異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
店舗経営ゲームの配信を終了したあと。
PC上には、僕たちのプロフィール欄を開いたままだった。
【異世界で勇者と姫君として3年間過ごし、2年前に第三新宿ダンジョンへ帰還したリョウとイオリです。ふたりとも召喚前は男子高校生で、イオリは召喚時に女子の身体へ変わりました。現在は探索者としてダンジョンを調査しながら、二人で配信しています】
「これ、古いっていうか、情報が足りなくなったんだね。ていうかこの1年間は、2周年の頃に運営が『2年前』に更新してくれただけだよ」
僕が言うと、ゲーム用のヘッドセットを外したリョウも、こっちへ来て画面を覗き込んだ。
「異世界と話してないな」
「2年前はそんなこと書けるわけないからね」
このプロフィール、間違ってはいない。
でも、今の僕たちを初めて見た人にこれだけ読ませたら、「普段は何をしているチャンネルなのか」と思われても仕方ない。
「普段の活動を入れようか」
「そうだな」
僕は画面上にメモ帳を開いて案を書き出す。
【異世界で勇者と姫君として3年間過ごし、2年前に第三新宿ダンジョンに帰還したリョウとイオリです。ふたりとも召喚前は男子高校生で、イオリは召喚時に女子の身体へ変わりました。現在は探索者としてダンジョンを調査しながら、異世界との通信や料理、ゲームなど、帰還後の活動をふたりで配信しています。】
最後の、ふたりで配信、のところはそのままでいいと思った。
「これなら?」
「異世界とのやりとりの話はもっと強調しても良いかもな」
【異世界で勇者と姫君として3年間過ごし、2年前に第三新宿ダンジョンに帰還したリョウとイオリです。ふたりとも召喚前は男子高校生で、イオリは召喚時に女子の身体へ変わりました。現在は探索者としてダンジョンを調査しながら、ゲームや料理等もふたりで配信しています。最近、異世界に残った仲間との通信にも成功しました。】
「これなら?」
「いいと思う」
「じゃあ、運営に送ってから更新しよう」
書き直したプロフィールをメールにコピペして、送信した。
メールが送信済みになってから、もう1回プロフィール案を読み直す。
2年前に第三新宿ダンジョンへ帰還。
最近、異世界に残った仲間との通信にも成功。
前から書いてあった一文と、さっき足したばかりの一文が並んでいる。
「……リョウ」
「今度は何だ?」
「第三新宿、あの裂け目が出てからいってないね」
「いってないな。でも急にどうした?」
「いや……最初に異世界っぽいものが出たの、第三新宿なのに」
帰ってきた場所も第三新宿。魔王城が見えた裂け目が出たのも第三新宿。
なのに、実際にセシリアと話せたのは家だった。
「あそこを調べ直さないまま、先に異世界と話せちゃったんだなって」
「たしかにな」
「もう一回いってみない?」
「……いや、その前に」
僕はリョウを見上げて言った。
「その前に?」
「第七階層の裂け目、動画があるだろ」
「動画? ああ……そっちがある!!」
あの謎の黒い裂け目みたいな線の動画は、公開中のアーカイブから取り除いたままだった。
「魔王城が見えて、勇者、姫君って聞こえたところまでで頭いっぱいだったろ。イオリ泣いてたしな」
「……うっ。でも、たしかにそうだ。あの時は、異世界と本当に話せるなんて僕たちも知らなかった。でも今はセシリアと2回話してる」
あの日に見たものは変わらない。でも、見る側の僕たちが知っていることが全然違う。
「今見たら、前と違うことに気づくかもしれない」
リョウは、片づけかけていたマグカップを机へ戻した。
「見よう」
「うん」
僕はPCに保存してある第三新宿第七階層の映像から、配信では非公開にした部分を開いた。
+++++
画面の中で、黒い線がすっと縦に伸びた。
