異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
「こんばんは。勇者と姫の帰還配信のイオリです!」
「リョウです」
「……そして!」
「はいまた〈ミナト探索記録〉の榊ミナトです。お邪魔してまーす!」
午後6時30分。
昨日より少し遅く、俺たちは配信を始めた。
昨日と違って、きょうの目的は一つだけ。
――セシリアと、もう1回話す。
俺とイオリは、すでに、昨日と同じ、こっちの世界に戻ってきた日の装備をつけていた。
イオリは髪も昨日と同じように銀の髪留めをつけた状態だ。髪の内側から白い毛束が覗いて、濃紺の外套の上へ細く落ちていた。
ミナトさんだけが普通の服で、今日は俺の隣にミナトさん、その向こうにイオリ。ゲストのミナトさんを真ん中にして、並べた椅子に座り、3人でカメラに収まっている。
『きょうもフル装備wwww』
『異世界の勇者と姫、再び降臨w』
『レギュラーメンバーみなとん』
『昨日ネットニュースになってた人たちここ?』
『〈かわいい〉』
『開始直後から同接6万超えてるんだが』
『初見です』
「ミナトさんはもうレギュラーです! きょうはセンター!」
コメントを見ながらイオリが言うと、ミナトさんが笑う。
「昨日配信終わったあと準レギュラーだって言ってたのに、もう昇格した? 光栄だね」
「昇格ですよ! というか、連日来てもらって本当にありがとうございます」
「面白いからいいんだよ。私のチャンネルの視聴者も増えるし」
『数字の話やめろw』
『現代人がひとりしかいない』
『ミナトさんがいないと異世界にのまれちゃう』
『準レギュラーからレギュラーへ』
『きょうも実験?』
『異世界人と日本語で話してもなあ』
『きのう炎上しかけてたからちゃんと説明して!!』
『このチャンネルたまに生々しい話するよな』
『こんなに3人相性いいと思わなかった!』
『探索庁はおらんの?』
挨拶をしている間に、昨日の配信についてのコメントが流れていた。
見ている人が増えていろんな意見が入り乱れている。
「えーと、まず、昨日のことを少しだけ説明します!」
イオリもコメント欄を見て、相談した手はず通りに、話を切り替えた。
「昨日のアーカイブは、告知した通り、一時的に一部を非公開にしています。なぜかというと、セシリアには、あの会話が僕たち3人だけじゃなくて、大勢に聞かれていたことを説明できていなかったからです」
俺が軽く付け加える。
「きょうつながったら、最初にそこを説明する」
「その上で、今日もこのまま配信で話していいか、本人に聞きます。だめと言われたら、その時点で止めます。みんなに見せるのはそこまでにします」
『律儀やね』
『了解』
『検証から逃げるな』
『これが炎上商法には見えない・・・』
『グルメロケ番組かなw』
『きょうは着替えシーンなしかよ!!』
「グルメロケって言わないで! あと、非公開にしているだけで消してません! もちろん探索庁とも協力します」
世界を越えて声が届いた翌日なのに、なぜか言い方一つで食べ歩き番組みたいな扱いになっている。
でも、今の話題の流れで笑いが入ってくれるのは大歓迎だった。
ミナトさんがイオリに促した。
「それと、きのうから一番言われてることも先にやっとこうか」
「はい。僕たちもきのう引っかかってたことですが、セシリアの声が日本語だった件です」
『待ってた』
『日本語の時点でおかしいでしょ』
『セシリアさん日本語話せるの?』
『火消し乙』
『まあやらせっていわれるからね』
『まあ魔法でなんでもありだからなあ』
「再度の話ですが、セシリアは日本語を話せません。むこうにいた三年間、セシリアが話していたのはずっとむこうの言葉でした。僕たちは日本語としてその意味が分かったけど、日本語として聞こえてたわけじゃありません」
俺も説明する。
「俺たちが話す時も同じだ。日本語で喋って、それが勝手に通じてたわけじゃない。俺たち自身が、最初からむこうの言葉を使えてた」
「でも昨日のセシリアの声は、僕にもリョウにも、ミナトさんにも、皆さんにも日本語そのものに聞こえました」
ミナトさんが続ける。
「録画にも同じ日本語で残ってて、海外で見た人にも同じ音声だった」
「なので、どこで日本語になってるのかはまだ分かりません。今日また声が来たら、同じように聞こえるかも確認します」
『何も解決してないよ~』
『聞くって言ってもなあ』
『〈了解〉』
『そもそもきょう声くるかな?』
『勇者がまじめな顔してて嬉しい』
『他にも証拠はないのか?』
『正直怖いからコスプレ大会だけにしてほしい気持ち』
『ちゃんと実験してるしきっときょうもつながるよ』
はっきりと納得されたわけでもなさそうだけど、とりあえずこのまま配信は続けられそうだ。わざわざ最初に時間をとってよかった。
テーブルの上には、携帯型空間歪計が動いている。
2人でこの格好になる前から測定をはじめ、着替えた時点で値は普段より高くなっていた。
セシリアの声が届いていた時間に出ていた細かな揺れはまだない。
そこまでは昨日と同じだ。
イオリが空間歪計を手にとって説明した。
「今日やることは単純です。昨日とできるだけ同じ条件を作って、もう一度セシリアにつながるか確かめます」
『再実験きた』
『セシリアさん待機』
『今日は何分で来るかな?』
『これ耐久配信では????』
『大丈夫か?』
「はい、お気づきのかたもいますが、今日の配信は……名付けて! もういちど異世界とつながるまで、かえれません!!! です」
