異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第30話 TS姫様、2年前の服をまだ大事にしています[異世界通信まで③]

 俺とイオリは、保管していた箱を抱えてリビングへ戻った。

 テーブルの横にふたつ並べる。

 部屋の時計は7時半くらい。配信が始まって1時間以上を過ぎて、配信は思わぬ方向に進み始めた。

 

『なんか箱きた』

『でっかw』

『これが初配信で着てた服?』

 

「じゃあ、開けるよ」

 イオリが先に自分の箱を開いた。

 イオリが地球へ帰ってきた時に着ていた衣装と外套、ブーツ、装具。その端には、小さな銀の髪留めも入っている。

 

『うおおおおおおおおおおお』

『異世界装備きちゃwwww』

『初配信と同じだ!!!!!!』

『これ二年前の現物??』

『保存状態よすぎない?』

『広げて見せて』

『早く着てくれ~~~』

 

「2年間ずっと箱に入れっぱなしだったわけじゃないからね」

 イオリが濃紺の衣装を持ち上げた。

「たまに出して手入れはしてたんです」

 

 俺も自分の箱からブーツを出す。

 

 イオリの濃紺の外套には、それでも落ちなかった泥や煤が残っている。縫い直した場所も、傷をそのまま残した場所も、俺はだいたい知っていた。

 向こうにいた頃、俺が直したところもある。

 

「新品みたいにしたいわけじゃなくて、直せるところは直してます」

 

『2年間ちゃんと管理してたんだ』

『配信で着てもいいのよ』

『〈かわいい〉』

『えらい』

 

「だって、3年間ずっと生活の中で使ってたものだし」

「ああ。俺たちが唯一、向こうから持って帰れたものでもある」

 

 俺の装備も同じだった。三年間使った跡も、直した跡も残っている。

 

「あ。イオリちゃんのその髪留めも記録にあるよ」

 ミナトさんが2年前の資料を見て言った。

 

 イオリが反応した。

「そこまで?」

「これ、靴紐まで入ってる装備品一覧だからね」

「……うっ」

 

『探索庁、姫様ガチ勢説www』

『合法的に服を調べた役人死すべし』

『これ許されるんか?』

 

 服を出したあと、俺たちはとりあえず装備そのものから測ることにした。

 ミナトさんが携帯型空間歪計の電源を入れる。

 

 衣装や俺の装具には、今も魔力反応が残っている。

 地球で作られた服より明らかに強い。

 それでも、ミナトさんが持つ携帯型空間歪計の数字は基準の範囲内だった。

 

「箱から出しただけじゃ普通だね」

「装備そのものが周囲を歪ませてるわけではなさそうですね」

 

「じゃあ次」

 ミナトさんが俺たちを見る。

「本人が身につけた状態ではかる、しかないね」

 

『きたあああああああああああ』

『ガチで着る?』

『やっぱ神回だなwwww』

『座学の時間からずっと見ててよかった』

 

 ミナトさんが歪計をテーブルにおろした。

「じゃあ一人ずつ着替えて、残りふたりで配信をもたせることにしようか」

 

「それなら、先に僕から着替えてきます。あっちの部屋で」

 イオリは自分の箱を抱えて立ち上がった。

「着替えてるところは映しませんからね!」

 

「誰も映せとは言ってないよ?」

「コメントで誰かが言う前に止めたんです!!」

 

『言おうとしてた』

『お着替えwうお』

『姫様が先かw』

 

 イオリが配信画面の外へ消える。

 俺とミナトさんはそのままリビングに残った。

 

「じゃあその間に、二年前の記録もう一回出しておこうか」

「お願いします」

 ミナトさんが端末を操作する。

 

『姫様着替え待ち』

『勇者とみなとんだけでいけるか?wwww』

『間が持つのかこの二人』

『この二人相性いいだろ意外と』

 

「失礼だなあ」

 ミナトさんが、俺たちを心配するコメントを見て笑っていた。

 

「普通に話せるよね、リョウくん」

「話せますよ」

「よかった。私もそう思ってたよ」

 

