異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ   作:vhuphje

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第47話 TS姫様は、ゲームのお店のキッチンも正妻目線で考えてました[ファーストフードゲーム③]

 嫉妬の気持ちを認めた瞬間、恥ずかしくなった。

 ずっと「普通の親友」だと言ってきた相手が、別の女の人と相性がいいと言われただけで、これだなんて。

 

 でも、そもそも「普通の親友」なんて、最初から僕が冷静に決めた呼び方じゃなかった。

 地球へ帰って、配信でリョウとの関係をからかわれた時に、付き合ってない、ただの親友だって言い返して

 

 ――その勢いで「普通の親友だから」まで言ってしまった。

 

 一回言い切ってしまったから、そのあとも何度も使った。

 付き合ってると言われた時も、距離が近いと言われた時も、リョウに何かしてもらった時も。

 

 言えば言うほど、途中から自分でも引っ込みがつかなくなっていた。

 

「これ、嫉妬じゃない?」

「何が?」

「……今の聞かなかったことにして!!!」

 

『???????』

『聞こえた』

『嫉妬って言った?』

『キャンセルできません』

『正妻枠から本日の自白』

『ふぁあああwww』

 

「ゲームの話だから!」

 

『うおw』

『絶対違う』

『セシリアにも見せたかった』

『どのゲームだよ』

『もしかして姫様からの矢印のが強いか?』

 

 僕がコメントを見ないようにしていると、リョウの声が飛んできた。

 

「イオリ、これも使えるようになってるぞ」

 

 何のことかと思って自分の画面を見ると、管理画面に新しい項目が増えていた。

 

【ドライブスルー】

 

「これは……注文する窓口が、増えるってこと?」

「たぶんな」

 

『やめろw』

『難しいでそれ開けるな』

『絶対地獄』

『開けろ』

 

 なんだかもう気持ちのほうに余裕がないんだけれど。

 それでも、ここまで店を回したら見たかった。

 

「……次の日にこれ開けて、これで最後にする?」

「わかった。じゃあ開けるぞ」

 

 リョウが操作し、僕の画面にもドライブスルー解放の表示が出た。

 

 

     +++++

 

 

 ゲーム内の6日目。

 開店前には、ドライブスルー用の紙袋も買って、受け渡し口の近くへ置いておいた。

 ドライブスルーを使えるようにしたことを、営業開始から3分で後悔した。

 

 車が来たことを知らせる音が、ポン!と鳴る。

 

「待って、もう車来た!」

「店内も来てる」

「見えてる! 先に車の注文取ってくる!」

 

 窓口まで走って注文を受けると、ドライブスルー用の注文が表示へ追加された。

 

 戻ろうとしたところで、また到着を知らせる音が鳴る。

「うわ、また車来た!」

 

『もう姫様の声が一段高いw』

『ワイプでも温度差あるな』

『勇者冷静すぎる』

『だから言っただろw』

 

「リョウももうちょっと焦ってよ!」

「焦っても客減らないだろ」

「そういうところだよ!」

 

 店内には客が並び、注文表示には店内とドライブスルーの注文が一緒に並んでいる。

 やることそのものは変わらないけど……二人でドライブスルーは無理では?

 

「僕が店内。リョウは厨房。車は空いてる方で」

 

 最初はそれでやった。

 

 店内の注文を受けて戻ると、厨房側からリョウのアバターが肉を持ってくる。

 僕がドライブスルーへ商品を渡しに行く間は、リョウが何をしているかは見えない。

 

「車行ってくるね」

「店内来たら俺取る」

「お願い」

 

 商品を渡して戻ると、店内レジに立っているリョウのキャラクターが見える。

 

「じゃあ僕グリル見る」

「ああ」

 

 これで、最初に決めた担当はもう崩れた。

 

『お!勇者が接客してるwwレアw』

『担当変わったな』

『臨機応変にできてる』

『姫様目当ての客が怒るぞこの店』

 

 

     +++++

 

 

 本当に大変になったのは、昼のピークだった。

 