『異世界耐久配信wwww』
『いやこれ失敗フラグでしょ』
『自分の家じゃん』
『帰れないのはミナトンでは?』
『何時間想定なんだ』
ミナトさんが大笑いして言う。
「なんか、帰れないのは私では、って言われてるんだけど?」
「……ごめんなさい、タイトルは今考えたものだったので訂正します。もういちど異世界とつながるまで、ミナトさんが帰れません!!」
「いや12時間で帰るからね? 配信できる限界だから」
「……12時間以内には終わると思ってます」
「きのうと同じ条件で実験するのが目的だから、さすがに朝やってもしょうがないしな」
『草』
『姫様勇者がミナトンに負けてる』
『ミナトのダンジョンで記録取る耐久配信をなめてたな』
『異世界組弱いw』
+++++
夜7時30分。
すきな魔獣だのちょうどいい装備だの、質問に適当に答えながら、待っていたら1時間が過ぎていた。
『1時間経過だぞ』
『セシリア来ません』
『雑談配信になってきてる』
『これ来ないとまた炎上するぞ』
『まだ余裕?』
『もう喋ってるだけじゃん・・・』
コメントをみながらイオリがいった。
「『まだ余裕?』……まだまだ余裕ですよ! ね? みんな」
「探索のがこれより長いだろ。余裕だよ」
「私たちそもそも普段はアウトドア派だからね。雑談のネタ以外はまだ余裕じゃない?」
イオリも安心したように笑ったが、その後空間歪計を見て表情を変えた。
「……待って」
「何だ?」
「昨日、声が来る直前って、僕たちこんなに喋ってた?」
イオリに言われて、思い出す。
昨日は検証を一通り終えて、きょうと同じ装備のまま椅子に座っていた。
イオリが「動きません!!」とかいってた時間だ。
配信で何かをするというより、本当に待っていた時間だった。
「……喋ってなかったな」
「だよね!! どうしよう?! 再現できてないかも!」
ミナトさんも昨日を思い出したらしい。
「じゃあ、一回静かにしてる?」
『草』
『無言耐久始まった』
『異世界凸待ち』
『セシリアさん!今です!早く来てくれ~』
「5分だけ! 5分だけやりましょう! きのうもそれでつながったから!」
イオリがそう言って、空間歪計をテーブルへ戻した。
それを合図に3人とも、黙りこむ。
しーん。
俺も動かない。
コメントだけが画面を流れていった。
1分。
しーん。
2分……3分、4分。
『もう放送事故だよこれ・・・』
『きのうもこんな沈黙してはなかったぞ』
『なんかムキになってるな』
『これ2日連続で神回か?』
『ほんとに炎上するから早く来てくれ~』
『動かないと喋らないは違うだろ・・・・』
……5分。
何も起きなかった。
「……来ませんね」
「まあ、5分で来たら苦労しないよ」
ミナトさんが何でもないことのように言った。
『知ってた』
『セシリアさん勤務時間中説』
『異世界にも都合がというものがある』
『ガバガバすぎるだろ』
先は長そうだ。
+++++
夜8時。
装備も3人も揃えて、昨日と同じつもりになっていた。
でも、何も来ない。
ここまで来ると、まだ何か違う条件があるのかもしれない、とは俺も考え始める。
イオリが自分の椅子を見た。
「昨日、僕ここに座ってたっけ?」
「いや?」
「……えっ?」
「昨日は俺の隣だった」
きのうの通信が始まった時、俺とイオリは並んで座っていた。
ミナトさんはイオリの反対側にいたはずだ。
「……最初から条件が違うじゃん! なんで言わないの?!」
「座る順番まで条件だと思わなかったぞ」
真ん中でミナトさんが苦笑している。
「私も思わなかったよ」
『1時間半たって気づくなwww』
『センターみなとん終了のお知らせ』
『ゲストを真ん中にしたせいで異世界につながらない説』
『セシリア「知らない女が勇者と姫君の間にいる」』
「……じゃあ、戻してみます?」
「やるだけやってみようか」
3人の位置を並び替える。
今度は俺の隣がイオリ。その向こうがミナトさん。
昨日、声が届いた時と同じ並びになった。
『これでつながったら笑う』
『やっぱ異世界コンビは隣じゃないとダメだったか』
『セシリアは過激派カプ厨だった・・・?』
数分待った。でも、数字は変わらなかった。
「……駄目ですね」
「並び順ではなさそうだね」
イオリが何か考えている。
「でも昨日、僕もっとこっちに座ってなかった?」
「大体そこ」
「大体じゃ駄目かもしれないじゃん」
イオリが椅子を数分ごとにずり、ずりと数センチ動かしてみても、何も起きなかった。
20分くらいして、諦めたらしいイオリが、今度はテーブルを見る。
「僕、昨日何飲んでたっけ?」
「お茶……としかわからん」
「なんか別のペットボトルがあったから――」
「じっとしてなさい」
ミナトさんに止められた。
「一回しか起きてない現象に、思いついたもの全部条件として足したら何でもありになるよ」
「……はい」
『怒られてて草』
『しゃーない』
椅子や茶まで条件だとは思わない。
ただ、一度しか成功していない以上、何が関係ないともまだ言い切れない。
だからイオリの気持ちはよく分かった。
俺も、もう一度つながってほしかった。
34話をお読みいただきありがとうございました!
もう一度つなごうとする[異世界再接続耐久①]をお届けしました!
今度は接続自体が目的です!
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