異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
セシリアとの異世界通信ネタでつられたであろう、新規の人たちに見せるにはちょうどいい。
そう思ったのに、鏡晶狼をはやく狩りすぎてネタが無くなった第一新宿ダンジョンからの配信。
リョウがまとめて頼んでくれた料理が来るまでの雑談のつもりで、僕は思いついたままに話をはじめていた。
「まず、何が気になったのか、そこから話すね」
今日、僕たちは鏡晶狼を3体倒して持ち帰った。
第一新宿へ入る前に会った探索者さんたちも2体持っていたし、査定の人は、ほかにも何組か持ち込んでいると言っていた。
「さっき『先月は減ってたけど、また戻ってきた』って言ってたでしょ」
『今日は多いらしいな』
『魔獣も動物なんだから増えるんじゃないの?』
『第一新宿は月ごとの出現数けっこう振れるぞ』
『なんかはじまた』
「うん。鏡晶狼だけなら、それでいいと思うんです。魔物なんだから繁殖して増えてるかもしれないし、別の区画から移動してきてるかもしれない」
「じゃあ何が気になるんだ?」
リョウが合いの手を入れてくる。
「査定の人があのあと、採取区画自体にも同じように『回復』って言ったこと」
魔物だけの話ではなかった。
「植物なら、また生えてくるものもあるよね。でもダンジョンから持ち帰ってるのって、それだけじゃないでしょ。結晶とか、鉱物みたいなものもある」
『うーん』
『採取停止→回復確認→再開は普通にある』
『はい』
『そうなのですか?』
「僕も2年間ずっと普通に聞いてたんだけどね。今日、自分たちで3体持ち帰って、ほかの探索者も同じように持ち帰ってるのを見たら、急に気になったんです」
毎日、何組もの探索者がダンジョンへ入る。
魔物を狩って、素材を採って、それを地上へ持ち出している。
「それなのに、しばらくすると『戻った』『回復した』って言う。じゃあ、何がどうやって戻ってるんだろうって。だから、まず公開されてる記録を見てみようと思ってます。ただ――」
ブルルルル!
横で食事の受け取り準備を知らせる機械がなった。
『〈なるほど〉』
『ご飯きた』
『それガチの研究課題やぞ』
『メシ食いながら語ることじゃない』
『強制中断キタ』
「中断じゃないよ。食べながらやります」
「俺が取ってくる」
「リョウ。お願い」
リョウが席を立つ。
待っている間にもコメントは流れ続けていた。
『結晶って本当に増えるの?』
『今日はいつになく真面目』
『原因知らなくても仕事はできるから』
「いつになくまじめ……いつも! まじめです。ダンジョンのものが回復するのを知らなかったってわけじゃなくて、その……気になってるのは、その先です」
リョウが戻ってきて、テーブルに食事が並んだ。
「ありがとう」
先に一口食べる。
手元のスマホをもう一度引き寄せ、第一新宿ダンジョンで公開されている区域別の開放スケジュールを配信に画面共有する。
結晶や植物素材の採取が減った区域は、一定期間採取を止め、採取可能量が戻ったと判断されれば再開放される。
「……これ。『資源回復確認後、採取再開』」
『普通に回復って書いてある』
『採取場休ませるやつな』
『こんなのあるのか』
『ダンジョンってこんな管理されてたの?』
『さすが帰還配信はニワカが多い』
「回復すること自体は、僕も知ってます。僕が気になってるのはその先の話で。……いや、ダンジョン初心者の人も多いと思うので、ここで再確認しましょう。便利なサイトとかがあれば……」
検索したら探索庁のHPに行き当たった。
「ええと……『ダンジョン内資源の回復機構については、周囲の魔力を利用した再形成、ダンジョン深部または周辺区画からの移動、空間異常を介した外部供給など、複数の仮説が提唱されています。現時点では統一的な説明には至っていません』」
『?』
『棒読みやめろ』
『外部供給って何』
『なんだこれ』
『再形成一択じゃないのか』
『つまりなにもわかってない?』
『なんか読むときだけ声変わってて草』
「ようするに、ダンジョンの中にある資源は、その場で作り直されてるのか、ダンジョン内のどこか観測できていない場所から移ってきてるのか、その外から入ってきてるのか、まだわかっていませんということです」
「外から、か」
リョウがそこだけに反応した。
「うん」
『空間異常を介した外部供給』
その言葉を見ているうちに、今日持ち帰った鏡晶狼の姿が浮かんだ。
僕たちだけで3体。入口で会った探索者さんたちも2体。結晶や鉱物だって、毎日どこかの区画から地上へ運ばれている。それでも、また採れるようになる。
「……もし、本当に外から入ってきてるなら」
「それ、最初に言ってたやつじゃないか」
