異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第19話 TS姫様、案件配信でも装備のチェックは怠りません

「まず、亀戸で見てもらった障壁からです」

 

 僕は、さっきカメラへ向けた止血材の袋を防水シートへ戻した。

 

【イオリ 現在5.5kg/出発時目安10.5kg】

【リョウ 現在11.2kg/出発時目安18.0kg】

 

『亀戸であれだけ障壁張れるなら、救急用品ってこんなにいる?』

『姫様が先に防げるんじゃないの』

『勇者肩ぶつけてなかった?』

 

「あ、それ」

 僕はコメントを指さして、そのまま隣を見る。

 

「亀戸で、肩ぶつけたよね?」

「ぶつけた」

「ほら」

「もう平気だぞ」

「いま平気かどうかの話じゃないよ!」

 

『草』

『雑だなあ』

『前衛ってこういう生き物なの?』

 

 僕は止血材の隣へ固定帯と冷却材を並べた。

 

「亀戸では、僕が崩落を支えながら岩甲獣を止めていました。でも、その間にもリョウは前に出ています」

「倒さないと帰れなかったからな」

「それはそうだけど」

 

『異世界ならヒールあるんでしょ』

『ミレイさんが治療の人だっけ』

 

「向こうの世界にも治癒術はあります。ミレイさんたち治療術師が使っていました。ただ、重傷まで一瞬で全部なかったことにするようなものではありません」

「それに、どっちにしろ俺たちは使えない」

 

 リョウが付け加えた。

 

「先に言わないでよ」

 

『使えないんかい』

『姫様なのに回復役じゃない』

『この前の壁みたいなのは何パワー?』

 

「僕もリョウも治癒術は使えません。僕がやるのは、追加の攻撃を防ぐこと。崩れそうな場所を固定すること。それから、帰るための道を残すことです」

 

 僕は止血材を半分に分け、片方を自分の鞄へ、もう片方をリョウの鞄へ置いた。

 

「傷を治す役ではありません。治療できるところまで、生きたままみんなを帰す役です」

 

 コメントの速度が、一瞬だけ落ちて、また増えた。

 

『?』

『あれ?これ新設定だったか?』

『サラッと重要情報を言うな』

『似たようなことは言ってたろ』

『なんか分からんけどかっこいい!』

 

「俺が運ぶ」

 

 リョウが言った。

 僕が道を残して、リョウが人を運ぶ。向こうでは何度も、そうやって負傷者を連れて帰った。

 

『勇者が補足するの珍しいけど意味不明』

『?』

『ほーん』

 

「だから、僕が動けることを前提にして救急用品を減らすこともしません。能力者本人が負傷した時にも使えるように、必要な物は残します」

「……ということで、一般救急用品は両方へ分けます」

 

『はえ~』

『まじか』

『たすかる』

『異世界コンビなのに回復は現代的で草』

 

「ここでもう一度、最初に言ったことのおさらいです。救急品は僕たちも普通にもっていきますが、僕たちの荷物は、そのまま一般的な探索装備の見本にはしないでください。普通の人は必要なのに、僕たちはもっていかないものもあります」

 

『誰向けの注意?』

『初心者です、明日行きます』

『え?さっきの話は終わりなの?wwww』

 

「明日行かないで」

 反射的に答えると、コメント欄が笑いで流れた。

 

「僕たちは、大型の退避幕と障害物除去用の工具を個人では持っていきません。短時間の退避場所は僕が結界で作れますし、通路を塞ぐ物ならリョウが――」

「切る」

「何でも切っていいわけじゃないからね?」

 

『www』

『勇者=工具』

『切るな』

 

「調査班全体では、普通の退避装備も工具も用意されています。これは僕たち二人の鞄だけの話です」

 僕は荷物の外へ置いた退避幕を指した。

 

「普通の探索者は、必要な退避装備や工具は各自の能力と相談して、検討してください。僕たちが持っていないからって、同じように減らさないでくださいね」

「イオリが落ちたら拾う」

「ロープは持ってるから!」

 

『異世界設定売りのわりにロマンがない』

『ロープあるんかい』

『この配信見てる探索者いるの?』

『初心者コメントちゃんと聞いとけ』

『姫様は真面目』

 

