異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
セシリアと1週間後の通信の約束をした次の日。
俺とイオリは第一新宿ダンジョンに向かっていた。
「まだ増えてる」
「登録者か?」
「それも。昨日のアーカイブも、切り抜きも。記事もまだ増えてる」
入場ゲートへ向かう間も、イオリは何度かスマホを見ていた。
昨日の配信が終わってから、こいつは何度も数字を確認している。
配信が大きく伸びたあとはいつもそうだ。
「今回はちょっと違う」
「何が?」
「見に来てる人。今まで僕たちを知らなかった人がかなり多い。探索配信を普段見ない人とか、ニュースの記事から来た人とか。今までのバズより外まで届いてると思う」
「実際に向こうと話したからな」
「うん。登録も50万人を超えてからも、まだ増えてるし。まあ数字の大きさ自体はおとといときのうで分かっていたことだけどね」
入場ゲートの前につくと、向こう側から、顔馴染みの探索者3人組が出てくるところだった。
肩にかけた回収袋から、水晶みたいな外殻が覗いている。
3人組の中の女性探索者が声をかけてくる。
「あ、イオリちゃん。50万人おめでとう」
「ありがとうございます!」
「昨日の異世界通信もすごかったね。本当に話すとは思わなかったよ」
「いやあ、成り行きで成功しちゃいました」
「で、今日そっちも鏡晶狼?」
「その予定です。もしかしてそれ、2体ですか?」
「2体。今日は何体もいるよ。今週は副業組が夕方から結構入ってるから、狙うなら早い方がいいかも」
「ありがとうございます。お疲れさまでした」
「配信見るねー」
この3人は俺たちがこっちに戻ってくるよりも前から探索を副業にしているベテランのパーティーだ。
なんだか言葉は軽いが、3人で合わせて鏡晶狼を2体持ち帰れるくらいで、かなり強い。
少し進んだところで、イオリが俺に小さな声で言った。
「50万人の方が先だったね」
「気づいたか」
「気づくよ。ネットニュースとかはだいたい異世界の話しかないから」
「前から見てたんだろうな」
「たぶんね」
第一新宿ダンジョンは、昔から副業探索者が多いらしい。
らしいというのは、俺たちがこっちにいなかった頃からの話だからだ。
会社帰りや休日に潜って、魔物を狩って、魔石や素材を売る。その立地も相まって、今では「サラリーマンの副業の聖地」なんて呼ぶ人もいる。
俺たちにとっても、こっちに戻ってきて探索者になってから何度も潜ってきたホームだ。
近くにいた何人かまでこっちを見て、手を振ってきたので、イオリも手を振り返す。俺は目が合いそうな人にだけ適当に頷いておく。
ここには、ずっと前から俺たちを知っている人間が多い。
今日は俺もイオリもいつもの探索服、この人たちと俺らは、同じ探索者なのだ。
入場ゲート脇のモニターでは、探索者向けの注意事項が何枚か切り替わっていた。
【探索者登録は2年ごとの更新が必要です】
【更新期限・更新可能な場所を必ずご確認ください】
そういえば、俺たちも探索者になって2年、来週、最初の登録更新をする予定だった。
「リョウ、更新のお知らせなくしてない?」
「なくしてない、ていうか冷蔵庫にはっただろまとめて」
「……そうだった」
俺たちは、入場手続きを済ませてそのままゲートを抜けた。
+++++
配信を始めてから、もう20分ほど経っていた。
第一新宿ダンジョン、第6階層。
俺たちは黄色い誘導線に沿って、西部の探索区画へ向かっている。
広い通路には、階層番号と区画番号の表示、通信中継器、非常灯が一定間隔で並んでいた。
入口に近い階層では何組も探索者とすれ違ったが、ここまで来れば人影はかなり減る。
壁や床の隙間から白っぽい結晶が伸びている。
通路の2つ目の分岐で誘導線から外れる。
ここから先は、最近鏡晶狼がよく確認されている辺りだ。
今日は、先月の配信中に第三新宿で出会ったのと同じ鏡晶狼を狙う。
倒せば魔石と外殻が残り、どちらも買い取り対象になる。
調査でも通信実験でもない。久しぶりのいつもの探索仕事だ。
『初見です』
『今日はセシリアさん出ない?』
『鏡晶狼ってなに?』
『きょうは新参が多い』
『異世界服なんで着ないの# ゚Д゚)』
『最近たくさん出るらしいね鏡晶狼』
『結局異世界は立証されたの?』
コメントを見ると、常連と思しき人達のコメントのテンションも高いけれど、それ以上に新規と思われるコメントが散見された。
イオリは配信をはじめたときと同じ説明をする。もう3回目だ。
