異世界を救ったTS姫様と勇者は、現代に帰還しても男女カップルチャンネルの配信でてぇてぇ営業して生きていく。ダンジョン配信もやるよ 作:vhuphje
セシリアと前回繋がってから7日後。
もう一度話すと約束した日がきた。
約束は「同じ頃合い」だったから、少し余裕を持って、夜9時30分から僕たちは配信を始めていた。
先週は、2回とも6時台から配信をはじめて、10時台前半にはつながった。
先週と同じならまだ30分以上かかるけれど、同接数はもう4万人くらいになっている。
二人とも、帰ってきた日と同じ格好をしている。
2年のあいだ着ることはなかったのに、これを着る回数が急に増えた。
「……これ、そろそろ手入れの仕方変えた方がいいのかな」
「前から手入れしてるだろ」
「保管するための手入れじゃなくて。最近、普通に着てるじゃん何度も」
2年間は、ときどき箱から出して傷んでいないか確かめるだけだったのに。
「ていうか、これ地球でどうやって洗えばいいの?」
「今さらか」
「だってこれ、洗濯表示がないよ?!」
むこうでは、たしか布の部分は水と石鹸で洗っていたはずだ。革は別に手入れしていたと思う。
思う、というのは、僕が毎回洗っていたわけではないから。お城にいる時は、こういうことはだいたい人にやってもらっていた。
でも、地球の洗剤をそのまま使っていいか分からない。
外套もあるし、革もあるし、僕の服には金色の糸まで入っている。
『異世界服に洗濯表示求めるな』
『最近その服の出勤率高すぎるんよ』
『髪結いがない 』
『異世界装備のデメリット=姫様がはじめから髪を決めちゃう』
『←タイツでメリットが上回ってるからセーフ』
「クリーニング屋には持っていけないでしょ、それ」
今日も来てくれたミナトさんが言う。
ミナトさんは、この前セシリアとつながったときと同じように、携帯型空間歪計の前にいる。
「今回までは、前につながった時と同じ3人でやるんでしたよね」
「うん。まだ私がいることまで条件じゃない、とは言い切れないからね」
「ミナトさんが異世界通信の必須素材だったらどうしますか? ずっと来てくれます?」
「困るよ~毎回毎回は呼ばないでね」
『みなとん通信触媒説』
『レギュラーメンバー継続中で草』
『セシリアさん待機』
『ミナトさん当然のようにいるな』
『初見です。これが本当に異世界と話す配信?』
時間があるので、僕たちは雑談の合間に先週の配信のことを再確認する。
その間、歪計はずっと、先週と同じように高い数値を出している。
このままなら、きっとまたつながるはずだ。
しばらくたつと、歪計の値が揺れ始めた。
「これ……来たか」
リョウが先に気づいた。
僕ものぞき込む。先週は何時間も待った動きがきた。
「セシリア。セシリア! 聞こえますか?!」
少しして、声が返ってくる。
時計をちらっと見る。いま、10時ちょうどくらい。
――はい。イオリ様。聞こえております。
「よかった! こっちも今、呼び始めたところです」
――こちらも、同じ頃からお呼びしておりました。
『きた』
『やったぜ』
『きょうは時間ちょっと早いか?!』
『やっぱり呼び合うのが大事だった?』
『セシリアさーん』
『リアルタイム初めて見た』
コメント欄の流れが一気に速くなった。
画面の端では、さっきまで5万人台だった数字がもう8万人近くになっている。
よく考えたら、むこうの世界で、1分刻みの時計なんてつかってなかった。
先週の2回がたまたまほぼ同じ時間だっただけで、これくらいはセシリアにとって「同じ頃合い」ということなのだろう。
僕たちも、むこうにいたらこれくらいの感覚だった。
「セシリア、今日も前と同じで、こっちでは大勢の人が聞いてます。このまま話して大丈夫?」
――もちろんです。わたくしがお答えできることでございましたら。
「ありがとう」
――それから、イオリ様。……先日、奥方のお話の続きをすると申し上げましたが。
「……覚えてたの?」
7日前、通信が切れる直前に言われたこと。
僕も覚えていたけれど、続きを聞きたいとは一度も言っていない。
――もちろんでございます。
「それは忘れていいんだよ!」
隣でリョウが笑っている。
「何で笑うの?」
「いや。ちゃんと続きがあったんだなと思って」
「感心するところじゃないから!」
『まずい』
『奥方トーク続いてて草』
『勇者も楽しんでるだろこれ』
『姫様この前嫉妬心まで自白しましたよセシリアさん』
『次の家も勇者と一緒らしいです』
『きょうも爆弾発言期待できそう』
『セシリアに見えてないのに告げ口しようとすなw』
『探索庁も奥方の続き待機してるよ』
――ですが、わたくし一人が申し上げても、イオリ様はお認めにならないでしょう。
「認めるとか認めないとかの話じゃないからね?」
――わたくし以外にも、お二人をそのように見ていた方はおりますよ。
……証人を増やす話になってきた?
