異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
営業開始してそうそう、最初のお客さんが店へ入ってくる。
レジへ行くよう案内が出た。
「僕がレジいくね」
注文を受けると、レジから注文票が出て、店内の注文表示にもバーガーひとつが追加された。
いよいよ、肉を焼くらしい。
「肉焼くのは俺がやる」
リョウのアバターが僕の画面を横切り、そのまま厨房へ入っていった。
「じゃあ任せた」
僕はレジの近くに残った。
次の客はいないし、いま必要な作業はリョウがやっている。
「……僕、何もすることなくない?」
「待ってろ」
「リョウは?」
「肉焼いてる」
「ずっとそこにいるの?」
「焦げるだろ。焼けるまではいる」
『ホール暇そう』
『姫様自然に看板娘に収まったな』
『きょうは本当にゲームだけですか?』
『ワイプの勇者ずっと同じ姿勢なんだが』
『勇者仕事してるか~?』
配信確認用の画面に出ているリョウのワイプをちらっと見る。
リョウは、本当にほとんど姿勢を変えていなかった。
アバターは僕のゲーム画面から消えても、現実では少し離れた机で真面目にモニターを見続けていた。
短い黒髪の下で目だけが画面を追っていて、長い腕も机の上からほとんど動かない。僕の方のワイプには、何もすることがなくて椅子の上で落ち着かない僕まで並んで映っていた。
「ワイプだと普通にそこにいるのに、ゲームでは何してるか全然分からないの変だね」
「肉焼いてるって言っただろ」
「それしか情報ないんだよ」
しばらくすると、厨房側からリョウのアバターが戻ってきた。
手にしたトレイに、焼けた肉が載っている。
「きた!」
作業台に出しておいた包装紙へパンを置き、戻ってきたリョウの肉を挟んで包む。
それをトレイへ載せ、注文票に書かれた番号の席まで持っていけば、1件目の注文が完了した。
「なるほど。こういうゲームね」
1周すれば仕組みは分かった。
簡単設定だからか、本当に僕の方は暇だった。
注文を取って、出来上がった肉を受け取り、パンに挟んでお客さんに出す。
その合間にコメントにも結構丁寧に答えていた。
「これ、かなり余裕あるね」
「簡単だからな」
そのまま初日の営業を続けても、大きく崩れることはなかった。
閉店時間まで回しきって1日の結果を開くと、売上はまだ小さいものの、収支はちゃんと黒字になっている。
店の人気も少し上がっていた。
「おお。こんなふうに結果出るんだ」
「店なんだから出るだろ」
「じゃあ操作も分かったし、次は普通にする?」
「ああ」
『上げるの早いかも』
『ニヤニヤ』
『調子に乗ってきたな』
『いける』
『やっぱり勇者と姫様のお店は人気やね』
+++++
ゲーム内の2日目は、難易度を普通に上げて開店した。
簡単設定の時より、お客さんが来る間隔が明らかに短くなる。
それでもバーガーだけなら二人で十分だった。
僕が注文を取って厨房へ戻ると肉が焼き上がりかけていて、逆にリョウがこちらへ戻ってくる途中なら、僕がパンを出して待つ。
その日の営業を進めると、メニューにポテトが増える。
「仕事増えたねえ」
「先に材料頼んどくか」
次の営業前に、冷凍ポテトと必要なものを追加で発注しておいた。
さらにドリンクが増える。
相談して決めたわけではないのに、大まかには僕がレジ側とドリンク、リョウがグリルとフライヤーを見る形に自然と分かれた。
『なんか役割分担できたな』
『勇者の接客もやってくれ』
『このお店いきたい!!!』
『きょうはゲームだけか』
「これなら普通でもいけそうだね!」
「……客増えたら分からんぞ」
「増えても二人いるし――」
なんていってるところで、入口が開いた。
1人目の注文を取っている間に2人目、その後ろに、さらにもう一人並んだ。
続けて注文を取るたび、店内の注文表示が増えていく。
「……いってるそばから増えたね」
さらに次の客がレジへ並ぶ。
「うわ、まだ来た。待って、先にこの2件出そう」
『フラグ回収はやくて草』
『余裕なくなってきたな』
『ここから本番』
バーガーふたつ、ポテトがひとつ。次が、バーガーとドリンク。
「リョウ! 肉3枚いる」
「今焼いてるのは2枚。手前の予備ももうない」
「じゃあ――」