僕が考えながらぽつぽつ喋っていたところに、リョウが口を挟む。
「最初?」
「初配信。この前同時視聴で見直したやつ。俺たちが向こうに行ったこととか、帰ってきたことが、こっちのダンジョンに関係してるかもしれないって」
2年前、初めて配信をした日。
僕たちが召喚された時期と、地球で最初のダンジョン異常が観測された時期がほとんど重なっていた。それで、自分たちが世界を越えたこと自体が、地球側へ何か影響したのではないかと話した。
「そう。そう! そういうこと。あの時は、召喚された時期が重なってるって話しかできなかったんだよね」
「そうだな」
「でも今は、むこうで見た魔物と異様に似たものが地球のダンジョンに現れてるのを見たし、僕たち自身もまたむこうと話せた」
さらに、『外部供給』という言葉まで出てきた。
「……2年前に考えてたこと、もう一回ちゃんと考えてもいいのかも」
『初配信のやつだ』
『同時視聴で見た』
『もう異世界は証明されてる前提なの???』
『第1回配信を見たほうが良いですか?』
「いや、今すぐ答えが出る話じゃないですからね。それと昔の配信まで見に行く人は、長いから覚悟してくださいね」
『宣伝かな』
『伏線回収編熱い』
『今は通信まで成功してるから状況が違いすぎる』
+++++
コメントを追ってこたえていたら、いつの間にか手が止まっていたらしく、リョウが僕の前からずれていた皿を戻してくる。
「さめるぞ、はやく食え」
「食べてるよ」
「止まってたぞ」
『いちゃいちゃすんな』
『結婚してない人たち』
『これがメインヒロインちゃんですか』
『本当に付き合ってないんですか?』
『【榊ミナト/ミナト探索記録】ふたりの2年前の仮説をもう一度考えるのは、いいと思う。あの頃より材料が増えてる』
『???』
『みなとんw』
『ミナト来てる』
ホットサンドを持ち直したところで、コメント欄に見慣れた名前が流れてるのに気づいた。
「ミナトさん! 見てくれていたんですか?」
『【榊ミナト/ミナト探索記録】SNSで、イオリちゃんが私の悪影響受けて考察に夢中になってるってコメントもらってきたよw』
『悪影響は草』
『配信中に突然統計データ開いたのは影響受けてるわw』
『仮説って何?』
「悪影響なんて人聞きが悪い。いい影響受けてますよ、ありがとうございます。というかむしろ、異世界考察は僕たちの本業です!」
ミナトさんも応援してくれた。
なら、新しく見始めた人にも分かるように、一度ちゃんと言っておこう。
「ミナトさんが仮説っていってくれてることですが、僕たちが初配信から言ってるのは、僕たちが召喚されたこと、帰還したことと、地球のダンジョンには何か関係があるんじゃないかってことです」
一度喋り始めたら、止まらなかった。
「それに加えて、もう一歩先まで考え始めました。地球のダンジョンそのものがむこうとつながっていて、魔物とか資源の一部が、そこからこっちへ来てるんじゃないかって」
『うおw』
『そこまでが仮説か』
『異世界の存在はもう確定なの?』
『久々にぶっこんできた』
『初配信の姫様が帰ってきた』
『俺はセシリアでかなり信じる方に傾いた』
『新規なので説明助かる』
『解説の外部供給=異世界ってことか?』
『ダンジョンが全部異世界から来たってこと?人の召喚とはレベルちがくない?』
『ダンジョンを誰が召喚したんだ』
「うん。さっきの解説を見たら、『外部供給』というのが引っかかった。地球の人たちが考えてた『外部』を僕たちは実際に見てきたのかなって。でもまだ仮説です。そもそも僕たちの話を全部信じてない人がいるのも分かってるし、異世界のことを信じてくれたとしても、この仮説まで一緒に信じる必要はないです」
僕たちがそう考えている理由は、2年前からいくつかあった。
「でも、いくつか根拠はあって……。まず、2年前に僕たちがセシリアたちのいる異世界から帰ってきたとき、着いた場所が第三新宿ダンジョンだったこと」
『因縁の地』
『魔王城も見えたしな』
『客観的には記憶が混乱した男女がダンジョンで発見されただけよ』
『きょうはガチで真面目だな』
「それから、ダンジョンも魔力も、むこうには昔からありました。地球で最初のダンジョン異常が観測された時期は、僕たちが異世界へ召喚された直後、5年前です。それに、地球のダンジョンに、僕たちがむこうで見たものによく似た魔物がいる。灰角獣もそうだし、今日狩った鏡晶狼もそうです」
『映像があればなあ』
『セシリアに魔物図鑑見せたい』
『地球のダンジョンは異世界からのコピペか』
『どこまで信じていいの?』
