異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第27話 TS姫様と勇者、あんなことがあっても日曜日はお昼から雑談配信です

「こんにちは。〈勇者と姫の帰還配信〉です。今日はお昼を食べながら最近のことを雑談しま~す!」

 

 日曜日のお昼。配信を始めてまず、僕はそう言った。

 

 もともとこの配信は、3日間の遠征の次の日が日曜日になるのを見越したものだった。

 昼間に流せて、最近増えた視聴者に僕たちを知ってもらって、かつ、楽そうな配信。

 ……最後が一番大事なんだろ、とはいわないように。

 

 それなのに。

 おとといの遠征中の、「異世界からきたかもしれない魔物」との出会い。

 それで遠征3日目はキャンセルになって、そのまま昨日はお休み。

 1日雲隠れしていた僕たちが、戻ってきたら雑談配信。

 

 コメント欄は、開始前からおとといの遠征の続きみたいになっていた。

 そもそも、昨日枠をたてた時点からそんな感じだった。

 

『おはよう』

『日曜もかわいい』

『のんきだな』

『はいかく獣どうなった?』

『一昨日の続きはよ』

『異世界の謎を増やして雑談かい』

 

 配信画面に移る僕は、明るい灰色の柔らかい長袖に、家でよく穿く濃い色のパンツ。髪も食事の邪魔にならないよう、後ろでゆるくまとめてある。

 リョウも黒い長袖と楽なパンツで、二人とも完全に休日の格好だった。

 

 テーブルの上には、野菜ときのこの入ったスープ、パン、卵。

 リョウはもうパンをちぎっていて、僕もスプーンを手にしている。

 

「えーと、今日は前から雑談配信の予定だったんです。日曜のお昼をみんなとご一緒しようということです」

「昨日から書いてあっただろ」

 リョウが普通にパンを食べながら言う。

 

「遠征のときの話も、雑談の範囲でちゃんとさせてもらいます! コメントで質問してくれたら答えられる範囲で答えます!」

 

 角も壁片も、遠征から戻った日のうちに探索庁へ渡してある。

 僕たちが持っている記録も共有済みだ。

 今日ここで、なにか成果物を見せて説明するとかはできない。

 そういう意味でも、今日の配信のタイトルが「雑談配信」なのは正確なのだ。

 

『結局あれは異世界の魔物なの?』

『遠征の魔物は本当にはいかくじゅうだった?』

『壁の文字みたいな奴は調べた?』

『一昨日の調査はいつ再開しますか』

『つぎのゲーム配信はいつ?』

『勇者はみなとんと姫様どっちがかわいいと思いますか?』

『例の変な角の素材価値は?????いくらで売れる??それが一番気になる』

『きのうはデートですか?』

『新種魔獣の資源を独占するな』

『はやく異世界編スタートしてくれ』

 

 事前に集めるでもなく、急に質問に答えるとか言ったのでコメントがどっと来た。

 

 うん。

 やっぱりおとといの件への疑問が一番多い。 

 

 僕はいったんスプーンを持つ手をとめて、話に集中する。

 

「やっぱり、遠征のことが気になる人が一番多いですね。まず、あれが本当に向こうの灰角獣なのかはまだ分かりません。見た目だけじゃなくて攻撃の仕方まで一致したから、かなり気にはなってるけど」

「倒した後も空間歪曲値は高かったしな」

「そう。だから、あの個体だけ調べれば終わりって感じでもないんだよね。壁片もいまは探索庁に預けて、調べてもらってる途中。 黒い根は、あるだけなら珍しくないです。第三新宿にもあったからね」

 

『まだ全部調査中か』

『やっぱ灰角獣は原因というより異世界とつながった結果だな』

『調べるのは探索庁なの?』

『次いつ?』

『ミナトンコラボの続きはよ』

『素材は売れた?』

 

 雑談配信のつもりだったのに、質問が多すぎてお昼が進まないよ……。

 一気に説明しよう。

 

「調べるのは探索庁なの、っていう疑問についてですが……僕たちは地球のダンジョンのことを全部知っているわけではないので、他のダンジョンの現象との比較は探索庁の人たちやミナトさんと共同でやります。それから、地球で見つかってる過去の素材との比較もできていないので、素材の価値は全然わかってません。次の調査については、もうミナトさんと話してます」

「次のコラボだな」

「うん。遠征で取ってきた空間の歪みの記録を、次は三人で見る予定。細かいところはまだ調整中だけど、それはこんどのコラボ配信でやります!!」

 

『またコラボイイゾ~』

『今日やって!!』

『いきなり番宣していくスタイル』

『ミナトさんすき』

『探索庁抜きでやって大丈夫?』

 

「今日は日曜日ですから! 今日は雑談です。もちろんデータは探索庁とも全部共有しています! 週明け色々動きます」

 

『俺達ニートに曜日は関係ない』

『ダンジョン界隈って意外とカレンダー通りなんやな』

『俺も探索庁が役所なことをたまに忘れる』

『日曜日のダンジョンは観光客だらけ』

 

「休日のダンジョンは観光客だらけ……。そうそう。ダンジョンって、浅層なら資源採掘現場だったり観光地だったりするんだよね。向こうのとは大違い」

「こっちでも場所によって違うな」

「僕たちが一番行く新宿は副業の聖地とかいわれてるけど、この前の亀戸は老舗っていうか観光地っぽかったね」

 

 

+++++

 

 

 ダンジョン=観光地説など頭を使わなくてすむ話をしているうちに、遠征の話が一段落した。

 

