異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
第28話 TS姫様と勇者、今日はちゃんとダンジョンの謎調査回です[異世界通信まで➀]
日曜の昼間に雑談配信をやってから数日後。
「こんばんは。〈勇者と姫の帰還配信〉のイオリです」
「リョウです」
「今日は、前から予告していた通り、再びのコラボ配信! 榊ミナトさんにお越しいただきました! ミナトさん、どうぞ!」
「〈ミナト探索記録〉の榊ミナトです。今日もよろしくお願いします!」
きょうは、ミナトさんとの二度目のコラボ配信だった。
『こんばんわ~~』
『ミナトン探索記録から来ました』
『再コラボ早い』
『もう準レギュラーでは?』
『同接もう3万』
『灰角獣から人増えたな』
「準レギュラーになるにはまだ早くない?」
さっそくコメントを拾ったミナトさんが笑う。
「この前初めてコラボしたばっかりですからね」
「そのわりには、もうふたりの家くるの2回目なんだけど」
「遠征で急にいろいろ出てきたので、予定を合わせてもらいました。お忙しいところ、ありがとうございます!」
「私も気になってたからいいよ。亀戸の時から調べてたのもあるし、二人から遠征の記録も送ってもらったし」
リョウもミナトさんを見る。
「急にお願いしたのに、ありがとうございます」
「二人ともこういう時はちゃんとしてるねえ」
「こういう時だけみたいに言わないでくださいよ!」
『ちゃんとしてる』
『勇者もちゃんとお礼言っとる』
『仕事の話になるとちゃんとするから』
ミナトさんが、日曜日の配信の話を「見てたよ」と振ってきた。
「見てくれたんですか? こっちのご飯食べながら、異世界のご飯の話をしているだけの配信を?」
「いや、ダンジョンの話もしてたじゃん。まあ、異世界ご飯、私も食べたいけどね!」
「あ! いいですね! ちゃんと再現できるように頑張ります!」
リョウがツッコミを入れてきた。
「イオリ、B級グルメ食べ歩きから逃れたくていってないか?」
「そんなことないよ! まあ異世界めしを優先したいけど」
『異世界めし復活待ってる』
『料理コラボいけるやん!!』
『きょうは探索回?』
僕はすぐに答えた。
「今日は探索回じゃないけど、調査の回です!」
今日の配信場所は、また僕たちの家だった。時刻は午後6時を少し回ったところ。
前に三人で室内コラボをした時と同じテーブルに、ミナトさんと僕たちのノートPCを並べている。その端には、今回の検証用に探索庁の高瀬さんからもう一度借りた携帯型空間歪計もある。
3人で同じテーブルにつくのも2回目だった。
きょうは長身のミナトさんが僕の隣に座り、その向こうにリョウがいる。前回よりずっと見慣れた組み合わせに見える。
『並ぶのもう馴染んでて草』
『今日も3人とも顔がいい』
「今日は、この前の遠征で残してきた記録を、ミナトさんといっしょに3人で見ていきます。はい、完全にインドアです。でも結構面白い話になりそうなんで、配信でやります。ただ、その前に一個だけ」
「空間の歪みの話だね」
「はい。最近の出来事で初めて見てくれている人が増えてるので、先に説明します! ミナトさんのチャンネルを見ている人たちには、耳にタコの話も多いかもしれませんが、改めて」
「いや、うちのチャンネルでも、結構ちゃんと説明するよ。いつも初見の人もいるからね」
「じゃあ、今日はふたつのチャンネル合同で、基礎からやります!!」
リョウが言った。
「なんだか塾みたいだな」
『講習会始まった』
『みなとん先生お願いします』
『きょうは姫様も先生側か』
『勇者は受講者?』
「俺は受講者じゃなくて知ってる側だぞ」
「少し知ってる人が一人いると助かるんだよ。分かりにくかったらリョウが止めてね」
「……俺が?」
「リョウが分からなかったら、たぶん初めて見る人も分かんないから」
『草』
『勇者=一般代表』
『素人目線がいて助かる』
PCから配信画面を切り替える。
僕たち三人を映していた画面が小さく右上へ寄り、代わりに中央へ、昨夜作っておいたスライドが出た。