「今日は異世界とは話しません。普通に第一新宿ダンジョンの探索をして、最近増えているらしい鏡晶狼を狙っていきます!」
『普通とは』
『新参を虜にしていけ』
『探索配信も見てくわ』
『この美人が自称お姫様か』
『こんなことしてていいの?』
俺が前方と足場を確認して進む後ろで、イオリは追従ドローンの映像と探索端末を見ていた。
その腰には携帯型空間歪計もついている。最近は普段の探索でも持っているために、探索庁から借りっぱなしになっていた。
後ろからイオリの声がした。
「歪み、今日もダンジョンに入ったら上がってる」
「第一新宿のいつもの範囲か?」
「うん。数字だけなら、いつも通り。記録は残しておくね」
「ああ」
『なんぞ?』
『これずっと測ることになったの?』
『〈かわいい〉』
「これは空間の歪みを測る機械です。異世界との通信でも使ったけれど、本来はダンジョンの環境変化を見るためのものです」
イオリはドローンのカメラに向かってそう補足した。
俺は前へ向き直り、そのまま奥へ進む。
+++++
数分歩いて岩場へ差しかかったところで、右側に動くものが見えた。
「右。止まれ」
後ろのイオリの足音が止まる。
「どのくらい?」
「10メートルちょっと。岩の向こうに一体」
イオリの探索端末には、まだ反応が出ていないらしい。
岩陰から半透明の前脚がぬっと出た。水晶に似た外殻が光を返し、少し遅れて探索端末にも表示が出る。
【鏡晶狼・成体】【外殻による魔力反射に注意】
『いた』
『鏡晶狼も準レギュラーになりつつあるな』
『戦ってるとこ初めて見ます!』
『勇者がんばえ~』
イオリが腰を落とす。
「鏡晶狼です。知っている方もいると思いますが、外殻へ直接魔力を当てると反射するので、正面からの魔力攻撃は避けます」
鏡晶狼もこちらへ気づいた。低く身を伏せ、水晶の殻をこっちへ向ける。
「前脚止めるから、左からお願い」
「ああ」
鏡晶狼が床を蹴る直前、金色の線が走った。
飛び出しかけた右前脚を、イオリの《拘束方陣》が捕らえる。
「左、3秒!」
「十分だ」
3秒あれば足りる。
正面を避けて左側へ回り込み、剣の柄の端を外殻の継ぎ目へ叩き込んだ。
ガン、と硬い音が通路へ響く。外殻にひびが走り砕けた。
鏡晶狼の身体が黒い霧へ崩れる。
床には魔石と、割れた外殻が残った。
『はや』
『これがきのう結婚会見した電波アイドルですか?』
『オワタ』
『一瞬すぎてよくわからなかったぞ』
『きょうしょうろう?強そうなのに一瞬だったね』
「周囲確認、ほかにいない?」
「いない」
次の反応がないことを確認してから回収に入る。
イオリが外殻を回収袋へ入れ、拾った場所と時刻を登録する。俺はその間も周囲を見ながら魔石を拾った。
「1体目完了」
「もう少し探そうか?」
「ああ」
「だからって、見つけた分全部狩らないでよ。持って帰るまでが仕事だからね」
+++++
2体目はさらに15分ほど歩いた先で見つけた。
周囲に別の個体がないことを確認してから、1体目と同じように仕留める。
「これで2体目」
「今日はよく見つかるね」
「早いな」
イオリが回収袋の重さを確かめている。
『鏡晶狼今日多いな』
『強すぎ』
『これが異世界仕込みの勇者とお姫ですか?』
その時、前方の岩陰で何かが動いたので剣へ手をかける。
イオリが探索端末を見るより先に、水晶状の外殻が岩の向こうから覗いた。
「また鏡晶狼だよ?」
「ああ」
3体目なら、今の荷物に足しても問題なく持ち帰れる。
こいつまでにして、今日は戻ればいい。
イオリも回収袋を確認する。
「これ以上運べないから、これ取ったら戻るよ」
「ああ」
「でも、早く見つかりすぎて配信が持たないよ……」
「そんな心配は後でしろ」
「はいはい。右前脚止めるから、左から」
「ああ」
「またああばっかり」
鏡晶狼が床を蹴るのと同時に金色の線が走り、右前脚が止まる。
俺はその横を左へ回り込み、一体目と同じように外殻の継ぎ目を狙って仕留めた。
『ひゃあああ』
『余裕かよ』
『配信時間の心配やめろ』
『乙!』
3体目の外殻と魔石まで回収したところで、今日の仕事は終わりにした。
1時間と少ししかかからなかった。
『もう終わり?』
『やっぱ時間持たないじゃん』
『終わるんかーいw』
『昨日は異世界通信耐久5時間して今日は狼3体で終わりかよ』
『このチャンネル何なんだ?w』
『きょうは異世界イベントなさそうだな』
「今日は僕たちも、もう少しかかると思ってたんだけどね」