「……それ、他の人まで呼んで証言させるつもり?」
――いいえ。本日のご用件は別にございます。ただ、わたくしだけではなかった、と申し上げたかったのです。
「だから証人みたいに増やさなくていいんだって!」
ミナトさんが空間歪計から顔を上げた。
「私はちょっと聞いてみたいけど」
「ミナトさんまで!?」
『味方ゼロ』
『エルナかミレイこいww』
『正妻枠自白から姫様の調子がおかしいんだがw』
『包囲網ww』
「おかしくなってないよ」
なんとなくコメントに言い返す。
……奥方の話ですっかり押されているけど、今日はセシリアに聞こうと思っていたことがある。
「セシリア。そういえば、今日聞きたかったことがあるんだけど」
――何でございましょう。
「エルナさん、今も旧魔王領に近いところへ出てるんだよね?」
――はい。ただ、騎士団の報告のため、昨日王都へ戻られております。
「えっ? 戻ってるの?」
――はい。
「じゃあ、あとでいいから、エルナさんに聞いてもらってもいい? あの辺りで最近、何か変わったことがなかったか知りたいんだ」
――でしたら、直接お尋ねになった方がよろしいかもしれません。
「直接?」
――エルナ様も、お二人とお話しになりたいと、こちらへ来ておられます。
思わずリョウと顔を見合わせた。
――聞こえるか、イオリ。リョウ。
「エルナさん!?!?」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
何度も短剣の持ち方を直された。戦場で歩く位置を間違えれば、その場で引き戻された。
姫だからと訓練を軽くしてくれたことは一度もない。
2年前まで、何度も聞いていた声だった。
『エルナ!?』
『騎士団の人か?』
『姫様の声でかw』
『めちゃくちゃ嬉しそう』
『サブヒロイン枠きちゃww』
『口調がそれっぽいw』
『女騎士枠キターーーーーー』
「エルナさん、本当にエルナさん?」
――偽物が出るような名でもないだろう。大勢に聞かれているそうだな。セシリアから聞いた。構わん。
「先に言われた……。お久しぶりです」
――セシリアから、二人ともそっちで暮らしているとは聞いた。
――だが、声だけでは怪我なくやってるかまでは、分からんな。
「してない」
リョウがすぐ答えた。
「僕もしてない。エルナさんは? 怪我してない?」
――していない。戻って早々、互いの怪我の確認か。
「だってエルナさん、旧魔王領の近くへ出てるって聞いてたし」
「イオリはそこから聞くと思ったよ」
「リョウだって僕より先に答えたじゃん」
――相変わらずだな。
その一言まで懐かしかった。
『名前だけ何回も出てた人だ』
『勇者の即レスすき』
『戦友感ある』
『画像ください』
『でも姫様はこの人相手に自分が正妻とか思ってたんだよね・・・』
『そろそろ映像通信必要だよ!ミナトン開発してくれ!!!』
「あと、こっちにはミナトさんもいるよ。セシリアとは前にも話した人」
――この前お話しした方ですね。こんばんは。
「榊ミナトです。エルナさんとは、初めまして。セシリアさん、こんばんは」
――エルナだ。二人がそちらで世話になっているらしいな。
「世話をしてるというより、一緒に仕事してる感じですけどね」
――仕事……。そういえば、いまリョウとイオリはそっちで何をしているんだ。セシリアからは、大勢の人にこっちでのお前たちの英雄譚を聞かせてるとかいうことしか聞いてないんだ。
「……それ、あらためて聞くと恥ずかしいね」
先週、セシリアに「配信」を別のことばに言い換えて話しているうちに、「王都の住民と同じくらいの人数に勇者と姫の英雄譚を語り聞かせている」というなんだか恥ずかしい説明にたどり着いていた。
考えてみると、それ自体が「仕事」になっているとは、まさかセシリアもエルナも思わなかったかもしれない。
――もうこっちの魔王を倒して、魔法も魔獣もいないそっちに戻ったのだから、そっちでは平和に暮らしているのか。
「……そのはずだったんだけどね」
――二人とも、今も一緒にいるのか?
「いるよ。仕事もほとんど一緒だし」
「家も一緒だ」
リョウがまた余計なことを付け足した。
――家も?