言い終わる前に、リョウのアバターが厨房の奥へ向かった。
「え、リョウどこ行くの?」
「肉取ってくる」
「今!?」
そのまま奥へ消え、僕の画面からリョウの姿がなくなった。
フライヤーを見ると、ポテトの揚がり具合がもう100%近くまで進んでいた。
「うわ、ポテトも!?」
『勇者消えた』
『ワイプだけになる勇者笑う』
『ポテトもう揚がります!』
「ポテト僕が行きます!」
なぜか丁寧語になっていた。
グリルで焼けた2枚をパティ用のトレイへ回収して、フライヤーへ向かう。
合間にレジの方を見ると、また次の客が並んでいた。
「ちょっと待って、入ってこないで!!」
補充が必要なのは分かるんだけど。
でも今は、ひとりでポテトをあげて、バーガーを組んで、ドリンクも出さないといけない。
ポテトをフライヤーから上げてからバーガーを組み立てる。
ドリンクまで出して一件揃えたつもりでトレイを見た。
「……あ! ポテト入れてない」
『姫様ワンオペはじまってる』
『ここからが難しいところ』
『ポテト厨房に置いてきたぞ』
ポテトを取りに戻る間にも、注文済みのお客さんが待ってくれる時間が減っていく。
これがゼロになると、怒って帰ってしまうらしい。
「リョウ、まだ!?」
「戻る」
声のあとで、箱を持ったリョウのアバターが厨房側から僕の画面へ戻ってきた。
「肉持ってきた」
「じゃあグリルすぐにお願い! 僕ドリンクと注文やる!」
「ああ」
リョウがグリルへ戻ったので、僕もレジとドリンクへ戻る。さっきまで詰まりかけていた注文が、ようやく順番に片づき始めた。
僕がバーガーを組んでいる横へリョウが焼けた肉を置き、次のポテトが揚がった時には、そのままフライヤーの方へ走っていった。
『かなり余裕ある→ない』
『ワイプの勇者全く動かないけど仕事してて草』
『この看板娘忙しそうだな』
その後も営業を続け、なんとか閉店時間まで店を回しきった。
また1日の結果が出る。
売上は初日よりかなり増えていて、収支も黒字だった。
ただ、今日増えた人気は初日ほど多くなかった。
途中で注文も詰まらせたし、初日ほど綺麗にはいかなかったみたい。
「売上は増えたけど、こっちはそんなに伸びてないね」
「途中でかなり待たせたからな」
「……ポテト忘れたし」
「忘れたな」
『人気昨日より伸びてない><』
『ポテト抜きが響いたか』
『まあようやっとる』
「リョウ。さっき補充行かなかったら、肉切れてた?」
「切れてた」
「じゃあ補充そのものは必要だったんだよね」
「ああ」
僕は今並んでいる注文を止めたくなくて、リョウは少し先で材料そのものがなくなる方を先に見ていた。
普段も、僕が目の前の状況を処理している間に、リョウが水や予備装備の残りを確認してくれて助かったことは何度もある。
違うところを見ていること自体は悪くないんだけど……。
「次から、補充行く時は先に言って」
「そうだな」
「僕がグリル見るから。今は無理なら何秒待ってって言う」
「ああ」
言いながら、隣の机からはマウスをクリックする音がした。
「リョウ、何見てるの?」
「在庫」
「もう次の営業のこと考えてるの?」
「続けるだろ?」
「もちろん! 今度はちゃんと回したい!!」
次の営業日は、予備の肉を何枚手前へ出しておくかから考えることになった。
『カイゼンいいゾ~これ』
『〈えらい〉』
『もっと難度あげようよ』
+++++
つぎの営業は、ふたりとも開店前から昨日の失敗を直してみた。
補充へ行く時には声をかけるし、予備は最初から手前へ出しておく。
それだけ決めて営業を始めると、同じ普通設定なのに昨日より明らかにお店が回っている。
「バーガー2、ポテト1でーす」
「肉いける。ポテト入れた」
リョウのアバターは僕の画面から外れているけれど、声が返ってくる。
僕は注文を取り終え、ドリンクを作ってから厨房へ戻る。
そこへちょうどリョウも戻ってきて、作業台に焼けた肉を置いた。
「早いね!」
「さっきよりうまくいってるだろ」
「うん!」
客が続いても止まらない。
自分たちで決めたことがそのまま効いている。
『★5ウエイトレスさんが美少女です』
『〈かわいい〉』
『姫様なんでこんな嬉しそうなのw』
『PDCAで興奮する姫』
「そんなに嬉しそうかな……」
