異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
僕は、5時間にわたる耐久(?)異世界通信のあいだ着ていた、むこうの世界の装備をようやく脱いでリビングに戻る。
ドアを開ける前から、リョウとミナトさんの声が聞こえてきた。
「昨日は、この辺から少しずつ下がり始めてますね」
「うん。今日は向こうで術を止めるまで、そこまで大きく崩れてないんだよね」
僕が着替えている間も、2人で昨日と今日の記録を見比べながら、配信に向かって話を続けていたらしい。
「えーと、イオリちゃんは今着替えてるから、もうちょっと待ってね」
「たぶんすぐ戻ってきます」
「リョウくんは着替えないの?」
「俺はあとでいいです。このまま見てます」
……普通に二人だけで場を持たせてる。
リビングへ入った。
『帰ってきたぞ』
『5時間ぶりの現代服か』
『おかえり姫様』
『なんか勇者とみなとんで普通に場つないでるよな』
『勇者は着替えないの』
「おかえり」
「おかえり、イオリちゃん」
「ただいまです」
リョウは外套こそ脱いでいたけれど、上はまだ帰還装備のまま。
「じゃあ始めよっか。反省会!」
「お願いします」
「お願いします……って、僕たちのチャンネルなんですが。リョウはそれでいいの?」
ミナトさんはそのまま話し始めた。
「まず今日、昨日と違って分かったこと」
ミナトさんがPCを操作すると、配信画面が切り替わり、僕たち3人の映像は右上に小さくなる。
代わりに中央へ出たのは、昨日と今日の空間歪曲値の記録だった。
2本のグラフは、時間軸を揃えて上下に並べてある。
ミナトさんが言う。
「一番大きいのは、こっちだけできのうと今日の条件を揃えてもつながらなかったことだと思う」
「4時間待ちましたからね……」
「4時間近く、な」
「リョウ、訂正しなくていいよ。たしかに3時間45分くらいだよ」
『両方が条件を揃えないとつながらない』
『検証ハジマタ』
『よく考えると服着たけで喋れたら怖いよ』
『セシリア勤務時間中はつながらない説が正解だったの草』
ミナトさんが続けた。
「セシリアさんも、昨日と同じように、セシリアさんがいう術というのを使ってこっちに呼びかけていた」
「だから、こっちが装備を変えるだけで電話がかかるわけじゃなかったということですね」
「少なくとも、今の二回だけを見るならね」
リョウが計器のほうを見ながら言う。
「でも、この服を着るとこっちの歪曲値が上がるのは変わらないですよね」
「それもそうだね。装備を着たら上がる、脱いだら下がる、もう一度着たらまた上がる。昨日そこは2回確認したし、ここで通信するためには、装備をつけてることも条件には入ってくる」
ミナトさんがPCを操作すると、初日の空間歪曲値のグラフに、僕たちの服装等の情報と矢印が現れた。
【現代服】→
【装備にお着替え】↑
【一人お出かけ】↘
【二人揃う】↗
【現代服に戻る】↓
【再お着替え】↑
【通信開始】↗︎↘︎↗︎↘︎
……これもさっきつくってたのかな?
「だから、7日後も最初は今日と同じ条件からでいいと思う」
「装備のことですか?」
「うん。ただし、今日みたいに椅子を数センチずつ動かす必要はないかな」
「……はい」
『昨日のやつだ』
『わかりやすくて草』
『羞恥プレイも実験にちゃんと含まれてるw』
『服が異世界の鍵とかきのうまで誰が思ったか』
『反省できてえらい』
『ミナト先生に感謝』
「計測は、着替える前から始めておこう」
ミナトさんが続ける。
「普段の状態。装備を着た直後。待ってる間。通信が始まったら通信中。それから切れたあと。今日みたいに全部時刻を残す。まあ、時計つきで配信中ならば全部残るけど。気になる条件はちゃんと書き出しておく!」
ミナトさんが画面の中にメモ帳を出して箇条書きしていく。それも配信画面にでている。
『研究配信になってきた』
『ミナト探索記録はここですか?』
『〈なるほど〉』
『かしこい』
「まず、ここまでは次回も同じように取ろう」
「分かりました」
ミナトさんがPCを操作すると、中央に出ていたグラフが小さくなって、配信画面いっぱいに3人のいるリビングが戻る。
「7日後も、というか今後も、今日みたいに最初からみんなに見てもらう形でやる?」
僕は少し考えた。
「……そこは、決めなくてもいい気がします」
「俺もそう思う」
リョウが先に続ける。
「これまでずっと俺たちは異世界があると言ってきたんだ。ちゃんと見せてやる責任はある。でも、今日も早速そうだったけど、お互いいろんなことを話したいだろうから。検証も細かいことは記録だけ取るって手もある」
