異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

31 / 31
第23話 TS姫様と勇者は、遠征先で異世界の魔物にそっくりな何かを見つける[ダンジョン探索回]

 午前8時。

 俺たちは昨日より下の許可区域へ入り、予定どおり生配信を始めた。

 

 イオリがいつものような挨拶をしてから、遠征について話はじめた。

「きょうは、ダンジョンの遠征2日目、朝活配信です。採集と生態調査をしながら、昨日決めた場所に定点カメラを設置する仕事をします。空間の歪みも、昨日と同じように測っていきます。昨日の様子はショート動画にまとめて昨日アップロードしてあるので、そっちも見てくださいね!」

 

『〈おはよう〉』

『遠征2日目!』

『いおりんもう髪結んでる!!!』

『髪結い見せろ 』

『配信前に本題終わってるじゃん!』

『朝活配信とは何だったのか』

 

「髪は配信前に結びました。朝5時から起きて準備してたので、もう仕事を始められる状態です。そうしないと、仕事が10時スタートになっちゃいます!」

 

 結んだのは俺だったが。

 

『ガチの朝活だった』

『朝5時!?』

『普通の社会人の生活で草』

『ショートの更新が朝早すぎて見てないやつ多いな』

 

 

 

 俺たちを社会人と思っていない奴はいったい何だと思っているんだろうか。

 

 

 

     +++++

 

 

 

 まずは、一つ目の測定地点へ向かう。

 昨日の3地点より下へ入ると、周りの景色もかなり変わった。

 

 人が歩きやすいよう整えられていた通路は途中で終わり、その先は浅い渓谷のように落ち込んでいる。

 底には黒い土が溜まっていて、岩の隙間や古い配管の周りを、青白い苔や半透明の蔓が覆っていた。

 照明や誘導線は残っているけれど、新宿でいつも歩いている管理通路より、ずっと地面そのものを踏みしめて歩いてる感じがする。

 

 誘導線から外れないように進みながら、採集可能な範囲を示す杭を確認した。

 

 青白い苔の切れ目に、細長い葉が何株かまとまって生えている。

 葉の中には淡い青い光が通っていて、黒い土の上ではよく目立った。

 

「これ、薬品の原料になります。今日は指定された量を採ります」

 

 イオリが株の状態を確認しながらしゃがむ。

 

 かさっ、と葉の奥で何かが動いた。

 

「待って」

 

 その奥から、長い耳が二本伸びた。

 長い耳の先だけが半透明で、葉の青い光を受けて透けている。

 

『なんかいる』

『うさぎ!?』

『かわいい』

『耳光ってる!』

 

 小さな魔物は逃げるでもなく、草の陰からこっちを見ていた。

 

「ここは採らないでおこう。必要な分は、ほかの場所から取れるから」

 

 わざわざこいつが潜り込んでいる草を抜く必要はない。

 少し離れたところにも同じ草がまとまって生えていたので、俺たちはそっちから指定された分だけ採った。

 採集を終えても、イオリはさっきの小さな魔物をもう一度振り返った。

 

「かわいかったねえ」

「連れて帰るなよ」

「連れて帰らないよ!」

 

『姫様いま考えたでしょ』

『連れて帰りたい顔してた』

 

「仕事中です!」

 

 たぶん考えたな。

 

 そのあと、1つ目の地点で昨日と同じ条件の数字を取り、定点カメラを設置した。

 ここでは、昨日の3地点から大きく外れる数字は出なかった。

 

 

 

     +++++

 

 

 

 2つ目の途中に、80センチほどの段差があった。

 先に降りた俺が手を貸そうとしたが、イオリは足場を見て首を横に振る。

 

「大丈夫。届くから」

 

 岩へ片足を置き、そのまま自分で降りてくる。

 

「昔なら俺の手を取ってたな」

「外を歩き回るようになったばっかりの頃でしょ? あの身体で段差の感覚なんて分かるわけないじゃん」

「腰をつかんで戻したこともあった」

「今それ言う必要ある?」

「細かった」

「何が!?」

 

『腰!?』

『細かった???』

『勇者????』

『ファーw』

『今も細さを確かめたほうがいい』

 