『確認から入るなw』

『この二人意外と普通に仕事できそう』

『草』

 

 ミナトさんが、画面に2年前の装備品一覧を開いた。

 俺の箱を見て言う。

 

「リョウくんの方も、この装備とか、ずっと手入れしてたんだね」

「そうですね。放置してたら、革が駄目になるから」

 

「着る予定がなくても?」

「なくてもです」

 

 それだけ答えてから、箱の中の外套を見る。

「向こうで3年使ったんで。捨てる理由もないです」

 

「イオリちゃんと同じこと言うねえ」

「そうですか?」

「言い方はちょっと違うけど」

 

『勇者えらい』

『やっぱり同じなんやな』

『二人が普通に喋っててホッとした』

 

 そんなことを話していると、奥の部屋から声がした。

 

「リョウ、ちょっと来て!」

「ああ」

 

 俺が立つ。

 ミナトさんが、今度は端末ではなく俺を見た。

 

「私じゃなくて?」

「……リョウでいいです」

 

 向こうから即答が返ってきた。

 

『なんで????』

『女性のみなとんではなく勇者指名』

『何を手伝わせる気だ』

『着替え中だよな???』

 

「……行ってきます」

「はいはい。配信は私が持たせておくよ」

 

『やっぱり神回だった』

『勇者に説明責任があるぞ』

『普通に送り出すな』

 

 部屋へ入る。

 

 イオリはもう、服そのものは着終わっていた。

 灰色の長袖。その上に濃紺の戦場用の服。黒タイツとブーツまで履いている。

 髪もまとめて、箱に入っていた銀の髪留めをつけている。

 外套だけはまだ着ていなかった。

 

 2年前と同じ格好なのに、同じには見えなかった。

 あの頃より顔色もいいし、髪も綺麗だ。

 それだけじゃない。二年前より、イオリはさらに美人になってる。

 

「ここ」

 イオリが俺に背中を向けた。

 背中側で服を留めている紐を指で示す。

 

「締めると、傷のところに当たる気がする」

「どれ」

 

 近づいて見る。

 灰色の布越しだから傷そのものは見えない。

 

 だが、場所は分かる。

 二年前、地球へ帰ってきた直後にも、イオリは俺に背中を向けた。

 帰還術を固定した時に残った傷が、どこからどこまで走っているかも知っている。

 

 紐に指を掛ける。

「ここか?」

「もうちょい右」

「こっち?」

「そこ。今ちょっと当たってる」

 

 一度緩めて、位置を外へずらす。

 もう一度締める。

 

「今は?」

 

 イオリが肩を動かす。

「平気」

 

「じゃあ、ほかも見るぞ」

「お願い」

「右、上げろ」

「これくらい?」

「もうちょい」

 

 イオリが腕を上げる。

 横の紐も、動いた時に引っかからない位置まで直した。

 

「これでいい」

 

 イオリがもう一度身体をひねる。

「うん。大丈夫」

 

「そういえば髪留めもつけたのか」

「ここまで着るなら、同じにしておこうと思って」

 

 イオリが外套を手に取ったのを見ていて、ふと思った。

 

「ミナトさんでもよかったんじゃないか?」

「だってリョウなら、傷の場所もこの服のことも知ってるでしょ」

 

 普通に返された。

 

「それもそうか」

「うん」

 

 イオリが外套を羽織る。

 

「戻ろう」

「ああ」

 

     +++++

 

 リビングへ戻った瞬間、コメントが流れた。

 

『きたああああああ』

『姫様の帰還時装備復活!!』

『髪の毛のやつも同じ』

『さっきの写真より顔色いい』

『〈かわいい〉』

『現代の美容を得た姫様wwwこれ無敵か?』

『マントかっこいい』

『初見ですがこのコスプレ女が姫様ってやつですか?』

『タイツ姫様や!!!!』

『で、勇者は何をしてたの??????』

 

「背中側を見てもらってました」

 イオリが椅子へ戻る。

「自分じゃ見えないところがあるので」

 

 ミナトさんが俺を見る。

「それでリョウくん?」

 

