異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
「セシリア。みんなは無事? 元気にしてる?」
昨日はそこまで聞けなかった。
僕たちが2年前に置いてきた人たちが、今もむこうで生きているのか。ずっと知りたかった。
――はい。お二人が親しくされていた方々は、皆さんご無事でございます。ただ、お役目や居場所が変わられた方もおりますので、二年前とまったく同じではございません。
「……よかった」
本当に安心した。
誰が今どこにいるのか。2年間で何が変わったのか。聞きたいことはまだいくらでもある。
でもまず、みんなが無事だと分かった。
『よかったあああああ』
『みんな無事!!!!』
『エルナさんもミレイさんもか?』
『2周年で名前出てた人たち生きてるんだ』
『うれしそう』
『〈かわいい〉』
『勇者や姫様と一緒にいたら出世してそうやな』
『感動シーン』
今度はセシリアから聞いてきた。
――それと、イオリ様。
「はい?」
――昨日も、先ほども。お二人とは別に、女性の方のお声も聞こえておりました。
「ああ」
先に答えたのはリョウだった。
「それはミナトさんだ。こっちで俺たちと一緒に、そっちとつなぐための実験を一緒にやってくれてる人。昨日も今日もここにいる」
リョウは、答えながらミナトさんを見た。
「え、私?」
急に名前を出されたミナトさんが、自分を指差した。
リョウが言う。
「さっきも普通に配信のこと説明してたじゃないですか」
「まあそうだけど……。セシリアさん、はじめまして。榊ミナトと言います。昨日は名乗らないままいろいろ聞いてしまって、すみません」
――ミナト様。
呼ばれて、ミナトさんがぱちりと目を見開いた。
――昨日のお声の方ですね。
「……私の声も、ちゃんとそっちに届いてたんだ」
「そうみたいですね」
僕たちだけではない。
少なくとも、同じ部屋で話していたミナトさんの声も、むこうまで届いていた。
『ミナトン、きのうから異世界デビュー済みだったwww』
『これ異世界通信解明のヒントになりそう?』
『みなとんちょっと嬉しそうで草』
ミナトさんはそのコメントを見てから、セシリアに聞いた。
「一個だけ確認していいですか。私の声って、そちらではどう聞こえてます?」
――どう、と申しますと?
「言葉です。私は今、日本語っていうこちらの世界の言葉で話してます」
『さすがミナトンぶっこんできたw』
『この質問自体伝わるか?』
『日本語問題きた』
『昨日からここ一番怪しいと思ってる』
セシリアは少し考えたようだった。
――私には、普段使っているこちらの言葉として聞こえております。
「……私が話している言葉もですか? こっちにいるふたりの言葉だけでなく」
――はい。
ミナトさんが僕たちを見る。
「二人の声もそうで、私もそう、ってことみたいだね」
僕とリョウは顔を見合わせた。
「こちらでは、セシリアさんの声が日本語に聞こえています」
ミナトさんが言う。
「でもそちらでは、三人ともそちらの言葉に聞こえてる。……変換がどこで起きてるのかは、まだよくわからないですね」
『みなとんまで自動翻訳されてんのかあ』
『どこで翻訳してるんだこれ』
『世界をまたぐ時に勝手に変換されるんだよ多分』
『言語の謎はそのままやな・・・』
『いや結局日本語なんだろ?』
『異世界人が全員日本語で喋るのは無理あるわ』
『なるほどわからん』
「そこはあとで考えましょう」
今は、せっかくセシリアと話せているのだから。
すると今度はリョウが口を開いた。
「セシリア。もう一個いいか」
――はい、リョウ様。
「さっき、帰還した時の術を使って、こっちへ声を届けようとしてたって言っただろ」
――はい。
「そもそも、なんでそこまでして俺たちを呼んでた?」
しばらくして、セシリアが答えた。
――お二人のそちらの世界への帰還が、本当に、無事に成ったのかを確かめたかったのです。
言葉が途切れずに続く。
――帰還の術が発動したあと、私どもには、お二人がどこへ辿り着かれたのかを知る術がございませんでしたので。
「……そうだったんだ」
僕たちは地球へ着いた。
でも、むこうから見れば、僕とリョウが突然いなくなったところまでしか分からなかったということになる。
――ですから、せめてお声だけでも届かないかと。
「それで、呼んでたのか」
リョウが言った。
『声は安否確認だったか』
『きのうの反応に納得』
『異世界側もふたりを気にしてたんやな』
『これは涙不可避』
『〈なるほど〉』
『うわーん』
そこで、僕は気になった。
「セシリア。その術って、昨日と今日だけ試したものなの?」
――いいえ。
返事はすぐだった。
――お二人が帰還されてから、方法を変えながら何度も試しております。