 僕はそこで初めて、しばらくスプーンを持ったままだったことに気づいた。

 

「……やっと食べられる」

 スープはまだ温かい。

 

『なんか二人のスープ中身違くない?』

『同じ鍋じゃないの?』

『姫様の方きのこ多くね』

 

 コメントを見たあと、僕は自分の器を見る。

 

「ああ。配信始める前に、もうちょっと交換してたんだよ」

「イオリがきのこをほしがるから」

「リョウが肉ばかり食べるからでしょ」

 

『最初から交換済みだった』

『勇者子どもかな』

『え』

 

「毎回やるわけじゃないよ。今日はたまたま」

「俺はきのこも食うぞ」

「でも肉の方が嬉しいでしょ」

 

 パンをスープに浸して食べていると、コメントが一つ目についた。

 

『異世界でもこういう昼飯だった?』

 

「似たようなのはあったけど、味は結構違いますね」

「大体同じだろ」

「うわ出た」

 

 僕は思わずリョウを見る。

 

「ずっとそれ言ってるよね。肉と豆と根菜と塩が入ってれば大体同じ、って」

「食えるだろ」

「でも再現料理でそれを言っちゃ駄目なんだよ」

 

『勇者さあ』

『姫様キレてて草』

『再現料理?』

『昔なんかやったの?』

『異世界めし回あるぞ』

 

「そうそう。配信始めた頃、何回か異世界で食べてた料理を地球の材料で再現します! ってやってたんだよね」

 

 最近はやっていないから、遠征の切り抜きから来た人なら知らなくても不思議じゃなかった。

 

「でもこれが難しいんだよ。見た目が似てる野菜でも食感が少し違うし、香草なんて匂いが全然違う。向こうでよく食べてた赤い根菜も、結局これっていう代用品が見つからなかったし」

「煮れば食える」

「だから再現度の話をしてるの」

「煮れば同じように食える」

「うーん」

 

『勇者ずっとこれなのかw』

『食えれば同じ派』

『めんどくさいな』

『うーんこの』

 

「めんどくさくないよ。異世界めしって名前で出すなら、なるべく似せたいだけ」

 

『香草の回覚えてる』

『あれいつだっけ』

『今年はやってないな』

 

 

「そういえば、最後にやったのいつだっけ」

「夏かな」

「今年の夏じゃなくて、去年の夏ってこと?」

「たぶん」

「……年末くらいまでやってた気もするけど、でも今年はやってないのはたしかかな」

 

 異世界に関心を持ってもらう入口にはなると思って始めたけれど、実際にやってみると再現は思ったより難しかった。

 配信活動が軌道に乗ってからは、うまくいきそうでいかない異世界めしを、いつの間にかやらなくなっていた。

 

『記憶割れた』

『自分のチャンネルだろw』

『異世界飯は再現諦めてたんやな』

 

 

「2年やってると全部は覚えてないんだよ〜」

 一覧を見れば分かるけれど、配信中にそこまで確認する気はない。

 

『次やるなら豪華なお城のご飯』

『野営飯がいい』

『ガチガチパンをスープに入れるやつまたやって』

 

「あ、ガチガチパンを覚えてる人がいた」

 

 硬くなったパンをスープに入れて食べるのは、向こうでは珍しくなかった。

 旅の途中でも何度も食べたし、僕たちにとっては馴染みがある。

 コメント欄は、次の異世界めし企画会議になり始めた。

 

「お城の料理は、僕も食べてただけで厨房のレシピ全部知ってるわけじゃないから難しいんだよね。でも、旅の煮込みなら自分たちでも作ったことがあるから、まだやりやすいかな」

「煮込みなら作れる」

「リョウの基準だとこっちの冷凍食品でも再現したって言いそうだけど」

「食えば違いが分かるぞ」

「うーん」

 

『二年前から進歩なし』

『これまたやって』

『50万人記念で異世界めし復活しよう』

 

「50万人! そう。実は、おかげさまでこのチャンネルは登録者が47万人になってます。50万人に近づいてます。本当にありがとうございます」

 

 僕は配信画面に、リアルタイムの登録者の表示を出した。

 いま476,513人。

 

「灰角獣でまた増えたな」

 リョウが口をはさむ。

 

『あと2万じゃん』

『灰角獣もう一匹召喚すれば50万いけるな』

『勇者も見てはいるのな』

 

「僕たちが灰角獣を召喚してるわけじゃないよ!」

 

 ただ、異世界めし自体は久しぶりにやってもいいと思った。

 リョウを見ながら言う。

 

「異世界めしは企画候補に戻しておこうか。50万人記念でやるかは決めないけど」

「煮込みなら俺が作る」

「だから先に僕がレシピ決めるの」

「食えれば――」

「それ禁止」

 

『始める前から揉めてる』

『絶対やってくれ』

 

 結局、そのあとも遠征の話が少し戻ったり、昔の配信の話になったり、今日の昼飯の話に戻ったりした。

 雑談なんだから、それでいい。

 

 

     +++++

 

 

「ということで、ごちそうさまでした。次はミナトさんと、遠征の記録を検証する真面目なコラボの予定です」

 

『本当に昼飯食って終わった』

『一昨日は謎の魔物倒してたのに』

『異世界めしは収穫』

『今度こそ調査しろ〜』

 

「俺もいる」

「それはみんなわかってるよ! じゃあ今日はここまで。見に来てくれてありがとう」

「またな」

 

『おつ』

『昼飯乙』

『異世界めし待ってる』

『ミナトン待機』

 




27話をお読みいただきありがとうございました。
お昼の配信でした!

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