「能力で確実に代用できる物は減らす。でも、能力を使えなくなった時に必要になる物は減らさない。これが基本です」

 小型ライトや携帯無線を順番に示す。

 

「照明も無線も救急用品も持っていきます。現代に便利な物があるんだから、普通に使います」

「暗くても動ける」

「リョウが動けても、救助される側と映像記録には光が必要なんだよ」

 

『〈なるほど〉』

『ほーん』

『正論』

『文明を信用してる』

『異世界の証明不足』

 

 現代のダンジョンに適応して探索仕事をこなしていることは、このチャンネルの売りであり弱点でもあった。

 初配信直後のように「電波アイドル」呼ばわりされながら、実力も見せずに異世界の実在を力説していた頃とは違うのだ。

 

 

+++++

 

 

「その流れで、今回ご提供いただいた装備も確認します」

 画面の端へメーカー名と【商品提供】を表示する。

 僕たちは、現代のダンジョンに適応するあまり、案件までいただけるようになっていた。

 

『は?www』

『流れあった?』

『強引で草』

『案件品>>>異世界チートってこと?』

『姫様お仕事モード』

『案件あったの忘れてそう』

 

「忘れてません!」

 流れがあったのは、僕の脳内だけだったようだ。ちょっと失敗。

 

「今回の遠征用に、軽量レインジャケットをご提供いただきました」

 

 畳んでいた濃紺のジャケットを広げる。

 

『ダンジョンでレインジャケット?』

『地下で雨降るの?』

『降るぞ』

 

「降る区画もあるけど、雨専用ではありません。天井からの滴下や地下水の飛沫、濡れた壁や泥から、内側の服と装備を守るための防水シェルとして持っていきます」

「雨が降るダンジョンもある」

 

 リョウが横から付け足した。

 

「だからそこを広げなくていい!」

 

『初心者増えてる』

『ダンジョンって天気あるんだ』

『これも案件の台本?w』

『上着で揉めてたの案件の伏線だった』

 

「伏線じゃないです!」

 

 僕はジャケットを羽織り、前を閉じた。装備ベルトも腰へ仮留めする。

 

「まず、かなり軽いです。2泊3日で持ち歩く装備なので、これはありがたいです」

 

 両腕を上げ、そのまま前へ伸ばしてしゃがむ。

 胸元も肩も突っ張らない。裾も装備へ干渉しない。

 

「腕を動かしても肩が引かれないし、腰の装備ともぶつかりません。サイズも事前に合わせてもらっているので、ここまではかなりいい感じです」

 

『〈かわいい〉』

『ちゃんと褒めた』

『案件っぽい台詞きた』

『姫様案件できるじゃん』

 

「ちゃんと案件できます! 〈勇者と姫の帰還配信〉をよろしくお願いします!」

 

『草』

『チャンネルの宣伝になってる』

『やっぱだめか』

『勇者は?』

 

 ふと横を見ると、いつの間にかリョウも自分用のレインジャケットを着ていた。

 

「いつ着たの?」

「さっき」

 

『勇者いたw』

『勇者も案件対象』

『いつの間に』

 

「リョウの分もご提供いただいています。腕上げて」

 

 リョウが両腕を上げる。

 

「肩は?」

「問題ない」

「背中」

「問題ない」

「……レビューが短い」

「問題ないからな」

 

『これもう案件来ません』

『勇者レビュー3秒』

『案件コメント全部問題ない』

『姫様が二人分説明して』

 

「あとで僕が補足します!」

「髪」

 

 背後へ回ったリョウが言った。

「え?」

 

 リョウが僕の髪を片手ですくい上げる。

 低くまとめた青墨色の髪。その内側から出た白い毛束が一本、フードの調整コードへ触れていた。

 

「あ、本当だ」

「走ったら絡む」

「これは確認しておいてよかったね」

 

『案件終了』

『早いw』

『勇者チェック厳しい』

 

「終わってません。長髪用の保護カバーもあります」

 付属品の中から、細長い防水カバーを取り出した。

 

「僕専用ではなく、長い髪をまとめて防水するための市販オプションです」

「つけるぞ」

「お願い」

 

 リョウが髪をまとめ直し、カバーへ通す。

 青墨色と内側の白が、濃紺の防水布へ収まっていく。フードを被り、左右へ首を動かした。

 今度はコードへ触れない。

 