「嬉しそうだぞ」
「……リョウはだまってて」
その日の営業は最後までうまく回った。
もう1日、普通設定で続けても大きく詰まることはなく、結果画面の数字もどんどんよくなって、売上も利益も伸びていった。
『普通もう余裕では?』
『難しい行こう』
『二人ならいける』
『みんな煽ててて草』
『難しいから逃げるな』
「誰が逃げるって?」
「次、難易度上げるか?」
リョウまでのってきたよ。
「……じゃあ難しいでいこう!」
+++++
ゲーム内の5日目は、難易度を難しいに上げて開店した。
「……仕事増えるの、早くない?」
「店がでかくなってるからだろ」
難しい設定では客の入りも早い。
それまでなら「バーガーとポテト」で済んでいたところへ、ソースの有無やドリンクの種類まで確認する必要が出てきた。
「普通1、ケチャップあり1。ポテト2。次オレンジのドリンク」
「肉3枚焼いてるぞ」
「3枚じゃ足りない。次もバーガー2つ」
「じゃあ追加する」
リョウの姿は厨房へ行くと画面から消える。その代わり、短い返事とグリルの音が聞こえ、しばらくすると焼けた肉を持ったキャラクターが僕の画面へ戻ってくる。
相手の画面が見えないからこそ、言ってほしいことも分かってきた。
「補充行くなら先に言ってね」
「まだ8枚ある」
「そういうの。今みたいに言って」
『勇者と正妻がわかり合ってる』
『これ後半二人だと忙しいんよ』
『店が育ってきたな』
『かわいい』
さらにレタスまで増えた。
「また増えた!」
メニューが増えるたび、僕の作業台で確認することも増える。
パンに肉を挟むだけだった最初と違って、今は注文票を見てから具材を選ばないと間違える。
「これはケチャップなし!」
「俺に言ってもかけないぞ」
「あ、ごめん僕の担当だった」
『自分に注意してた』
『おちけつ』
『勇者は肉しか持ってこない』
どうやら、改善したら改善したぶんだけ、ゲーム側も仕事を増やしてくるようだ。
それが嫌ではなかった。忙しいのに、最初の日より自分たちが明らかに上手くなっているのが分かる。
+++++
難しい設定のピークは、本当に忙しかった。
「リョウ、ポテト2!」
「入ってる」
「肉はあとどれくらい?」
「6。今の2個出したら補充行くぞ」
「分かった。その間はグリル見るね!」
そこまで言っておけば、リョウのアバターが僕の画面から消えても困らない。
僕はグリル側へ回り、その間だけ肉を見る。
画面外から「戻る」と声がしたので、リョウのアバターが厨房へ戻ってきたところで、僕はまた注文側へ戻った。
店は回っている。
ただし、二人ともほとんど手を止められない。
『3人目ほしいなこれ』
『みなとん入れよう』
『勇者とみなとん裏方向いてそう』
『姫様ホール固定でよくね』
『普通に3人コラボで見たい』
そのまま閉店時間まで回し切り、終了表示が出てから結果を確認する。
難しい設定で客数も増えていた分、売上はこれまでで一番大きかった。
途中で大きく崩れなかったことも数字に出ている。
その日の結果画面を話題にしながら、少し前のコメントをまとめて目で追った。
「……3人目?」
「ミナトなら在庫は見ながら動けそうだな」
離れた机からリョウが普通に言った。
「……でも、きょうは僕とリョウでやるゲームだから」
返事が、自分でも驚くほど早かった。
『ん?』
『姫様?』
『別に交換しろとは言ってないぞ』
「交換とかじゃなくて。今、二人でやってるから」
言い直しても、自分で納得できなかった。
ミナトさんが嫌なわけじゃない。むしろ、頼りにしている。
なのに、リョウとミナトさんを一緒に厨房へ入れたら強そうだと言われるのは、面白くなかった。
リョウとミナトさんを一組みたいに言われるのが嫌だった。
普通の親友なら、三人で遊ぶのを嫌がる理由なんてないはずだった。
そう思ったのに、僕は「今日は二人でやる」と言い切っていた。
そこまで分かったら、もうこの気持ちはなにかはっきりしていた。
嫉妬だ。
僕はリョウのことで、嫉妬している。
46話をお読みいただありがとうございました!
なんだか様子がおかしいイオリ・・・?のお話でした!
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