「そうだね」
リョウが同じ意見で良かった。
「7日後は配信でやりたいけど、エルナさんとかミレイさんとかのことを聞くの、その全部が検証ってわけでもないからね」
ミナトさんはすぐに頷いた。
「了解。それでいいと思うよ。検証しないといけないこと、話したいこと、全部を配信しないといけないわけではないよ。でもこれまで異世界のことを言ってきた手前見せないと、って責任をリョウくんが考えてるのもよくわかる。7日あるしゆっくり決めよ」
『それはそう』
『全部公開しろとは言えんわ』
『今日だけでもだいぶ個人的な話してたぞ』
『姫様が奥方かどうかは公益性があるぞ』
ミナトさんがもう一度PCを操作する。
「次、通信の終わり方について」
昨日と今日の、それぞれの通信が終わる直前だけのデータが拡大された状態で表示された。
「……こうしてみると、やっぱり全然違いますね」
「昨日は数値が自然に弱くなって切れた。今日はセシリアさんのほうが術を止めると言った直後に、こっちの揺れも落ちた」
『わかりやすい』
『これが手動切断ってことか』
『〈なるほど〉』
『もう一回検証した方がいい』
『これが今日の成果やな』
「もう一回検証…そうだね」
ミナトさんが今日のグラフの終端を指した。
「双方で通信の条件を整えていて、向こうが術を止めたことで、その条件の一つがなくなって通信も切れた。今のところは、そう考えると合う」
「でも、まだ一回だけですね」
「そう。だから次も、通信を終える時は向こうで術を止めてもらおう。その時刻と、こっちの変化をもう一度比べる」
「了解です」
「これで、今日の反省会は一通り終わりかな?」
「お疲れ様でした……すいません僕たちのチャンネルの反省会なのに」
「いいのいいの。そんなことより、もう1個だいじなことあるじゃん」
「だいじなこと?」
「あらためて……登録者50万人おめでとーーーー!!!!」
ミナトさんが叫んで、ぱちぱちと拍手し始めた。
「あ」
僕は思い出した。
「……そうでした。いつのまにか超えてましたね」
横でリョウも「ああ」と気の抜けた短い返事をしている。
「ふたりとも忘れてたの?」
ミナトさんが呆れたように笑う。
「忘れてたんじゃないです! そうですね、改めてミナトさん、みんなも、ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
二人でカメラに向き直ってお礼をいった。
『おめでとう!!!!』
『50万人!!!!』
『ようやくまともに祝えた』
『異世界に負けた50万人』
『11人からここまできたぞ』
『50万人記念企画期待』
『そういや異世界通信が50万耐久になってたのか』
「そうなんだよね」
50万人記念企画、とかいってたのはほんの数日前だった。
「前から、もう一度本気で異世界めしをやろうっていう話はしてたんです。こんなにすぐ50万人に到達すると思っていなかったですけど」
『異世界めしきた』
『40万人台はあっという間だったなあ』
『異世界通信と比べるとスケール小さくて草』
『セシリアさん監修でやればよくね?』
「お!」
ひとつのコメントを見て、僕は止まった。
「セシリアに聞ける!」
横でリョウが呆れたような声を上げる。
「記念配信の献立を次の通信で聞くのか?」
「聞くだけ!」
「まだいつやるかも決まってないのに」
「これから決めるんだよ」
ミナトさんが手を叩く。
「はいはい、その辺は配信終わってからにしよっか」
「……そうですね」
「じゃあ、今度こそ今日は終わりかな?」
「終わりましょう!」
このあと、ミナトさんの次の配信の告知等をしてから、僕たちの長い異世界通信&50万人登録耐久配信は終わった。
+++++
「……終わったあ」
椅子にもたれたところで、テーブルの上に置いていたスマホを見る。
着信とメッセージがかなり溜まっていた。
きのうと同じだ。探索庁と事務所。
リョウも同じ。
ミナトさんも自分のスマホを見て苦笑いしている。
「私も来てる」
「ですよね……」
3人とも無事です。
今日の記録は全部残っています。
異世界側で術を止めた直後に、通信と空間歪曲値の揺れが収まりました。
7日後にもう一度通信を試す約束をしました。
次回をどこまで公開するかは、まだ決めていません。
……と、順番に返した。
まあ、配信を見てればわかることだけど。この人たちに「配信を見てください」とは言えない。
全部終わった頃には、さらに時間が経っていた。
「……なんか食べたい」
「俺も」
夕飯なら配信中に食べた。
でも、あれからさらに何時間も経っている。