「うん。これなら大丈夫そう。長い髪まで想定したオプションが用意されているのは、僕にはかなり助かります」

 

『案件復活』

『姫様には重要だな』

『〈かわいい〉』

 

「防水性や蒸れ方は、実際の探索で確認します。使用後の感想も、遠征から帰ったら改めて話します」

 

 今日は、着た状態で安全に動けることまで。最終評価は、現場へ持っていってから。

 

「採用候補です」

 

『候補w』

『これどこまで脚本?』

『褒めてるってことでいいんだよな』

『これ許す会社の好感度が上がる作戦かも』

 

+++++

 

 残っていた2泊3日分の食料と水、通信・撮影機材、衣類や細かな探索用品も、荷物一覧を確認しながら二つの鞄へ収めていく。

 

 床を埋めていた物がなくなり、ジーッっと最後のファスナーを閉じる。

 

【イオリ 現在10.1kg/出発時目安10.5kg】

【リョウ 現在17.4kg/出発時目安18.0kg】

 

 どちらも目安内だ。中身の偏りと固定も問題ない。

 

「最終確認。忘れ物なし。重量問題なし。提供品のレインジャケットも、長髪用カバーを含めて装備との干渉なし。明日の遠征で実際に使います」

 

『おつ』

『荷造り終わった』

『普通に参考になった』

『魔法使えても装備は大事なんだな』

 

 管理画面へ手を伸ばしかけた時、隣でリョウが床に残っていた一袋を持ち上げた。

 

 蜂蜜飴だった。

 

「これ、入れていいか」

 僕はリョウを見る。

 

「……どこに?」

「俺の鞄。イオリが必要になったら渡す」

 

 勝手には入れなかった。 一応、学習している。

 

「一袋だけ」

「ああ」

「僕が要らないって言ったら、リョウが食べて」

「分かった」

 

 蜂蜜飴はリョウの鞄の上部へ収まった。僕の髪紐と同じ、すぐに取り出せる場所だ。

 

 重量表示が更新される。

 

【リョウ 現在17.5kg/出発時目安18.0kg】

『結局持っていく』

『勇者の鞄に姫様の飴』

『成長したな勇者』

 

「そこを成長扱いされるのどうなの?」

「入れていいって聞いた」

「だから学習したとは思ってるよ」

 

『褒められた』

『勇者えらい』

『〈えらい〉』

 

「そこまで褒めることではないです!」

 

+++++

 

 荷物一覧を閉じると、画面には床へ並んだ二つの鞄と僕たちだけが残った。

 

「それでは、今日の配信はここまでです。明日から2泊3日、探索庁の調査班と合同で遠征へ入ります。僕たちは生態調査、採集、定点カメラの設置。それから、第三新宿で取った記録と比較するための観測を担当します」

 

『もう終わり?』

『おつかれさま』

『遠征配信楽しみ』

『現場でも頑張れ』

『二人ともちゃんと帰ってこい』

 

「遠征中も、許可が出ている場所では配信する予定です。ただし、調査と安全を優先するので、急に中断する場合があります」

「危なくなったら帰ります」

「それ、今日2回目だよ?」

「大事だからな」

 

『毎回言ってる』

『危なくなったら帰る大事』

『おかえり言うまでが遠征』

『二人とも帰ってきてね』

 

 二人とも帰ってきて。

 向こうの世界でも、出発するたびに何度も言われた言葉だった。あの頃は、その約束を本当に守れるのか、自分たちにも分からなかった。

 

 いまは違う。

 

「二人とも帰ってきます」

 

 僕は、リョウの鞄を指した。

 

「そのための荷造りなので」

「ああ」

 

 リョウが僕の隣へ座り直す。

 

「帰ってきたら、また配信します」

 

『待ってる』

『いってらっしゃい』

『絶対帰ってこい』

『おかえりを言わせて』

『遠征頑張って!』

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「行ってきます」

 

 リョウの声が重なった。

 

 僕は配信終了のボタンを押した。

 二人分の荷物は、完成した。

 

 あとは明日の朝、これを背負って、まだ答えのない場所へ行くだけだ。




19話をお読みいただきありがとうございました。
案件配信もまじめなふたりでした。
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