――――――――――
【ダンジョンで観測される異変】
➀地盤や地形の変化
②魔力濃度の変化
③距離のずれ
④空間そのものの変化
――――――――――
「お、ちゃんと作ってる」
「作りましたよ! 何枚かあるので期待してください!!」
『姫様の手作りスライド』
『これがちゃんとしてる調査回か』
『姫様先生役いけるやん!』
『〈かわいい〉』
「ダンジョンでは、普通ならあまり考えなくていいような変化が、実際に起きます」
僕は画像を指しながら説明する。
「地形や魔力濃度が変わったり、同じ二点を測っているのに距離が合わなくなったりとか」
「亀戸で見たのがこの③だね」
ミナトさんが補足する。
「固定した二点の間の距離が、一時的に大きくずれた」
あらためてこう説明すると、当然のようなコメントがぱらぱらくる。
『ダンジョン冷静に見たら怖くない?』
『よくそんなところ仕事で入るな』
『閉鎖しろ』
『閉鎖されたら副業サラリーマンが死ぬ』
「みんなも危ないと思うよね」
ミナトさんがコメントに答える。
「なので次です。僕自身、ミナトさんとの最初のコラボのあと、勉強しなおしてます!」
僕は次のスライドを映した。
――――――――――
【なぜ空間の異変を測るか?】
① ダンジョン資源を安全に利用するため
② 地上の安全を確保するため
――――――――――
「ダンジョンって、危ないから誰も入らない場所じゃないんだよね」
ミナトさんが画面を見ながら言う。
「➀は、ダンジョンがもう資源を採ったり、調査したり、設備を置いたり。もう継続して利用してる場所だから、そのための安全管理が必要ってこと」
「僕たちも、この前の遠征で採集してましたからね」
「薬品の原料とかか」
リョウが言う。
『〈なるほど〉』
『全部閉鎖しろでは済まんのね』
『〈なるほど〉』
『きょうは勇者もまじめ』
『もうダンジョン資源なしには考えられん』
『みなと先生ありがとう』
『〈なるほど〉』
脅威のなるほど率。
これはスタンプ目当てでメンバーに加入してくれる人が期待できそう……なんて邪な考えが一瞬よぎる。
「それと、もう一個が②」
僕は画面の下半分を指した。
「地下で起きていることが、地下だけで終わるとは限らないので、地上側に影響が出ないかを見るのも大事です」
「大きな変化が起きてから気づくんじゃ遅いからね」
ミナトさんが言う。
「普段の数字を取っておいて、いつもと違う動きが出たら、その段階で詳しく調べてるわけ」
「そのために測り続けてるんですね」
リョウが確認する。
いつのまにか、良い聞き手役をやっている。
『ほーん』
『そりゃそうか』
『これがミナトンがずっとやってるやつやで』
『〈なるほど〉』
『勇者今日ずっと真面目な顔してて草』
「で」
僕は画面をもう一度切り替えた。
――――――――――
【今回見るもの:空間歪曲値】
◯普段と違う空間の変化が起きている
✕異世界につながっている
――――――――――
「今回ずっと出てきている空間歪曲値も、そういう観測の一つです」
テーブルの端に置いてある携帯型空間歪計を持ち上げる。
『✕ついてて草』
『空間のおかしさゲージ?』
『自分で異世界否定してて草』
『流石にこの人数だと初級者ばっかやな』
「空間の歪みの異常値があってもイコール異世界ではありません」
「そんな便利な計器だったら、もうとっくに異世界発見してるからね」
ミナトさんが笑う。
「空間歪曲値が高いとしても、わかるのはその場所で普段と違う空間の変化が起きていること、まで」
「灰角獣がいたから上がった、ともまだ決まってないんですね」
リョウが言った。
なんて素直なんだきょうは。
……ミナトさんの話なら聞くのかこいつは。
灰角獣の存在を断定しているのはいつも通りだけど。
『魔獣が原因と限らない』
『あのあたりの壁自体が歪んでる説』
『これ姫様勇者が歪みの元凶やろ』
「灰角獣なのか、壁なのか、場所なのか、それとも僕たちまで関係あるのか」
「一個ずつ見ればいいんだろ」
リョウが言った。