 店内に3人、車も2台。

 さらにマヨネーズやピクルスまで増えて、注文の組み合わせが一気に細かくなった。

 

「普通2つ、チーズとレタス1つ。次ピクルスなし。車がダブル、マヨなし!」

「肉出す」

「ポテト3!!」

 

 フライヤーを見ると、先に入れたポテトがもう100%近い。

「ポテト3! って、こっちもう上がる!」

「ウォーマーにまだある。こっちは次の分」

「じゃあ3つ出す! うわ、またお客さん来てる。ちょっと待って、先に車のほうに出すね!」

 

 

『実況がうるさくなってきたww』

『あああかわいいんじゃあ~』

『慌て過ぎやで』

『二人ともコメント見てないなこれ』

 

 姿は見えなくても声が返ってくるので、少なくともリョウが何を見ているかは分かる。

 僕は車の注文を紙袋へまとめ、完成した袋を持って受け渡し口へ向かった。

 

「車行く!」

「店内レジ俺行く」

 

 戻ってくると、今度はリョウのアバターが作業台の前にいた。

 

「それどれ?」

「チーズ、レタス、ケチャップ」

「じゃあそのままお願い。僕、肉見る」

 

 説明はそれだけで通じた。僕がグリルへ入っている間、リョウは画面外へ消える。

 

「肉あと4!」

「予備もう出した」

「いつ?」

「さっき車行ってる時」

「じゃあいい!」

 

 むこうで3年間一緒に戦っていた時だって、リョウの視界を僕が見られたわけじゃない。

 背中を向けて別の敵を見ることもあったし、僕が術式を維持している間にリョウが見えない位置へ走ることもあった。

 

 あの頃と比べれば、今気にしているのは警報でも剣戟でもなく、ポテトの揚がり具合なんだけど。

 それがおかしくて、楽しかった。

 

「次ポテト2つ!」

「ウォーマーにある」

「……早い!」

 

『会話短くなってきた』

『連携プレイいいネ』

『これ競争じゃないぞ』

『勇者が先にやると毎回悔しそうなの草』

 

 悔しいものは悔しい。

 でも、リョウより先に空いている仕事を見つけて動けた時は、その分ちゃんと嬉しかった。

 

 客の列が減る。

 車も最後の1台になった。

 

「これ出したら店内あと1件!」

「肉できる」

「じゃあ終われる!」

 

 最後の商品を渡す。

 

 営業終了の表示が出た瞬間、ようやく画面から目を離した。

 

「終わった……!」

「よく回ったな」

「疲れた!!」

「ゲームだぞ」

「ゲームでも疲れるよ!」

 

『新人ちゃんお疲れ様』

『最後めっちゃ回ってた』

『初回ポテト忘れてた姫様とは思えない』

『ふたりでいけるやん!』

 

 結果画面が開く。

 今までで一番客数が多く、当然売上も今日が一番だった。

 難しい設定にドライブスルーまで加えたのに、店の人気もちゃんと伸びていた。

 

 最初は、リョウが画面から消えただけで困った。

 次は、消える前に言ってもらうようにした。

 最後は、どちらが何をしているか全部知らなくても回った。

 それが嬉しかった。

 

 

     +++++

 

 結果画面を閉じると、ゲーム内は次の日の開店前に切り替わった。

 もうきょうの配信で営業するつもりはないけれど、最後に店の中を見ておく。

 

「これ、もうちょっとお店広げられないのかな?」

 

 設備が増えた厨房はかなり窮屈になっていた。

 グリル、フライヤー、作業台、冷蔵庫。それぞれは使えるけれど、二人で別の作業をしようとすると通路が狭い。

 

「配置変えたら、もう少し使いやすくなるんじゃないか?」

 離れた机からリョウが言う。

 

「うーん。でも二人で使うなら、ここの通路をもうちょっと空けたいんだよね」

 

 厨房を見直していると、僕の画面の端にリョウのアバターも入ってきた。

 

「冷蔵庫はこっちにあった方がよくないか?」

「それだと僕が注文側から戻る時に遠いでしょ。二人で使うなら真ん中寄りの方が――」

 

