異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
――このところ、旧魔王領に近い地域で、小さな争いが増えておりますので。
「争い?」
――まだ戦と呼ぶほどのものではございません。ただ、以前より落ち着かなくなっております。
魔王を倒して、僕たちが地球へ帰ってから2年。
その2年の間、むこうがずっと平穏だったわけではなかったようだ。
「エルナさんは、その対応で行ってるんだ」
――はい。騎士団の一部を率いておられます。
「そっか……ミレイさんは?」
――ミレイ様もお元気でございます。今は王都の外で、治療にあたっておられます。
「ミレイさんも元気なんだ」
「今も治療術師なんだな」
ミレイさんは、リョウが怪我を隠すたびに一番怒っていた人だった。
「でも、王都の外ってことは、怪我人が増えてるの?」
――それだけではございません。魔王軍との戦いが終わったあと、故郷へ戻られた方々の中にも、最近になってもう一度、安全な地域へ移られる方が出ております。その受け入れも手伝っておられます。
「……せっかく家に帰れたのに、また移ってる人がいるんだ」
――はい。
――ただ、大きな戦になっているわけではございません。念のため、早めに移られる方も多いとのことです。
『??』
『旧魔王領やばいか?』
『魔王倒して完結じゃなかったか』
『急に異世界側の現在が見えてきた』
『エルナもミレイも仕事してるんだな』
『設定を一気放出すな』
『異世界のリアリティ上がってきたぞ』
『これマジなん?』
『新ルートが解放されてる』
『再召喚不可避wwww』
魔王軍との戦いが終わって、家へ帰れた人もたくさんいた。
その中に、2年経った今、また住む場所を移している人がいるらしい。
もうあの頃から変わり始めてる。
ちょっと心配だけど、もう僕たちが何かできるわけではない。
「……当たり前だけど、向こうも2年経ってるんだね」
「755日だろ」
「分かってるよ。数字じゃなくて」
僕はまたセシリアに話しかけた。
「そういえば。2人とも昨日のこと、僕たちと話せたことはもう知ってるの?」
――知らせはお送りしております。ただ、どちらからもまだお返事は届いておりません。
現代とは違うんだった。昨日はじめて僕たちとつながったばかりなのだから、その知らせですぐに二人とも捕まるわけじゃなかった。
「そうか、ふたりとも王都にもいないんだしね」
――はい。
「じゃあ、ほかのみんなは?」
――王宮を離れられた方もいらっしゃいますし、お役目の変わられた方もおります。お尋ねになりたい方から、順にお話しいたします。
「……聞きたい人、たくさんいるな」
時計を見る。さっきのリョウとミナトさんの会話も思い出した。
いつまでこの会話が続けられるかわからない。
聞きたい名前を挙げ始めれば、いくらでも出てくる。
でも、今日全部聞かなければならない理由はない。
昨日までは、一度きりなのかもしれなかったのに、今日は次にいつ試すかを相談できる。
「全部聞きたいけど、それはまた今度にする。次につながった時に聞かせて」
――もちろんでございます。
「じゃあ次はいつできる?」
リョウが聞いた。
「セシリアも、毎日この時間に王宮にいるわけじゃないよね?」
――はい。実は、明日より数日、王家の方々が王都を離れられる予定がございます。わたくしも随行いたしますので、その間は王宮へ戻れません。
「そっか」
毎日呼べばいい、という話ではなかった。僕たちに地球での生活と仕事があるように、セシリアにもむこうでの仕事があった。当然だった。
「じゃあ……、戻ってくるのは?」
――7日後でしたら、本日と同じ頃合いには王宮へ戻っております。
僕はミナトさんをちらっと見ながらいう。
「7日後。7日後なら、こっちも同じ時間に合わせられますよね」
ミナトさんが答えてくれる。
「うん。今日の記録も整理できるし、ちょうどいいんじゃない?」
リョウも頷いた。
「じゃあ7日後、今日と同じ頃合いに呼ぶ」
――承知いたしました。こちらからも、お名前をお呼びいたします。
「もし、その日にうまくつながらなかったら?」
――翌日も同じ頃合いに、お呼びしてみます。
「うん。こっちもそうするね!」
これで、次に試す日が決まった。
『次は1週間後か』
『そりゃセシリアさんにも仕事あるわ』
『1週間なんて待てないよ!!!』
『7日後予約きた』
『異世界ホットライン開通wwwwすごいwww』
『2年間待ってたんだから耐えろ』
『お前らが急に欲張りになってて草』
「じゃあ、今日はこの辺にする?」
僕が聞くと、リョウが頷いた。
「いいと思う」
――もう、よろしいのでございますか?