「そういうこと! ここからが今日の本題です」
僕はミナトさんに画面の操作を渡す。
「お願いします」
「はいはい。じゃあ、実際の記録を見よう」
今度はミナトさんがノートパソコンを操作した。
配信画面の中央に、遠征先の簡単な地図と、その横へ一本のグラフが表示される。
「まずは、二人が帰ったあと、遠征先の空間の歪みが、その後どうなったか。そこから見よう」
+++++
遠征先に残してきた測定器の記録は、探索庁から共有してもらっている。
「まず、二人が現地に固定してきた測定器。空間歪曲値の記録から」
表示されたグラフには、僕たちがまだ現地にいた時間から、その日の夜までが続いていた。
「ここが灰角獣を倒した時刻」
ミナトさんが印を入れる。
「こっちは壁片を採ったところ」
「その少し後が、俺たちが撤収した時間ですね」
リョウが時間軸を見る。
「最後に現場で測ったのが14時20分くらいだから……ここ」
僕も印を確認する。
そこから先は、僕たちが現地にいなかった時間だ。
『その後初公開?』
『夜どうなった』
「まず数字からね」
線を目で追う。15時、まだ高い。
16時を過ぎたあたりで――。
「……下がってる」
「うん」
ミナトさんが頷く。
16時を過ぎたあたりから線はゆっくり下がり始めていた。
17時台にはさらに低くなり、夜には遠征初日に取った周辺の基準値へかなり近づいている。
『???』
『…どういうことだってばよ?』
『やっぱり勇者姫様が歪んでるのでは?』
『獣が消えたら異世界との出入り口もなくなったのかな』
「でも、俺たちが出た瞬間に下がったわけじゃないですね」
「そう。灰角獣を倒した時でも、壁片を採った時でも、二人が撤収した時でもない」
ミナトさんがグラフを指す。
「しばらく高いまま残って、そのあとゆっくり戻ってる」
「今の記録から分かるのはそこだね」
『でも二人が帰ったあとに下がったのは事実だろ』
『余震みたいなものかな』
『一回歪んだのがあとから戻ってる?』
『二人が帰ってもすぐ消えないのか』
『勇者姫様が世界の歪みの原因説はヤバイ』
『いまその家が歪んでる可能性は?』
なんだか、コメントの一部が変な方向に向かっている。
「あの……僕たちが歪んでいるとかちょっと人聞きの悪いコメントが散見されるんですが……さすがにそれなら、今ここでも上がってないと変じゃないですか?」
僕はテーブルの端を指した。
携帯型空間歪計は、探索庁から借りてきたものだ。配信準備の時に電源を入れて試したけれど、表示は普段の範囲内だった。
「僕もリョウもここにいました。でも、空間歪曲値は普通でした」
「配信準備の時に確認した限りではね」
ミナトさんも表示を確認する。
「じゃあ、俺たちがいるだけで空間が歪むわけではない?」
「少なくとも、それだけで上がるなら、さっきの時点で上がってるはずだからね」
それならひとまず安心した。
2年間、僕たちがどこにいても周囲を歪ませ続けていた――なんて話ではなさそうだ。
――もっと早くそんな能力が見つかってたら、「異世界から帰ってきた」の説得力にはなったかもしれないけど。
『とりあえず二人は無罪?』
『結局何が原因かわかるの???』
『異世界とのつながりがわからん~』
『きょうは真面目な検証やね』
「じゃあ次。その候補を一個ずつ見よう」
ミナトさんがノートパソコンを操作する。
「まず、歪曲値が下がっていった時間に、現場で目に見える変化が起きていたか」
ミナトさんがPCを操作すると、定点カメラの映像が配信画面へ出る。
映ったのは、黒い根の這う壁と、僕たちがもういなくなったあとの通路だった。
28話をお読みいただきありがとうございました。
ここから、「第5編 2年前の帰還をもう一度確かめます――異世界から、声が届く」が始まります!
章タイトル、サブタイトルでほとんどネタバレしていますが、異世界のお話と帰還後のお話がここから一気に交錯していきます!
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