「二年間ずっと――」
そこまで言いかけたけれど。
2年というのは、僕たちが地球で過ごした時間だった。
「待って、セシリア。僕たちが帰った日から、そっちでは今日で何日たってる?」
――755日でございます。
「…………」
あまりにすぐ答えが返ってきて、こっちが戸惑う。
「リョウ、こっちは何日?」
「俺に聞くな」
『向こう即答wwww』
『姫様の方が分かってないの草』
『2年1ヶ月くらいじゃん』
『こっちも計算すれば出せるだろ』
「セシリア、なんですぐ分かったの?」
――お二人が帰還された日は、王宮の記録に残っておりますので。
「……そりゃそうか」
僕たちにとっても忘れるような日じゃない。
ただ、そこから今日まで何日たったかなんて、数えたことはなかっただけ。
ミナトさんがすぐにPCを操作した。
「地球側も探索庁のデータから……ちょっと待って」
数秒して、画面を見たまま言う。
「こっちも755日」
「同じ?」
「うん。帰還してから今日までの日数は同じ」
『一致した????』
『時間の流れ同じじゃん』
『異世界と地球で日数同じなのすごくね?』
『ほんとに都合良すぎだろ・・・w』
僕とリョウは顔を見合わせた。
「僕たち、むこうで三年暮らして、地球でも三年たってたから、だいたい同じだとは思ってたけど……」
「日数まで比べたのは初めてだな」
「セシリアごめん。じゃあ、その755日の間、ずっと試してたの?」
――毎日ではございません。ですが、術師たちにも協力していただきながら、届く可能性がありそうな方法が見つかるたびに、試していました。
リョウが僕を見た。
僕も、同じことを思い出していた。
「……第三新宿」
「ああ」
リョウがセシリアに話しかけた。
「前に、こっちのダンジョンで、俺たちを呼ぶ声が聞こえたことがある」
第三新宿ダンジョン。
リョウと僕が、地球へ戻ってから初めて「勇者」と「姫君」と呼ばれた場所だ。
「僕たちには、あの声が誰だったのか分からなかったんだ。リョウが言ってるのは1ヶ月くらい前のことなんだけど、その頃、何かこっちへ声を届ける術を試してた?」
――……はい。その頃にも、いくつか試しております。
「じゃあ、あれもその試してたやつのどれかだったのかな」
――申し訳ございません。どの試みがお二人のもとへ届いたのかを、こちらから確かめることはできませんでしたので。
「そっか……」
『伏線回収か???』
『第三新宿ここにつながるのかよww』
『これは確定ではないのか』
『勇者をビビらせたのセシリアさんだったんかい!』
『でも映ってたの魔王城って言ってなかったっけ?』
第三新宿で聞こえた声のことまで一気に解決! とはいかなかった。
今度は、セシリアの方から僕たちへ聞いてきた。
――イオリ様、リョウ様。
「はい?」
――そちらにお戻りになってからも、お二人はずっと、ご一緒なのでしょうか。
「うん。今も一緒に住んでるよ」
「ああ。帰ってからずっとだ」
リョウも当たり前のように答えた。
――まあっ!
セシリアの声が、ぱっと明るくなった。
その声の弾み方には覚えがあった。
むこうにいた頃にも、僕とリョウのことになると、たまにこんな声を出していた。
――それでしたら、イオリ様はもう、リョウ様の奥方におなりになったのですね!
反射的に答えた。
「なってません!」
『は??????????』
『奥方????????』
『待て待て待て待て』
『今なんて???』
『リョウ様の奥方wwwwww』
『異世界通信見てたら結婚話始まったんだが』
『いや今は奥方だろ』
そこは、2年前から変わっていない。
でも、隣から続いた言葉がなんだか違った。
「まだ結婚はしてないぞ」
「……え?」
今度は、僕がリョウを見た。
『うおw』
『ファッ?!』
『まだ?』
『??????』
『勇者????』
『親友じゃなかったっけ?』
『まだはおかしいだろwwww』
『将来は結婚する予定ってこと?』
『こーれ切り抜き確定です』
『親友(将来結婚するかもしれない)』
『俺の姫→まだ結婚はしてないぞ』
『姫様の顔wwwww』
『きっと探索庁職員もこれ聞いてるんだよな?』
『ミナトン何か言ってくれ』
「なんだよ」
「いま『まだ』って言った?」
「言ったか?」
『言ったぞ』
『セシリア合意済みだからアーカイブ消すなよ』
『証人15万人は草』
『決定的証拠来たwwwww』
その間に、セシリアが不思議そうに続けた。
――まだでございますか?
「セシリアまで『まだ』って言わないで!」
37話をお読みいただきありがとうございました!
[異世界再接続耐久④]をお届けしました!
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