「きのうは、僕たちは実際に地球からむこうへ声を届けて、むこうからセシリアの声を受け取った。少なくとも、2つの世界の間で何かが越えられること自体は、2年前よりずっと考えやすくなった。さらに今日知ったこと。地球のダンジョンでは、魔物を狩ったり資源を持ち出したりして減っても、しばらくするとまた戻るわけだけど、その仕組みの候補として、探索庁は『空間異常を介した外部供給』を挙げている」
『〈なるほど〉』
『声も人も魔物も行き来してるやんけ!』
『大丈夫?飛躍してない?』
『外部供給説は異世界説だったのか』
「あ、探索庁が僕たちのいう意味で『外部とは異世界です』って言ってるわけじゃないです。僕たちが勝手にそこを候補に入れてるだけなのでそこは注意ね」
画面にある『外部供給』の文字を、もう一度見た。
「でも帰還地点も、魔物も、今日の資源の話も、別々の理由かもしれない」
リョウが僕の方を見ながら言った。
「そうだね。でも、もし同じ理由なら――地球のダンジョンは、むこうとどこかでつながってる、ってこと」
「それが、俺たちが最初から考えてきた仮説だな」
『むずい』
『なるほどわからん』
『仮説としては分かった』
『ミナトンは話の理解が早すぎた』
『これ視聴者はみんな全部信じてるの?』
『〈なるほど〉』
『設定じゃすまなくなってきたな』
『でもダンジョンのおかげでガチで地球の資源問題解決しそうだよね』
2年前は、ここまで話してもらう前に終わることの方が多かった。
今は、信じている人も、まだ疑っている人も、その先の話まで聞いてくれている。
設定じゃない!スタンプの出番が減りそうだった。
+++++
ここまでふたりでガガッとしゃべり終わったところで、正面のテーブルにいた二人組と目が合った。
一人が、気まずそうにではなく、普通に軽く会釈してくる。
僕も会釈を返した。
少し離れた席でも、装備を外した探索者がこちらを見ていた。僕と目が合うと、その人は隣の仲間へ何か言って、また食事へ戻る。
「……結構聞こえてた?」
「配信してるんだから、そりゃ聞こえるだろ」
「そうなんだけど」
『今気づいたのかw』
『休憩所でやる話じゃなくて草』
『注目の的やで』
周囲は、ちょうど査定所の方から戻ってきた二人組が、回収袋を足元へ置いて空いた席に座る。反対側では、これから地下へ入るらしい探索者たちが装備を確認しながら食事をしていた。
「こういうところ、むこうにもあったね」
そう呟いたら、リョウが反応した。
「ギルドの酒場か?」
「うん」
『異世界にもダンジョンカフェあるの?w』
『そっちの話も聞きたいゾ』
『定番「ギルドの酒場」w』
「ダンジョンの休憩所じゃなくて、冒険者ギルドに併設されてる酒場です。仕事を終えた人と、これから依頼へ出る人が同じところでご飯食べてたなって」
むこうでは酒の入った木杯の方が多かったけれど、こっちではコーヒーとペットボトルが目立つ。
世界は全然違うのに、冒険者が仕事を終えたあとに集まる場所は妙に似ていた。
「こうして見ると、結構似てるね」
「人が帰ってきて飯食う場所だからな」
「身も蓋もない」
『勇者w』
『勇者ハーレムのテーブルやばそう』
『美少女侍らして飲んでたんだろがい・・・』
『正妻枠は隣キープですか?』
「……ほぼ隣でした」
「正妻枠だっからよってきてたのか」
「……そうだよ! でもリョウだって同じじゃん」
『うおおおおおおおお』
『これが普通の親友か・・・』
『〈かわいい〉』
『サブヒロインとも通信つながらないかなあ』
『画像ください』
『そうだよ(便乗)』
+++++
カフェでの雑談でどうにか配信時間はつぶせたようだった。
広々としてるとはいえ、周りのみなさんすみませんでした。
「今日はここまでにします」
食べ終わった皿を見て、昨日決めたことを思い出した。
「あ。そうだ」
「何だ?」
「50万人記念の異世界めし。何を作るか、まだ決めてないね」
『反省会で決めたやつ』
『異世界飯きた』
『当分決まらなさそうだな』
「煮込み」
リョウは迷わなかった。
「やっぱりそれ言うと思った。じゃあ、地球で再現できるか調べよう」
「できるだろ」
「リョウ、材料覚えてる?」
「肉」
「何の?」
リョウは静かになった。
50万人記念の最初の仕事は、二人分の記憶を掘り返すところからになりそうだ。
44話をお読みいただきありがとうございました!
(※)10月23日の43話の投稿のタイミングで、章タイトルの設定をし忘れていたのに気づきました。
新編だと紹介していたにもかかわらず、失礼いたしました。
43話から、「第6編 異世界とつながったまま、地球で探索と配信を続けます――異世界が日常に入りこんでくる」に入っています!
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