異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第36話 TS姫様、今度はセシリアに聞いてから話します[異世界再接続耐久③]

 ――イオリ様?

 

 

「セシリア!」

 

 午後10時19分。

 

 声が聞こえた。

 

 

「聞こえてる。セシリア、僕です!」

 

 ――はい。こちらも、聞こえております。

 

「俺もいるぞ」

 リョウもすぐ隣から声をかける。

 

 ――はい、リョウ様。……よかった。本日も、お二人のお声が届いたのですね。

 

「届いてる! こっちにもちゃんと聞こえてるよ!!」

 

 またつながった。

 昨日が奇跡で、もう二度と話せない可能性だってあったかもしれない。

 今日は4時間近く待って、もう駄目かもしれないとも思った。

 

 それでも今、セシリアが僕の名前を呼んでいる。

 

 

「……よかった」

 口に出したら、思っていたよりそのままの声になった。

 

 

  ――はい。本当に。

 

 隣を見ると、リョウもいつもの顔ではなかった。

「また話せたな」

「うん」

 

 これなら、次もあるかもしれない。今日聞けなかったことがあってもまた話せるかもしれない。

 

『うおw』

『きたああああああ』

『セシリアさん!!!!』

『本当に二回目きた』

『今日はいきなりイオリ様呼びだ』

『めっちゃ嬉しそうやな』

『これリアルタイムなの?』

『昨日の続き仕込んでるだけじゃね?』

『異世界と言われてきたけど声が聞こえてるだけかよ』

 

 横ではミナトさんが、僕たちのやり取りが一段落するのを待ってから測定画面を見た。

「……細かい揺れも続いてる。昨日、通信が始まった時とかなり似てるよ。再現できてる!」

 

『耐久成功や!!!!』

『ほぼ4時間待ったぞwww』

『また日本語です』

『4時間待った甲斐あったな』

『実験大成功か?ミナト探索記録の大勝利!!!』

『初見には難しい』

『これ異世界とつながってるの?』

 

 僕はさっきまで何時間も考えていたことを思い出した。

 いま、一番確認しておかないといけないこと。

 

「セシリア。その、一つ確認していい?」

 

 ――はい。どうぞ。

 

 明日もあさっても、いつでもつながるために、必要な質問をする。

「今、そっちは朝? 昼? 夜?」

 

 ――今でございますか? もう夜でございます。

 

 僕とリョウは顔を見合わせる。

 

 リョウが聞いた。

「それは、昨日、俺たちを呼んでた時もか?」

 

 ――はい。昨日も、だいたい同じ頃合いでございました。

 

「やっぱり……」

 ミナトさんは、PCに目を落とす。

「少なくとも、昨日と今日で、向こう側も近い時間帯だったってことだね」

 

「セシリア、今日も僕たちを呼んでくれてた?」

 

――もちろんでございます。昨日お返事をいただけましたので、本日も同じ頃から、何度かお名前をお呼びしておりました。

 

「セシリア、それって、ただ名前を呼んでたわけじゃないよね?」

 

 ――はい。

 

「何か術を使ってた?」

 僕たちが地球で装備を着て待っていたように、むこうにも何かしていたことがあるはずだった。

 

 ――王宮の術師たちに力を借りております。お二人が帰還された時の術を手掛かりに、こちらからお声だけでも届かせることができないかと、いくつかの術式を試しておりました。

 

「じゃあ、今日も?」

 

 ――はい。昨日、お二人からお返事をいただけた時と同じものを、もう一度整えていただきました。その上で、昨日と近い頃合いからお名前をお呼びしておりました。

 

 僕はリョウを見る。

「……それなら、全然違うね。これ、昨日と同じ時刻に近づいたからつながった、だけじゃないかもしれない」

 

 リョウは頷いた。

「ああ。向こうでも昨日と同じ術を使ってたなら、それも条件かもしれない」

 

『異世界って進んでるんだな』

『さっきセシリア勤務時間中説唱えた奴天才かよwwww』

『そこまで設定作り込んでるなら逆にすごいわ』

『やっぱ椅子の位置より重要なものが多そうだ』

『地球と1日が同じで同じ時間に通信しようとしたって都合良すぎだろ!!』

 

 もうひとつ、大事なことを思い出した。

「じゃあ、僕たちも、先にひとつ。説明しておきたいことがある」

 

 ――はい。

 

「昨日、セシリアと話してた時。あれ、僕とリョウと、この部屋にいた人だけが聞いてたわけじゃないんだ」

 

 ――……ほかにも、どなたかが?

 

「うん。実は僕たちはこっちの世界に戻ってきてから、普段、僕たちのことを好きで見てくれてる人とか、僕たちがそっちの世界で何をしてたのかに興味を持ってくれた人たちに、こうやって話をしてるんだ」

 これが、僕が「配信」をどう説明するか、一晩悩んでたどり着いた言葉だった。

「えーと……。セシリアたちの感覚だと……勇者の英雄譚を聞きたい人たち、っていうのが近いのかな」

 

 隣でリョウがすぐにこっちを見た。

「俺だけかよ」

「だって、勇者だったでしょ」

「お前も姫君だっただろ」

「僕は別に、英雄じゃないよ」

「今さらだろ」

 

 向かいでミナトさんも笑っている。

「イオリちゃん、それはさすがに無理があるよ。二人が向こうで何してたのか聞きたくて見てる人、実際かなり多いから」

「リョウの話が聞きたい人ですよ」

「イオリちゃんの話も同じくらい聞かれてるよ」

 

『英雄譚wwwww』

『まあ間違ってはいない』

『英雄譚(野外でコスプレ羞恥プレイ)』

『異世界救った勇者と姫だから英雄譚ではあるんだよな』

『最近は地域密着型英雄譚です』

『おい都合良すぎと思ったけど合ってたwww』

『こんなふうに配信を言い換えてるのはじめてみた』

『姫君って何?勇者?』

 

 コメント欄は好き勝手言っている。

 でも、セシリアへ説明するなら、これが一番近いと思う。

 

 

 ――勇者様の、英雄譚、ですか?