 最初の頃は、俺が止めないと危ない場面もあった。

 今のイオリは、自分の身体の幅も脚の長さも分かっている。

 

 それでも、俺は次もたぶん手を出す。

 

 

 

 段差を降りて少し歩いたところで、イオリが俺に声をかけた。

 

「リョウ。蜂蜜飴ある? 入れてきたやつ!」

「あるぞ」

 

 すぐ出せるところへ入れていた飴の個包装を渡す。

 

「早いね」

「取りやすいところに入れた。イオリ用にな」

「僕用ってわけじゃないと思うんだけど。なんでそういうこと言うの?」

 

『姫様用w』

『勇者の鞄から姫様のおやつ出てくる』

『〈かわいい〉』

 

 文句は言うが、イオリは普通に袋を開けた。

 

「……甘い」

「蜂蜜だからな」

「知ってるよ」

 

 俺もひとつ開けた。

 

「リョウも食べてるじゃん」

「そりゃ食べるだろ」

 

 

 

     +++++

 

 

 

 2つ目のカメラ設置場所へ向かう途中。

 決められた採集区域を離れると、青白い苔はだんだん減っていった。

 

 代わりに目立ち始めたのが、壁際から伸びる黒い根だ。

 黒い根そのものは珍しくない。第三新宿にもあった。

 ここの根は太いものだと50センチほどあり、岩壁へ張りついたまま奥まで続いている。

 床にもたくさん張り出していて、誘導線はその間を避けるように引かれていた。

 

 

 

 異変に気づいたのは、その少しあとだった。

 さっきまで聞こえていた足音や機材の音が、一瞬だけ遠くなった。

 

「イオリ、待て」

「どうした?」

「今、音が変だった」

 

 イオリが携帯型空間歪計を確認する。

 

「……さっき測った場所より数字が上がってる」

 

 俺も横から表示を覗き込んだ。

 

 

 

「昨日の測定値より?」

「昨日の3地点では出なかった大きさだね」

 

『異常発生』

『第三新宿と似てる?』

『きたあああああああ』

『異変を見たら引き返せ』

『また勇者が先に気づいてる』

 

 コメントを見ながらイオリが言う。

 

「まだこれがどういうことかは分からないです。場所を変えてもう一回測ります」

 

 イオリが数メートル戻って測ると、数字は下がった。

 もう一度、壁を這う黒い根の側へ近づくと、また上がる。

 

「これは……。こっちへ近づくと上がる感じだね」

「もう一回戻って確かめるか?」

「うん。あと何か所か取る」

 

 第三新宿で見つけた異常と同じものかどうかは、まだ言えない。

 イオリはもう一度距離を取り、位置を変えながら数字を残していく。

 

「第三新宿の記録と比べられる形で残すか?」

「うん。記録を細かくして、場所を変えながら何か所か取る。リョウは、周り見てて」

「分かった。こっちは俺が見とく」

 

 少しして。

 

 ――ゴリッ。

 

 黒い根の向こうで、何か硬いものが岩を擦った。

 

「イオリ」

「聞こえたよ」

 

 もう一度、低い擦れる音がする。

 

 黒い根の向こうから、大きな影が出てきた。

 

 灰色の巨体を、乾いた岩板のような分厚い皮膚が覆っている。

 短い首の後ろでは肩が大きく盛り上がり、額からは黒い太い角がまっすぐ前へ伸びていた。

 そこだけ妙に無機質だった。

 筋も節もなく、黒い石を削り出して、そのまま額へ埋め込んだように見える。

 前脚も妙に太い。大きな蹄が、ずしん、ずしんと岩床を踏む。

 

 

 低い頭、盛り上がった肩、前へ突き出した一本角。

 地球では見たことがない。

 それでも、異世界では何度も見た魔物によく似ていた。

 

「……灰角獣に見える」

 

 イオリも測定器から顔を上げた。

 

「僕もそう見える」

 

『?』

『聞いたことないよ』

『お』

『はいかく・・・?』

『灰角って書くの?』

 

「少なくとも、地球側では見たことのない個体です」

 

 イオリがカメラへ向けて説明する。

 

「僕たちが異世界で灰角獣と呼んでいた魔物によく似ています。ただ、見た目だけで同じ種類とは言えません」

 

 イオリの言葉に、コメント欄が一気にヒートアップした。

 