イオリが回収袋を閉じながらコメントへ返す。
「せっかく初めて来てくれた人も多いし、配信は切らずに戻ります。安全なところまで出たら、何か話しながら帰ろうか」
「まず戻るぞ」
「分かってるよ」
回収を終えた頃には、イオリの髪が少し崩れて、白い部分が朝より多く見えていた。
顔にはかかっていないので、そのままでいい。
「重量、平気?」
「俺は平気だ」
「僕の方も大丈夫。じゃあ戻ろう」
「ああ」
『姫様相変わらずインナーカラーきれい』
『あれ?今日は髪結いタイムないの?』
『帰り雑談たすかる』
『本当に配信時間もたなくて草』
ゲートへの帰り道は、主にイオリが、ときどき俺も、コメントを拾いながら出口へ向かった。
+++++
退場手続きを済ませて、3体分の素材を査定カウンターへ持ち込んだ。
「今日は鏡晶狼、多いですね」
外殻を1枚ずつ確認していた顔馴染みの査定担当が言う。
「やっぱりですか? 入るときにほかの探索者さんも言ってました」
「先月くらいはこの区画、だいぶ減ってたんですけどね。また戻ってきましたよ」
「ああ、そうだったんですね」
「こういうのは波がありますから。魔物もそうですし、採取区画も減ったらしばらく休ませて、回復確認が出たらまた開けるでしょう」
「そうですね」
その時、イオリはそれ以上何も聞かなかった。
俺も特に気にしなかった。
「もう何組か持ち込んでますよ。おふたりのも3体ともそのまま買い取れます」
「お願いします」
三体分の買い取り金額を確認して、手続きを終える。
査定カウンターを離れて少し歩いたところで、イオリが振り返った。
「……リョウ」
「何だ?」
「さっき、『また戻ってきた』って言ってたよね」
「鏡晶狼か?」
「うん。それと、採取区画も『回復』したらまた開けるって」
「それがどうした?」
「2年間普通に聞いてた言葉なんだけど……なんか今、急に気になった。何が、どこから戻ってきてるんだろう」
休憩スペースへ着くなり、イオリはスマホを取り出した。
「資源の回復についてなにか説明があるのかな」
「その前に飯にしよう。雑談配信ならここでもできるだろ」
「見るだけだって」
言いながら、もう指が動いている。
俺はカフェのメニューを見る。探索中はまともに食っていない。俺も腹が減っているし、イオリも同じはずだ。
「何食う?」
返事がない。
「イオリ」
まだ返事がない。
スマホを見たまま、完全に検索に入っていた。
『姫様?』
『何見てるの?』
『スマホの画面こっちには見えてないぞ』
『さっき配信時間もたないって言ってなかった?』
「……あ」
イオリが顔を上げた。
「待って。僕、さっき配信時間が持たないって心配してたよね」
『〈かわいい〉』
『おーい』
『静止画で持たせる自信があるんでしょ』
「違うんだよ。時間を持たせたいって、こういう意味じゃない!」
イオリは苦笑して、ようやく視聴者へ向き直った。
「ごめん。普通に調べ物に入ってた。しかも画面共有してないから、みんなには僕がスマホ見て黙ってるようにしか見えないよね」
「さっきの『戻ってきた』『回復した』って言葉が気になって、ダンジョンの資源がどうやって戻るって考えられてるのか見てました」
今度はちゃんとコメントへ説明し始めた。
「で、何食う?」
「あ、ごめん。いつものホットサンドでいい」
「飲み物は?」
「さっき買ってもらったのあるから大丈夫」
「分かった」
これなら任せていいだろう。
俺は2人分を注文しにカウンターへ向かった。
+++++
番号札を受け取って戻ると、イオリはスマホを見ながら今度はちゃんと喋っていた。
「ちょっと見ただけでも、思ったよりいろいろ出てきますね。ただ、いま僕だけが見てる状態なので、必要なところはあとで画面共有します」
『実況してる』
『学習した姫様』
『〈えらい〉』
テーブルに番号札を置いた。
「料理、少しかかるぞ」
「じゃあ、ちょうどいいね」
「みなさん。せっかく時間があるので、料理が来るまで一個、一緒に考えてみてください」
イオリはテーブルにおいたドローンのカメラへ向き直る。
「さっき査定の人が言ってた、『また戻ってきた』って話です。僕もまだ答えは分からないので、まず何が気になったのかから話します」
43話から、新編に入ります!
地球と異世界の謎も、ふたりの関係もいよいよぐいぐいいけるとおもいます。
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