『マイホームの話かな』

『うおw新居のキッチンの相談してるみたいになってきた』

『正妻目線で厨房を見るな』

『これが正妻枠か』

 

「正妻目線って何!?」

 

 言い返したものの、二人で使いやすい配置を考えていたのはその通りだった。

 

「でも実際、うちのキッチンも二人で立つと狭いよね」

「まあ、狭いな」

「冷蔵庫開けると通れないし。配信で料理する時なんかカメラも置くし。また異世界めしやるとき、苦労するかもよ」

「ああ」

 

 ゲームの厨房を見ていたはずなのに、頭の中には今いる家のキッチンが浮かんでいた。

 

「引っ越す時は、キッチン広いところにしようか」

「そうだな」

 

『次???』

『引っ越す時って言った?』

『次の家も二人前提なんですが』

『やっぱりマイホームじゃん』

『今日情報量多くない???』

 

 コメントを見て、ようやく自分が何を前提に話していたのかに気づいた。

 

 僕は最初から、リョウもそこに住むつもりで考えていた。

「いや、次も一緒に住むでしょ」

 

『?????』

『言い切りおった』

『勇者とは離れません!!w』

『姫様最近覚醒してない?』

『これが正妻の余裕か・・・』

『勇者にも確認してください』

 

 余裕なんてないよ。

 

 でも横のリョウが、迷わず答えてくれた。

「仕事も配信も一緒だしな」

 

「ほら」

 

『勇者も即答やめてw』

『ほらじゃないんだが』

『双方合意済みじゃねーか』

『セシリア~~聞いてるか~~??』

『今週すげーなwwww』

『普通の親友とは』

 

 からかわれているのは分かる。

 でも、今度は「普通の親友だから」と急いで説明したいとは思わなかった。

 

 次も一緒に住む。

 それを当たり前みたいに考えていたことが、僕は嬉しかった。

 

「じゃあ、ゲームはこれで終わりにしようか」

「ああ」

 

ゲーム画面を閉じる。

 

『おつー』

『ゲーム配信もっとやってほしい』

『プロフィールにダンジョン探索ってありますけどゲーム配信もやるんですね』

『異世界飯も楽しみ』

『セシリアとの約束までまだ4日もある』

 

「プロフィール?」

 

 急に思い出した。

 きょうの配信では、通信から来た新しい人たちがゲーム配信にも残ってくれるか見てみようって話していたんだ。

 ゲームが忙しかったのと、途中でそれどころじゃなくなったせいで、数字はほとんど見ていなかった。

 

 僕は、配信中でもお構いなしに、自分たちのチャンネルのページを開いた。

 

「何見てる?」

「プロフィール。そういえば今なんて書いてたっけと思って」

 

 

 開いてみたら、僕たちが配信を始めた頃に書いた説明が、そのまま残っていた。

 

【異世界で勇者と姫君として3年間過ごし、2年前に第三新宿ダンジョンへ帰還したリョウとイオリです。ふたりとも召喚前は男子高校生で、イオリは召喚時に女子の身体へ変わりました。現在は探索者としてダンジョンを調査しながら、二人で配信しています。】

 

「……間違ってはないんだよね」

 

 間違ってはいない。実際、今でもダンジョンには潜っている。一昨日も潜った。

 

 でも、この数日だけでも、異世界と通信して、二人で店舗経営ゲームまでやった。

 異世界めしの再現も公約済みだ。

 

『古くて草ァwww』

『今日だけ見たらバーガー屋の人だしな』

『今の二人を一行で説明するの難しそう』

『簡潔すぎるだろ』

『え?姫様は男子高校生なの????』

『異世界との通信成功しましたって加えたら?』

 

 

「変えてもいいかもな」

「うーん。でもこれ、通信を追加するだけでも違う気がするんだよね」

 

 何を足すかではなくて、今の僕たちが何をしているチャンネルなのか。

 そこから考え直した方がよさそうだった。

 

「……今の僕たちに合わせて一回ちゃんと書き直さない?」

 

 

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