「実は、もうこっちでは、きょうだいぶ待ってたんだよね」
――……それは、たいへん申し訳ございません。
「セシリアのせいじゃないよ! きのうセシリアとつながったから、きょうもつながるかもってなって勝手に待ってただけ。しかも、みんなでわいわい喋りながら待ってただけだからね」
横でミナトさんがけらけら笑っている。
――それでも、お疲れではございませんか?
「疲れてはいるけど、また話せたから大丈夫」
それは本当にそうだった。疲れたのもそうだし、大丈夫なのもそう。
昨日、一度だけ届いた声じゃない。今日もつながった。
エルナさんやミレイさんが無事だとも聞けた。そして、次に話す日まで決められた。
きのうまでは、考えられないことだった。
「じゃあ、また7日後」
――はい。それでは、こちらの術も終了するよう、術師の方々にお伝えいたします。
「うん」
すぐに声が消えるわけではなかった。向こうでも、術を終わらせるための手順があるらしい。
――またお声を聞けることを楽しみにしております、イオリ様。
リョウも声をかける。
「俺もいるからな」
――もちろんです、リョウ様。
――ああ、それでしたら――
セシリアが何か思い出したように言った。
――次にお話しする際には、奥方のお話の続きを――
「しません!」
――ですが、まだ――
「その『まだ』も禁止!」
セシリアの声に、ざっとノイズが混じった。
――では、また7日後に――
そこでぷつりと声が途切れた。
携帯型空間歪計の細かな揺れが急速に小さくなっていく。
『切れたwwww』
『次回も奥方トーク予約入った』
『まだで切断するなw』
『セシリアさんまた7日後!!!!』
『5時間超えおつ』
『次回が遠い』
『セシリアまたね』
『ノシ』
『手動切断できるのか?』
『茶番で終わったぞ』
『この異世界通信?をCIAとかが真顔で分析するの??』
「……終わった?」
「みたいだね」
ミナトさんが計器を確認して頷いた。
「向こうで術を止めた直後に、こっちの揺れも落ちてる。昨日みたいに自然に弱くなって切れたのとは違いそうだね」
「じゃあ、向こうから終わらせることはできるんだ」
「少なくとも、今日はそう見えるかな」
5時間以上かけて、待って、話して、ようやく終わった。
僕は、ふと外套の襟を引っ張った。
「……これ、もう脱いでいいですかね?」
「いいよ。というか着替えなよ」
「やった」
『姫様解放』
『これで耐久終了か』
『そういえばこれで異世界衣装もレギュラー化する?』
『勇者も脱げ』
『おつかれ姫様』
「ただし」
ミナトさんがカメラを見る。
「今日の配信は、まだ終わりません!!」
「「えっ?」」
リョウと僕の声が重なった。
「通信が終わっただけでしょ。今日何が分かったのかと、次どうするかくらいは整理してから終わろうよ」
「……反省会ですか?」
「そう。反省会」
『反省会きた』
『ようやく地球側のターン』
『まだやるのかw』
『ちゃんとまとめてくれるの助かる』
『このチャンネルミナト探索記録だっけ?ww』
「えーと、着替えは先でいいですか?」
「それは先に行ってきなよ」
「行ってきます!」
今度こそ、僕は立ち上がった。
41話をお読みいただきありがとうございました!
[異世界再接続]は終わりましたが、配信はまだ続くようです!
ぜひ、感想やお気に入り、評価ボタンをお寄せいただけると嬉しいです!
どうぞ、よろしくお願いいたします!