

 明日はその中身をいったん全部広げて、配信をしながら最終確認する予定だ。

 

『遠征ほんとにあるんだ』

『きたああああ』

『昨日から言ってたやつ!』

『どこ行くの??』

『亀戸の件も気になる』

『ゲームから急に探索者へ戻った』

 

「で、明日はその準備からです」

「もう鞄は出してあるぞ」

 

 リョウが部屋の端を見る。

 そこには、まだ空の遠征用バックパックが二つ並んでいた。

 

『荷造り配信たすかる』

『ガチの遠征鞄出てきた』

『勇者が姫様の荷物増やすやつか』

 

「先に言っておくけど」

 

 僕はリョウを見る。

 

「僕の鞄には、勝手に物を入れないでね」

「分かった」

「……何、その間」

「まだ何も入れてない」

「『まだ』って何?!」

 

『了解』

『遠征詳細待ってます』

『行き先秘密?』

 

「リョウ!」

「まだ入れてないって」

「明日! カメラの前で全部確認するからね!」




17話をお読みいただきありがとうございました。
本気レースゲー配信回はここまでです
つぎのお話から、新しい謎にぶつかる遠征シリーズになります!

ぜひ、感想やお気に入り、評価ボタンをお寄せいただけると嬉しいです!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
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