『異世界のやつ来た?』

『???!!!!!』

『異世界きちゃああああああああ』

『地球終わったか』

『これ持ち帰って調べられる???』

『とりあえずwikiには載ってない』

『こーれ魔王軍の残党ですwwwwww』

『新種であっても異世界とは限らんだろ』

『見た目だけ似てる可能性もまだあるぞ』

『お前らおちけつ』

 

 

 

 個体はまだ突っ込んでこず、こっちを見たままゆっくり位置を変えている。

 

 イオリの言う通り、見た目だけではまだ決められない。

 ただ、本当に灰角獣なら、次に何をするかまで俺たちは知っていた。

 

 

 




23話をお読みいただきありがとうございました。

ぜひ、感想やお気に入り、評価ボタンをお寄せいただけると嬉しいです!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~(作者:APP3)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

 ルシアン・アルヴェイン・ド・レグリアは、天才であり、クズである。▼ 公爵家の嫡男として生まれ、類稀なる魔法の才を持ち、幼い頃から誰もが自分に従うことを当然と思っていた。▼ そんなルシアンが、生まれて初めて敗北した相手。▼ それが、剣の天才──カイルだった。▼「覚えとけよ! 次は必ずオレが勝つ!!」▼ 何度負けても挑み続けるルシアンと、それを迎え撃つカイル。…


総合評価:475/評価:8.83/連載:17話/更新日時:2026年09月30日(水) 21:33 小説情報

TS転生令嬢は婚約したくないので魔法研究で身を立てようと思います(作者:Fiomia)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

伯爵令嬢ロザモリアには、地球でシステムエンジニアとして働いていた前世の記憶がある。▼そして何より、前世は男だった。▼五歳のとき、大病をきっかけに前世を思い出した彼女は、「男性とは結婚したくない」と考えるようになる。しかし貴族令嬢である以上、いずれ結婚は避けられない。▼ならば、魔法研究者として自立しよう。▼そう決意したロザモリアは、魔法と錬金術を学び、国内最高…


総合評価:61/評価:-.--/完結:60話/更新日時:2026年09月24日(木) 07:00 小説情報

TS娘と情緒をぐちゃぐちゃにされる相棒(作者:べべべたろう)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

▼なお、TS娘本人の情緒もぐちゃぐちゃな模様。▼【ちゃんとしたあらすじ】▼その日、冒険者ニコは女になった。物理的に。▼冒険者としての相棒兼幼馴染で親友のカイは無類の女好きである。ニコは当然、貞操の危機を覚えずにいられなかった。▼が、予想に反してカイはニコに手を出さなかった。なぜなら、奴はTSしたニコによって情緒をぐちゃぐちゃにされていたからである。▼*後天T…


総合評価:1157/評価:8.92/完結:15話/更新日時:2026年09月07日(月) 21:00 小説情報

女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります(作者:きさまち)(オリジナル:ファンタジー/日常)

ファンタジー世界で真っ当に暮らしていた主人公は罠にハメられ意図せず女体化させられてしまう。▼待っているのは最悪のバッドエンド!そのピンチを救ったのは翼を持つ異種族の男(イケメン)だった。▼割と早い段階で女であることを受け入れイケメン旦那と結ばれた主人公は子宝にも恵まれて幸福の絶頂に…しかしそうは問屋がおろさない!?▼我が子との幸せのんびり生活のためお母さんは…


総合評価:1570/評価:8.27/連載:26話/更新日時:2026年09月26日(土) 19:03 小説情報

産廃スキル『性転換』で魔法少女になったら戻れなくなった(作者:ぷに凝)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

 スキルが一人につき一つしかない世界で、小林大翔が引き当てたのは『性転換』。▼ 性別を変えるだけの戦闘向きではない産廃スキル――のはずだった。▼ だが、女性専用装備『魔法少女のドレス』との組み合わせにより、その常識は覆る。▼ ドレスの力で圧倒的な戦闘能力を手に入れた大翔は、正体を隠したまま謎の魔法少女『プリムノヴァ』として活動を開始。▼ 少女の体と魔法少女の…


総合評価:976/評価:6.86/連載:71話/更新日時:2026年08月11日(火) 18:49 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>