第三新宿ダンジョン、第七階層。
追従ドローンからリョウのカメラへ映像が切り替わり、裂け目の向こうが映る。
灰色の天井、黒い石床、途中から折れた柱。壁には焼け焦げた跡が残っていた。
「これ……やっぱり魔王城だよね」
「ああ。間違えない」
「だよね。僕もそう思うよ」
むこうの世界で何度も遠くから見て、最後には中まで入った場所だ。
細部まで完全に同じだったかは確かめようがない。
それでも、僕とリョウがあの日に魔王城だと判断したこと自体を疑う理由はなかった。
映像を進める。
裂け目の奥に、人影が現れる。ノイズが増え、その中から声が落ちてきた。
――勇者。
少し遅れて、
――姫君。
僕はそこで再生を止めた。
「……リョウ。僕、魔王城で『姫君』って呼ばれてた?」
「いや」
「だよね」
姫君。
むこうで3年間、何度も聞いた呼び方だ。
でも、それは主に王国側で使われていたものだったはずだった。
お城の中でも、旅先でも、僕の立場を知っている人たちからそう呼ばれたし、セシリアも、むこうにいた頃は僕を姫君と呼んでいた。
魔王城でそう呼ばれた記憶は、僕にもなかった。
だから僕たちは、この裂け目を見たとき、呼びかけられた言葉から王国の人たちを思い出していた。
この前つながったセシリアは、王国側は僕たちが帰還したあとも、地球へ声を届ける術を何度も試していたといっていた。
だから、あの「勇者」「姫君」が王宮側の試行のどれかだった可能性はあるけれど。
でも、この映像の中の魔王城と、この呼びかけは結びつかない。
「僕たち、この人影が僕たちを呼んだと思ってた、よね」
「人影が出た直後に声が来たからな」
停止した映像には、人影がこちらへ近づき、まずリョウへ、そのあと僕へ顔を向けたような姿が残っている。
その直後に「勇者」「姫君」と聞こえたのだから、同じ相手が呼んだと思うのは自然だった。
「でも、声には聞き覚えなかったから、誰だかわからないって思って撤退した。でも今見返しても、この人影が喋ったって分かるところはないんだよね 」
「そうだな」
「セシリアの話からすると、聞こえにくかっただけで、声はセシリアたちのものだったのかもしれない……」
「ああ。でも映像が魔王城なのはなんでだ、ってことか」
リョウが一度僕の方を見てから、また画面を見た。
「うん。僕も、そっちが気になる」
画面の魔王城を指した。
「なんで魔王城だったのか……。もしかして、魔王城も僕たち、というかこっちの世界につながろうとしてる?」
王宮側が僕たちへ声を届けようとしていたことには理由がある。
でも魔王城は違う。
僕たちは魔王を倒したあと、そこを離れた。
……もしかして、恨まれてる? 僕たちが?
「……でもまあ、魔王城側の誰かも、地球につなごうとしてた、って証拠はさすがにまだないよね。さすがに」
「ああ。俺たちが分かってるのは、あの時そこが裂け目の向こうに出たところまでだ」
今あの辺りにいる人のことを思い出した。
「エルナさん、旧魔王領の近くにいるって、セシリアが言ってたよね」
「そういえばそうだな」
魔王城そのものへ行っているわけじゃないけど。
お城にいるセシリアよりは、あの辺りで最近何が起きているか知っている可能性がある。
「次にセシリアにつながったときに、エルナさんにも聞いてくれって、伝えようか」
「魔王城の方で何か起きてないか、か?」
「うん。あの時、なんでここが見えたのか。エルナさんなら何か知ってるかもしれないから」
「そうだな」
僕は再生を止めたままの映像へ目を戻した。
黒い裂け目の向こうには、2年前に見た魔王城が止まったまま映っていた。
次にセシリアと話す約束まで、あと3日。
僕は開きっぱなしだったPCのメモ帳に、ひとつ質問を書き足した。
【旧魔王領の近くで、最近何か変わったことはないか→エルナさんに聞いてもらう】