異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
俺は、目の前の個体から視線を外さない。
「灰角獣と同じなら倒せる」
「うん。でも先に今の記録をとらせて。戦ってこいつが動いた後だと、どこまでが元からあった変化なのか分からなくなるからね」
「分かった。じゃあ俺が見てるから頼む」
イオリが距離と数字を記録し、映像も残していく。
俺は個体の脚と角から目を離さない。
「取れた?」
「あと少し――うん、十分取れた」
「灰角獣と同じなら、最初は突進だ。俺は右へ避ける 」
「分かった。突進を外しても、すぐ近づかないでね。こっちが避けた方向を見て、角で床を砕いて石を飛ばしてくるから」
「ああ。次の突進につなぐやつだな」
「うん。じゃあ石は僕が止める」
「頼む」
『石を飛ばす???』
『何その攻撃』
『異世界の魔物の頭良くて草』
『そこまで同じだったらヤバくない?』
『逃げた方見て撃つの?』
その直後、個体が頭を下げた。
ガッ――
大きな蹄が岩床を強く掻いた。
やっぱり。
俺はその動きを知っていた。
「来るぞ。もういいな?」
「うん。討伐に切り替えよう」
『今言った動きしたぞ』
『ほんとに突進くる?』
『まず動きは一致』
『石までやったらヤバい』
イオリの右目に金色が浮かぶ。
あの目になれば、もう細かく確認する必要はない。向こうで何度も一緒に戦った時と同じだ。
イオリが言う。
「未登録の大型個体一体。討伐して、個体は回収して調べてもらいます」
『うおおおおおおおおおお』
『姫様のお目々が戦闘モード入ってんね』
『異世界魔物VS異世界帰り』
『午前中からコレとか神回か』
『有給とってよかったw』
『またバズる気か』
最初の突進を右へかわす。
巨体が俺の横を駆け抜ける。
ズドンッ!
太い角が岩壁へまともにぶつかった。
硬い石が割れるような音がして、角の先端が欠けた。
黒い表面の下から、灰色がかった半透明の断面が覗く。
ぶつかった壁の表面も小さく剥がれ落ちる。
個体は壁から角を引き抜くと、すぐには突進しなかった。
首を振り、さっき俺が避けた右側へ頭を向ける。
「来るよ!」
太い角が岩床へ叩きつけられる。
ガラガラガラッ!
砕けた石が、俺が逃げた側へ扇状に弾け飛んだ。
イオリがその前へ障壁を出す。
拳ほどの石片が、次々にぶつかって弾かれた。
『!?!?!?』
『ほんとに石飛ばした』
『避けた方狙ってるじゃん』
『さっき説明した通りなんだが!!!!』
『ガチで異世界案件か』
『予告通りなんだが』
『これもう勇者じゃなくて預言者じゃん』
『勇者ついに魔物召喚したか』
『普通に人に当たったらやばいだろ』
『仕込みだよ仕込み』
『これ歴史的映像では???』
見間違いじゃない。石の飛ばし方も、俺が避けた側を狙うところも、向こうで知っている灰角獣と同じだった。
「リョウ、速さは? どう思う?」
「向こうで知ってるのと同じくらいだ。次、右へ流す」
「分かったよ。左を塞ぐから」
「頼む」
個体が向きを変える。
二度目の突進に合わせて俺が正面を外す。イオリが左側へ障壁を出し、個体の進路を右へ寄せた。
そこへ、イオリの金色の《拘束方陣》が前脚の一本を捉える。
「今!」
前脚だけを拘束され、巨体の踏み込みが止まる。
俺は角の付け根から首へ剣を入れた。硬いが、どこへ刃を通せばいいかは知っている。
「もう一回、前脚を拘束するから!」
「頼む」
二度目の拘束に合わせて踏み込み、首へもう一撃入れる。
巨体が大きく傾く。
ズンッ。
重い音を立てて、岩床へ崩れ落ちた。
『うおおおおおお』
『連携早すぎ』
『異世界証明Q.E.D.』
『これ本当に向こうの魔物では?』
『つよい』
『朝からいいものを見た』
『勇者余裕じゃん』
少し待って、起き上がらないことを確認する。
「終わった」
「うん。討伐完了だね」
これで戦闘は終わった。けれど、調べるものはむしろ増えている。
俺はさっき個体がぶつかった壁際を見る。
「角の先、壁際に落ちてる。回収できる。壁も少し欠けた」
「うん。まず個体を確認して、そのあとそっちも見よう。個体本体は回収を頼んで、地上で調べてもらおう」
こいつが本当に灰角獣なのか。地球側の魔物として、どんな素材が取れて何に使えるのか。
倒したことで、調べられることは増えた。
「リョウ、怪我は?」
「ない。イオリは?」
「僕も平気。じゃあ、さっきの数字に戻るね」
イオリが携帯型空間歪計を確認する。
しばらく表示を見てから、もう一度、倒れた個体の手前と黒い根の側を測った。
「……変わってないか」
「倒す前と?」
「うん。空間の歪みはほとんど同じ」
『最初から根の近くで上がってたしな』
『獣と歪みが関係あるかは分からん』
『そこの場所自体が異界と繋がってるんでしょ』
『壁と根の方まだ調べる?』
『はやくかえってきて〜』
俺も倒れた個体から黒い根の方へ目を移した。
「少なくとも、こいつを倒しても数字は消えないな」
「うん。この個体がいたから、ってだけでは説明できない」
イオリがもう一度、黒い根の側で数字を取る。
昨日の夜、「この異常が向こうと関係しているかもしれない」と話した時には、まだ想像しかなかった。
今日は、見た目だけでなく、知っている攻撃まで同じ個体が現れた。
それでも、こいつを倒しても空間の歪みは消えていなかった。
『異世界への穴とかないよな?』
『まだ何かいる?』
『いよいよ異世界編か』
「この辺り、まだ調べる必要があるね」
「ああ。魔物を倒しても数字が残るなら、次は数字が上がってる壁と根の周りだ」
俺は、さっき灰角獣がぶつかった壁を見る。
黒い根はその奥まで続き、壁際には、欠けた角と剥がれた岩が残っていた。
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