異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
気づけば時計は午後11時を過ぎていた。
セシリアと再びつながってから、もうすぐ1時間になる。
「さっきから言ってるけど『正妻枠』はただの物語の分類だからね。あと『あの頃から』じゃなくて、『あの頃』だから」
「でも、自分に当てはめてたんだろ」
「そういうふうに見えるかもって思っただけ!! 何度も言わせないで」
そのあと、コメントに向かって宣言した。
「だから、別に僕たちがそういう約束をしてたわけじゃないですからね」
「それは分かってる」
リョウは普通に頷いた。
……いや、リョウも当事者だからね? 「僕たち」に入っているからね?
ミナトさんが、僕とリョウを見比べて言った。
「でもさ。向こうで二人がそう見えてた理由って、結局、特別な決まりとか儀式じゃなかったんだよね」
「……そうですけど」
「二人がいつも通りにしてたら、周りからそう見えたということ」
「誤解を生む言い方やめてください! やっぱり撤回します。影響あります! そもそも召喚の儀式でこんな格好になったせいです!!」
「こんな格好っていうのは、こんな美人さんになっちゃったから、ってこと?」
「……そうです! 高校生男子がこんな美少女になっちゃったせいです!」
――はい。イオリ様は、こちらにおられた頃から大変お美しかったかと。
「セシリア、そこを肯定しなくていいから!」
『自認正妻ほんとつよい』
『ミナトwww』
『美人さんw』
『自認美少女も来た』
『異世界でも美少女やったんやな』
『異世界公認美少女』
『セシリアさん配信デビュー2日でこの強さ』
『姫様のパブリックイメージが崩れていく』
『←もとから電波系ダンジョンアイドルだぞ』
『世界初の異世界通信の末路が内輪の夫婦喧嘩か・・・』
ミナトさんはにやっと笑った。
「でも地球に戻って男に戻ったわけじゃないし、今も二人で暮らしてるよね?」
「変わりますよ?!」
「どこが?」
「向こうでは、僕たちがただ一緒にいただけで――」
……あれ?
地球でも、僕たちはただ一緒に暮らして、配信までしてる。
『詰んでで草』
『はい論破』
『異世界と地球で同時に詰められてる』
『これが歴史上初の異世界との首脳会談ってマジなのですか?』
『なんかきょうは接続1時間近く保ってない?』
「『接続1時間近く』……たしかにきょうは長いね。イオリちゃん、接続がいつ止まるかわからないし、本題を進めておいたほうがいいかもしれない」
ミナトさんがコメントを見ながら呟いた。
「こっちでは、昨日の記録と一回比べておこうか」
今の空間歪曲値は配信画面にも出ている。でも、昨日取った細かいログそのものまでは流していない。
ミナトさんがPCに向き直って、昨日の記録を開いている。
「リョウくん、ちょっとこれ見てもらっていい?」
「俺ですか?」
「うん。昨日、最初に声が入ったの、この辺だったよね?」
ミナトさんがノートPCを持ち上げ、画面をリョウの方へ向けた。
リョウも立ち上がって、その横から画面を覗き込んでいる。
「……ここですね。その少し前から細かく動き始めてたはずです」
「そうだよねえ。今日は昨日よりずいぶん長いし、きのうみたいな止まる兆候が出ないか見てたほうがいいかも」
「そうですね。俺も見てます」
リョウはもちろん大きいけれど、ミナトさんも立つとやっぱり背が高い。
僕がリョウの隣に立った時ほど、肩の位置が大きく離れない。
今までだって、3人で何度も一緒にいた。
でも今日は、2人の並びを見ながら、自分がリョウの隣に立った時との違いを比べていた。
『何見てんだ』
『勇者がみなとんの助手になってる』
『セシリア待たせてるぞw』
『異世界の話をもっと聞きたいぞ』
『つながるの当たり前な気がしてたけどまだ2回目だった』
『永久に接続し続ける方法研究しろ!』
……あ、僕はセシリアとの本題を進めてくれと言われていたんだった。
まだ聞いていないことは、いくらでもあった。
「ごめん。セシリア」
――はい。
「なんだか僕たちの話ばっかりしてたけど、そっちの話も聞きたいよ」