エルナさんの声が止まった。
――二人で同じ家に暮らしているのか。
「うん」
――……結婚していないのだろう?
「してないよ」
――それで、二人だけで?
「そうだけど」
何がおかしいんだろうと思ってから、エルナさんがどこに引っかかっているのか分かった。
「いや、こっちだと別に……同棲っていうか――」
僕まで余計なことを言った。
『?』
『うわああああああああ』
『同棲!!!!』
『はい同棲いただきました』
『2年間同棲してます』
『ついに本人の口から同棲出たwww』
『自爆かな』
『同居としかいってなかったのに』
「違う! いや、違わないけど、そういう意味で言ったんじゃなくて!」
「同じ家に住んでるって意味なら合ってるだろ」
「リョウは黙って!」
――二人で同じ家にいるなら、そういう話だろう。
「そういう話って何!?」
――先ほどセシリアがしていた話だ。
「だから違うってば! こっちだと珍しくないんだよ、男女で同じ家に住むのも!」
――そうなのか。
分かっていない顔が、声だけで見える気がした。
「そうなの! だから、一緒に住んでるだけで奥方とか、そういうことにはならないの!」
――だが、それとは別に、私はお前たちはいずれそうなるものだと思っていたが。
「エルナさんまで!? ……結局、証人増えてるじゃん!」
「自分で証人って言ってるぞ」
「リョウはどっちの味方なの!?」
――何を揉めているんだ、お前たちは。
エルナさんは、面白がっているわけでもないらしい。
一緒に住んでいるからそう思っただけでもない。僕たちがむこうにいた頃から、本当にそうなると思っていたらしい。
その方が困る。
『セシリアだけじゃなかったw』
『異世界だと二人暮らしの時点でアウトだったか・・・』
『勇者「家も一緒だ」』
『騎士団長天然で正妻枠を補強』
『姫様のせいで地球がすけべな星と思われてる』
「……もういいから、ね。平和に暮らしてるかって話でしょ?」
――そうだったな。それで、そのはずだった、というのは?
「僕たちがいないあいだに、こっちにもそっちと同じようなダンジョンができてたんだ。魔物も出るようになってる」
――……そっちの世界に?
「うん。しかも、僕たちが帰ってきた場所も、そのダンジョンの中だった」
「今は、そのダンジョンが俺たちの仕事場だ」
リョウが付け足した。
――お前たちから聞いていたそっちとは、ずいぶん違うな。
「そうなんだよ。ダンジョンができてるだけでも、僕たちにはおかしいんだけど――」
『地球のことペラペラ話してそうだな』
『そういえばダンジョンは異世界では普通なの?』
『魔王倒して帰ったら近所に魔物いました←これ冷静に見るとかわいそうだよな』
『勇者と姫様が異世界でしてた身の上話が想像できる』
『このふたり異世界でもZ世代キッズ扱いされてそう』
「それで、さっきセシリアに、エルナさんに聞いてって言ったのも、この話なんだ。旧魔王領の近くで、最近何か変わったこと、なかった?」
そう聞いた理由を、僕は続けて説明した。
「ダンジョンの通路で、何もないところに黒い線みたいなのが浮かんで見えたんだ」
――黒い線?
「うん。最初は線だった。それがだんだん広がって……穴っていうか、窓みたいのが浮かんで見えて」
「その窓から、そっちで見た景色が見えた」
リョウが端的に補った。
――こっちの景色?
「そう。その窓みたいな裂け目から、こっちのダンジョンとは別の場所が見えたんだ。ダンジョンの先じゃなくて」
「魔王城が見えた」
リョウがまた、端的に補った。
端的すぎる。
――……魔王城が?
エルナさんの声色が変わる。
「うん。それだけじゃなくて、その時、声も聞こえたんだ。『勇者』『姫君』って」
――声も?
「声の方は、この前セシリアにも聞いたよね。あの頃、こっちへ声を届ける術をいくつか試してたって」
――はい。ですが、どの試みがお二人のもとへ届いたかまでは、こちらでは分かりませんでした。
「うん。だから、声の方はセシリアか、他のお城の人たちからこっちに届いた可能性がある」
リョウが続ける。
「でも、声がどこから届いたにしても、その時、裂け目の先に見えたのは魔王城だった」
『???』
『そういやそうだったな』
『じゃあ声はお城から?』
『見えてたの魔王城なんだよな』
『どういうこと?』
『声と見えてた場所が合ってない???』
――……魔王城については、私にも分からない。
エルナさんの声が続いた。
――ただ、変わったことなら、ひとつ心当たりがある。先日、旧魔王領に近い地域の街道を馬で進んでいた時のことだ。途中で、馬が突然足を止めたんだ。