 

「うん。そういう感じ」

 

 ――でしたら、イオリ様のお話も同じではございませんか?

 

「え?」

 今度はセシリアにまで言われた。

 

 ――勇者様と姫君が、こちらで何をなされたのか。それをお聞きになりたい方々なのでしょう?

 

「……まあ、そういう人もいるけど」

 

「ほらな」

 リョウが言った。

「セシリアまで同じこと言ってるぞ」

 

 セシリアの方から、かすかにくすっと笑うような声がした。

 

 ――お変わりありませんね、イオリ様。

 

『異世界からも訂正入ったのつよいwww』

『セシリアさん話が分かる』

『姫様も英雄譚に含まれてるんよ』

『本人だけ納得してない』

『勇者と姫の英雄譚ってことですか?』

 

「ええと、とにかく。そういう人たちに、僕たちは地球へ戻ってから、自分たちのことを話してるんだ。そっちにいた頃のことも、今の生活も」

 

 リョウが横から付け足した。

「遊んでるところもな」

「それ今言う?」

 

 ――そちらでは、お二人の日々を、その方々へお伝えになっているのですね。

 

「うん。僕たちが話して、それを見たり聞いたりしてもらってる。で、昨日は、その途中でセシリアの声が届いた。だから、僕たちが話してたことも、セシリアが話してたことも、その人たちにも聞こえてました」

 

 少しの間があった。

 

 ――その方々は、今もお聞きになっているのでございますか。

 

「聞いてるよ」

 

 人数も、隠しても仕方がない。

 

「今は……じつは、10万人より多い」

 

 今度は、ぴたりと返事が止まった。

 

『言ったwww』

『同接を説明する姫様』

『セシリアさん絶句w』

『正確には現在13万です』

『正直すぎるだろw』

 

 ――……10万、でございますか。

 

「うん」

 

 地球なら、東京ドーム2杯分だ。

 向こうの世界なら、どうだろうか……ここまで事前に計算しておけばよかった。

 

 王宮のあらゆる広間、練兵場を埋め尽くしても、もちろん全然足りない。

 大聖堂……市場のとなりの中央広場……絶対足りない。

 

 あ。わかった!

 

「たぶん、王都の人たちが、ほとんど全員聞いてるくらい」

 これが一番、近かった。

 ……僕たち、普段そんな人数に見られてるんだ。

 

 

 ――王都の、全員……。

 またセシリアが止まった。止まったというか、絶句した。

 

 

『王都全員wwwww』

『王都民がみんな勇者と姫君の英雄譚を聞いてる←超リアルで草』

『俺ら英雄譚を聞く10万人の勇者信者だったのかwww』

『東京ドーム2個分=王都1個分だった』

 

 ――それほど多くの方々が、お二人のお話を。

 

 

「全員が英雄譚の話だけを聞きに来てるわけじゃないですけどね」

 ミナトさんが補足する。

「ふたりが好きで見てる人もいるし、そちらの世界から戻ってきたふたりが、こっちの世界で活躍する様子を知りたい人もいます」

 

 リョウも付け加えた。

「きのうここでセシリアの声が聞こえたのを知って、はじめて話を聞きに来た奴らが多くて大変なんだ」

 

 二人とも、妙に気が利いた補足だった。

 とくにリョウ。表現が面白い。

 

 ……この説明、リョウに考えさせればよかったか?

 そんなこと思いもしなかったよ。

 

 

 セシリアは少ししてから答えた。

 ――なるほど。では、お二人がご自分の意思で、皆様にお話しになっている場なのですね。

 

 

「うん」

 そこは迷わず答えられる。

「僕たちが自分で始めて、自分たちで話してる」

 

 ――でしたら、私から申し上げることはございません。

 

「え?」

 

 ――お二人がご自身の意思で皆様にお話しになっている場でしたら、私がお話しして差し支えないことまで隠す理由はございません。

 

 セシリアらしい答えだった。

 

 ――ただ、王宮のことや、ほかの方々について、私の一存ではお答えできないこともございます。

 

「もちろん。答えにくいことは答えなくて大丈夫だよ」

 

 ――はい。それでしたら、私がお答えして差し支えないことでしたら、このままお話しくださいませ。

 

 それから、セシリアはもう一つ付け加えた。

 

 ――それに、お二人がそちらの世界に戻られたあとも、大切に思われているのだと分かったことは、私には嬉しいことでございます。

 

「……ありがとう」

 

『ロケ合意いただきましたwwww』

『異世界側ゲスト1号セシリアさん確定w』

『めっちゃ有能そう』

『英雄譚10万人が聞いてると知って嬉しそうwww』

『セシリア誰かわからんけどいい人そう』

『セシリアって誰??』

 

 それを確認できたら、次に聞きたいことは決まっていた。

「セシリア。みんなは無事? 元気にしてる?」

 

 

 




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