「リョウはこの服のこと分かってるから……」

 イオリが先に答えた。

「3年間見てもらってたし」

 

「ああ」

 

『3年間!?』

『何を見てもらってたんですか姫様』

『ふぁああああああああ』

 

「服の留め方の話だよ?」

 イオリが首を傾げる。

「何を想像してるの」

 

『もう終わりだよ異世界』

『説明したのに何も解決してない』

『勇者はなんでそんなに詳しいんだ』

 

「次、俺が着替えてくる」

 

『逃げたwww』

『勇者説明しろ』

『勇者さあ』

 

 

     +++++

 

 

 俺も2年ぶりに、異世界からの帰還時の装備に着替える。

 革帯の位置も、外套の留め方も、考える前に手が動いた。

 さっさと着終えて、リビングへ戻る。

 

『勇者もきた』

『勇者、はやいwwwww』

『二人とも完全装備』

『やっぱ並ぶとすげえな』

『さっきの写真そのままじゃんww』

『初配信の再来w』

『このデカ男が自称勇者ですか』

『二人共写真のより元気で嬉しい』

『〈かわいい〉』

 

「写真と並べるとすごいね~」

「同じですよ?」

 イオリが言った。

 

「服はね」

 ミナトさんまで喜んでる。

 

「じゃあ、二人とも揃ったところで測るね」

 ミナトさんは、携帯型空間歪計を再び手に取った。

「あ!」

 

「何ですか?」

「上がってる」

 イオリも俺も、表示を覗き込む。

 

 2年前の帰還時や遠征先ほど大きくはない。

 それでも、さっき装備だけを測った時には基準内だった数字が、今は明らかに外れていた。

 

「……さっきまで普通でしたよね?」

「うん。普通だった」

 ミナトさんが画面に、さっき装備だけを測った記録を出した。

 

「装備を箱から出して測った時は変化なし。そのあと二人が着替えてからもう1回はかったら、今は上がってる」

 

『?????』

『上がった???』

『服着ただけで??w』

『出しただけなら普通だったのに』

『めっちゃ楽しそう』

 

「俺たちは何もしてない」

 着替えただけだ。魔力も使っていない。

 

 イオリもすぐにそれを確認した。

「魔力も使ってません。リョウも僕も、この服を着ただけです」

 

「面白いね!!」

 ミナトさんは、PCにリアルタイムの測定値と、2年前の記録を並べ始めた。

 

『〈なるほど〉』

『いやわからん』

『世界を歪ませるコスプレカポー』

『ミナト探索記録から今北産業』

『←勇者姫の帰還時装備で歪み値上昇、ミナトン発狂中w』

『ミナトンが自チャンネルのテンションになってきた』

 

 イオリが画面の記録を見比べて言った。

「着替える前とあとを、同じ条件で測った記録はないんですか?」

 

 ミナトさんが一覧を確認する。

「ないね。身体と魔力は検査着で、装備は外して別に測ってる」

 

「まあ、当時はそんな比較をする理由ないですよね」

「うん。2年前はふたりの身体と、持ってきた装備そのものを調べてたから」

 

『そこはやってなかったのか』

『役人が服脱がすのに夢中やったんやろなあ』

『普通やらんだろw』

『服が怪しいとは思わん』

 

 イオリも表示を見たまま考えていた。

「今は、僕もリョウもこの服を着てます」

「そうだね」

「じゃあ次、ひとりずつにしてみます?」

 

 ミナトさんが頷く。

「……そうだね!! それがいいと思う。今はふたりともが着替えた状態でしか計ってないから、イオリちゃんだけでも出るのか、リョウくんだけでも出るのか、条件を変えていこう!」

 

『急に理科の実験みたいになってきた』

『条件を一個ずつ変えるやつ』

『対照実験するなw』

『実験材料:勇者と姫』

『ミナトン楽しそうやなw』

 

「材料扱いしないでね」

 イオリがコメントに抗議する。

 

「じゃあ俺が外にいくか」

「うん。お願いします。イオリちゃんからはかろう」

 

 俺は立ち上がった。




30話をお読みいただきありがとうございました。

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