「じゃあ、どこか行く? 私の帰り道に合わせて」
+++++
財布と上着を取りに、一度部屋へ戻った。
リョウも、配信中ずっと着たままだった帰還装備をようやく脱ぎに行く。
僕がリビングへ戻って少し待っただけで、もう普通の服に着替えて戻ってきた。
「お待たせしました」
リョウがミナトさんに言う。
「早っ。爆速だね、リョウくん」
「もう脱ぐだけだったので」
5時間以上着ていたのだから、本人もさっさと脱ぎたかったんだと思う。
「じゃあ行くか」
リョウが玄関の方を見る。
「何食べる?」
ミナトさんに聞かれて、僕は時計を見た。
「この時間だと、そんなに選べないんじゃないですか?」
「ラーメンだな」
「重いよ!」
僕はリョウの言葉に思わず返した。
「さっき『行きます』って即答してただろ」
「食べにいくとは言ったけどラーメンとは言ってない!」
ミナトさんがスマホを取り出した。
「じゃあ、まだ開いてるところ探そっか」
3人で一緒に配信するのは、もう何度目だろう。
でも、配信を切ったあとに3人で店を探しているのは初めてだった。
+++++
結局入ったのは、深夜まで開いているファミレスだった。
リョウが普通に一食分を注文しているのに驚いてたら、向かいに座ったミナトさんも普通に食事を頼んでいた。
「そういえば」
注文を終えたミナトさんが、僕たちを見る。
「配信では言ったけど、改めて。登録者50万おめでとう」
「ありがとうございます」
今度はすぐに答えた。
「俺も。ありがとうございます」
「最初、何人だったっけ?」
「最初の配信ですか?」
「うん」
「最大11人」
「11?」
「11です」
言ってから、自分でも笑ってしまった。
初めてコメントが来た時は、それだけで嬉しかった。
僕たち以外の誰かが、本当に見ている。それだけで、配信を始めた実感があった。
「それが50万人かあ」
ミナトさんが言う。
「2年で? 伸び方おかしいよ」
「ミナトさんに言われたくないです。ミナトさんの方がずっと多いじゃないですか」
「登録者はね」
ミナトさんが笑った。
「今日みたいな同接、私のチャンネルじゃ出ないよ。普通の探索でも、もう二人の方が生で見に来る人数ずっと多いでしょ」
「それは分かってますけど……僕たち、2人分なので」
「2人分?」
「僕とリョウ、2人いるじゃないですか。ミナトさんは一人であれだけ集めてるし」
「それ割り算するところ?」
「しますよ!」
「しないだろ」
横からリョウまで否定してきた。
「だって、ミナトさんですよ?」
僕は付け加える。
「僕たちが始める前からずっとやってた人ですから。数字だけ見て『超えた』って感じはしないです」
「ああ、そういうこと」
ダンジョン配信が今ほど大きなジャンルじゃなかった頃から、ミナトさんはずっと記録を残してきたらしい。らしい、というのは僕たちがこっちに戻って来るより前のことだからだ。
最初のコラボでも少し聞いたけど、初期のダンジョン調査の時代から情報発信を続けてきたミナトさん。
派手な戦闘はなくても、毎日の探索調査と記録の配信を積み重ねて、今の〈ミナト探索記録〉がある。
きのうと今日のセシリアとのやり取りが、他の人達からみて検証可能な形におさまったのはミナトさんのおかげだった。
同接が何人であろうが、もう頭が上がらない。
料理が運ばれてくる。
50万人を超えた夜のお祝いとしては、ずいぶん普通のファミレスだけど、今日はそれくらいでちょうどよかった。
ミナトさんが飲み物を持ち上げる。
「じゃあ、一応」
「?」
「50万人と、異世界との2回目の通信成功に……」
「「「乾杯!!」」」
グラスを合わせて、一口飲む。
ミナトさんが料理へ手を伸ばしながら聞いた。
「二人、明日は休み?」
「いえ、仕事です」
「普通に?」
「普通にです」
「第一新宿だよな」
リョウが言う。
「そう……。何狩るんだっけ」
「鏡晶狼」
「何時?」
「いつもの時間」
僕はスマホで、明日の配信予定を開いた。
【第一新宿ダンジョン・鏡晶狼討伐】
もう視聴者にも告知してある。
「……ほんとに普通の仕事だ。セシリアと話したばかりだっていうのに」
「仕事だからな」
ミナトさんが笑った。
「じゃあ、今日はちゃんと食べて早く寝なよ」
「はい」
「特にリョウくん」
「俺ですか?」
「君です。全然寝ない人ってネタにされてるよ?」
42話をお読みいただきありがとうございました!
[異世界再接続耐久]編はここまでになります!50万人もおめでとうございます!
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