リョウもミナトさんのPC画面から顔を上げて言う。
「帰還術を使った直後から聞きたい。俺たちが消えたあと、そっちで何かあったか?」
――承知いたしました。では、まず、お二人がお帰りになった日のことからお話しいたします。
『たしかにこれが本題だ』
『世界間会談、再開!w』
『途絶えないうちに色々聞こう』
『ダンジョンと異世界の関係が解明したら熱い』
『セシリアさんこんな長電話になるって知らなかったでしょw』
――まず、術に関わった者たちが、帰還術を行った場所と残された術式を調べました。お二人を送り出す途中で術が途切れた形跡がないか、何度も確認しております。
「僕たちが、途中でどこかに取り残された可能性は?」
――そのような形跡は見つからなかったと聞いております。術師たちは、少なくともお二人をこちらから送り出すところまでは成立したと判断いたしました。
「でも、地球に着いたかは分からなかったってことか」
――はい。そちらを確かめる方法はございませんでした。
なるほど。
「僕たちが消えたあと、エルナさんとミレイさんはどうしてたの?」
――エルナ様は、術師たちの確認が終わるまで術を行った場所へ人を入れず、術式の跡にも触れないよう手配しておられました。ご本人もその場に残っておられました。
「エルナさんらしいね」
――ミレイ様は、お二人が戻ってこられた場合に備えて、治療術師たちと近くで待機しておられました。術が途中で止まった場合、どのような状態で戻られるか分かりませんでしたので。
『エルナとミレイw出たw』
『前に話してた二人だ』
『勇者ハーレムメンバーwww』
『サブヒロインきちゃ』
『新キャラかよ?』
『送り出した側が成功したかわからないって考えたらやばいな』
『やっぱ画像ほしい』
「……そっか。そんなことにならなくてよかった……」
むこうのみんなのことを忘れていたわけじゃない。
むしろずっと考えていたし、心配してた。
でも、僕たちが消えたあとにも、その場所で普通に時間が続いていたことを、こんなふうに具体的に考えたことはなかった。
「そういえば、僕が使ってた部屋って、そのあとどうしたの?」
――イオリ様のお部屋でございますか?
「うん。僕、もう帰ってこない前提だったでしょ」
――すぐには片づけませんでした。
「すぐには?」
――はい。しばらくは、そのままにしておりました。ですが、今は別のお部屋として使っております。
「そっか」
――ただ、イオリ様がお使いになっていた品のいくつかは、今も保管しております。
僕がいた部屋そのものはもう僕の部屋ではない。当たり前だった。2年も経っているのだから。
でも、なにか残してくれている。嬉しかった。
『エモい』
『姫君ゆかりの品じゃんw』
『聖遺物化待ったなし!』
『そのうち王国の宝物庫行きになりそう』
『姫様の私物とか異世界じゃ一級品史料だろ』
『勇者と姫の記念館できそう』
『本人まだ生きてるのに遺品扱いするなww』
『煽り勢がもうついてこれなくなってる』
「エルナさんとミレイさんは、今どうしてるの?」
――お二人ともお元気でございます。
「よかった」
まず、それを聞けたことに安心した。
「そうか」
リョウも横で頷いている。
――エルナ様は、今も騎士団長を務めておられます。ただ、現在は王宮にはいらっしゃいません。旧魔王領に近い地域へ出ておられます。
「騎士団長のままなんだ。……って、旧魔王領?」
――はい。
僕はリョウを見た。
魔王を倒して、戦いは終わったと思っていた。
その旧魔王領の近くへ、2年後の今、騎士団が団長のエルナさんまで出張る事態になってる。
『旧魔王領?』
『なんか話変わってきた』
『もしかして異世界平和になってない?w』
『異世界続編きたーーーー』
『エルナさんは現場仕事続きかw』
『2年後の異世界』
「……どうして旧魔王領に?」
40話をお読みいただきありがとうございました!
再接続耐久編に戻ってきたら、異世界の話になりました!
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